カリウムに血圧を下げる効果があることは知っていますか?
カリウムがミネラルの中でも注目されているのは、日本の高齢化が進んで、生活習慣病の代表ともいえる高血圧症の患者が増えているからです。
ですが、もともと日本人は塩分の摂取量が多いので、いつからということではなく、カリウムは日本人にとって重要な栄養素なのです。
さて、高血圧や過剰な塩分に対してカリウムは効果があるということをなんとなく知っていても、どのようにして血圧が下がるのか、過剰な塩分をどうやって緩和するのかといった「しくみ」は理解していないという人が多いのではないでしょうか。
さらにいえば、カリウムがミネラルのひとつだということは知っていても、そもそもミネラルとはどのようなものかということを知っている人は少ないですよね?
ここでは、栄養素の一種であるミネラルや、その中のひとつであるカリウムの基礎知識を理解していただいてから、カリウムが人体にもたらす5つの効果を解説します。
目次
1. ミネラルとカリウムの基礎知識
1-1. 微量栄養素のミネラルとは?
1-2. カリウムの摂取基準
1-3. 細胞内に存在してナトリウムと作用し合うカリウム
1-4. カリウムが多く含まれる食品
1-5. 血液検査でわかるカリウムの血中濃度
1-6. 下剤の乱用やストレスで起こるカリウム欠乏症
1-7. 腎臓が悪いと起こる高カリウム血症
2. カリウムがもたらす5つの効果
2-1. 細胞の浸透圧を維持する
2-2. 体液のpHを調節する
2-3. 血圧の上昇を抑制する
2-4. 神経伝達を正常に保つ
2-5. 筋肉の動きを抑制する
1. ミネラルとカリウムの基礎知識
カリウムが効果を発揮するしくみを理解するために、まず、ミネラルとカリウムについての基礎知識を把握しましょう。
栄養素には、「エネルギーになる」「身体の組織や、体内で必要な物質をつくる」「身体の調子を整える」という3つの大きな働きがあります。
こうした働きのメインとなるのが、三大栄養素の「糖質」「脂質」「タンパク質」。
三大栄養素が体内で働くためには合成や分解といった化学反応が行われ、その総称を「代謝」といいます。
三大栄養素の代謝を促すのが、主に体内でつくり出されるタンパク質の一種である「酵素」で、酵素の働きを助けるのがビタミンやミネラルなどの微量栄養素です。
1-1. 微量栄養素のミネラルとは?
人体を構成する元素は、炭素、水素、酸素、窒素が95%を占めており、この4つの元素を主要元素と呼びます。
栄養素のミネラルは残り5%を構成する元素のことで、16種類の必須ミネラルがあり、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では、13種類の推奨平均必要量、推奨量、目安量、目標量、耐容上限量などが示されています。
体内に比較的多量が存在する「多量ミネラル」5種
・ナトリウム(Na)
・カリウム(K)
・カルシウム(Ca)
・マグネシウム(Mg)
・リン(P)
体内にごくわずかな量が存在する「微量ミネラル」8種
・鉄(Fe)
・亜鉛(Zn)
・銅(Cu)
・マンガン(Mn)
・ヨウ素(I)
・セレン(Se)
・クロム(Cr)
・モリブデン(Mo)
必須ミネラルのうち、ここに示されていない3種は、ビタミンB12の成分であるコバルト、タンパク質の成分である硫黄、データが不十分なフッ素です。
ビタミンは生体に由来する「有機物」であり、体内で合成されるものもありますが、ミネラルは金属や気体などに由来する「無機物」で、体内では合成されないために外部から摂取する必要があり、「無機質」とも呼ばれます。
1-2. カリウムの摂取基準
カリウムは体内に存在する量がもっとも多いミネラルで、成人の体内には体重の約0.2%(1kgあたり約2g)が存在し、その98%は細胞内にあります。
厚生労働省の食事摂取量では、適正とされる目安量と目標量が示されています。
目安量とは一定の栄養状態を維持するのに十分な量で、目安量以上を摂取していれば不足することはない値、目標量とは生活習慣病予防のために、現在の日本人が目標とすべき摂取量。
成人男性のカリウム摂取目安量は、1日に2500mg、目標量は3000 mg以上、成人女性では目安量が2000mg、目標量が2600mg以上となっています。
WHO(世界保健機関)のガイドラインでは、成人の高血圧予防に望ましい摂取量を3510mgとしています。
腎臓の機能が低下している場合や、サプリメントを使用していなければ、通常の食生活で過剰になることはないので、耐容上限量は設定されていません。
1-3. 細胞内に存在してナトリウムと作用し合うカリウム
カリウムは細胞内液に多く含まれており、細胞外液に多く含まれるナトリウムと作用し合って、細胞内の水分量やミネラル量のバランスを調整しています。
このため、カリウムとナトリウムはペアで「ブラザーイオン」と呼ばれるのですが、ミネラルには協働して働くものがいくつかあります。
カルシウムとマグネシウム、亜鉛と銅も作用し合って働くブラザーイオン。
人間の身体は60兆個もの細胞からできており、その細胞のひとつひとつの中にカリウムが、外にはナトリウムがあり、それぞれの量を加減することによって細胞膜の浸透圧を調節しているのです。
ナトリウムは体重の0.01%が存在して、3分の1は骨に、残りの多くは細胞外液に含まれています。
健康であれば、必要以上のカリウムは腎臓や副腎の働きで尿や汗として排出され、相対する量のナトリウムも排出されて、常に比率を2:1に保とうとします。
このバランスキープに欠かせないのが、細胞内液と細胞外液を隔てている細胞膜にある「ナトリウム-カリウムポンプ」と呼ばれる調節機能。
細胞外からカリウムを取り込んだり、細胞内のナトリウムを細胞外へ排出したりして、細胞内外でそれぞれの濃度を一定に保っているのです。
1-4. カリウムが多く含まれる食品
カリウムは幅広い食品に含まれており、そのほとんどにはナトリウムよりもカリウムが多いので、味付けを考えなければ、カリウムが十分摂取できてもナトリウムの摂り過ぎは起こりません。
とくにカリウムが多く含まれるのは、野菜や果実、大豆、イモ類、海藻などで、野菜や果物、納豆などの大豆食品を毎日たべていれば不足する心配はありません。
カリウムを多く含む主な食品(100g中)
・野菜類
ホウレンソウ(690mg)
切り三つ葉(640mg)
枝豆(590mg)
ニラ(510mg)
小松菜(500mg)
・イモ類
里芋(640mg)
ヤマトイモ(590mg)
サツマイモ(480mg)
・果実類
アボカド(720mg)
バナナ(360mg)
メロン(340mg)
・大豆製品
納豆(660mg)
・海藻類(10g中)
刻みコンブ(820mg)
干しヒジキ(640mg)
カリウムはゆでると損失量が多いので、生で食べるか、煮物などは煮汁ごと食べられるよう薄味にするのが効率よく摂取するコツ。
また、カリウムは主に尿で排出されるので、利尿作用が強いコーヒーやお茶、ビールなどを飲み過ぎないこともポイントです。
1-5. 血液検査でわかるカリウムの血中濃度
カリウムは通常の食生活で不足することはあまりなく、過剰になっても汗や尿で排出されてしまいますから、サプリで摂取する必要がある人はあまりいません。
過不足は、血液検査の結果から判断します。
血液検査では、「電解質」という欄の中にある「Na(ナトリウム)」と「K(カリウム)」の値からそれぞれの血中濃度を知ることができます。
電解質とは水に溶けて電気を通すミネラルのことで、これが「イオン」とも呼ばれるもの。
ナトリウムやカリウムは、水中では+の電気を帯びた状態で存在するので、「ナトリウムイオン(Na+)」や「カリウムイオン(K+)」と呼ばれます。
カリウムの正常な血中濃度は、3.5~5.0mEq/L(1リットル中に溶けている電解質の量)で、それより低下すると「カリウム欠乏症」、5.5mEq/L以上になると「高カリウム血症」と診断されます。
体内のカリウムは98%が細胞内に存在し、血液中に存在するのは2%しかありませんが、血中カリウム濃度は全身におけるカリウムの効果を判断する基準になるので、重要な値なのです。
1-6. 下剤の乱用やストレスで起こるカリウム欠乏症
カリウムが不足する原因には、塩分の大量摂取、大量の汗をかくこと、下剤や利尿剤の常用、ストレスなどがあげられます。
加工品など塩分が多いものを食べすぎると、ナトリウムに対するカリウムの量が不足してしまい、夏場に大量の汗をかくことや、下剤、利尿剤の常用では、多くのカリウムが体外に出ていってしまいます。
ストレスは、交感神経を刺激するので自律神経がバランスを崩し、電解質バランスが崩れる原因に。
カリウム欠乏症になると高血圧をはじめとして、脱水症状、食欲不振、悪心、嘔吐、筋力低下、不整脈といった症状が現れ、さらに悪化すると四肢麻痺、自律神経失調症、呼吸器麻痺といった重度の障害に至ります。
軽度の治療には内服薬を使用し、重度になると点滴によって血中のカリウムを補充します。
1-7. 腎臓が悪いと起こる高カリウム血症
カリウムを多く摂取しても尿とともに排出されてしまうのは、腎臓が正常に働いているからです。
腎不全など腎臓の病気や機能障害がある場合には、摂り過ぎたカリウムが正常に排出されなくなって体内に蓄積し、高カリウム血症を起こします。
サプリの使用が原因になることも。
高カリウム血症になると、嘔吐や悪心といった胃腸障害、脱力感や知覚過敏といった筋肉、神経の症状、不整脈などが現れます。
血中濃度が7.0mEq/Lを超えると、心臓の機能障害を突然起こすこともあるので危険。
サプリを使用している場合にはすぐにやめて、野菜や果物を食べる量も減らす必要があります。
腎臓の機能低下がみられると、カリウム制限の食事療法を行うことになりますが、医師の指導のもとで行うことが大事です。
2. カリウムがもたらす5つの効果
ここからは、カリウムが人体にもたらす効果を解説しましょう。
食べた物で摂取されたカリウムは、小腸で吸収されて血液で全身に運ばれます。
腎臓では、過剰なカリウムを排出すると同時に、再吸収して血中濃度を調節しています。
2-1. 細胞の浸透圧を維持する
まずひとつめの効果として、ナトリウムと作用し合いながら細胞内外の浸透圧を調節して、体内の水分調整を行う働きがあります。
浸透圧とは、濃度の低い液体が濃度の高い液体へと移動する圧力で、この効果をもたらしているのが、細胞壁の「ナトリウム-カリウムポンプ」。
細胞内でカリウムが不足してナトリウムとのバランスがとれなくなると、ナトリウムの濃度を下げようとして血管内に水分を取り込みます。
すると、血管が膨らむので全身のいろいろな組織にも水分が増えることになり、むくみの原因になりますから、美容においてもナトリウム-カリウムポンプの効果は大きな意味をもっているのです。
2-2. 体液のpHを調節する
人間の身体は約60%が水分で、その液体は弱アルカリ性に保たれています。
「pH(ペーハー)」は酸とアルカリの状態を示す値で、血液のpHは7.4程度。
pH7.0が中性で、それより低いと酸性、高いとアルカリ性であることを表します。
この状態を保っているのは。肺で行う呼吸と、腎臓が行う排泄です。
激しい運動をするとエネルギー代謝によって生じた二酸化炭素が溜まり、血液が酸性に傾いてしまうので、肺は呼吸を早くして多くの酸素を取り込もうとします。
腎臓は、酸性の食品をたくさん食べて血液が酸性の傾くと酸を排出し、アルカリ食品をたくさん食べてアルカリ性に傾くとアルカリを排出することによって、血液のpHを一定に保っています。
この腎臓の働きに大きくかかわっているのがカリウム。
腎臓の機能が低下すると酸の排出ができなくなるので、血液は酸性にかたむき、細胞内からカリウムが血液に放出され、これが高カリウム血症の状態です。
血液のpHが低下すると、血中のカリウム濃度が上昇して弱酸性を保とうとし、逆にpHが上昇すると血中のカリウム濃度が低下する低カリウム血症の状態に近づいて、弱酸性を保とうとするのです。
2-3. 血圧の上昇を抑制する
血中のナトリウム濃度が高くなると、血液中に水分を取り込もうとするので、血圧が高くなります。
この状態を抑制しているのが、ナトリウムとのバランスをとろうとするカリウム。
カリウムは血圧が上がるとナトリウムを排出して、血圧を正常に保とうとします。
また、体内の不要なカリウムは尿や汗の中に排出されますが、このときには相対する量のナトリウムも排出してバランスを調節します。
生活習慣病の代表格ともいえる高血圧症は、塩分の摂取量が多い日本人にとって、とくに気をつけなければいけない病気。
高齢になれば誰でも血管のしなやかさが失われていくので、高血圧が多くなります。
高血圧を予防することは、脳卒中や冠動脈疾患の予防にもつながります。
和食は健康食と考えられていますが、塩分過多が問題となるので、日本人は減塩とともに高カリウム食品の摂取を心がけることが大事なのです。
2-4. 神経伝達を正常に保つ
脳や脊髄のように神経細胞がたくさん集まっている部位を中枢神経と呼び、中枢神経から全身の隅々まで伸びている神経が末梢神経。
こうした神経系の情報伝達は、神経細胞(ニューロン)から神経細胞へと電気信号が伝わることによって行われています。
神経細胞と神経細胞の間には「シナプス」と呼ばれる小さなすき間があり、シナプスの前方から放出された神経伝達物質がシナプス後方の神経細胞に受け取られることよって、電気信号が伝わります。
神経伝達物質を受け取った神経細胞では、細胞内に存在するイオンの濃度が変化することで、化学反応を起こして信号を細胞内に伝えます。
ここで濃度の濃い方から薄い方へと流れ込んで重要な役割を果たしているのが、カリウムイオンとナトリウムイオン。
簡単にいうと、カリウムとナトリウムが細胞膜を出たり入ったりすることで、電気信号が発生しているのです。
2-5. 筋肉の動きを抑制する
カリウムイオンとナトリウムイオンが起こす電気信号には、全身の筋肉を収縮させたり弛緩させたりする役割もあります。
ですから不足すれば筋肉が正常に収縮できなくなり、筋肉のけいれんや運動能力の低下を引き起こすのです。
血液を全身に送り出す心臓の拍動も、酸素を体内に摂り入れる肺の呼吸も、筋肉が収縮することによって成り立っていますから、低カリウム欠乏症が深刻な状況になると、呼吸困難や心臓の異常を引き起こす可能性もあります。
筋肉疲労や熱中症対策としてスポーツドリンクが用いられるのは、電解質のバランスを改善するため。
汗で排出されるイオンと同様の、ナトリウムやカリウム、マグネシウムなどを水分補給と同時に補うことができます。
まとめ
カリウムがもたらす効果は、ブラザーイオンであるナトリウムとのバランスによって生まれることがおわかりいただけましたね。
カリウムはミネラルの中でも過不足が起きにくい物質ですが、ここで解説した要因などで過不足が起きてしまうと、ナトリウムとのバランスが崩れて重大な影響を及ぼします。
カリウムは野菜や果実類ばかりでなく、あっさり系の肉や魚にも含まれています。
やはり、体内のナトリウム-カリウムポンプに異常をきたさないためにも、幅広くいろいろなものを食べる食生活を心がけたいものですね。
【参考資料】
・『もっとキレイに、ずーっと健康 栄養素図鑑と食べ方テク』 中村丁次 監修 朝日新聞出版社 2017年
・『かしこく摂って健康になる くらしに役立つ栄養学』 新出真理 監修 ナツメ社 2018年
・『サプリメント・機能性食品の科学』 近藤和雄、佐竹元吉 著 日刊工業新聞社 2014年
・『医師が教える「あなたのサプリが効かない理由」』 宮澤賢史 著 イースト・プレス 2018年