「はちみつ」と「ローヤルゼリー」と「プロポリス」の違い、わかりますか?
どれもミツバチの生産品であることに変わりはありません。
はちみつは、ミツバチが食料にする目的で、花の蜜を集めてきて巣に貯蔵されたもの。
ローヤルゼリーは女王バチと女王バチになる幼虫だけが食べる食料で、花の蜜や花粉を食べた働きバチが分泌するクリーム状の物質です。
プロポリスが、はちみつやローヤルゼリーと最も違うのは、ハチの食料ではないということです。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスが著した『動物史』には、ミツバチが巣をつくる際に脂(やに)の多い草花や樹木から樹液を集めてきて、巣の床に塗りつけたり、巣箱の入り口が広すぎる場合にふさぐ物質があり、この物質は色が黒く、ろうを精製したかのようなもので、鋭い香りがすると書かれています。
さらに、この物質は打撲傷や化膿の治療薬とされるとも書かれています。
アリストテレスは「プロポリス」という言葉を使っていませんが、この物質こそが後にプロポリスと呼ばれるようになるのです。
ここでは、紀元前の古代ギリシャ時代から知られていたこの物質の、現代における基礎知識や効果効能にかんする情報を紹介します。
目次
1. プロポリスの基礎知識
1-1. ミツバチの巣を守る補強材
1-2. ミツバチを守る抗菌作用
1-3. 高品質なブラジル産プロポリス
1-4. プロポリスの使用方法
1-4-1. サプリメント
1-4-2. プロポリススプレー
1-4-3. プロポリス入りハチミツ
1-4-4. プロポリス軟膏
2. プロポリスに認められた6つの効果
2-1. 抗酸化作用
2-2. 免疫力の向上
2-3. 糖尿病の予防
2-4. 脂質異常の改善
2-5. アレルギー症状の軽減
2-6. 神経細胞の修復
まとめ
1. プロポリスの基礎知識
プロポリスという言葉は、ラテン語で「前」を意味する「プロ(pro)」と、「都市国家」を意味する「ポリス(polis)」を合わせた言葉で、帝政ローマの学者である大プリニウスが西暦77年に発表した『博物誌』という書物に登場します。
「都市を守る城壁」という意味合いで造られた言葉です。
この記事の前半では、プロポリスがこう呼ばれるようになった理由をはじめ、入手できるものの種類や使用方法を解説しましょう。
1-1. ミツバチの巣を守る補強材
アリストテレスが書き残しているように、プロポリスはミツバチが巣のすき間を埋めたり、入り口を狭めたりするために集めてくるものです。
プロポリス集め専門の働きバチが、様々な植物の樹脂や樹液を後ろ足のカゴのような部分にせっせと詰め込み、巣に戻ると仲間の働きバチに助けてもらいながら下ろすのですが、その作業には数時間かかることもある大変な仕事。
プロポリスの原料は、樹脂や樹液が約55%、巣の材料であるミツロウが約30%、油脂成分が約10%、花粉と、有機物やミネラルがそれぞれ5%ずつという割合で構成されています。
成分は、植物性色素の「フラボノイド」や植物性有機化合物の「桂皮酸誘導体」といったポリフェノール類のほか、多種のビタミンやミネラルが含まれています。
プロポリスは巣を守る補強材であると同時に、こうした成分の働きによる強力な抗菌作用と抗酸化作用で、巣の中を清潔に保っているのです。
1-2. ミツバチを守る抗菌作用
ハチの巣の内部温度は約35度に保たれているのですが、女王バチと女王バチになる幼虫が食べるローヤルゼリーは、生の状態でも腐りません。
この温度に加え、多くの働きバチがひっきりなしに巣を出入りするのですから、雑菌やカビが繁殖しやすい環境のはずなのに、清潔が保たれ、ハチの子どもたちもすくすくと育ちます。
この環境を維持しているのが、プロポリスの強力な殺菌作用なのです。
アリストテレスの記述から、2300年前にはすでにプロポリスが怪我や化膿止めの薬として使われていたことがわかります。
古代ローマ時代の『博物誌』には、トゲによる怪我、腫れやできもの、筋肉痛などに効き、不治といわれるほどの傷も完治させたと書かれています。
1900年前後に南アフリカで起こったボーア戦争では、プロポリスの軟膏が兵士の手当てに使われた記録があり、第二次世界大戦の頃まで同様のものが使われていたといいます。
こうした記録からわかるように、プロポリスは長い間、感染症による皮膚炎や潰瘍性皮膚炎、化膿症の治療薬として使われていました。
1-3. 高品質なブラジル産プロポリス
植物の樹脂が主な原料となるプロポリスは、地域によって色や成分が変わります。
ポリフェノールが多く含まれ、抗菌・抗酸化作用がもっとも高いのは、ブラジルのミナスジェライス州で産出されるプロポリスで、主な原料は南米に自生する「バッカリス・ドゥラクンクリフォリア」というハーブ。
一般的なプロポリスは黒褐色ですが、このプロポリスはグリーンがかっているので、「グリーンプロポリス」と呼ばれています。
日本では医薬品ではなく、あくまでも健康食品の扱いですが、ブラジルをはじめとする南米のいくつかの国では、医療グレードのものが製造されており、ヨーロッパでもアロマテラピーの精油と同じように、療法士が扱う医薬品と認識されている国があります。
1-4. プロポリスの使用方法
ミツバチの巣から採取されたプロポリスは、アルコールを使用してエキスを抽出するのが一般的で、サプリメントや飲料に使用されます。
現代ではノンアルコール抽出法や、溶剤のプロビレングリコールを使用するものも。
プロポリスが健康食品として扱われている日本では、サプリメントとして購入することになります。
サプリメントの種類や、サプリメントを使ったレシピを紹介しましょう。
1-4-1. サプリメント
プロポリスは、森林の香りを凝縮したような強い芳香をもち、キリっと辛くて苦いのが特徴で、最初は苦さに驚いて敬遠してしまう人もいますが、慣れると強い刺激が心地よくなり、強烈な森林浴をしているイメージだといわれます。
販売されているサプリは、フタにスポイトがついた小瓶に入っている液体がメイン。
初心者用にカプセル入りのものや錠剤タイプ、はちみつ入りのスプレーなどもあります。
紙コップに入れた水やジュースに1滴~数滴を落とし、1日数回飲むことを推奨しているものが多くなっています。
慣れてくると、高濃度の液体を直接飲む人、毎日摂取するのではなくて、風邪やインフルエンザなどの予防を強化したいときなどにスポット使用するなど、自分に合った使用法をもつ人が多くなります。
1-4-2. プロポリススプレー
風邪やインフルエンザなどで喉が痛いときや、口内炎や虫歯などの抗菌を行いたいときに使いやすいのが、プロポリスのスプレー。
はちみつ入りなどで販売されているものもありますが、小さなスプレーボトルに原液を入れて使用するのがおススメです。
喉が痛かったら喉に直接スプレー、化膿した患部に直接スプレーといった使い方を1日に3回ほど行うのが効果的だとされています。
原液のスプレーで口が苦くて辛い場合には、はちみつをなめるとさらに効果がアップします。
1-4-3. プロポリス入りハチミツ
はちみつと同じように食べられる「プロポリス入りはちみつ」が販売されていますが、これも原液を使用すれば、外用で使うものと内服用のものを自分でつくることができます。
外用のものは、市販の「プロポリス入りはちみつ」と同程度か少し濃い濃度で、好きな天然はちみつ200グラムに対して、プロポリスエキス0.5グラム(12滴程度)をヘラで混ぜて広口瓶に保存。
やけど、軽い傷、口内炎、鼻炎、荒れた唇のケアなどに塗って使用します。
内服用は、天然はちみつ280グラムに対して、プロポリスエキスが20グラムを上限として混ぜ、寝る前に歯磨きを済ませてから小さじ1杯(約7グラム)、起床後に歯磨きを済ませてから同じく小さじ1杯(約7グラム)をゆっくり飲みます。
この比率では、小さじ1杯に含まれるプロポリスの量が0.5グラム(12滴程度)になるのですが、この量を上限に半量まで好みで調節してください。
風邪やインフルエンザ、食中毒、感染症の予防やケアに高い効果を発揮します。
この量のプロポリスは、内服を続けても肝機能や腎機能などに悪影響を及ぼさないという臨床検査の結果がありますが、購入した製品の表記は守るようにしましょう。
1-4-4. プロポリス軟膏
第二次世界大戦まで負傷した兵士に使われていたのは、プロポリスをワセリンに混ぜた軟膏でした。
プロポリスエキスをそのまま患部につけると、刺激が強くて痛い場合があります。
そういうときでも安心して使えるのが、馬油16グラムに対してプロポリスエキス0.5グラム(12滴程度)を混ぜた軟膏。
軟膏の容器に保存し、やけどや擦り傷、切り傷などの外傷だけでなく、乾燥肌や荒れ肌のケアなど、男性女性を問わず美容目的でも使えます。
2. プロポリスに認められた6つの効果
1965年にブカレストで開催された国際養蜂協会連合の国際会議で、プロポリスの素晴らしい治療効果や内服による抗腫瘍作用が報告されたことから、世界中でプロポリスの治療効果について研究が進められました。
1985年には日本でこの会議が開催されたことにより、日本でもプロポリスが注目されるようになったのです。
1990年代には本格的な医学研究が進んで、数々の適応症例が報告されました。
ここでは日本を代表する養蜂研究所である「みつばち健康科学研究所」の研究データをもとに、プロポリスが人間に与える効果を紹介します。
2-1. 抗酸化作用
酸素が体内で使われると必ず発生する活性酸素は、強力な酸化作用によって細菌やウイルスを殺すので免疫物質として重要な物質ですが、過剰になってしまうと問題のない細胞や組織まで酸化させて傷つけます。
活性酸素は過剰になりやすいことが問題で、ストレス、喫煙、飲酒などのほか、紫外線を浴びたり、身体によいとされる有酸素運動を行ったりするだけでも増えてしまうもの。
この酸化ストレスは、血管を傷つけるので心臓病や脳卒中をはじめとする様々な病気の原因となり、身体の老化を進行させます。
また、自律神経中枢に活性酸素が増えることが、疲れを感じる原因だといわれています。
プロポリスには、活性酸素による酸化ストレスを軽減する作用が実証されており、老化防止や疲労回復に対する効果が認められています。
2-2. 免疫力の向上
プロポリスは、風邪やインフルエンザなどの感染症を予防する強力な抗菌作用と抗酸化作用によって、免疫力を高める効果も高いことがわかっています。
とくにポリフェノールが豊富なブラジル産プロポリスは、この効果が高いといわれ、継続的な飲用が風邪の治りを早くすることが実験で証明されました。
免疫力を高める効果による癌の治療報告も多くあり、今後の研究が期待されています。
2-3. 糖尿病の予防
プロポリスには、糖尿病予備軍の初期症状である「インスリンが効きにくくなる状態」を改善する効果が認められています。
日本人の遺伝子にはある種のタンパク質が多いために、少しの肥満でも2型糖尿病にかかりやすいことが明らかになりました。
現在、日本では糖尿病が疑われる成人1000万人に加え、糖尿病予備軍も1000万人程度いるとされます。
糖尿病は予備軍のうちに改善することが重要であるため、プロポリスのこの効果が注目されています。
2-4. 脂質異常の改善
ブラジル産プロポリスは、脂質の代謝を改善して体脂肪を減らし、体内の脂肪量を減少させることが研究で明らかになりました。
コレステロールの体内合成を抑え、中性脂肪の吸収を阻害するメカニズムによって、体内の脂肪を減少させるものと考えられています。
糖質の過剰摂取が中性脂肪を増やす主な原因ですから、米を主食としてきて西洋的食生活がミックスされた日本人は中性脂肪を溜めやすくなっているので、プロポリスの生活習慣病予防効果が期待されています。
2-5. アレルギー症状の軽減
長らく、日本人の約30%が何らかのアレルギーをもっているとされてきましたが、近年はアトピー性皮膚炎や花粉症が増えて、国民の2人に1人はアレルギーで悩んでいるといわれます。
プロポリスには、アレルギーによる「かゆみを軽減する」、「花粉症の発症を遅らせる」「鼻づまりの発症率を下げる」といった効果が認められました。
実験では、摂取したプロポリスの濃度に比例して、かゆみの原因であるヒスタミンの放出が抑制されることがわかりました。
アレルギー反応によって放出され、鼻づまりを起こす原因である「炎症関連物質」の量を抑えることが、花粉症を軽減する効果をもたらしていることもわかり、この物質は気管支喘息の原因であると考えられているので、これもまた今度の研究が期待されています。
2-6. 神経細胞の修復
これはまだ明確になった効果ではありませんが、プロポリスが神経の修復をうながすのではないかという実験結果が得られています。
ブラジル産プロポリスにとくに多く含まれている桂皮酸誘導体の「アルテピリンC」という成分が培養神経細胞から延びた神経線維を増やしている結果が得られ、これが神経細胞同士をつなげて情報伝達回路をつくったり、傷ついた神経細胞を修復したりするのではないかと考えられているのです。
記憶は、脳内の神経細胞がつくる無数のネットワークに保持されていると考えられているので、プロポリスが記憶力を高めるだけでなく、認知症の治療や、脳梗塞などで起こる麻痺、脊髄損傷による半身不随などの治療に役立てられるのではないかいう期待を込めて、研究が続けられています。
まとめ
みつばちの生産物による医療効果を使って体調を整える療法は「アピセラピー」と呼ばれています。
アピセラピーでもっとも身近な物質は「はちみつ」で、中でもニュージーランドの一部に生息するマヌカの木などからミツバチが採取した「マヌカハニー」には、通常のはちみつにはない成分が含まれていて強い抗菌力をもつことから、近年とくに注目を集めました。
そして、アピセラピーにおけるもうひとつの注目株が「プロポリス」なのです。
ここで解説してきたように、古代から認められてきた効果効能がいくつもある一方で、現在も研究が続けられている物質ですから、今は科学的根拠に乏しくて「効果なし」とされていることでも、今後の研究によって認められることが出てくる可能性があり、とくに免疫力の向上には期待が集まっています。
【参考資料】
・『はちみつ日和 花とミツバチと太陽がくれた薬』 前田京子 著 マガジンハウス 2017年
・みつばち健康科学研究所サイト(山田養蜂場)
https://www.bee-lab.jp/megumi/propolis/data.html#kaze