ビーガン(ヴィーガン)は菜食主義の中でも、動物性の食品を一切摂取しないという、完全菜食主義者のことを言います。
英語のVegan(Bigan)がそのまま日本語になっています。
数年前にパリス・ヒルトンがビーガンを始めて話題になり、日本でも、東京や大阪でビーガンのカフェができたり、徐々に広まっていきました。
ベジタリアンには、ヨーグルトなどの乳製品や卵は食べるという人も多いのです。また、マクロビオティックの玄米食でも、必要があれば白身魚を週に数回食べることがあります。
それに対しビーガンは完全菜食だけでなく、革製品を使用せず、毛皮も着ないという、動物愛護的な考え方も併せ持っています。
1.ビーガンとは
2.ビーガン食のデメリットと対処方法
3.ビーガン、マクロビオティック、総合栄養学について
4.ビーガン食をする人たちの目的
5.食の楽しみを保つために
6.まとめ
1.ビーガン(ヴィーガン)とは
ビーガン食は動物の肉、鳥の肉、魚、乳製品、卵といった動物性食品を一切摂取しないという、完全菜食主義です。
主食の穀物を中心に、豆類、野菜、海藻類、ナッツ類、果物をバランス良く毎食摂取します。
穀物は、できるだけ植物まるごと食べるようにします。米ならば玄米、小麦ならばホールウィート(全粒粉)、そばや雑穀などを主食にします。
動物性のタンパク質を摂取しませんから、タンパク質が不足しないように豆類は毎食取り入れる必要があります。2章に詳しく書いてありますが、栄養素をお互いに補うために、毎食、穀類と豆類を組み合わせて食べることが大切です。
油脂が不足しがちになりますので、ナッツ類などから良質の油を摂取するようにします。間食をナッツにするなど工夫してください。
<コラム>日本と諸外国でのビーガン
日本でビーガンを実践すると、諸外国に比べれば食材の豊富さに救われるといいます。
タンパク質は主に豆類から取り入れるため、食事の栄養バランスにも気を遣います。米を主食とし、豆腐や納豆が当たり前に手にはいる日本では、自炊さえ面倒がらなければバラエティに富んだビーガン食を続けることができます。
しかし、外食をしなければならないとなると、日本では難しい面があります。ほとんどのレストランで、ビーガン食どころかベジタリアン向けというメニューさえないため、自分で選択するしかなく、野菜サラダくらいしか注文できるものがなくなる場合が多いのです。
それに比べ、アメリカの都市部のレストランには、ベジタリアン向けのメニュー、ビーガン向けのメニューがあるところも多く、ベジタリアン、ビーガンを対象にした専門店も多く存在しています。
2.ビーガン(ヴィーガン)食のデメリットと対処法
2-1.ビタミン・ミネラルの不足にサプリメントも
ビーガン食で不足するのは、カルシウムや鉄、亜鉛と、ビタミンB2です。
サプリメントで補うこともできますし、サラダや煮物に海藻類を多く取り入れることも効果的と言えるでしょう。小松菜などカルシウムを含む野菜はありますが、牛乳のカルシウムに比べ吸収率が低いため、カルシウムの必要量を摂取できるかは疑問です。
鉄や亜鉛も、動物性食品には豊富に含まれます。豆類にも鉄はありますが、植物性の非ヘム鉄はやはり吸収率が低いのが問題です。必須栄養素の中で動物性食品にしか含まれないビタミンB2は海藻から摂れると考える人もいるようですが、エビデンス(科学的な証拠)は不足しています。
2-2.タンパク質・必須アミノ酸の不足は豆と穀物を同時摂取で
ビーガンで不足が心配されるのは、タンパク質の量と必須アミノ酸もあります。
タンパク質は豆類、とくに大豆製品を多く摂取することにより解決できます。人体では作ることができないために食物から摂取する必要があるアミノ酸を必須アミノ酸といい、9種類あります。このうち、大豆などの豆類にはメチオニンが不足し、米や小麦ではリジンが不足気味です。
両方を同時に摂取すれば解決しますので、豆類と穀類を上手に組み合わせて食べる必要があります。毎食必ず、玄米などの穀類と、インゲンなどの豆類、ヒヨコ豆、大豆や豆腐などの大豆製品をしっかり摂取するようにしてください。
2-3.実践のしにくさはお弁当で解決
ビーガン食の実践のしにくさは、ベジタリアン食の中ではトップと言えます。そこで実践して欲しいのは、お弁当作りです。自宅で摂ることのできる朝食と夕食は大丈夫でも、働いている人は昼食で困ってしまうことになりがちです。
ナチュラル素材のお弁当箱など気分を盛り上げるグッズを用意して、玄米食と豆類をおかずにしたお弁当や、全粒粉を使ったパンで豆のペーストを挟んだサンドイッチをつくるなど、自分で昼食を用意しましょう。
加工食品の多い先進国では、すぐに食べられる食品に含まれる原材料がわからないことが多いので、完全にビーガン食にしようと思ったら、自分の食事をすべて手作りするしか方法がありません。
日本には菜食主義者が安心して食事をとれるレストランなど外食産業がまだ充実していませんが、日本のお弁当文化がビーガンを応援してくれるでしょう。調理に慣れてくれば自家製フリージングもできるようになりますから、手間は少しずつかからなくなるはずです。
3.ビーガン(ヴィーガン)、マクロビオティック、総合栄養学について
3-1.問題点の解決方法
ビーガンで不足する栄養素について、どのように解決するかは自分の選択によります。ビタミン剤などのサプリメントで手軽に補うこともできますし、ベジタリアンの栄養について学んで、食物から摂取できるように努力する方法もあります。
アメリカでは以前から「フードガイドピラミッド」というものがあり、ピラミッドの高さを4つに分けて必要な食品を示しています。
ピラミッドの頂点には「脂肪、オイル、糖類、甘味料」がありこれらは少量しか必要としないことを表しています。底部には「穀類(パン、パスタなど)」があり、穀類の上には「野菜と果物」その上の段に「乳製品、卵、肉類」となります。
この「フードガイドピラミッド」のベジタリアン版があり、近年日本でも臨床栄養学の専門誌に「日本人用ベジタリアンフードガイド」が発表されています。こうした指標を参考にし、不足しがちな栄養素を摂取することは可能です。
3-2.大切なのは自分の感覚
ベジタリアンになるにしても、何かしらの健康法を試すにしても、最も大切なのは自分の感覚だということを覚えておきましょう。ビーガンやマクロビオティックなど、単なる食事療法というよりも、思想があるようなものは、ある意味宗教的に「信じる」ことで継続する人が多いようです。
これまでの食生活からガラリと変化した食事に対し、身体がなにかしら反応しても、「この方法を続ければ良くなるはず」と妄信的に信じてしまうことは危険です。よくあるのが、菜食にしたらめまいがする、立ちくらみがするなどの症状ですがこれは明らかに鉄分が不足して貧血気味になっているということです。
そのままの菜食を続ければ良くなるはずはありません。サプリメントで鉄分を補給する、ビーガンはあきらめて卵だけは摂取するベジタリアンになるなど、自分の身体と相談するような気持ちで続けていくことが、安全で健康な身体をつくるベジタリアン食です。
3-3.続けなくては意味がないわけではありません
ビーガン食は継続して続けなければ意味がない、と妄信的になる必要はありません。ビーガン食だけでなく、マクロビオティックなどすべてのベジタリアンに言えることですが、厳しい制限食を長期にわたって続けなくては意味がないというようなことはないのです。
日本の栄養学にも詳しい、医師で医学博士、米国ロックフェラー大学などでも指導してきた蒲原聖司先生は、「ときどきベジタリアン食のすすめ」という本を書かれています。完璧に菜食主義者にならなくても、今の食生活から肉類を減らし、ファイトケミカル(植物性食品に含まれる抗酸化物質)を多く含む野菜を多く食べることで確実に今よりも健康になれるということです。
この本では、ある種のベジタリアン食だけを解説しているのではなく、野菜中心の食生活と健康について様々なエビデンス(科学的証拠)があるという、男性にも納得できるような説明がなされています。一読すると食生活を変えたくなるような本ですので、ベジタリアンに興味を持ったら是非読んで欲しい本です。
どんな形でも良いので、肉類を減らし、野菜を多く摂取するような食生活を始めて、気がついたらマクロビオティック食、気がついたらビーガン食になっていた、というのが安全な形だと思います。
4.ビーガン(ヴィーガン)食をする人たちの目的
4-1.ダイエット・美容
ビーガン食の目的に、ダイエット、美容があります。
アメリカのセレブリティには、ベジタリアンやマクロビオティック食、ビーガン食を実践している人が多くいます。世界中から注目される存在の彼らは、ただ痩せていれば良いのではなく、健康的で美しく、健やかで強いオーラが出ているような存在であることが大切だということが良くわかっています。
ですから、痩せるために極端な食事制限をしてその後リバウンドしてしまうというような安易なダイエット方法ではなく、本物の美を保つための食生活を自分で選んでいるのです。
4-2.動物愛護
ビーガンの考え方には、動物愛護の精神も強く影響しています。
ビーガン食では植物しか摂取しないのですが、それだけではなく、ビーガンは皮革製品を購入、使用しない、毛皮を購入、使用しないなど、動物に対する配慮をしています。
食用のために育てられる家畜も昔は放牧されていて、必要な量の草を食べ、排泄物は土の栄養になり、場所を変えながら放牧するうちに最初の場所にはまた草が生えているという自然のバランスが保たれていました。
ところが、人が肉を多く食べることで、狭いところに閉じ込められて飼料を与えられ、不自然な環境で育てられる家畜が増えているのです。このような動物を減らすためにビーガンは一切の動物性食品を摂取しません。
4-3.環境保護
食肉用の家畜が環境に与える影響は大きく、たくさんの水と植物を消費した動物を人間が食べることは、とても無駄の多いことがわかります。食用の家畜を育てるために、年間18億トンの穀物のうち、三分の一が飼料として与えられています。
国連の食糧農業機関(FAO)によると、現在世界中で食肉用に飼育されている牛、豚、羊、山羊は合計で50億頭、ニワトリなどの家禽は10億羽にのぼり、「未曾有の早さ」で増え続けているといいます。
このままでは、飼料として与える穀物のために吸い上げている地下水は涸れ、どこかの時点で世界は深刻な水不足に直面する地域が出てくることになります。人が肉食をやめ、穀物を食べるようにすればこうした環境破壊は防ぐことができるのです。
5.食の楽しみを保つために
5-1.フェイク食品に頼るよりも
ビーガン用、ベジタリアン用の食材も様々な種類が開発されています。いわゆるフェイク食品というもので、肉とよく似た食感と姿にした大豆タンパク食品などがあります。また、女性の好きなスイーツにも、ビーガン用の市販品があります。
こうした食品を購入してまでビーガン食にこだわることに、意味はないように思います。肉とよく似た食感にしている時点で「肉を食べたい」という欲求と戦っているわけですし、わざわざケーキのように工夫した調理をした植物を食べたいという欲求は、ビーガン食がやはり満足できない食生活であると認めているようなものではないでしょうか。
「ベジタリアンになって身体が軽くなった」
「肉を食べたくなくなった」
「ケーキは食べたくないが、新鮮な果物を美味しいと感じるようになった」
こうした実感を持つ人は、少なくありません。このような人達はストレスなくビーガン食を続けられるため、本物の健康を手にすることができるでしょう。
5-2.精進料理との類似点
完全菜食主義のビーガンと仏教の精進料理には類似点があります。
まず、「殺生をしない」という考え方のもと、菜食にしていること。毎日の食事が退屈にならないように様々に工夫を凝らすことなどです。現代、日本の精進料理には、魚の出汁を使ったものもありますが、一切の殺生をしないという考え方の精進料理では、大豆を煎ってそこへ水を加え、よく煮出してそれを出汁として使うなどの工夫がなされています。
ご存じのように「がんもどき」は豆腐をつぶして油で揚げることで、鳥の肉のような味や食感になるよう工夫してできた料理です。ビーガン食でも、豆類を潰して「ミートパイ風」にしたり、豆腐をデザートのように食べたりと、食を楽しむ工夫をする人が多いようです。
5-3.どこまで厳格に守るか
ビーガン食は、ベジタリアンの中でも最も難しい、完全菜食主義です。これを守っているから「ビーガン」と言えるわけですが、その状態を長く続けられる人は少ないかもしれません。
「健康になりたい」
「健康を維持したい」
「美しくなりたい」
と始めたビーガン食を、ある日たまたま守れなかったからといって、翌日から元通りの暴飲暴食になるというのが、最も避けたい状況です。どうしても外食で食べるものがなかった、あるいは肉類が使われているとは知らずに食べてしまった、貧血が続くので卵を食べた、などビーガン食を守れなかったとしても、仕方のないこと。
ちょっとしたつまずきは気にせずにまた、健康的な食事を続けていくことが大切です。
6.まとめ
6-1.完全菜食のビーガンを楽しむには
ビーガン食は完全な菜食です。健康のためにはじめるビーガンですから、美しくキレイになるために、日々摂取する食品のバランスには気をつけてください。自分の健康を考えながら、楽しんで昼食の分まで食事を用意できるようになれば、ビーガンを続けて美しくなることができるでしょう。
また、無理をしないこと、自分の身体の調子に意識を向けることも大切です。貧血の症状はないか、急激に体重が減っていないか、だるい、調子が出ないなどの症状はないか、常に自分の身体に気を配りましょう。
日々の献立で豆類と穀類を必要なだけしっかり摂取できるようになっていなければ、不足する栄養素も出てきてしまいます。コンビニやレストランでビーガン食がないからと、サラダだけを食べて一食をおしまいにしてしまうのはとても危険です。
いきなり完全なビーガン食が難しければ、段階を踏むのも良い方法です。前述の医師、蒲原聖司先生の言うように、何もしないよりは、「週末だけでもベジタリアンになってみる」「食べる肉の量を減らしてみる」だけでも身体の変化が感じられ、それを心地よいと思えればストレスなく続けられる健康食と言えるでしょう。
6-2.食事の準備にかけられる時間と手間
ビーガン食(ヴィーガン料理)を実践するには、休日にも趣味のように楽しみながら、食材の準備や下調理、フリージングなどをしていくと長続きするでしょう。
これは「無印良品の家」が調べた、家事に関する調査です。独身、共働き、専業主婦、子供あり、子供なしの家庭を調査し、平均を出すと、1日にかける梶井の時間は約3時間半、そのうち食事の準備と片付けに半分を使っていることがわかります。
つまり、平均的な家庭では、毎日の食事の準備には1時間半から2時間弱程度しかかけられないのです。
ビーガン食の準備は無農薬有機野菜を調理することから始まりますし、玄米や豆など、調理に時間と手間がかかるものも多くあります。平日に仕事をしている人がビーガン食を楽しく続けるなら、休日にもビーガンのための時間を使う必要があるようですね。
休日に豆を茹でて冷凍しておく、玄米をまとめて炊いて冷凍しておく、無農薬有機野菜を定期的に購入できるようネットで発注しておくなど、「義務」としてではなく「美しくなるための趣味」のような楽しい気持ちでビーガンのための時間を過ごせると良いですね。
6-3.多面的な視点を持つ必要
ビーガン食やマクロビオティック食など、自分が「これは良さそうだから試してみよう」と思って始めてみても、続かなかったという経験のある人は多いようです。そういった人は、また元の食生活に戻ってしまいがちですがそれはもったいないことです。
せっかく、菜食のよい面を知識として蓄えたのなら、完全菜食ではなくてもいいから、実践を続けていくことが健康につながります。アメリカの女優、アン・ハサウェイも、ベジタリアンから徐々にビーガンになっています。それは、そうした方が心地よく、健康を保てると実感しているからではないでしょうか。
ストレスを溜めながら「健康食」を続けても、身体によい感じはしませんよね。どの健康食もよい面があるので、自分が取り入れて心地よいものから食生活を変化させていくと良いと思います。苦しいことや嫌なことからでは続かないですし、続かない自分に対して罪悪感を持つことも弊害です。
まずは、今食べている肉の量を減らす、ケーキの代わりに美味しくて新鮮な果物を買ってみるなど、自分のことを好きになれるような行動から始めてみませんか。