便秘には急性と慢性があります。
環境の変化などが原因で起こる急性の便秘は、その状況に慣れれば治るので大きな問題にはなりませんが、慢性の便秘は主に食生活や生活習慣に原因があるので、様々な心身のトラブルを招きます。
慢性型便秘の要因のひとつが、筋力の低下や筋肉をうまく使えていないこと。
「出す力」が弱くなってしまっているのです。
そこで、ここでは排便に必要な力を取り戻すために、効果的なストレッチとツボ刺激を紹介します。
どちらも、毎日寝る前などに15分続ければ効果が望める対処法です。
便秘は男性よりも女性に多い症状で、「日本人の女性は2人に1人が便秘」という報告もあるほど。
とくに妊娠中は便秘に悩む女性が多いので、「妊婦用のストレッチ&マッサージ」もラインナップしました。
目次
1. 排便のしくみ
1-1. 快便の3つの条件
1-2. 排便しやすいトイレ姿勢
1-3. 排便に使う5つの筋肉
① 腸腰筋
② 横隔膜
③ 腹横筋
④ 骨盤底筋
⑤ 多裂筋
2. 便秘を解消するストレッチ
2-1. 腸腰筋のストレッチ
2-2. 腸もみと腰のストレッチ
2-3. 脇を伸ばすストレッチ
2-4. 上体を曲げるストレッチ
2-5. 妊婦用の便秘解消ストレッチ&マッサージ
3. 便秘を解消するツボ
3-1. 便秘に効くお腹のツボ
3-2. 便秘に効く背中のツボ
3-3. 便秘に効く手のツボ
3-4. 便秘に効く足のツボ
まとめ
1. 排便のしくみ
口から食べたものは、食道、胃、小腸などで消化吸収のプロセスを経て、7~10時間程度で大腸までやってきます。
長さが1.5mほどある大腸では、15~20時間かけて小腸で吸収されなかった水分を吸収し、肛門に近い直腸に便が溜まると、その刺激が便意となります。
通常は便意をもよおすと、トイレに行って排便をすることになるのですが、ここで行う「排便」という行為のしくみを考えてみましょう。
1-1. 快便の3つの条件
良い便とは大人の場合、やわらかすぎず硬すぎず、するするとバナナ2本程度の便が出ることといわれます。
こうした快便には、3つの条件があります。
① 便のほどよい硬さ
ほどよい硬さの便は、大腸までの消化吸収のプロセスが上手くいっていることを示しています。
腸内環境を整える「腸活」が注目されているのは、腸の周囲には神経細胞が集まって脳とダイレクトにつながっているから。
心身の健康を維持するためには腸内環境を整えることが重要で、ほどよい硬さの便はそのバロメーターでもあるのです。
② 肛門付近の筋肉をゆるめられること
肛門には締まる力はありますが、意識的に開くことはできません。
便意をもよおすと、脳からの指令で肛門を締めている恥骨直腸筋などがゆるむことにより、肛門が開いて排便の準備が整うのです。
③ 腹圧が正しくかけられること
肛門がゆるむと同時に腹圧がかかって、直腸壁が収縮し、溜まっていた便が肛門を押し広げて排出されます。
いきんでいてもただしく腹圧がかけられない理由は、筋肉の衰えや、筋肉を上手く使えていないこと。
肛門をゆるめて腹圧を正しくかけられるようにするのが、この記事の目的です。
1-2. 排便しやすいトイレ姿勢
日本人の直腸は肛門に対してまっすぐではなく曲がっており、この状態の自然な解決策として和式トイレの形態ができたといわれています。
ですから日本人にとって、洋式トイレの体勢は排便しやすいとはいえないのです。
しかし、洋式トイレでも、少し姿勢を変えるだけでスムーズな排便ができるようになります。
ポイントは、便器に座ったときに上体と太ももが30度の角度になっていること。
上体を前に倒すか、足の下に踏み台を用意することで、この姿勢をつくることができます。
1-3. 排便に使う5つの筋肉
快便のためにケアしたい筋肉は5つ。
すべて体幹筋やインナーマッスルと呼ばれる深層にある筋肉で、排便のときには連携して働きます。
体中にあるすべての筋肉は、動かさないとだんだん硬くなっていきます。
これら5つの筋肉が硬くなるとスムーズな排便ができなくなり、老化によっても筋肉は硬くなるので、高齢者には便秘が多くなるのです。
① 腸腰筋
腸腰筋は、背骨と脚の付け根をつなぐ大骨筋、骨盤と脚の付け根をつなぐ腸骨筋と小腰筋の総称。
今、この腸腰筋が注目されているのですが、なぜかといえば、腸腰筋にかぶさるようにして腸があるからです。
腸腰筋を動かすと腸に刺激が加わって収縮運動を助け、腸腰筋が硬くなれば、腸の動きを妨げてしまうのです。
② 横隔膜
横隔膜は、肺の下、胃や肝臓の上を覆っている膜状の筋肉。
収縮すると横隔膜が下がって、腹圧がかかります。
③ 腹横筋
腹横筋は、お腹の周りを包んでいるコルセット状の筋肉。
腹圧を維持したり、内臓の位置を保ったりするのに重要な役割を果たしています。
④ 骨盤底筋
骨盤底筋は、骨盤の底で子宮や膀胱などをハンモックのように下から支えている筋肉群。
肛門や尿道を締める働きもあります。
⑤ 多裂筋
多裂筋は、背中の深部にあって背骨を支える細い筋肉で、姿勢を保つ働きがあります。
背筋の曲げ伸ばし、背中をねじる動きなどにも重要な役割を果たします。
2. 便秘を解消するストレッチ
腸の収縮運動を「ぜん動運動」と呼びますが、このぜん動運動を活性化するために、1日10分間のウォーキングが有効だといわれていいます。
現代人に便秘や大腸がんが増えたのは、デスクワークなど動かない仕事が増えて、運動不足になっていることが最大の原因。
運動習慣を維持することで、便秘が改善できる人はとても多いということです。
軽い有酸素運動とともに、便秘の解消にとても効果的なのが、体幹筋を伸ばしてほぐすストレッチ運動。
ストレッチの基本は、筋肉の両端の付着部どうしを引き離すように意識することと、30秒程度は伸ばすことです。
2~3秒伸ばしただけでは、筋肉は緩みません。
前項で紹介した5つの筋肉を意識して伸ばしましょう。
2-1. 腸腰筋のストレッチ
腸腰筋のストレッチは、ヒザ立ち位と寝た状態で行う2つの方法があります。
① ヒザ立ちでの腸腰筋ストレッチ
左足を大きく後方に引き、右のヒザを立てて、左のヒザが床に着くまで上体を下ろします。
両手は右ヒザの上に置き、おへそを前に着きだすようなイメージで、上体を垂直に保つことがポイント。
この姿勢で30秒腸腰筋を伸ばしたら、左右をかえて同様に30秒。
② 寝た状態で行う腸腰筋ストレッチ
ヒザ立ち位がとりにくい人は、寝た状態で行うことも可能です。
仰向けに寝た状態で、左脚はまっすぐ伸ばしたまま、右ヒザを上げて両手で深く抱え込みます。
反対側も同様に。
2-2. 腸もみと腰のストレッチ
腸は筋肉で構成されているので、もんでマッサージすることによって血流を改善し、腸の動きをよくすることができます。
これが、「腸もみ」や「腸マッサージ」と呼ばれるもので、お腹や腰の筋肉をストレッチしてから行います。
① 準備のストレッチ
仰向けに寝たら、まずは腹式呼吸の深呼吸をしてお腹の筋肉を緩めます。
両手をおへその両側あたりに置き、鼻から息を吸ってお腹をふくらまします。
次に、口から息を吐きながらお腹をへこませるようにして息を吐き切り、10回繰り返しましょう。
次に、腰回りの筋肉を緩めるために、両ヒザを立てて、そろえた状態で左右交互にゆっくり倒します。
両手は、自然に開いて床につけておきます。
30秒ずつ、3往復繰り返しましょう。
② 便秘を解消する腸もみ
まず、おへその上に両手を重ねて置き、手のひらでやさしく圧をかけながら、おへその周りを時計回りに1周させて小腸をもみます。
次に、下になっている方の手の指先で圧を加えながら、大腸のポイントを5カ所押さえます。
圧迫する場所は、盲腸があるとされる「右の腰骨の内側」、大腸が上がってカーブする「右肋骨の下」、センターに移って「みぞおちから指3~4本下」、大腸が下に曲がる「左肋骨の下」、便が溜まりやすいS字結腸がある「左腰骨の内側」です。
2-3. 脇を伸ばすストレッチ
椅子に深く座って上体を垂直に保ち、身体の前方に両手を伸ばして指を組みます。
そのまま、両腕を頭上まで上げて脇の下の体側部を伸ばします。
両側の体側部が気持ちよく伸びたら、両手を戻します。
呼吸は止めずに行いましょう。
体側部の筋肉が硬くなっていると、全身の筋肉に影響し、腹圧をうまくかけられなくなります。
2-4. 上体を曲げるストレッチ
椅子に座ったままの姿勢で足を肩幅に開き、正面を向いて背筋を伸ばします。
右腕をやや後方から上げて、上体をゆっくり左に倒し、左手は床に伸ばします。
右の体側がしっかり伸びて、左の体側が縮んでいる状態でゆっくり呼吸。
身体をゆっくりもとの姿勢に戻したら、反対側も同様に。
普段はあまりしない動きなので、ムリに身体を曲げないようにしましょう。
2-5. 妊婦用の便秘解消ストレッチ&マッサージ
妊娠期は一般的に、4カ月までの「妊娠初期」、5~7カ月の「妊娠中期」、8~10カ月の「妊娠後期」と分けられますが、身体の状態が変わるので、そのときどきに応じたケアが必要とされます。
① 妊娠初期
3か月目までの妊娠初期は、通常のストレッチや腸マッサージで問題ないといわれます。
便秘の症状が重くなるのは、妊娠初期の最後となる13~15週の胎盤期です。
この時期は、優しい腸マッサージが効果的。
仰向けに寝て、お尻の筋肉をきゅっと引き締めます。
右手のひらを右肋骨の下に置き、左へと移動、恥骨のあたりまで移動、元の位置へという3角形をゆっくりと描きながら5周ほどさすります。
次に、大腸もみの要領で両手を重ね、ウエストラインを右から左へと5等分して、やや上方に向けて押し込みます。
② 妊娠中期
妊娠中期には、優しい腸マッサージに加えて骨盤底筋を動かすことにより、便秘のケアとともに、臨月期に起きやすい早漏れや早産の予防ができます。
やわらかい床で、肩幅よりやや狭いくらいにヒザ開いてヒザ立ちになります。
両手を後方に回して重ね、手のひらでお尻の真ん中を押します。
このとき、背筋を伸ばし、骨盤を立てるようにして肛門を締め、おしっこを止めるようなイメージで骨盤底筋を軽く押すのがポイント
10秒キープしたら、10秒休みながら4回繰り返します。
③ 妊娠後期
妊娠後期のストレッチは、子宮口が開きはじめたら行ってはいけません。
子宮に負担をかけずに腹圧をかける運動を行います。
椅子に座って両ヒザを合わせ、手のひらを胸の前で合掌して親指を胸にくっつけます。
その姿勢で鼻から十分に息を吸い込み、顔は正面を向いたまま、口から息を吐きながらゆっくりと上体を左にひねります。
次に息を吸いながら姿勢をもとに戻し、息を吐きながら右にゆっくりとひねります。
これを5セット繰り返しましょう。
3. 便秘を解消するツボ
東洋医学のツボ治療は、身体中に張り巡らされていて、気が流れる通路である経絡のところどころにあるポイントを刺激することによって、気の流れを改善するものです。
科学的にいえば、血液やリンパの流れを改善して身体を健康な状態に戻すもの。
便秘の解消には、やはり腸の動きを活発にすることが目的となります。
ツボは、身体の中心線にあるもの以外は左右両側にあり、各ツボの位置は、500円硬貨程度の大きさで個人差があります。
押してみて、痛みのあるところや硬くなっているところを探ってみてください。
親指か、人差し指から薬指の腹でグーっと押し込み、痛くなる手前でゆっくりと力を緩めます。
3-1. 便秘に効くお腹のツボ
① 腹結(ふっけつ)
腹結は、便秘に即効性があるツボです。
乳頭から下りるラインとおへその横ラインが交わる点から指1本分下にあります。
人差し指、中指、薬指をそろえて中指の腹がツボに当たるようにし、もう一方の手をそえてもむように圧迫してください。
② 天枢(てんすう)
天枢は、便秘の解消とともに、食欲不振にも効くツボです。
位置は、おへその両側、指2本のところ。
腹部は指を立てて強く押すのは避け、腹結と同じように人差し指、中指、薬指をそろえて中指の腹がツボに当たるようにし、もう一方の手をそえてもむように圧迫します。
3-2. 便秘に効く背中のツボ
① 肝兪(かんゆ)
肝兪は字の通り、肝臓の働きと関係の深いツボで、胃腸の働きにも大きな影響を及ぼします。
肝兪、脾兪、腎兪、足三里の4つのツボは、基本調整点と呼ばれ、あらゆるツボ治療に加えることがすすめられています。
左右の肩甲骨の下を結んだラインが背骨と交わるところが第7胸椎と第8胸椎の間にあたるのですが、肝兪の位置は第9胸椎の少し下から左右へ指2本のところ。
背中のツボは、ツボ押しグッズやマッサージ機などを使いましょう。
② 脾兪(ひゆ)
脾臓の働きと関係の深い脾兪は、肝兪の下、第11胸椎の少し下から左右に指2本分のところです。
消化器官の働きを活発にします。
③ 腎兪(じんゆ)
腎兪は腎臓の働きと関係の深いツボ。
腎臓は、東洋医学では生まれながらにして生命の宿るところとされ、身体のあらゆる機能の調整を円滑にする効果があるツボです。
位置は、脾兪のさらに下、胸椎が12本で終わり、そこからはじまる5つの腰椎のうち第2腰椎と第3腰椎の間から左右へ指2本分。
腎兪はウエストラインにあるので、両手を後ろに回して親指の腹で押すことができるでしょう。
腰を左右にひねりながら圧迫すると効果的です。
④ 大腸兪(だいちょうゆ)
大腸兪は、便秘だけでなく、婦人科系の腰痛にも効果があるツボです。
位置は腎兪の下、骨盤の上部である腸骨の左右を結んだラインの、第4腰椎から左右に指2本分のところ。
⑤ 小腸兪(しょうちょうゆ)
小腸兪の位置は、大腸兪のさらに下、第5腰椎の下にある第1仙骨から左右に指2本分のところです。
3-3. 便秘に効く手のツボ
① 神門(しんもん)
神門は、ストレス改善に即効性があるツボ。
「神」という字がつくツボには心が宿るとされ、自律神経のバランスを整える効果もあります。
位置は、手のひらを上に向け、手首のシワの、小指側の端になります。
② 合谷(ごうこく)
合谷も、便秘だけでなく全身のあらゆる不調に効果があるとされる基本的なツボ。
手の甲部、親指と人差し指の付け根にあるV字型のくぼみにあります。
押すとしびれるような感覚があるところです。
3-4. 便秘に効く足のツボ
① 足三里(あしさんり)
基本調整点のひとつである足三里は、消化と排泄を円滑にし、疲労回復にも効果があるツボです。
位置は、脚の外側、ヒザから指4本ほど下がったところ。
ヒザ下の前側の骨と、外側の骨の間にある少しくぼんだところで、押すとしびれるような感覚があります。
② 厲兌(れいだ)
胃腸の疲れがあると痛みを感じるのが、厲兌というツボ。
むくみにも効果があります。
足の第2指の先端、爪の外側部分にあります。
まとめ
便秘解消のストレッチやツボ刺激には、即効性のあるものもありますが、慢性的な便秘に対しては、習慣化して毎日続けることが大事。
慢性的な便秘は、食生活を見直すことも同時に行う必要があります。
2種類の食物繊維や、乳酸菌などを多く含む発酵食品の摂取が欠かせません。
便秘を解消するレシピについては、別記事にて解説しておりますので、ぜひそちらもご覧ください。
【参考資料】
・『うんトレ』 神山剛一 著 方丈社 2019年
・『図解入門 便秘と腸の基本としくみ』 坂井正宙 著 秀和システム 2016年
・『妊婦マッサージ』 山田光敏 著 PHP研究所 2012年
・『ビジュアル版 爽快ツボ刺激法』 良導絡研究所 編 講談社 2009年