老化はいつからはじまるものか、知っていますか?
40歳、もしくは40代後半からと思っている人が多いのではないでしょうか。
臓器や部位によって差があり、個人差もあるものの、学術的には20~30歳から老化ははじまるものとされています。
20代から老化がはじまっているのなら、早めに対処したいですよね。
そもそも「老化」とはどういう意味の言葉なのか、その概念を最初に説明しておきましょう。
「老化(英語では“senescence”)」とは、「成熟期を過ぎてから加齢とともに各臓器の機能や臓器のネットワーク機能が低下して、身体の恒常性を維持することができなくなり、ついには死に至る過程」を意味します。
恒常性とは、生体の状態を一定に保とうとする性質のことです。
老化の類語として「加齢」という言葉がありますよね。
「加齢」は、生後から身体に起こるすべての過程をさすのですが、英語ではどちらも“aging”で表すことが多くなっています。
老化には、「生理的老化」と「病的老化」という概念があります。
生理的老化は、多かれ少なかれ誰にでも起こる、加齢にともなう生理的な機能低下をさし、病的老化は、老化の過程が加速されることによって高血圧や動脈硬化、骨粗しょう症、認知症などの症状を引き起こすもので、誰にでも起こるものではありません。
老化自体は病気ではありませんが、多くの人は生理的老化と病的老化が同時進行しており、病気にかかるリスクが高くなっていきます。
ここでは、「筋肉」「骨」「肌」「目」「耳」という老化によって変化が現れやすい5つの部位について、主な原因と予防法を解説します。
老化を止めることはできませんが、進行を遅らせて健康な状態を維持することは可能。
年のせいだとあきらめないで、若々しさを維持する努力をしてみませんか?
目次
1. 筋肉が老化するメカニズム
1-1. 原因は筋繊維の減少
1-2. タンパク質の摂取と運動で予防
2. 骨が老化するメカニズム
2-1. 原因はコラーゲンの減少と糖化
2-2. ミネラル、ビタミン、タンパク質で予防
3. 肌が老化するメカニズム
3-1. 原因は代謝の低下と紫外線
3-2. 正しいスキンケアで予防
4. 目が老化するメカニズム
4-1. 原因は水晶体の濁りと毛細血管の異常
4-2. 紫外線対策と禁煙で予防
5. 耳が老化するメカニズム
5-1. 難聴の原因は3種類
5-2. 耳にやさしい生活で予防
まとめ
1. 筋肉が老化するメカニズム
加齢による筋力の低下は「サルコペニア」と呼ばれ、転倒や歩行困難などのリスクが高まって生活に支障をきたしやすくなります。
筋肉がもっとも減少する部位とされる脚(下肢)の場合、男性も女性も20歳くらいをピークとしてゆるやかに減少をはじめ、減少率の大きい男性は60歳から90歳の30年間に28%も筋肉が減少するといわれます。
転びやすくなった、手に力が入らなくなったという症状が出てきたら要注意。
筋肉の減少が目立ち始める40代からは、日々の対処をはじめたいですね。
1-1. 原因は筋繊維の減少
筋肉は、筋細胞からできたたくさんの筋繊維の束でできています。
筋繊維の束が「筋束」で、筋束が集まったものが「筋」。
全身の細胞と同様に筋繊維も再生と分解を繰り返しながら新陳代謝を行っています。
運動などで筋肉がダメージを受けると、筋繊維の周囲に存在する「筋幹細胞」が増殖して筋繊維を再生するのです。
この筋繊維の再生システムは、加齢とともに効率が落ちていき、高齢になると再生よりも分解のほうが勝ってしまい、そうなると筋肉が減少していくのです。
若い頃には筋幹細胞が活発なので、運動をしても筋肉はすぐに回復するわけです。
1-2. タンパク質の摂取と運動で予防
筋繊維の減少を防いで筋力を維持するためには、良質なタンパク質を毎日摂ることと、筋トレや軽い有酸素運動を習慣化するのが効果的。
タンパク質はすべて体内でアミノ酸に分解され、全身に運ばれると各部位で必要とされるタンパク質に再合成されます。
そのバリエーションは10万種類ともいわれ、人間のDNAはすべての設計図をもっているのです。
筋肉を構成する筋繊維や筋幹細胞もタンパク質が材料。
ですから、良質なタンパク質が得られるいろいろな肉類を積極的にとるようにしましょう。
筋肉は30分間動かさないと固まりだすといわれています。
動かさないと筋力は落ちていき、動かすことによって再生と分解が活性化されるのです。
筋肉の減少予防に効果的な運動は、活性酸素を増やしすぎない軽めの有酸素運動と、筋肉に負荷をかけて行うレジスタンス運動(筋トレ)。
自分の体力や身体機能に合わせて、バランスよく習慣化しましょう。
2. 骨が老化するメカニズム
骨は、身体を支えて姿勢を維持したり、脳や内臓を守ったりする役割で知られますが、さらに重要な役割が2つあります。
ひとつは血液をつくること。
骨の中心部にある骨髄では赤血球、白血球、血小板がつくられています。
骨髄がしっかりしていなければ、全身の細胞は生きていくことができなくなるのです。
次に、カルシウムを貯蔵すること。
体内のカルシウムは99%が骨や歯に貯蔵されており、血液中のカルシウム濃度を一定に保って筋肉の収縮や血液の凝固を維持しています。
骨の老化として知られる「骨粗しょう症」は、骨の中がスカスカになってこれらの機能がしっかりと働かなくなるもの。
知らない間に進行していることが多いので、できるだけ早いうちからの予防が肝心ですね。
2-1. 原因はコラーゲンの減少と糖化
骨は、タンパク質の繊維である「コラーゲン」がネットワーク状に広がって文字通り骨組みとなり、そのすき間をカルシウムとハイドロキシアパタイト(主にエナメル質)という物質が埋めています。
建築物にたとえると、鉄筋とコンクリートのような関係ですね。
コラーゲンは肌の弾力を保つ物質として知られますが、実は骨の質を決める最重要物質。
「骨密度」はカルシウムの量で決まりますが、「骨質」はコラーゲンの量で決まります。
骨の老化はコラーゲンの減少が大きな原因であり、加齢によって減少したり、体内で過剰になった糖質とタンパク質が結合することによってできる有害物質による「糖化」で劣化が進行します。
カルシウム不足だけを補っていても、骨の老化は予防できません。
2-2. ミネラル、ビタミン、タンパク質で予防
コラーゲンの状態を維持するためには、糖質の摂取を抑えることと、ビタミンやミネラルをバランスよく摂ることが大切。
カルシウムが働くために必要なマグネシウム、血液中のカルシウムを一定に保つ作用があるビタミンD、骨の形成を促進するビタミンK、骨密度を高めるビタミンCなどが、とくに重要な成分です。
スキンケアでは常識となっていますが、コラーゲンを口から摂取しても、そのまま骨や肌のコラーゲンになることはありません。
コラーゲンであろうが、体内に入ればタンパク質はすべてアミノ酸に分解されるので、「コラーゲンたっぷりな食事をしたら肌がプルプル」などというのは、ただの幻想にすぎないのです。
コラーゲンを減らさない方法は、良質なタンパク質を十分に摂取することです。
3. 肌が老化するメカニズム
肌の老化は、シミ、シワ、たるみといった症状で現れます。
人間の皮膚は外側から、主に保湿と外界からのガードを受け持つ「表皮」、肌のハリや弾力を維持する「真皮」、皮下脂肪がクッションになって外部からの衝撃をやわらげる「皮下組織」という3層構造になっています。
厚さ0.2mm程度の表皮では、細胞分裂を繰り返して新しい表皮細胞が次々に生まれ、後から生まれた細胞に押されて古い細胞が外側に出ていきます。
もっとも外側の「角層」は、0.02mm程度しかありませんが、押しつぶされて薄くなった表皮細胞が死んで何層もの「角質」となって固まり、体内から蒸発する水分をつなぎとめて肌のうるおいを保ち、細菌やウィルスが外界から侵入することをガードしています。
シミのほとんどは、加齢による新陳代謝の低下により、はがれていくはずの角質が溜まってしまい、日焼けによる色素沈着が残ったもの。
角質が溜まるとニキビなどの肌トラブルを起こす原因になりますが、高齢者に多くなるイボはウィルスの感染によるものです。
真皮は骨と同じようにコラーゲンが骨組みとなり、その接合部を同じくタンパク質の繊維であるエラスチンが補強し、すき間をゼリー状のヒアルロン酸がうめて弾力を保っています。
骨と同じようにコラーゲンが減少したり劣化したりして、シワやたるみの原因となります。
3-1. 原因は代謝の低下と紫外線
表皮で新しい細胞が生まれ、やがて角質としてはがれていく新陳代謝は「ターンオーバー」と呼ばれます。
若い頃は4週間程度のサイクルですが、加齢とともに長くなり、高齢になると倍くらいの長さになることも。
こうなると古い角質がいつまでも残ってしまい、保湿機能やガード機能が低下、色素沈着だけでなく、うるおい不足が進行してしまいます。
また、角層はラップ1枚程度の厚さしかないので、強くこすったり、刺激物が残ることで簡単に破壊されてしまいます。
肌の老化は、その80%が紫外線を浴びることに原因があるといわれます。
紫外線には真皮まで達する光線もあり、日焼けによるシミだけでなく、コラーゲンを劣化させる大きな要因になっているのです。
3-2. 正しいスキンケアで予防
こうした肌の老化を予防するためには、科学的根拠に基づいた正しいスキンケアが欠かせません。
とくに老化に対するケアは「エイジングケア」と呼ばれ、専用のアイテムも多く販売されています。
スキンケアにかんしては専門の記事がいくつもありますので、参照してください。
表皮の老化予防は、保湿物質である「セラミド」をしっかり補給すること、真皮の老化予防は紫外線対策と良質なタンパク質の摂取がポイントになります。
4. 目が老化するメカニズム
目の老化といえば、誰でも思い浮かぶのが「老眼」ですよね。
近くのものに焦点が合いにくくなる老眼は、レンズの役割をはたしている水晶体が加齢とともに硬くなって調節がうまくできなくなる症状で、多くの人に40歳頃から現れます。
老眼はとくに進行しやすい人というものがなくて、メガネをかけて矯正する以外に進行を遅らせる方法がありません。
ここでは目がかすむ、光がまぶしいといった症状をともなう「白内障」と、物がゆがんで見える「加齢黄斑変性」について解説します。
4-1. 原因は水晶体の濁りと毛細血管の異常
通常、水晶体は透明なので、外部から眼に入った光は遮られることなくレンズの効果で屈折して網膜まで届きます。
ところが、水晶体が濁ってしまうと外部からの光は散乱したり遮断されたりして屈折率が変わり、うまく網膜上に焦点をわせることができなくなってしまい、物が見えづらくなるのです。
水晶体は3分の2が水分、3分の1がタンパク質と微量の塩分からできており、このタンパク質が酸化などによって変性してしまうことが、白く濁る白内障の原因。
日本人の白内障の9割以上は加齢によるものだといわれています。
眼球の奥にある網膜上で目に入った光が焦点を結ぶ、直径6mm程度の部分が「黄斑」と呼ばれ、視細胞が集まって物の形や大きさ、色などを識別しています。
この黄斑部で毛細血管が出血したり、視細胞が委縮したりして、視野の中心部が暗くなる、中心部がゆがんで見えるという症状を起こすのが加齢黄斑変性。
50歳以上で発症のリスクが高まり、日本人には少なかったのですが食生活の変化などが影響し、近年は増えてきています。
4-2. 紫外線対策と禁煙で予防
白内障の予防で大切なのは、早くから水晶体を大切にする生活。
もっとも影響を与えるのが紫外線です。
目を紫外線から守るアイテムとして知られるサングラスは、選び方に気をつけなければいけません。
重要なのは「UVカット」効果。
色の濃いグラスを使うと暗くなって瞳孔が開きますが、その状態でUVカット効果の低いサングラスを使用するのは大変危険です。
加齢黄斑変性も紫外線対策が重要であり、肥満や高脂肪食がリスクを高めるので食生活の見直しも大事。
抗酸化成分も進行を抑える効果が望めます。
また、ニコチンは毛細血管出血の原因をつくるので、禁煙が必須です。
5. 耳が老化するメカニズム
耳は外側から、耳たぶから外耳道という穴までの「外耳」、鼓膜や耳小骨がある「中耳」、三半規管や蝸牛がある「内耳」という3つの部分で構成されています。
空気の振動が外耳道を通って鼓膜を振動させると、その振動は耳小骨を通じて音波を感知する蝸牛へと伝わり、ここで音の振動が電気信号に変換されて脳に伝わり、音として認識されます。
聴力は加齢によって徐々に低下していき、70歳から急速に進行、生活に支障をきたす場合は「難聴」と呼ばれます。
5-1. 難聴の原因は3種類
難聴は、原因の違いで3種類に分類されています。
① 伝音難聴
外耳や中耳に障害がある難聴。
② 感音難聴
蝸牛がある内耳や脳に障害がある難聴。
③ 混合性難聴
伝音難聴と感音難聴が合併した難聴
感音難聴は先天性の場合もありますが、加齢によるものは「加齢性難聴」と呼ばれ、日常生活において危険察知能力の低下やコミュニケーション障害の原因となり、自信喪失やうつ、認知症のリスクを高めてしまいます。
5-2. 耳にやさしい生活で予防
高齢になると誰でも加齢性難聴になるリスクが高まります。
とくに注意が必要なのは、音の大きな環境で仕事をしている人や、イヤホンなどで大音量に慣れてしまっている人。
難聴の予防は、耳にやさしい生活を心がけるしかありません。
騒音をともなう仕事をしている人は耳栓を常用して、休憩時間は静かな場所へ行くようにしましょう。
通勤や通学でイヤホンを使う人が増えていますが、これも難聴のリスクを高めてしまいます。
騒音がある電車やバスの中で音楽を聴こうとすると、かなりボリュームを上げることになりますよね。
とくにカナル型と呼ばれる密閉タイプは、空気の振動がダイレクトに鼓膜へと届くので要注意。
音量には注意しなければいけませんが、できるだけイヤホンやヘッドホンの使用を避けることが耳の老化予防につながります。
まとめ
太陽光線に含まれる紫外線は、肌や目だけでなく、全身の老化を進行させる要因とされ、近年は老若男女を問わず紫外線対策の重要性が提言されています。
紫外線を浴びると、老化の大きな原因である活性酸素が皮膚で大量に発生するのです。
もちろん食生活や運動や睡眠といった生活習慣の見直しで老化を予防することは大切ですが、紫外線と活性酸素という二大老化要素に対処することが、10年後20年後の健康につながることは間違いありません。
外出するときは帽子をかぶる、日傘を活用する、肌を露出しない、スキンケアをしっかり行うという基本的な紫外線対策を習慣化し、活性酸素を除去してくれる抗酸化成分を積極的にとる食習慣を身につけたいものです。
【参考資料】
・『老化と老年病 予防・治療・医療的配慮の基礎』 秋下雅弘 著 東京大学出版会 2020年
・『NHK きょうの健康 筋肉・肌・目・耳の“若返り”健康法』 飯島勝矢、森田明理、高橋寛二、奥野妙子 監修 主婦と生活社 2019年