とくに目を酷使したつもりはないのに、視力が低下していることを実感する人が増えています。
「仕事でパソコンを使いはじめると、すぐに涙が出てくる」
「スマホを見ていて、顔を上げると視界がぼやけるようになった」
「本を読むのがつらくなってきた」
「晴れた日に外へ出ると、目を開けているのがつらい」
かつて、視力の低下は40代からはじまることが多いとされていましたが、現在、こうした症状は20代の若年層にも広がっています。
こういった経験をすると、目を大切にしたいと思いますよね?
そのためには、目の構造やモノが見えるメカニズムを知るとともに、視力を低下させる原因の正しい知識が必要です。
視力を低下させる原因は、先天的な遺伝によるものもあれば、環境や生活習慣による後天的なものもあり、いろいろな病気が引き起こすものもあります。
ここでは、後天的で誰にでも起こり得る視力低下の原因を5つに絞り、そのメカニズムや対処法などを解説しましょう。
目次
1. モノが見えるメカニズムを理解する
1-1. 脳で視覚を認識するメカニズム
1-2. 生体カメラともいわれる目の構造
1-3. 光から得られる3つの情報
1-4. 両目がもつ3段階の機能
2. 視力低下を起こす5つの原因
2-1. 老化
2-1-1. 水晶体が硬くなる老眼
2-1-2. 老眼の進行を止めるストレッチ
2-2. 紫外線
2-2-1. 紫外線が目に与えるダメージ
2-2-2. 色の濃いサングラスは危険
2-3. 近視
2-3-1. 現在も原因不明の近視2タイプ
2-3-2. 矯正と治療
2-4. テクノストレス
2-4-1. 液晶モニターやLEDによる現代病
2-4-2. 目のダメージだけではすなまい大きなストレス
2-5. 食習慣
2-5-1. 視力を低下させる生活習慣病
2-5-2. 視力低下を防ぐ栄養素
まとめ
1. モノが見えるメカニズムを理解する
モノが見えているとき、身体の中でどのようなことが起こっているのでしょうか。
まず、その仕組みを簡単に解説しましょう。
そのメカニズムを維持することができれば、視力低下は防ぐことができるはずですよね。
1-1. 脳で視覚を認識するメカニズム
「視覚」とは、「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」とともに五感のひとつであり、光が眼球に刺激を与えることによって得られる感覚です。
眼球で受けた光の刺激は、電気信号として視神経から脳へと伝わり、記憶している情報と照らし合わせて、見ているものを認識します。
電気信号を神経細胞から神経細胞へと伝えているのが情報伝達物質と呼ばれる体内物質。
どのようなものを見ても、その正確な情報が瞬時に脳まで伝わらなければ、何を見ているか認識することはできません。
眼球や脳が正常に機能するだけでなく、情報伝達に問題がないことも、モノが見えるためには重要なのです。
1-2. 生体カメラともいわれる目の構造
人間の目は、「眼球」「視神経」「付属器」という3つの部位から成り立っています。
眼球は直径24mmほどの球体で、外側から白目の部分である「強膜」、瞳孔以外から光が入るのを防ぐ黒い膜である「脈絡膜」、視神経が張り巡らされていて光を情報として受け取る「網膜」という3層の膜で覆われています。
網膜の中は「硝子体(しょうしたい)」というゼリー状の物質で満たされており、3層の膜がない黒目部分で外気と接しているのが「角膜」、その内側にレンズの役割をする「水晶体」があり、水晶体の外側をリング状の「虹彩」という筋肉が取りかこみ、伸び縮みすることによって、光を取り込む瞳孔の大きさを変えています。
付属器は、上まぶたと下まぶたである「眼瞼(がんけん)」、まぶたの裏側で角膜の周囲にある粘膜部分の「結膜」、まつげである「睫毛(しょうもう)」から成り、眼球の正常な働きを補う役割があります。
引用:https://www.civillink.net/fsozai/eye.html
外界から受ける光の刺激は、まぶたが開いている状態で角膜を通り、虹彩で光量を調節されて水晶体に入ります。
毛様体という筋肉が水晶体の厚さを調節して網膜に逆さの像を結び、網膜の視細胞が光を感知、視神経の束から脳へと信号が送られるのです。
カメラに置き換えると、まぶたはシャッター、虹彩は絞り、レンズは水晶体、ピント調整は毛様体、フィルムやデジタルカメラのセンサーは網膜ということになります。
1-3. 光から得られる3つの情報
人間は外部から得る情報の80~90%を視覚にたよっているといわれます。
光の刺激を目で受け取り、脳で情報として処理するのですが、そこで捉えるのが次の3つの要素。
① 光覚(明るさ)
② 形態視(モノの形)
③ 色覚(モノの色)
視力とは、光の刺激から単にクリアな像を捉えるだけでなく、これらの情報を処理する能力も含まれるものなのです。
1-4. 両目がもつ3段階の機能
目は2つ左右にあることによって、3段階で「両眼視機能」と呼ばれる機能を発揮しています。
① 同時視(左右の目が微妙に異なる像を同時に捉える)
↓
② 融合(脳で微妙に異なる映像をひとつにまとめて、モノとして認識する)
↓
③ 立体感と遠近感(同時視と融合によって3D情報を得る)
2. 視力低下を起こす5つの原因
基本的な目の構造や、モノが見えるメカニズムを理解できたところで、視力低下の原因となる5つの要素を解説していきましょう。
2-1. 老化
加齢によっていろいろな身体機能が衰える「老化現象」は、誰にでも起こります。
五感によって刺激を受け取る能力は、ある程度の年齢になればどの感覚も鈍ってきますが、中でも視覚はもっとも早く機能低下を起こすといわれます。
それだけ、目は酷使されているということですね。
加齢による視力低下の代表が「老眼」。
一般的に老眼は40代以降に症状が出はじめるのですが、現代は後で解説する「テクノストレス」などが若年層に広がっていることから、20代後半や30代で老眼の症状が進行するケースも増えています。
日本の老眼人口は約7000万人といわれますから、老眼は国民の半分以上が抱える視力低下の原因なのです。
2-1-1. 水晶体が硬くなる老眼
老眼の症状は、近くの小さな字が読みづらくなって気づくことが多いですよね。
本やスマホの文字を読むときに、以前よりも目から離さないとピントが合わなくなって、「あれ?」と感じたのが老眼のはじまりだったという人が多いのではないでしょうか。
近くのものにピントが合わなくなるのが老眼かといえば、それだけではありません。
近くのモノを見ていて遠くを見たときや、その反対のときにもピントが合うのに時間がかかるようになります。
なぜ、このようなことが起こるかというと、レンズの役目を果たしている水晶体が硬くなってしまうから。
水晶体は、毛様体という筋肉が伸び縮みすることによって、薄くなったり厚くなったりして見ているものにピントを合わせているのですが、その機能が鈍くなってしまうのです。
2-1-2. 老眼の進行を止めるストレッチ
残念ながら、老眼を完全に治すことはできません。
しかし、進行を食い止めたり、多少回復させたりすることによって、視力低下を防ぐことが可能です。
そのポイントは、毛様体をはじめとする内眼筋と、眼球の外側にある外眼筋の動きをよくすること。
目の筋肉を伸ばすストレッチを3種類ほど紹介しましょう。
① 遠近ストレッチ
腕を伸ばして親指を立て、その先を1秒間凝視したら、2~3メートル先にあるモノを1秒間凝視。
これを30回繰り返します。
② ぐるぐるストレッチ
正面を向いたまま顔を動かさず、眼球だけを動かすストレッチ。
上、右斜め上、右、右斜め下、下、左斜め下、左、左斜め上と8つのポイントを1秒ずつ凝視したら、反対周りにも動かします。
③ グーパーストレッチ
目をギュッと閉じて顔の中央に寄せるイメージで2秒キープしたら、パッと思い切り開いて2秒。
これを5回繰り返します。
2-2. 紫外線
近年、オゾン層破壊などの影響で紫外線が強くなり、スキンケアの分野ではUV対策が重視されています。
地上に届く紫外線は、肌の表面にダメージを与えて日焼けの主な原因となるB波と、肌の内部にダメージを与えて弾力を失わせたり、新陳代謝を弱めて老化を進行させたりするA波に分けられます。
目にとっては、どちらも危険な光線。
肌のUV対策をしていても、目のUV対策をしていなければ意味がないといわれるほど、目のUV対策は大事です。
2-2-1. 紫外線が目に与えるダメージ
紫外線が目に入ると、まず角膜がダメージを受けて炎症を起こし、痛みや充血を引き起こします。
この状態が悪化すると、電気性眼炎(雪目)と呼ばれ、さらに悪化すれば白内障などの重大な病気を発症させる原因に。
白内障は、水晶体が濁ってしまう病気ですが、紫外線のA波は眼球の内部にまで悪影響を及ぼし、水晶体を濁らせることがわかっています。
2-2-2. 色の濃いサングラスは危険
目を守るアイテムとして、代表的なものがサングラス。
しかし、サングラスは選び方を間違うと逆効果を及ぼす危険性もあります。
もっとも危険なのは、色の濃いサングラスでUVカット効果が薄いもの。
レンズの色が濃いと視界が暗くなるので瞳孔が開き、その状態で紫外線が目に入ると大きなダメージを受けることになります。
レンズは透明に近いもので、目の周囲を覆う大きさがあるもの。
フレームは顔にフィットして周囲から光が入らないもの。
そして重要なのが、UVカット率、とくにUV-A(A波)のカット率が高いものを使うことです。
2-3. 近視
視力低下の原因として外すことができない「近視」は、目の構造に問題を抱えていることがほとんどです。
角膜から網膜までの長さを「眼軸長」と呼び、眼球の形によってこの長さが通常より長い場合は、遠くを見たときに水晶体を薄くしても網膜の手前でピントが合ってしまいます。
この状態が「軸性近視」と呼ばれるもの。
角膜と水晶体に問題があって、屈折力が強すぎるために網膜の手前でピントが合ってしまう近視は「屈折性近視」と呼ばれますが、大部分の近視は「軸性近視」です。
2-3-1. 現在も原因不明の近視2タイプ
なぜ眼球が、軸性近視や屈折性近視を起こす状態になるのかということは、現在も明確にはわかっていません。
遺伝的な要素と環境が関係すると考えられています。
近視は、「単純近視」と「病的近視」の2タイプに大別されます。
遺伝や環境の影響によって、子供の頃にはじまる近視を単純近視と呼び、小学校高学年から中学校くらいに視力低下が発生するので、「学校近視」とも呼ばれます。
大部分の近視は軸性近視による単純近視なのですが、ごく一部に幼児期から進行して眼軸が異常に長くなる強度の近視があり、網膜が引き伸ばされているために「網膜剥離」などを起こしやすくなるので、病的近視と呼ばれます。
2-3-2. 矯正と治療
単純近視の治療は、点眼薬を用いる方法と外科手術を行う方法があります。
視力低下を防ぐためには、近視になりかけの状態である「仮性近視」のときに、点眼薬を用いたり、目のストレッチをしたりして、毛様体と水晶体の調節機能を回復させることが大事。
近視だからといってすべての人が日常生活に支障をきたすわけではりません。
支障がでてきた場合に、メガネやコンタクトレンズを用いて視力を矯正することになりますが、適切なものを使わないと視力低下を進行させてしまう恐れがあります。
眼科医に相談して検査をしてもらい、自分に合った凹レンズを使いましょう。
2-4. テクノストレス
かつては、視力を低下させる原因として「読書のしすぎ」や「テレビの観すぎ」が取り上げられました。
しかし、パソコンやスマートフォンの普及によって状況は大きく変貌。
パソコンやスマホのモニター、LED照明による強い光で発生する「テクノストレス」は、いまや視力低下の原因としてもっとも多いものとなっています。
2-4-1. 液晶モニターやLEDによる現代病
LEDの照明器具は、消費電力が低く耐久性が高いので、一気に普及しました。
テレビや、パソコン、スマホのモニターも、内面でLEDが発光しているものがほとんど。
LEDの光は、それまでの電球や蛍光灯などとは比較にならないほど強いのです。
現在の生活を考えると、朝起きてから寝るまで、以前は考えられなかった量の強い光の中で暮らしていることがわかります。
家ではテレビやLED照明を見て、通勤中はスマホのモニターとにらめっこ、職場ではLED照明の下でパソコンを長時間使用するのですから、目が受けるダメージは量り知れません。
2-4-2. 目のダメージだけではすなまい大きなストレス
テクノストレスの怖いところは、単に視力低下だけでは収まらず、大きなストレスが心や身体を蝕んでいくことにあります。
常に強い光にさらされている状態になるので、ストレスが重なっていき、重大な病気に進行してしまうケースも。
不眠、耳鳴り、食欲減退、思考力低下などの症状が出ていたら要注意。
うつ病や適応障害などの病気を発症する前に、生活環境を改善しましょう。
ポイントはLEDをできるだけ避けることと、パソコンワークをしていて「飽きる」「肩がこる」といった疲労の初期症状がでたらすぐに休憩をとってリフレッシュすることです。
2-5. 食習慣
視力を維持する目や脳は身体の一部ですから、健康的な生活習慣が視力低下を防ぐことは当然ですよね。
中でも食生活は、目の機能と密接な関係をもっています。
2-5-1. 視力を低下させる生活習慣病
高血圧や糖尿病といった生活習慣病が進行すると、網膜に密集している毛細血管が詰まったり傷ついたりして視力低下を招きます。
状態が悪化すれば血管壁がもろくなるので、眼底出血や網膜剥離といった重大な疾患を引き起こし、最悪は失明に至ります。
多くの生活習慣病にいえることですが、視力低下の原因としても、喫煙や多量のアルコール摂取、カロリー過多、糖質過多の食事は注意しなければいけません。
2-5-2. 視力低下を防ぐ栄養素
視力低下を防ぐためには、健康的な栄養バランスの食生活が重要で、とくに目のことを考えて積極的に摂取したいのは、ビタミンA、B群、Cです。
細胞や粘膜の健康を維持するビタミンA、疲労回復効果が高く視力低下を防ぐビタミンB群、水晶体の透明度を保つのに欠かせないビタミンC。
それぞれのビタミンが多く含まれる食品を積極的に摂るようにしましょう。
また、細胞の材料となる十分な量のタンパク質と、オメガ3系の脂肪酸が多い良質な脂質を摂ることも大切です。
まとめ
視力低下の代表的な原因を解説してきました。
目の構造やモノが見えるしくみと併せて、理解してください。
ピント調整がうまくいかないこと以外でも、視野の異常を感じたときに、視力低下を実感することがあります。
モノがぼやける、かすむというのは、毛様体の疲労で起こる「疲れ目」であることが多いのですが、目を休ませても改善しない場合は白内障や緑内障などの疑いあり。
白内障は水晶体が濁って起こり、緑内障は主に眼球内の圧が高くなることによって視野が欠けていく病気です。
モノがゆがんで見えるのは、乱視によるものが多いのですが、やはり重大な病気を発症している可能性があり、視野が欠けるのは緑内障や網膜剥離など目の病気以外に、脳で問題が起こっているケースも考えられます。
視野の異常を感じたら、早めに眼科を受診して視力低下を防ぎましょう。
【参考資料】
・『ウルトラ図解 白内障・緑内障』 ビッセン宮島弘子 監修 法研 2018年
・『40歳から眼がよくなる習慣』 日比野佐和子、林田康隆 著 青春出版社 2016年
・『「スマホ」という病』 浅川雅晴 著 KKロングセラーズ 2020年
・Santen サイト