「必須アミノ酸」と「非必須アミノ酸」の違いを知っていますか?
実は長年、この「必須」「非必須」という命名のしかたが問題視されてきました。
「必須ではないアミノ酸」が、身体にとって必須ではないと間違われてしまうからです。
英語で「Essential amino acid」略して「EAA」と呼ばれることから、日本では「Essential」のもっとも代表的な和訳をあてはめて「必須アミノ酸」と訳しました。
しかし、「何が必須なのか?」という点が間違われやすいのです。
必須アミノ酸は、体内で合成できないことから、生命維持のために「外からの摂取が必須」であるアミノ酸です。
非必須アミノ酸は、体内でも合成されるアミノ酸のことであり、重要ではないということではありません。
さらに、「生命維持のために摂取が必須」なのであり、「体内における活発な代謝や健全な生理機能を維持するために必須」ということではないのです。
これは看護師のように医学や栄養学の勉強をする人は必ず学ぶことで、近年は、非必須アミノ酸も食事から摂取することの重要性が認識されています。
この「必須」の意味を理解していただき、ここでは9種類が存在する必須アミノ酸とは何かということを解説し、11種ある非必須アミノ酸についても同時に紹介します。
目次
1. 生命の源であるアミノ酸とは?
1-1. アミノ酸が構成するペプチドとタンパク質
1-2. タンパク質を構成する20種のアミノ酸
1-3. タンパク質を構成しないアミノ酸
1-4. 必須アミノ酸の7つの働き
2. 9種の必須アミノ酸とは
① ロイシン
② バリン
③ フェニルアラニン
④ リジン
⑤ トリプトファン
⑥ ヒスチジン
⑦ イソロイシン
⑧ メチオニン
⑨ スレオニン
3. 11種の非必須アミノ酸
① アスパラギン
② シスチン
③ グリシン
④ アスパラギン酸
⑤ チロシン
⑥ アラニン
⑦ セリン
⑧ グルタミン酸
⑨ グルタミン
⑩ アルギニン
⑪ プロリン
1. 生命の源であるアミノ酸とは?
自然界には約500種類のアミノ酸が存在しているといわれます。
地球上に存在するもっとも古い栄養素がアミノ酸で、約40億年前に地球で起こった生命の誕生は、海中でアミノ酸が発生したことに起因すると考えられています。
最近は、ビタミンやミネラルのように、アミノ酸のサプリも登場していますよね。
アミノ酸がどのような栄養素で、体内でどういった働きをするのかわかりやすく解説しましょう。
1-1. アミノ酸が構成するペプチドとタンパク質
三大栄養素のひとつである「タンパク質」を構成している最小単位がアミノ酸です。
人間の体は水分が60%、タンパク質が20%、脂肪や糖質などが20%を占めており、アミノ酸はタンパク質を構成するだけでなく、脂肪や糖質にも合成されます。
英語でタンパク質は「プロテイン」といいますが、これはギリシャ語で「一番必要なもの」という意味。
タンパク質は骨や筋肉、皮膚、髪、臓器、血液など体中の細胞の材料となるだけでなく、三大栄養素の働きを促す酵素や、いろいろな機能を調節するホルモンとなって、生命維持に大きくかかわっている栄養素で、その最小単位がアミノ酸なのです。
ホルモン関連でよく目にする「ペプチド」も、アミノ酸が構成する物質。
アミノ酸が2個から数10個つながった化合物がペプチドで、50個程度から数千個つながったものがタンパク質です。
1-2. タンパク質を構成する20種のアミノ酸
体内に存在するタンパク質は10万種類にも及ぶといわれており、それらすべてを構成しているのはわずか20種類のアミノ酸です。
この20種類のアミノ酸が、体内で合成されない9種類の必須アミノ酸と、合成される11種類の非必須アミノ酸に分かれているのです。
進化の過程において割と早い段階で、生物は10種程度のアミノ酸の体内合成をやめてしまったといわれています。
非必須アミノ酸は、体内で合成することを放棄せずに今も続けている物質ですから、考え方によっては人体にとって必須アミノ酸よりも重要だといえるのです。
タンパク質を摂取すると、体内では必ずアミノ酸に分解されます。
最終的に小腸で吸収、分解されたアミノ酸は、血液によって全身へと運ばれ、各部位で必要とされる10万種類ものタンパク質に再合成されます。
10万種類に及ぶタンパク質の設計図は、すべてDNAに記録されているといいますから、これも生命の驚異ですよね。
この設計図があるおかげで、牛や豚のタンパク質を摂取しても、人間の身体に必要なタンパク質に再合成することができるのです。
1-3. タンパク質を構成しないアミノ酸
自然界に存在する500種類のアミノ酸のうち、なぜ20種だけがタンパク質を構成するのかという理由はわかっていません。
ですが、自然界に存在してタンパク質を構成しないアミノ酸の中にも、人体によい影響を与えるものがあることはわかっています。
発芽玄米の成分として知られる「GABA」は、非必須アミノ酸のグルタミン酸から合成され、不安や興奮をやわらげる神経伝達物質として働く物質。
最近注目されている「オルニチン」は、シジミに多く含まれる成分で、はやり非必須アミノ酸のアルギニンから合成され、肝機能を維持する働きがあります。
そのほかにも、パーキンソン病の治療薬として知られる「ドーパ」、筋肉増強の作用がある「クレアチン」、ダイエットサプリに利用される「カルニチン」などもアミノ酸の一種です。
1-4. 必須アミノ酸の7つの働き
必須アミノ酸の主な役割は、タンパク質を構成することですから、その働きはタンパク質の働きと重なり、中にはアミノ酸の形で働くものもあります。
タンパク質の主な働きは、
・コラーゲンやエラスチンなどの繊維となって身体の構造を支える
・酵素となって三大栄養素の代謝を促す
・抗体となって身体を守る
・細胞増殖や恒常性を維持する
・遺伝子情報の転写を制御する
・筋肉を収縮する
・特定の物質と結合して物質を輸送する
という7つですが、これらはみな20種のアミノ酸がベースになっています。
アミノ酸それぞれの働きの特徴については、次項で解説しましょう。
2. 9種の必須アミノ酸とは
タンパク質は20種のアミノ酸がいろいろな形で結合したものですから、必須アミノ酸はバランスよく摂取することが重要。
筋肉で運動時のエネルギー源となる「BCAA」として注目されているバリン、ロイシン、イソロイシンは、バランスが崩れると体重減少や免疫機能低下を引き起こすとされています。
必須アミノ酸、ひとつひとつの特性を見ていきましょう。
① ロイシン
タンパク質合成の機能と肝機能を向上させるロイシンは、もっとも多くの摂取量が必要とされるアミノ酸ですが、多くの食品に含まれているので偏食をしなければ不足することはありません。
逆に過剰となってバリンやイソロイシンとのバランスが崩れ、BCAAの機能低下をもたらすことがあります。
鶏ムネ肉、豚レバー、牛レバー、ナチュラルチーズなどに、とくに多く含まれます。
② バリン
血液中の窒素バランスを調整するバリンは、成長を促進するアミノ酸としても知られています。
大豆、高野豆腐、湯葉(干し)、カツオ節など、多くの食品に含まれているので、やはり不足することはありませんが、ロイシン、イソロイシンとのバランスが重要とされます。
③ フェニルアラニン
フェルアラニンは、体内で非必須アミノ酸のチロシンに転換されて、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンといった神経伝達物質の材料となります。
精神の安定をもたらす、脳機能を高めるという働きがあるので「うつ」の改善に有効ですが、血圧を上げる作用もあるので、高血圧の人や心臓病の人、妊娠中の女性などは過剰摂取に注意しなければいけません。
大豆、湯葉(干し)、カツオ節、きな粉などに多く含まれます。
④ リジン
カルシウムの吸収を促進する、抗体やホルモン、酵素などをつくり出して全身の組織の修復や成長を促すという働きがあるリジンは、疲労回復や集中力の向上をもたらします。
さらに糖質がエネルギーとして燃焼するのを助けたり、肝機能を高めたりと、多彩な働きをするアミノ酸で、不足すると疲労感、貧血、肝機能低下などを引き起こします。
鶏ムネ肉、豚ロース肉、牛肉、イワシ、ブリなどに多く含まれます。
⑤ トリプトファン
トリプトファンの重要な働きは、ビタミンB6、ナイアシン、マグネシウムとともに、精神の安定をもたらす神経伝達物質であるセロトニンを合成すること。
今、もっとも注目されているアミノ酸です。
セロトニンには精神安定の効果とともに、睡眠誘発ホルモンであるメラトニンの材料になるという一面があります。
ですからトリプトファンが不足すれば、睡眠障害や精神障害を引き起こすことに。
高野豆腐、湯葉(干し)、カツオ節、大豆などに多く含まれており、最近はサプリで摂取する人も増えていますが、過剰摂取は肝硬変の原因になるので注意が必要です。
⑥ ヒスチジン
ヒスチジンは、体内で強力な血管拡張や血圧降下作用をもつヒスタミンに合成され、胃酸の分泌や中枢神経機能にも関与します。
ヒスタミンの名称は、ヒスチジンから合成されるアミンということで命名されたもの。
アミンとはアンモニア系化合物の総称で、アミンと酸を含む化合物がアミノ酸です。
ヒスチジンは子どもの成長促進に不可欠であることから、1985年までは幼児のみの必須アミノ酸とされていましたが、現在は成人にも摂取が必須とされています。
カジキ、カツオ、カツオ節、マグロ、ブリなどに多く含まれます。
⑦ イソロイシン
ロイシン、バリンと相関関係にあるイソロイシンは、BCAAとして働く以外にも、血管を拡張したり、肝機能を高めたりする作用があり、神経機能の向上、成長促進にも働きます。
サトウダイコンの糖類から発見されたアミノ酸で、鶏ムネ肉、豚赤身肉、ナチュラルチーズ、スジコなどに多く含まれます。
⑧ メチオニン
ヒスチジンから合成されるヒスタミンは、ケガや薬物反応によって活性化すると、血管の拡張、かゆみ、痛みを発症し、悪化するとアレルギー症状を引き起こします。
血中のヒスタミン濃度を下げて、こうした症状を緩和するのがメチオニンです。
シラス干し、カツオ節、湯葉(干し)、マグロ、ブリなどに多く含まれます。
⑨ スレオニン
必須アミノ酸の中で最後に発見されたスレオニンは、肝機能のサポート、とくに肝臓に脂肪が蓄積するのを防ぎ、成長促進や新陳代謝の促進にも働きます。
スレオニンは消化吸収が悪いため、リジンに次いで摂取が必要なアミノ酸といわれており、大豆、湯葉(干し)、シラス干し、マグロ、ゼラチンなどに多く含まれています。
3. 11種の非必須アミノ酸
非必須アミノ酸は、すでに説明したとおり体内でも合成は行われますが、摂取が必要ない栄養素ではありません。
11種類の非必須アミノ酸にもそれぞれ重要な働きがあり、必須アミノ酸と連携して働くものが多いので、必須アミノ酸の9種といっしょに理解を深めてください。
① アスパラギン
アスパラギンは、1806年に世界ではじめて発見されたアミノ酸。
エネルギー生成をサポートして運動持久力を高め、肝臓の保護作用も認められています。
大豆、玄米、レーズン、牛乳、ジャガイモなどに多く含まれています。
② シスチン
解毒作用、有害金属や活性酸素の排除という働きをもつシスチンは、人体にもっとも多く存在するアミノ酸であるタウリンを生成して、胆汁酸の成分にもなります。
皮膚でメラニン色素が生成されるのを抑制する働きもあるので、美白成分として化粧品に配合されることでも知られる物質。
豚ロース肉、牛肉、羊肉、スジコなどに多く含まれています。
③ グリシン
グリシンもコスメによく利用されるアミノ酸で、タンパク質の繊維であるコラーゲンの主成分になります。
構造がもっとも簡単なアミノ酸であり、甘みがあるので、ゼラチンから発見された当初は「ゼラチン糖」と呼ばれていました。
骨や皮膚を構成するコラーゲンの材料となる以外にも、血中コレステロールを下げる作用や、抗菌作用、酸化防止作用などが認められています。
セラチン、イセエビ、湯葉(干し)、カツオ節、高野豆腐などに多く含まれます。
④ アスパラギン酸
アスパラガスに多く含まれるアスパラギン酸は、アスパラギンが分解された加水分解物から発見されたアミノ酸で、エネルギーの代謝を高める速効性があるので、疲労回復に大きな効果があります。
神経伝達物質の材料になって中枢神経を守るという重要な働きもあるのですが、ある種のがん細胞はアスパラギン酸を取り込んで元気になるという一面もあり、特定のがん患者にはアスパラギン酸分解酵素が使用されます。
⑤ チロシン
必須アミノ酸のフェニルアラニンから転換されて神経伝達物質のドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンの材料となるチロシンは、甲状腺ホルモンであるチロキシンやトリヨードチロシン、さらにはメラニンの材料にも使われます。
カツオ節、タラコ、プロセスチーズ、シラス干しなどに多く含まれており、不足すると精神障害の原因となります。
⑥ アラニン
アラニンは、肝臓のエネルギー源となり、アルコール分解力を高めます。
肝機能の維持だけでなく脂肪燃焼効果を高める作用もあり、糖質が不足したときに肝臓で行われる「糖新生」の材料となるので、運動持久力を高める効果も注目されています。
ゼラチン、シジミ、鶏ムネ肉、サバ、カツオ節などに多く含まれます。
⑦ セリン
脳機能を活性化させることで知られるセリンは、記憶力アップ効果があるだけでなく、血中コレステロールを低下させる作用や、肌でうるおいを保つ天然保湿因子(NMF)に関与する保湿作用も注目されています。
大豆、カツオ節、高野豆腐、イクラ、牛乳などに多く含まれています。
⑧ グルタミン酸
脳機能に悪影響を及ぼすアンモニアをグルタミンに変える働きがあるグルタミン酸は、うま味成分の代表です。
脳機能の活性化や疲労回復に即効性あることでも知られ、多く含まれるのは大豆、高野豆腐、落花生、アーモンド、湯葉(干し)など。
化学調味料による過剰摂取には注意が必要で、不眠症や神経症、幻覚などの原因となります。
⑨ グルタミン
筋肉に多く存在してタンパク質の合成と分解にかかわるグルタミンは、疲労回復の働きがあり、胃腸の粘膜を保護して病原菌などの侵入を防ぐ免疫作用でも知られます。
豚赤身肉、レバー、海藻、大豆、サトウキビ、卵などに多く含まれます。
⑩ アルギニン
成長ホルモンの合成にかかわるアルギニンには、免疫力向上、筋肉強化、性機能改善といった働きがあります。
筋肉増強のためにボディビルダーなどが栄養補助として使うことで知られますが、成長期の子どもが過剰摂取すると巨人症にかかる危険があります。
小麦胚芽、鶏ムネ肉、ゴマ、大豆、高野豆腐、ナッツ類に多く含まれています。
⑪ プロリン
グルタミン酸から合成されるプロリンは、グリシンとともにコラーゲン合成の主要成分となります。
肌のハリや弾力を保つ以外にも、脂肪の代謝を高める作用があり、ダイエットで注目されているアミノ酸のひとつ。
小麦粉、牛乳、大豆、ゼラチンなどに多く含まれています。
まとめ
必須アミノ酸だけでなく非必須アミノ酸も、タンパク質と深い関係にあることが理解できましたか?
最近、人気が高まっているアミノ酸のサプリは、体内でタンパク質の分解という手間が省けるので、効率がよいのです。
食品やコスメに配合されるアミノ酸には、「L-アスパラギン」のように、頭に「L」や「D」がつけられたものがあります。
これは、構造が左右反対になっているアミノ酸が存在して、一方を「L体」もう片方を「D体」と呼ぶため。
体内のタンパク質を構成するアミノ酸は不思議なことにすべて「L体」で、製造されているアミノ酸のほとんども「L体」なのですが、近年の研究によって「D体」のアミノ酸が生命現象の様々な局面において重要な役割を有することが明らかになってきたので、区別するようになったのです。
【参考資料】
・『今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい アミノ酸の本』 味の素株式会社 編
日本工業新聞社 2017年
・『これは効く!食べて治す 最新栄養成分事典』 主婦の友社 2017年
・AJINOMOTO サイト
・日本理化学薬品株式会社 サイト