これまではどのような働きをしているか不明だったアミノ酸の効果が次々と発見され、サプリメントなどに利用されています。
アミノ酸は私たちの身体をつくるために必要な成分ですが、体内では合成できないものもあります。
そうしたアミノ酸はタンパク質を含む食品から摂取する必要があるのですが、良質なタンパク質はアミノ酸スコアという指標で比較することができます。
アミノ酸スコアという言葉を耳にしたことはあっても、実際にどのようなものなのか詳しく理解している人は少ないかもしれません。
ここでは、アミノ酸スコアについて、その歴史を含めてわかりやすくご紹介していきます。
目次
1. アミノ酸スコアとは
1-1. アミノ酸スコアとは
1-2. アミノ酸スコアの歴史
1-3. 日本におけるタンパク質摂取推奨量
2. アミノ酸スコア100の食品
2-1. 肉類・魚類
2-2. 鶏卵
2-3. 大豆製品
2-4. 牛乳
3. スポーツ・ボディメイクする人へ
3-1. 分岐差アミノ酸(BCAA)とは
3-2. ボディメイク・筋肉をつくるアミノ酸
3-3. アミノ酸の運動に対する働き
4. アミノ酸サプリメントの効果とは
4-1. 症状別アミノ酸サプリメント
4-2. アミノ酸サプリを摂取するときの注意点
4-3. アミノ酸サプリをより効果的にするために
5. 食品に含まれるアミノ酸
5-1. アミノ酸ランキングの調べ方と活用方法
5-2. 食品からアミノ酸を効果的に摂取する方法
5-3. バランスよくアミノ酸を摂るための方法
1. アミノ酸スコアとは
アミノ酸スコアはタンパク質に含まれる必須アミノ酸のバランスについて、最高点を100として算出したものです。
1-1. アミノ酸スコアとは
アミノ酸スコアは人の身体に必要な必須アミノ酸をどれだけバランス良く含んでいるかの指標として利用されています。
人の体では合成することができず、食品から摂取する必要のあるアミノ酸は9種類あります。食品に含まれるたんぱく質の中に、この9種類のアミノ酸がどのくらいバランス良く含まれるか、最高点を100として算出したものがアミノ酸スコアです。
【アミノ酸スコアの算出方法】
食品タンパク質の第一制限アミノ酸含有量(mg/gN)÷アミノ酸評点パターン当該アミノ酸含量(mg/gN)×100
第一制限アミノ酸とは、9種類のアミノ酸のうちいちばん少ないものです。上のイラストの左側の桶でいうとリジンですね。
アミノ酸評点パターンは理想とするアミノ酸量として基準値を決めるのですが、プロテインスコアを算出していた1955年当時は、栄養価の高い鶏卵の全卵や人の母乳を基準に評点パターンとしていました。
その後、必須アミノ酸に対する人体必要量アミノ酸測定方法たんぱく質消化吸収率及びアミノ酸利用率等を総合的に検討するために、たんぱく質の品質評価に関する国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関 (WHO) の合同専門家協議が1989 年 12 月に開催されました。その場で1985 年に国連食糧農業機関(FAO)、世界保健機関 (WHO) 、国連大学(UNU)が提案した2~5歳児童のアミノ酸評点パターンは,乳児を除く全ての年齢グループに対する食事たんぱく質の品質を評価するために使用される最も妥当なパターンであることが確認されました。
アミノ酸スコアはよく樽の原理として紹介されるのですが、これは人が必要とするそれぞれのアミノ酸量を基準にそれぞれのアミノ酸を桶の板一枚一枚だと考えるとわかりやすいからです。
上のイラストの左側の桶のように、アミノ酸バランスの良くない桶には水を入れてもいちばん高さのない板の部分から漏れ出してしまいますよね。右の桶のようにバランスが取れていることで、たくさんの水を入れられる(タンパク質として良質である)ということになります。
1-2. アミノ酸スコアの歴史
アミノ酸スコアは、1955年に国連食糧農業機関(FAO)が発表したプロテインスコアを元に、1973年、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関 (WHO) の合同特別専門委員会によって発表されました。
プロテインスコアを算定するために使われた「蛋白質のアミノ酸配合量」を改訂して「アミノ酸パターン」や「アミノ酸評点パターン」と呼ばれる基準をつくり、それを用いてアミノ酸スコアは算出されています。
タンパク質の栄養価を評価するための判断基準となるタンパク質中のアミノ酸の基本について、以前は栄養的価値の高い全卵タンパク質や人乳のタンパク質のアミノ酸含量をそのまま評点パターンとしていました。
近年はヒトのタンパク質所要量とアミノ酸必要量の研究を基礎として設定したパターンを使っています。
1985年には国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関 (WHO) の他、国連大学(UNU)も加わり、基準となるアミノ酸パターンが改定されたアミノ酸スコアが発表になりました。
大豆をたくさん摂取している日本人にとって興味深いことに、このときそれまで86だった大豆のアミノ酸スコアが100と算出されるようになりました。
これは、先ほどお話した「アミノ酸評点パターン」が変更になったためで、もともと大豆では少なめだったメチオニンの基準量が窒素1gあたり1973年では220㎎だったのに対し、1985年には160㎎となったためです。
1-3. 日本におけるタンパク質摂取推奨量
日本人に必要なタンパク質について厚生労働省は「推奨量」として発表しています。
この推奨量は、タンパク質を維持するためにどのくらいのタンパク質が必要かを実際に男性6名、女性13名で測定したものです。この測定の際に使用した日常食混合タンパク質はアミノ酸スコアが100のものになっていて、消化吸収率を90%とし、個人間の変動係数を12.5%と見積もって算出されています。
タンパク質の摂取推奨量は、18歳~70歳以上の男性は60g、女性は50g(妊娠中期+10g、後期+25g、授乳婦+20g)となっています。
厚生労働省「たんぱく質」
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015 年版)の概要」※タンパク質推奨量は8ページ
アミノ酸スコアは計算上のもので、有用性は変化があり、アミノ酸スコアが生体における利用率を表しているとは限らないということはいえるようです。
【日本食品センターの見解】
「アミノ酸スコアは化学的に分析された食品中のアミノ酸組成を用いて計算されたものである。しかし人が摂取する場合は、たんぱく質の消化・吸収率やアミノ酸の有効性についても考慮する必要がある。そこで、通常のアミノ酸評点パターンに、たんぱく質の消化・吸収率を加味したたんぱく質消化・吸収率補正アミノ酸評点パターンがより正確な評価法として用いられるようになってきた。また、加熱、アルカリ処理などによってもアミノ酸の有効性は変化するので、アミノ酸スコアがそのまま生体における利用率を表しているとは限らない。」としています。学問的知見で基準は改訂されるとしても、一定の評点パターンを用いる評価は計算で求めることができる簡便さがある一方で、個別の実質的な評価には十分対応しきれない制約も併せ持っています。
日本食品分析センター「食品たんぱく質の栄養価としての 『アミノ酸スコア』」より抜粋
2. アミノ酸スコア100の食品
アミノ酸スコアは100が最高点となっていますので、アミノ酸スコアが100の食品を覚えておけばバランスよく必須アミノ酸を摂取することができます
「覚えておきたいアミノ酸スコア」
日本栄養士会/UC DAibis amino sokore
2-1. 肉類・魚類
肉類では、私たちが普段よく食べている、鶏肉、牛肉、豚肉はすべてアミノ酸スコア100となっています。
魚類では、いわしやマグロ、さんま、タラ、キンメダイ、ブリなど私たちが普段食べている魚はほぼ100といえます。鮭は98となっていますが気になるほどの差ではありません。
動物性のタンパク質はアミノ酸のバランスがとても良いのが特徴ですが、多く摂りすぎるとエネルギー量(カロリー)や脂質の摂りすぎにもつながりやすいので注意が必要です。
2-2. 鶏卵
鶏卵もアミノ酸スコアが100の良質たんぱく質を含む食品です。
そもそも、1955年にプロテインスコアを発表したとき、アミノ酸がバランスよく含まれている基準値として鶏卵の「全卵タンパク質」が使われていたくらい、鶏卵は良質のタンパク質なのです。
価格も安定していて日持ちもするので冷蔵庫には欠かせない鶏卵の栄養価が高いのは嬉しいことですね。
2-3. 大豆製品
植物性の食品の中では唯一、大豆だけがアミノ酸スコア100となっています。
大豆や大豆製品のアミノ酸スコアは、1973年に発表されたアミノ酸スコアでは86でした。
1985年に国連食糧農業機関(FAO)、世界保健機関 (WHO)、国連大学(UNU)によって基準となるアミノ酸評点パターンが改定されたアミノ酸スコアが発表になり、大豆のアミノ酸スコアは100と算出されるようになりました。
大豆に含まれる必須アミノ酸のメチオニンの基準量が窒素1gあたり1973年では220㎎だったのに対し、1985年には160㎎となったため、メチオニンが若干少なかった大豆のアミノ酸スコアが100と算出されるようになったのです。
日本人は大豆製品を多く摂取しているので、植物性の良質たんぱく質を摂取できる機会が多いのです。
2-4. 牛乳
牛乳も、アミノ酸スコアが100の良質たんぱく質を含みます。
牛乳から油脂分を除いたスキムミルクや、牛乳を発酵させたヨーグルトも同様にアミノ酸スコアは100となっています。
欧米では牛乳の飲みすぎはエネルギー量(カロリー)の摂りすぎにつながると懸念されますが、日本人の場合は牛乳の摂取量が少ないため、意識して飲むようにするくらいでちょうど良いようです。
日本食と牛乳の相性があまり良くないのは、公立の小中学校で給食を食べてきた人なら体験済みだと思います。
食事と一緒に摂らなくても、間食にヨーグルトを食べたりドリンクヨーグルトを飲んだりする、いつもはコーヒーのところカフェオレにする、など意識することで十分な牛乳を摂取することができますよ。
サプリメントに頼らずに、食べ物から自然な形でアミノ酸を摂取したい方は「アミノ酸を食べ物から|効果を実感できる食べ方とは」の記事もぜひ参考にしてみてください。
3. スポーツ・ボディメイクする人へ
アミノ酸をとくに意識している人には、スポーツをする人やボディメイクをする人が多いと思います。どのようなアミノ酸がスポーツやボディメイクには必要なのでしょうか。
3-1. 分岐鎖アミノ酸(BCAA)とは
分岐鎖アミノ酸(BCAA)とは、アミノ酸のバリン、ロイシン、イソロイシンの3種類のことをいいます。
これらのアミノ酸は人の体内では合成できないため、食品から摂取する必要がある「必須アミノ酸」です。
食品に含まれるたんぱく質に含まれる必須アミノ酸のうち、分岐鎖アミノ酸(BCAA)の割合は約50%と、とても高くなっています。
また、人体の筋たんぱく質中の必須アミノ酸における分岐鎖アミノ酸(BCAA)の割合は約35%と、やはりとても高い割合を占めています。
3-2. ボディメイク・筋肉をつくるアミノ酸
筋肉を作るアミノ酸として知られているのが先ほどご紹介した分岐鎖アミノ酸(BCAA)です。
体内で筋肉を作るには、アミノ酸とそれを合成するために必要な物質が必要です。中でも、インスリンは筋タンパク質合成に欠かせません。
ロイシンは膵臓からのインスリン分泌を促進するため、インスリンによる筋たんぱく質の合成が促進されることがわかっています。
分岐鎖アミノ酸(BCAA)は、食品に含まれるたんぱく質から十分に摂取できますが、特にボディビルダーのようにボディメイクを意識している人は分岐鎖アミノ酸(BCAA)をサプリメントで摂取したり、分岐鎖アミノ酸(BCAA)を多く含むプロテインを飲用したりすることで意識的に摂取することができます。
3-3. アミノ酸の運動に対する働き
【運動時のたんぱく質の分解を防ぐ】
運動中には筋たんぱく質が分解し、筋肉での分岐鎖アミノ酸(BCAA)の分解が促進されます。
運動直前に分岐鎖アミノ酸(BCAA)を摂取することにより、血中と筋肉中の分岐鎖アミノ酸(BCAA)濃度が上昇し、筋肉から遊離する必須アミノ酸量は減少することが分かっています。これは、運動前に摂取した分岐鎖アミノ酸(BCAA)が筋肉中で分解することで、身体の筋たんぱく質の分解が抑制されたと考えられます。
【中枢性疲労の予防・回復】
運動による疲労には、筋肉などの抹消(脳以外の部分)が疲労する「抹消性疲労」と、脳が身体の疲れを感じる「中枢性疲労」があります。
その中枢性疲労の原因のひとつに、脳内でトリプトファンからセロトニンが生成されることによるものがあります。血中から脳内へとトリプトファンが運ばれるとそれがセロトニンとなり、中枢性疲労が高まると考えられています。
脳内にトリプトファンが運ばれる際には、脳血液関門を通過します。トリプトファンの輸送体は分岐鎖アミノ酸(BCAA)の輸送体と共通なので、この脳血液関門を通過する際に競合します。
そのため、血中のトリプトファン濃度に対する分岐鎖アミノ酸(BCAA)濃度が低下すると、脳内にトリプトファンの取り込みが増加してセロトニンとなり、中枢性疲労が促進されるということになります。
運動直前に分岐鎖アミノ酸(BCAA)を摂取して血中の分岐鎖アミノ酸(BCAA)濃度を上昇させることで、脳にトリプトファンが送られる量を減らし、中枢性疲労を感じにくくする、つまり疲れにくい身体をつくることができるのですね。
スポーツ・ボディメイクへのアミノ酸の効果については「アミノ酸の効果|ボディメイクに必要な要素とは」も併せてご覧ください。
4. アミノ酸サプリメントの効果とは
アミノ酸サプリメントの効果について、フリーフォーム(遊離アミノ酸)のサプリメントを中心にご紹介していきます。
4-1. 症状別アミノ酸サプリメント
肝臓の働きが心配(酒量が多い)
→オルニチン配合のサプリメント
L-オルニチンアスパラギン酸塩をアルコールに起因して肝機能が低下した患者25人に約13年間にわたり一日9g投与したところ、尿合成能が高まったという結果があります。
→タウリン配合のサプリメント
マウスの実験では、肝臓を正常に維持する上でタウリンは極めて重要であることが示唆されています。
アンチエイジング効果を期待
→グルタチオン配合のサプリメント
グルタチオンはグルタミン酸、システイン、グリシンからなるトリペプチドです。生体内のほとんどの細胞に存在し、解毒や体外排出に関わっています。
従来、グルタチオンは腸管内で構成アミノ酸に完全に分解されてから体内に吸収されると考えられていましたが、経口投与されたグルタチオンの一部は腸管内でそのままの形で吸収されることがわかってきています。
グルタチオンを摂取することで、抗酸化作用、アンチエイジング効果が期待できます。
ストレス改善・リラックス効果を期待
→テアニン配合のサプリメント
テアニン摂取によるヒトボランティア試験で自律神経系の活性度を測定すると、テアニン摂取後は交感神経には影響がなかったのに対し、副交感神経の活性が増すことがわかりました。脳の解析でもテアニン摂取後はα波が顕著に放出されたことが確認されました。
4-2. アミノ酸サプリを摂取するときの注意点
【アミノ酸は単体で長期間飲用しないこと】
なんらかの目的があってアミノ酸サプリメントを摂取した場合、その目的が達成されたらいったんサプリメントの摂取はやめましょう。
特定のアミノ酸だけを偏って摂取していると、全体的なアミノ酸バランスを崩すことになってしまいます。
【摂取量を守る】
アミノ酸サプリメントには決められた摂取量が記載されています。各アミノ酸含有量をラベルで見ても自分の必要量として適切かどうか判断できない人がほとんどですから、体重当たりなどで表記されている摂取量を守るのが賢明です。
【薬を飲んでいる場合は医師に相談する】
アミノ酸によって処方されている薬剤の作用を強めたり、弱めたりする可能性があります。薬を服用している人は、アミノ酸を摂取する前に医師に相談しましょう。
4-3. アミノ酸サプリをより効果的にするために
フリーフォーム(単体)のアミノ酸は、空腹時に水で飲むのが基本です。
空腹時というのは、食事の後1時間半以上経ってからで、次の食事まで1時間半は飲食しないような状態です。
これは、摂取するアミノ酸をほかの栄養素の影響を受けないよう、身体に確実に吸収させるためです。
サプリメントによっては空腹時を避けたほうが良いと記載されているものもあります。その場合は指示に従うようにしてください。
サプリメントの表示、説明書きはよく読んでから摂取するようにしましょう。
5. 食品に含まれるアミノ酸
タンパク質を含む食品にはアミノ酸が含まれています。
自分が意識して摂取したいアミノ酸がある場合に、その種類のアミノ酸を多く含む食品を調べることができると献立作りに生かすことができますね。
5-1. アミノ酸ランキングの調べ方と活用方法
ある種類のアミノ酸が多く含まれている食品を知りたいという時に便利なのが、文部科学省が提供している「食品成分データベース」の「食品成分ランキング」です。
「成分」のドロップボックスを見ると、「アミノ酸」のカテゴリーがあり、それぞれのアミノ酸の種類を選べるようになっています。
「表示順位」では最高100位までを一覧で見ることができ、とても便利です。
ただし、食品成分表と同様に、その食品100gあたりに含まれる成分の量(g)で比較しているので、1食あたりに食べる分量によっては摂りづらいものもあります。
たとえば、睡眠の質の改善に効果があるといわれる「グリシン」を調べると、1位に「ゼラチン」が出てきますが、ゼラチンだけを100g摂取するのはとても難しいですが、36位にランキングされている「鶏もも・焼き」であれば200gくらいなら1食で食べられます。
そこで便利なのが、一番下のドロップボックスで選ぶことができる「対象食品」です。ここで「肉類」や「魚類」と選択すれば、主菜(メインディッシュ)にどの素材を使うか選ぶときにとても便利に使うことができます。
特定のアミノ酸がたくさん含まれている食品を選びたいという時にはぜひ活用してみてください。
5-2. 食品からアミノ酸を効果的に摂取する方法
食品からアミノ酸を効果的に摂取する方法は、タンパク質を多く含む食品をたくさん食べれば良いというものではありません。
タンパク質の必要量を良質なタンパク質から摂取できていれば、あとはビタミン、ミネラルなどのバランスの良い食事をとることがもっとも効果的にアミノ酸を摂取できる方法となります。
厚生労働省による日本人のタンパク質の摂取推奨量は、18歳~70歳以上の男性は60g、女性は50g(妊娠中期+10g、後期+25g、授乳婦+20g)となっています。
これは、高齢者を除く現代のほとんどの人が普段ごく普通に食べる食事から十分に摂取できている量になります。
ですので、たとえば高齢者になってほとんど肉を食べなくなってしまったなどという場合や極端なダイエットをしている人などでない限り、意識してたくさんのタンパク質を摂取する必要はないといえます。
タンパク質を必要以上にたくさん摂取することには弊害もあります。
身体に必要ない余ったタンパク質は、窒素として体外へ排出されます。このとき、腎臓や肝臓が余ったタンパク質のために余分に働く必要があるのです。
また、タンパク質を動物性の食品から摂取するとどうしても脂質やエネルギー量(カロリー)の摂りすぎとなりがちです。
さらに、タンパク質や脂質に偏った食事を続けると、腸内環境が悪化することもわかっています。
厚生労働省e-ヘルスネット「腸内細菌と健康」
5-3. バランスよくアミノ酸を摂るための方法
バランスよくアミノ酸を摂取するためには、偏った食事を避けることがポイントになります。
エネルギー量(カロリー)は増やしたくないけれどタンパク質を摂取したいからと、コンビニエンスストアやスーパーマーケットで手軽に買える「サラダチキン」だけを食べるというのは間違っています。
1章でご紹介したように、アミノ酸スコアは計算上のもので、その有用性は変化があり、アミノ酸スコアが生体における利用率を表しているとは限らないという考え方もあるからです。
また、タンパク質を消化してアミノ酸にする過程やその後吸収する過程においてはビタミンやミネラルも必要になりますから、これらを摂取しないでタンパク質ばかりを摂取しても肝臓や腎臓などの内臓疲労につながったり、腸内環境を悪くしてしまったりという結果になってしまいます。
まとめ
1985 年に国連食糧農業機関(FAO)、世界保健機関 (WHO) 、国連大学(UNU)が共同で発表したアミノ酸スコアは、今も私たちが摂取する食品のタンパク質の必須アミノ酸のバランスを知る指標として役立っています。
日本国内でアミノ酸の摂取が不足しがちだったのは、動物性タンパク質をあまり摂取できなかった頃のことです。
植物性のタンパク質はアミノ酸スコアが低く、必須アミノ酸のひとつがほとんど含まれないものもあります。たとえば、小麦にはリジンがとても少なく、トウモロコシにはリジンやトリプトファンがほとんど含まれません。
そのため、今でもこうした植物だけを栄養源としているモザンビーク、コートジボワール、モロッコ、ナイジェリア、ハイチ、シリアなどではリジンの欠乏が問題になっており、2003年にはシリアの遊牧民に対して国連大学の指導のもと栄養改善プログラム(リジン強化プロジェクト)が行われました。
リジンなどの必須アミノ酸が不足すると、子どもの成長に影響し、低身長や皮膚のトラブルを持つようになります。大人では集中力が低下し、疲れがたまりやすくなるなどの症状が現れます。
現在の日本の場合、アミノ酸の不足が問題になるのは食が細くなり肉や魚を食べなくなってしまった高齢者や、極端なダイエットをしている人です。
どちらかといえば、現代の日本ではアミノ酸の過剰摂取のほうが問題になるといえそうです。低糖質ダイエットが流行し、糖質を摂らない人たちが「たんぱく質なら大丈夫」と必要以上のタンパク質を摂ることで、腎臓や肝臓に負担をかけ、腸内環境が悪化することがあるからです。
アミノ酸が身体に良いと知ると積極的に摂取したくなりますが、基本はバランスの良い食事をすることが大切なのですね。
【参考資料】
「日本食品成分表準拠 アミノ酸成分表2010」文部科学省資源調査分科会報告
「アミノ酸の科学と最新応用技術」シーエムシー出版
「トコトンやさしいアミノ酸の本」味の素株式会社編著(日刊工業新聞社)
「生命の万能素材」水谷仁編集(ニュートンプレス)
「アミノエビデンス」大谷勝(現代書林)
「アミノ酸で10歳若返る」ナターシャ・スタルヒン(講談社α文庫)
「アミノ酸で身体の調子がどんどん良くなる」三條健昌(三笠書房)
「介護されない人生・アミノ酸が高齢社会を救う」大谷勝(ダイヤモンド社)