ダイエットのために有酸素運動をはじめたという人は多いですよね?
ところが最近の医学や栄養学では、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動が、ダイエットには向いていないことが指摘されています。
ウォーキングを毎日やっていたのに、思うほどの結果が得られなかったという人が多いのではないでしょうか。
ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動と、筋トレなどの無酸素運動のどちらが痩せるかということがよく議論になりますが、それぞれの運動がもたらす効果や特徴を正しく理解している人は少ないはずです。
「有酸素運動とはどんな運動ですか?」と聞かれても、普通はせいぜい「酸素を体内に摂り入れながら行う激しくない運動」ということくらいしか知識をもっていませんよね。
ここでは、有酸素運動とはどのような運動なのかということを理解するために、最新の医学や栄養学で実証された12の知識を解説していきます。
きっと、あなたがダイエットできなかった理由も見つかるはずです。
目次
① 中性脂肪になるのは糖質と脂質
② 脂肪をエネルギーにする有酸素運動
③ 糖質をエネルギーにする無酸素運動
④ 脂肪が燃焼しやすい身体をつくる筋トレ
⑤ 意外と痩せない有酸素運動
⑥ 生活習慣病予防は食事80%と運動20%
⑦ 目安は息がはずんでも息が切れないこと
⑧ 血圧を下げる一酸化窒素が増える
⑨ 歩数だけで考えてはいけないウォーキング
⑩ やりすぎは心臓によくないジョギング
⑪ 筋トレ効果が高いサイクリング
⑫ テンポが重要なリズム体操
有酸素運動とは何かがわかる12の真実
① 中性脂肪になるのは糖質と脂質
有酸素運動の話に入るまえに、運動のエネルギーとなる三大栄養素の代謝について簡単に解説しておきましょう。
栄養素には、「エネルギーになる」「身体の組織や、体内で必要な物質をつくる」「身体の機能を調節する」という主な働きがあり、そのために行われる合成や分解といった化学変化を「代謝」と呼びます。
「糖質」「脂質」「タンパク質」の三大栄養素は、どれも体内でエネルギーになり、糖質とタンパク質は1gにつき4kcal、脂質は1gにつき9kcalの熱量を生み出します。
糖質は、血液中の糖の量(血糖)を調節する働きがあり、肝臓と筋肉に2500kcalほどが貯蔵されて、余ったものは肝臓で中性脂肪に合成されて血液中に放出され、それが内臓脂肪や皮下脂肪などの体脂肪として蓄積されます。
注目すべきは、たった2500kcalという貯蔵量。
これは成人男性の1日のカロリー摂取量とはぼ同じ量です。
脂質には、細胞膜の材料となり、脂溶性ビタミンを働かせるという重要な役割もありますが、なんといっても、約14万kcalという豊富な全身の貯蔵量と高い熱量が特徴。
余った脂質はやはり中脂脂肪となって血液中に放出され、体脂肪として蓄積します。
脂質は小腸で吸収されずに体外へと排出されるものもありますが。糖質は排出されません。
タンパク質がエネルギーになるのは、糖質と脂質が吸収される小腸壁などのごく限られた場合だけで、アミノ酸に分解されて全身の細胞や、ホルモン、酵素などの材料になるという重要な役割があります。
中性脂肪や体脂肪は、「脂肪」という名がつくことから、摂取した脂質が原因で増えると思っている人が多いのですが、主な原因は貯蔵量の少ない糖質の過剰摂取。
とくに白米をよく食べる日本人の食習慣は、糖質過多になりやすいのです。
② 脂肪をエネルギーにする有酸素運動
有酸素運動は、人体のメインエネルギーである脂肪を燃やす運動。
あまり激しくない運動を長時間続けることで、酸素を使って脂肪を燃焼させ、活性酸素を発生させます。
エネルギーに使われる脂肪は豊富な貯蔵量があるので、有酸素運動は長い時間にわたって続けることが可能です。
しかし、そのためには肺の呼吸によって十分な酸素を取り込まなければいけないので、呼吸法が重要となり、さらに続ければ続けるほど体内で活性酸素が増えるという問題点があります。
なぜ問題かというと、活性酸素は強力な酸化パワーをもっていて細菌やウィルスを殺す免疫力の要となっているのですが、過剰になると正常な細胞や脂質を酸化させてしまうので、老化の原因となり、酸化コレステロールを増やして動脈硬化の原因や、DNAを傷つけてがんの原因にもなるのです。
また最新医学では、疲労の原因が、筋肉に乳酸が溜まることではなくて、脳の自律神経中枢域に活性酸素が過剰になると発生する疲労感であることが指摘されています。
有酸素運動は、脂肪を燃焼させることができる一方で、大量発生する活性酸素を除去するために抗酸化成分を摂取する必要があるのです。
③ 糖質をエネルギーにする無酸素運動
有酸素運動を理解するために、無酸素運動の解説も簡単にしておきましょう。
筋トレや短距離走などの瞬発力を必要とする運動は、脂質ではなくて糖質をエネルギーとします。
糖質の燃焼には酸素が必要ないので無酸素運動と呼ばれ、乳酸を発生させるという特徴があります。
糖質は、脂質の半分以下の熱量しかありませんが、燃えやすいのが特徴で、なかなか燃え出さないけど火がつけば安定して高エネルギーを生み出す脂質とは対照的な性質をもっています。
糖質は貯蔵量が少ないので、無酸素運動は短時間しか続けることができません。
無酸素運動で生み出される乳酸は、かつては疲労物質と考えられていました。
そして、ブドウ糖だけが、唯一脳のエネルギーになる物質だと考えられてきたのです。
ところが、貯蔵量の少ない糖質がなくなると、肝臓で乳酸と中性脂肪が合成されて糖を生み出す「糖新生」というシステムがあり、それでも足りなくなるとアミノ酸を原料としてケトン体という物質が合成され、これが脳や筋肉のエネルギー源になることがわかったのです。
ケトン体も血液を酸性にするので、乳酸と同じように悪いモノとされてきたのですが、糖質にかわるエネルギーとして注目されるようになり、無酸素運動のあり方も見直されることになりました。
④ 脂肪が燃焼しやすい身体をつくる筋トレ
代表的な無酸素運動として広まっているのが、ジムなどでトレーナーの指導を受けながら行う筋トレです。
筋トレは無酸素運動ですから長時間続けることはできませんし、トレーニング終了後も数日にわたって脂肪燃焼の効率をよくするアフターバーンという現象があるので、週に2日で効果が出るという時短メリットがあります。
筋トレを行うことによって、すぐに体重を落とすことはできません。
筋肉量が増えることで、かえって体重が増える時期もあります。
筋トレの目的は、基礎代謝を活発にすることです。
基礎代謝とは、運動など何もしていなくても、心拍や呼吸といった無意識に行っている生命維持活動によるエネルギー消費を意味します。
驚くことに、基礎代謝で使われるエネルギーは、総エネルギーの70%にも及び、運動代謝や生活代謝と呼ばれる、意識的に身体を動かすことによる代謝は30%しかありません。
ですから基礎代謝が活発になれば、運動などしていない通常時に消費するエネルギー量を大きく増やすことができるわけです。
筋トレは、効率よく筋肉量を増やして基礎代謝を活発にし、脂肪が燃焼しやすい身体をつくるのが目的ですから、効果が出るまでにはある程度の時間がかかり、継続することが不可欠となります。
⑤ 意外と痩せない有酸素運動
有酸素運動のメリットは、誰にでも簡単にできること、運動量を調節しやすいことです。
体重60kgの人がウォーキングを30分間行うと消費するエネルギー量は90kcal。
時速8kmで30分間のランニングを行ったときに消費するエネルギー量は261kcalで、これは大人用の茶碗1杯分のごはんに相当するエネルギー量です。
このランニングで1日に減る脂肪の量は約30g、これを毎日1カ月続けても1kgも脂肪は減らない計算になるのです。
ランニングを1カ月続けてたった1kgの減量とは、少ないと思いませんか?
減量目的で有酸素運動を行うのは、効率的ではないのです。
ただし、この有酸素運動を続けることによって、心肺機能が向上して体脂肪がつきにくくなっていることは間違いありません。
あまり体重は減らなくても、脂肪が増えにくくなるということですね。
⑥ 生活習慣病予防は食事80%と運動20%
体脂肪の中でも内臓脂肪を減らすことは、生活習慣病の予防に大きな効果をもたらします。
肥満は諸悪の根源といわれていますよね。
生活習慣病の予防には、生活習慣の見直しが必要で、その核となるのが、「バランスのよい食生活」と「適度な運動」です。
太る原因は、簡単にいうと消費するカロリーよりも摂取するカロリーが多いから。
ですから有酸素運動でカロリーを摂取すると同時に、摂取するカロリーを減らすことが重要なのです。
先に説明したように簡単にできる有酸素運動は、脂肪を蓄積しにくくしたり、いろいろな身体機能を高めたりすることはできても、カロリー消費量は多くありません。
ダイエットの効果を出すのは食事が80%、運動が20%といわれるほど、入ってくるカロリーを抑えることが大事なのです。
しかし、糖質の摂取量を減らしても、全身の細胞をつくるタンパク質や細胞膜の材料となる脂質、さらに三大栄養素の代謝を助けるビタミンやミネラルを減らしてはいけません。
高タンパク低カロリーの食事と有酸素運動は、組み合わせて考えなければいけないということです。
⑦ 目安は息がはずんでも息が切れないこと
よくいわれる「適度な運動」とは、どの程度の運動なのでしょうか。
厚生労働省では、生活習慣病の予防と改善を目的として、「息がはずむ程度の運動を30分間、週に5日以上行う」「1日の歩数を3000歩増やす、これはおおむね30分の歩行に相当する」といういずれかの方法で、有酸素運動を実施するようすすめています。
ウォーキングでもジョギングでも、はじめると、すぐに脂肪は燃焼しないので、まず糖質がエネルギーとして使われることになります。
ですから、かつては有酸素運動は20分以上続けなければ脂肪が燃焼をはじめないので効果が出ないといわれていました。
しかし、あるときを境にしてエネルギー源が糖質から脂質にスパッと切り替わるわけではありませんし、そもそも基礎代謝で相当な量の脂肪を燃焼させているのです。
現在では、5分であろうが10分であろうが、有酸素運動の効果は認められており、こま切れで行ったとしても合計時間が重要だとされています。
そして、もうひとつ大事なことが活性酸素を増やしすぎないように、息が切れない程度の運動量に抑えること。
うっすら汗をかいて息がはずむくらいの有酸素運動を、息が切れないように行うのがポイントです。
⑧ 血圧を下げる一酸化窒素が増える
有酸素運動には高血圧を改善する効果が認められています。
動脈の内側を覆っている内皮細胞には、血管の壁を支えるだけでなくいろいろな物質を分泌する働きがあるのですが、そのひとつである一酸化窒素は、血管を広げて血圧を下げる作用をもっています。
一酸化窒素の分泌量が減ったり、働きが低下したりすると血管が広がりにくくなってしなやかさを失い、血圧が上昇するのです。
有酸素運動には、この一酸化窒素を増やす効果があることがわかったのです。
しかし、効果が出るまでには、最低でも2週間くらい続けることが必要。
日本高血圧学会からは、1日に30分以上の有酸素運動を2週間続けた場合、平均で上の血圧が7.4mmHg、下の血圧が5.8mmHg下がるという報告があります。
⑨ 歩数だけで考えてはいけないウォーキング
ここからは、代表的な有酸素運動について、最近のスポーツ医学で指摘されているポイントを中心に解説します。
厚生労働省はウォーキングの目標を1日に7000歩から1万歩としていますが、運動量を決めるのは歩数だけでなく、歩く速さも影響します。
また、人それぞれ身体のコンディションが違い、初心者と慣れている人でも適した歩き方が異なってきます。
最近のスポーツ医学では、3000歩から1万歩の間で時間を調節し、歩く速さは自分なりの「速い」「普通」「ゆっくり」という3段階のスピードを設定することをすすめています。
元気なときは、90分のウォーキングで1万歩を目指すのもいいでしょうし、持病があったり辛く感じる人は30分でもOK。
さらにいえば、10分を3回に分けてもいいのです。
心拍数が急に上がる、不整脈があるという人は3000歩にこだわる必要もありません。
ウォーキングが辛く感じたら、ダンスやエクササイズといったほかの有酸素運動をしてもいいのです。
ウォーキングを行う時間帯は大切で、朝起きてから1~2時間後と、夕方から夕食どきにかけては血圧が上がるので、この時間帯は避けるようにします。
空腹のまま運動すると心臓に負担がかかりますから、早朝のウォーキングは危険です。
⑩ やりすぎは心臓によくないジョギング
ウォーキングに次いで人気のある有酸素運動がスローランニング、いわゆるジョギングです。
国立健康・栄養研究所は、時速6.4km以上で走るのをランニング、それ以下をジョギングと設定しています。
一般的にはしゃべりながら走れるくらいの速さがジョギングで、エネルギー消費量はウォーキングの1.5~2倍。
すべての運動にいえることですが、楽しみながらやらなければ逆効果になる場合もあります。
ですから、走るのが楽しくない人はムリにジョギングやランニングをせずに、ウォーキングで運動量を増やしてもいいのです。
フォームなどをあまり気にしすぎる必要はありませんが、正しいフォームで行うとケガのリスクを減らせるというメリットがあります。
専門家から正しい走り方を教わることも、ジョギングを楽しむコツだといえますね。
気をつけなければいけないのは、楽しくなってやり過ぎること。
ジョギングが楽しくなってマラソンまで挑戦する人もいますが、マラソンには心臓の筋肉が伸びて拡張する「スポーツ心臓」になってしまうリスクがありますから、有酸素運動としてはほどほどにしておくのが安心で、大会などに参加したときでも、体調が悪いときはリタイヤする勇気が大切です。
⑪ 筋トレ効果が高いサイクリング
サイクリングは、ほとんどの人が子どもの頃から乗っている、自転車という乗り物を楽しみながらできる有酸素運動。
最近、人気が高まっているロードバイクやクロスバイクは、初心者が乗りやすいものからオリンピックレベルのものまで、技量に応じて楽しめるようになっています。
サイクリングは、平地ばかりではなく坂道も走り、ダッシュに近い走りをする場合もあるので、無酸素運動である筋トレ効果も高いという特徴があります。
楽しむ人が増えた一方で問題となっているのは、公道を走るマナーと技能不足。
歩道を走る、イヤホンをしながら走る、信号を守らないといったマナー無視は事故につながりますし、自分が乗る自転車に応じた技能を身につけなければ、はやり危険です。
ヘルメットや長袖のウェアを着用して、転倒によるケガや紫外線の対策を行うことも大切です。
⑫ テンポが重要なリズム体操
ウォーキングに次いではじめやすい有酸素運動にリズム体操があります。
リズム体操とは、音楽に合わせて行うエアロビクス、ヒップホップダンス、ボクシングエクササイズなど。
リズム体操で気をつけなければいけないポイントは、テンポ(スピード)を上げ過ぎないことです。
音楽に合わせて身体を動かすのは楽しいので、ついついがんばりすぎてしまう傾向があり、ムリをしてスピードが速い動きをすると、ヒザや腰などの負担が大きくなって身体の組織を傷めてしまいます。
とくに50歳を過ぎてからは体重も増える傾向にありますから、要注意。
自分の運動能力に合わせて、テンポを上げ過ぎないようにしましょう。
まとめ
有酸素運動には、ほかにもスイミング、ヨガ、ゴルフなどがあげられます。
スイミングは水の中で身体を動かすので、関節の負担が軽くなり、プールで泳いでいる以上は安全性が高い運動です。
高齢者にもおすすめの有酸素運動ですが、潜水は心臓に負担をかけること、高血圧の人が速く泳ぐのは危険であることを忘れないでください。
ヨガは、有酸素運動にも無酸素運動にもなるのが特徴。
自分のペースで、どこでも行える健康法です。
ゴルフはプレー時間が長い割にはカロリー消費の少ない運動ですが、長時間の軽い有酸素運動をすることになり、緑の多い環境で行えばストレスケアにも効果があります。
週5日のペースで続けるというのは難しいでしょうが、高齢になっても自分のペースで楽しめるスポーツです。
健康のために有酸素運動を行う場合、継続することが必須。
そのためにはやはり、楽しみながらできることが大事ですね。
【参考資料】
・『内臓脂肪を最速で落とす 日本人最大の体質的弱点とその克服法』 奥田昌子 著 幻冬舎新書 2018年
・『その運動、体を壊します。』 田中喜代次 著 SB新書 2018年