「自分探し」をしたことで今の生き方を見つけた人がいます。
見つけるというより自分で決めたと言った方が正確かも知れません。
「自分探し」で検索をすると「自分探しの旅」の情報をたくさんみつけることができます。
「自分探しの旅」というと若者がバックパッカーとしてアジアの貧しい国へ行くというイメージが強いでしょうか。
旅をしなくても、自分の内面に向かって「自分探し」をすることもできます。
日本では本田健さん、水野敬也さんなどの先輩たちは自分探しのヒントがぎっしり詰まった本をたくさん出版されていますし、海外では古くからあるアドラー心理学が今見直されていますのでそれらを読んで自分探しをすることもできます。
また、精神科の医師の書いた本では「偽りの自分」をやめて「本当の自分」になっていく方法も紹介されています。
さらに言えば、「自分探し」に関する本を読むことだけが「自分探し」ではありません。
これまで自分が読まない傾向にあった本を読むこともまた「自分探し」でしょう。
今の自分ではない自分を探す方法は考えているよりたくさんありますし、具体的な行動としては今すぐできることもあります。
仕事を辞めてバックパックを用意するというスタイルの自分探しもありますし、今の生活を続けながら本当の自分を探すこともできます。
いずれにしても「自分探し」ができるのは「自分が知らないことを知るとき」と言えるのではないでしょうか。
あなたが「自分探し」することでその後の人生の送り方をみつけること、決めていくことができるようにその方法をご紹介していきます。
目次
1. 自分探しの定義は人それぞれ
2. 自分探しの旅をするなら
3. 自分の内面を探るなら
4. 自分探しは無駄、無意味という見解
5. 「自分探しビジネス」に要注意
6. まとめ:自分探しは青い鳥探しのようなもの
1. 自分探しの定義は人それぞれ
「自分探し」という言葉から連想するものは人によって違いますが、大きく分けると「体験」と「探求」のどちらかに当てはまると思います。
「体験」は自分探しの旅にでること。
「探求」は自分とは何者なのか、本当の自分はどんな人なのかをみつけること。
しかし「体験」をすることによって「探求」していたということもあるでしょうし、「探求」するうちに「体験」したくなることも出てくるでしょう。つまりここで紹介する「自分探し」のふたつの定義は根底でつながっていると言えます。
あなたはどちらの「自分探し」からスタートしますか?
1-1. 自分探しの旅をすること
「自分探し」という言葉は「自分探しの旅」を短縮しているだけという解釈があります。
その場合、「どこかへ旅に出て自分探しをすること」を「自分探し」と定義しているのですね。
自分探しの旅をするタイプの人間は1960年代にもいたけれど、それはごく一部の人間で定職に就かないそうした人たちは「ちょっと変わった人」という印象を持たれていました。
しかし豊かになった今の日本では、定職に就いていないことはさほど珍しいことではありません。日本でアルバイトをしてお金を貯め、物価の安いタイなどで数ヶ月生活し、お金がなくなったらまた戻ってきて働く、ということを繰り返す人もいます。
「自分探しの旅」のイメージが強いタイのバンコクには、日本だけでなくアメリカやヨーロッパの若者もバックパッカーとして訪れます。それが可能なのは物価が大きく違うためでもありますが実際に貧しい人が多い国では、若者は生きていくのに精一杯で「自分探し」どころではないというのもあるでしょう。
出版社勤務・Fさんの場合
今は出版社に勤務しているFさんは、大学を休学してのバックパッカーを経験しています。旅に出た理由は「自分はこのままでいいのかな」という漠然とした思いだったと言います。
主にアジアの国を巡ったFさんは海外で様々な活動をしている日本人と偶然に巡り会ってその考え方を知り、視野が広がったのだそうです。グローバルな視野を持つようになったFさんは、「自分のやりたいことだけをする」と決心して帰国しました。
当時知り合った海外在住の日本人は、後にテレビ番組で特集されるほど活躍していたりその道の第一人者になっていたりしているとのこと。
Fさんの場合は「自分が知らないことを知ることで自分の小ささがわかった」と言い、もしこうした「自分探しの旅」をしなかったら、当たり前に大学を卒業して当たり前に就職するという道を選んでいただろうと話してくれました。
1-2. 自分の内面を探ること
一方、「自分探し」というのは「自分の内面を探ること」という解釈もあります。
これは、「自分とは何者なのか」といった少々哲学的な考え方をすることを「自分探し」と定義しているということです。
書籍やセミナーなどで行う「自己啓発」も、自分を向上させようという目的で自分探しをすることだと言えるでしょう。
また、普段はあまり読まない傾向の本を読んでみたり新しいことを始めたりすることも「自分探し」につながります。こうしたことは小さな「体験」と言えますから、やはり自分探しは「探求」から入っても「体験」することになるのでしょう。
自営業・Kさんの場合
両親共にサラリーマンという家庭で育ったKさんは、子どもの頃から様々なことを疑問に思っていました。
小さな頃は両親をはじめ周囲の大人に質問していたKさんですが、本を読めるようになるとその中に答えがあるのではないかと感じるようになりました。
Kさんには「自分探し」をしているという気持ちはありませんでした。ただ限られた環境の中で無限の広がりを感じられるのが本の世界だったため、ジャンルにかかわらず気になった本は次々に読み進めました。
日本にはあらゆるところに図書館がありますから、あまり恵まれた環境にいない人でも本だけは自由に読むことができます。
「子どもの頃からの読書のおかげで両親や周囲の大人の言うことがすべてではないと感じて育ったためか、人と違うということがあまり気にならず自由に生きていると思います」とKさんは言います。
Kさんは今も「自分探し」をしているとは思っていませんが、何かの答えを見つけるかのように本を読み続けています。
2. 自分探しの旅をするなら
ここでは実際に「旅」という非日常に身を置いて自分探しをしてみたい、という人へのアドバイスをしていきます。
2-1. 海外へ行く理由
自分探しの旅で海外へ行く理由にはどのようなものがあるのでしょうか。
・物価が安い国なら日本で貯めたお金で働かずに数ヶ月は生活できる
・日本にいるとどうしても日本の常識の中で物事を考えて判断してしまう
・非日常感を得ることができる
・言葉が通じないなどの不便がある(ことがかえって良い)
・視野が広がって考え方が変わる
自分探しの旅というと、アジアの国をバックパックひとつで移動するという「放浪の旅」のイメージが強いと思います。生活費という面ではメリットがありますが、他の国でも「自分探しの旅」にはなりそうですね。
2-2. 無意識でも目的はあります
アドラー心理学では、人が行動することにはすべて「目的」があるという考え方をします。その考え方でいうと「目的のない旅」だと自分は思っていても、本当はなにかしらの目的があるということになります。
一見悩んでいたり苦しんでいたりしているように見えても、人は自然に「快」を求めているそうです。例えば、なかなか心の病気が治らない人はそうしていることで家族に優しくされることなどの「快」を求めているとアドラー心理学では考えます。
自分の中にある「自分探しの旅に出る本当の目的」に目を向けてみるのも面白いかも知れませんよ。
・バックパッカーとして変わった体験をして、友達に武勇伝を語りたい
・ただ単純に今の仕事を辞める理由が欲しい
・親や職場の人間関係のしがらみを解消したい、あるいは逃げたい
・基本的に働くことに喜びを見いだせない
・やらなければいけないことがあるのが嫌だ
旅の本当の目的を探求することもまた「自分探し」と言えるでしょう。
2-3. すべてを自己責任ですること
自分探しの旅はすべてが自己責任ということを強く自覚するべきです。
前述した「外こもり」「沈没」というのは、アジアなどの物価の安い国へ自分探しの旅へ行った結果のことです。とくにタイのバンコクには多くの日本人が住み着いています。
語学留学やワーキングホリデー、海外ボランティアの経験を自分探しに組み込めば日本での就職が有利になるというもくろみがあったとしても、実際には日常会話程度の語学力では日本で外国語を活用する職につけることもなく、フリーター以上の職がみつからないという現実があります。
日本の企業のほとんどは、履歴書の空白期間を嫌います。自分探しの旅がたとえ「語学留学」だったとしても、それが専門職レベルか難解な商業英語がバイリンガル級の発音でできるというようなことでない限り、就職に有利に働くことはほとんどありません。ましてやワーキングホリデーや海外ボランティアは推して知るべしといえるでしょう。
けれど、若いうちは武勇伝を面白がって聞いてくれる友人もいて、「人と違うことをしている自分はちょっとカッコイイ」気もするため、フリーターでお金を貯めては海外へでかけるということを繰り返します。
そうして歳を取っていくうちに日本での仕事探しはますます困難になり、ついにはバンコクへ住み着いてしまうということを「外こもり」や「沈没」と言います。
もちろんそれが自分の希望であり目的となったのなら「自分探し」ができたと言えます。
どんな結果になっても自分探しの旅の末路には自分で責任を持つことになります。
3. 自分の内面を探るなら
こちらは自分の内面、心の中を探る「自分探し」です。
旅に出なくても、自分としっかり向き合うことでできる自分探しには、どのようなものがあるのでしょうか。
3-1. 斉藤一人流「自分探しの旅」
斉藤一人さんの言う「自分探しの旅」は、「自分の過去へ旅して嫌だったことや辛かったことの解釈を変えてしまう」という考え方です。
親に恨みがある人は意外と多いようです。そうした人は、「あのとき嫌だった、悔しかった、悲しかった」ということを何度も思い出して強化するよりも「あれほど未熟な人(自分の親)がよく赤ちゃん(自分)を殺さずに育ててくれた」と考えるようにする。
高校を中退したことが過去の傷になっているなら、「高校を中退したからこそできたこと」をみつける。何か失敗したことを覚えているなら「そのおかげでこうなった」をみつける。
オセロの黒を白に変えていくようなものだそうです。
斉藤一人さんは、いわゆる「長者番付」と呼ばれる「高額納税者公示制度」(2006年に廃止)が発表されていた頃は10年以上連続で「納税額日本一」だった商人で、健康食品を販売する会社「銀座まるかん」の社長です。今は長者番付が発表されなくなりましたが、変わらず会社の業績は良いようですから今も高額納税者ですね。
商売がうまくいく秘訣はすべて人生を楽しむこととつながっているため、たくさんのファンを持つ斉藤一人さんは多くの本も出版しています。心屋仁之助さんをはじめ多くの著名人や経営者も斉藤一人ファンです。
自分探しをしたい、ということは何か生き方のヒントをみつけたいのではないでしょうか。斉藤一人さんやそのお弟子さん達の本にはたくさんのヒントがあるので自分に合うものがきっとみつかると思います。
3-2. 本田健流「自分の探し方、見つけ方」
本田健さんの「自分の探し方、見つけ方」は、自分と自分の人生を多方面から分析していくことで「人生の目的」をみつけることにあります。
分析というと難しく感じますが、普段あまり目を向けずになんとなく生きていることにきちんと焦点を当てて、ひとつずつ時間をかけて考えていくことで自分探しをするということになります。
本田健さんの著書「人生の目的」では、「自分の親と自分の関係」「大事にしたいものと手放したいもの」「いままでの人生で後悔していることは?」「自分の思考パターンを見る」といった見出しで「自分の探し方、見つけ方」を提案してくれています。
大和書房「人生の目的」(Amazonより)
もちろん答えは読者ひとりひとりが出すので十人十色違うはずですが、本田健さんの優しい語り口調の文章を読んで自分を見つめてみるとなぜか「これでいいんだな」「ここは努力しよう」と、とても素直な気持ちで自分探しができるように思います。
本田健さんは、「ユダヤ人大富豪の教え」などの著書で知られることから「お金持ちになる方法」を書いている人という印象を持つ人も多いかもしれません。しかし実際に本を読んでみると「豊かさ」と「幸せ」について「ライフワーク」という言葉で自分の人生をどのように生きるかを考えさせてくれる温かい内容となっています。
また、「ライフワーク」「豊かさと幸せ」などに関するセミナーも多数開催し、八ヶ岳に研修センターも開設しています。
自分探しをしたい人におすすめの本は「自分の探し方、見つけ方」という副題のついた「人生の目的」、「自分の磨き方、高め方」という副題のついた「メンターと出会う法」の他、「大好きなことをやって生きよう!」「自分の才能の見つけ方」です。
この4冊をじっくり読むとかなり深いところまで自分探しができるはずですよ。
大和書房「メンターと出会う法」(Amazonより)
フォレスト出版「大好きなことをやって生きよう」(Amazonより)
フォレスト出版「自分の才能の見つけ方」(Amazonより)
3-3. 精神科医・斎藤学流「偽りの自分の見つけ方」
精神科医である斎藤学さんの著書「『自分のために生きていける』ということ」には「偽りの自分の見つけ方」という興味深い考え方の解説が多くあります。
大和書房「自分のために生きていけるということ」(Amazonより)
「自分探しをしたい人」は、「今の自分に満足している人」ではないはずですよね。
きっと「本当の自分はこんなふうじゃない」と日頃の自分に違和感を持っている人が、「本当の自分探し」をしたいのではないかと思います。
「本当の自分」ではなくなってしまっている理由はどこにあるかを探って「偽りの自分」をあぶり出していくことで徐々に「本当の自分」が見つかっていく、というのが斎藤学さんの考え方です。
関係性は親子、兄弟、夫婦、上司と部下など様々でも、「お互いのコントロール合戦となっているパワーゲーム」が「偽りの自分」になる原因になっていることが多いと言い、「パワーゲームから降りる」方法を精神科医として教えてくれています。
○自分の欠点を探し回るのはもうやめよう
○「NO」を言う練習をしてみよう
○あなたを傷つけない他人と触れ合ってみよう
○危険な人間関係から逃げ、「安全な場所」を求めよう
こうした見出しで斎藤学さんは具体例を挙げながら優しく説明してくれます。
「偽りの自分」をやめるために自分に今できることは何かを考えること、実践することは「本当の自分」に向かうことになるでしょう。
この本のタイトル通り「自分のために生きていける」ようになったら、「自分探し」は卒業できるのだと思います。
この本を読んでも不安で仕方ない、もしくは現実の世界で生きていくのに支障があるといった人は、心療内科や精神科の受診も検討した方が良いでしょう。
4. 自分探しは無駄、無意味という見解
自分探しについて否定的な見解を持つ人もいます。それぞれの考えをみていきましょう。
4-1. 「自分の壁」から
養老孟司さんの著書「自分の壁」の帯には「『自分探し』なんてムダなこと!」と表紙のタイトルと同じ大きさで書かれています。
この本は養老孟司さんのベストセラー「バカの壁」の後に著された本です。「自分」について幼い頃から考えていたという養老さんが、医師の免許を取りながらも臨床医にはならなかった理由について「根底では医師になりたくなかった。『好きこそものの上手なれ』というように、好きではないから無理に努力しました。けれどそんな人が医師になってうまくいくことはないでしょうね。事実、僕がそうなったんだと思います」というように「自分」について客観的に書いています。
なぜ帯に大きく「『自分探し』なんてムダなこと!」と書いたのか気になって読み進めると、養老さんが言いたいのは「現実の世の中で役に立たないことはムダ」ということではないかと感じられました。
「『社会が自分を認めてくれない』といって自分探しの旅へ出たり、引きこもったりしたところで、社会はそう簡単には変わらない。だったら、とにかくどんな社会なのかわかるまで社会に出て、そこで自分に何ができるかを見つけていくべきだ」
人によって本の内容に対する受け取り方や感想は違うと思いますが、養老さんが「自分探しはムダ」という意味はこうしたことだと思います。
わかりやすくするために補足すると、例えば政治問題などで「AかBか」と二手に分かれた議論をいつまでも続けるよりも、「Aでやるならどうしたらもっとも良い方法か」と言ったことにエネルギーを使う方が良い、という考え方を持っているのが養老さんです。
つまり、無駄なエネルギーを省いて、結果がもっとも良くなるように動く方が良いという現実的な考え方をされる方なのですね。
自分探しをしている間に世間が変わるかというと、それほど変わらないのは明らかです。そして自分探しの経歴は日本の企業には通用しないこともわかっています。
となると、自分探しは自分が世の中に出るにあたってエネルギーの無駄遣いです。2章に書いた「外こもり」「沈没」といった結果になるとしたら「自分探し」はムダだ、と言いたいのだろうと思います。
4-2. 「自分探しで失敗する人、自分磨きで成功する人」から
元警察官で数々の仕事を経験した後に実業家となり、今は経営コンサルタントとしても活躍している青木忠史さんの著書「自分探しで失敗する人、自分磨きで成功する人。」も自分探しを否定する考え方で書かれています。
この本ではひとつひとつの出来事に対し、「自分探し」「自分磨き」といった見方の違いを解説していくスタイルになっています。
例を挙げましょう。
○一度取り組んだ物事に対しては
【自分探し】自分に合わないことは止めて、自分に合うものを探す
【自分磨き】コツを掴もうと努力する
○自分の欠点を改善するようにアドバイスされたとき
【自分探し】言われてムッとする、あんたに言われたくないと逆切れする
【自分磨き】そもそも、他人にアドバイスをしてもらえないかを常に考えている
○あなたは「話し方」を意識していますか?
【自分探し】基本的に自己中心であり、感情の波がある。説明が主体。
【自分磨き】感情の波がなく、いつも明るく本質的に相手中心で、話していて楽しい。質問が主体。
こんなふうに「自分探し」と「自分磨き」を比較してそれについて解説していくというスタイルなのですが、内容的には青木さん本人の失敗談なども多く含まれ、とても楽しく読めます。
警察官を辞めて職を転々としていた頃の自分は、良いところもあったけれど基本的に「自分探し」だったのだと青木さんは反省しています。
「自分探し」がなぜ失敗なのかというと、ここではないどこかへ行けばうまくいくと考えているからだと感じました。
自分にまったく自信がなくてどうしようもないという人よりも、どちらかと言えば青木さんのように営業成績を残せるなど、ある程度自分に自信がある人だからこそ、まわりの人とぶつかったりうまくいかなくなったりするように思えます。
うまくいかないことを人のせいにする、うまく行かない場所からにげることを「自分探し」、与えられた環境で自分を磨くことを「自分磨き」という言葉で比較しています。
4-3. 「自分探しが止まらない」から
フリー編集者でライターの速水健朗さんの「自分探しが止まらない」は、自分探しを正面から否定している本ではありません。
しかし、主にテレビ番組というメディアから発信されてきた「自分探し」エッセンスを持つ代表作の内容や歴史をはじめとして日本映画やアメリカ映画など「自分探し」にまつわる情報をまとめていく速水さんの文章からはどうしても「自分探し」を勧める空気は読み取れませんでした。
「自分探しを否定したところからスタートしていないけれど、調べていったらこんなふうだよ」という内容の本です。だからこそ、「自分探しをしたい」人の中でもとくに「旅に出たい」「冒険がしたい」というタイプの人にはこうした本を一読してよく考えて欲しいと思います。
新書サイズのあまり厚くはない本に、自分探しに関する多くのテレビ番組、映画、小説、雑誌の記事などの内容と速水さんの考察を凝縮してあるのですが、読み進めると気になる部分も出てきます。レオナルド・ディカプリオ主演の映画「ザ・ビーチ」は気になってすぐにレンタルして見ましたし、高橋歩さんと軌保博光さんについてはまったく知らなかったのですぐに調べてしまいました。
きっとこの本を読んで興味深く感じる部分が、あなたにとって自分探しの情報不足なところだと気付くでしょう。
これから紹介していく「自分探しビジネス」に関連することも書かれています。自分探しをしたいと考える人におすすめの本です。
5. 「自分探しビジネス」に要注意
「自分探し」をしたい人を対象にしたビジネスを「自分探しビジネス」と定義して、注意すべき自分探しビジネスをまとめました。
これ以外にもたくさんの落とし穴がありそうです。気をつけてくださいね。
5-1. 飲食業などでの「やりがいの搾取」
自分探し系の若者達が「夢」などという言葉に乗せられて、労働者として搾取される姿を指して、労働社会学者の本田由紀さんは「やりがいの搾取」という言葉を使っているのだそうです。
また、スタッフに低賃金の代わりに「やりがい」を与えてその気にさせるような傾向を持つ居酒屋を「自己啓発系居酒屋」と速水健朗さんは名付けています。
自己啓発系居酒屋で働く人、とくに時間給で働くアルバイトには学生を含め若い人が多くいます。彼らのすべてが「自分探し」をしているわけではありません。しかし、「なぜそこまで?」と不思議に思うくらい、気持ちの良い笑顔でテキパキ働き、忙しいときには自主的に休憩を辞退します。
そうすることでその居酒屋に「自分の居場所」ができるからでしょうか。自分探しをしながら働けることに喜びを感じるような仕組みがその職場ではできているのかもしれません。
自己啓発系居酒屋では、文字通り開店前の朝礼や年に数回のイベントなどで「夢」を語らせるなどの自己啓発が行われています。
「居酒屋てっぺん」や「和民」などがこうした自己啓発系居酒屋の代表なのですが、経営者が若い人から労働力ややる気を無料で搾取しようと考えているとは思えません。どの経営者も大まじめで自分の会社で働くスタッフを愛し、導いているのだと思います。
どの経営者も、若い頃は苦労して自分探しをして、そして今の地位にいるといった経歴があり、それを従業員に話すことで「夢」を与えているのでしょう。
「お客様のために、低料金で最高のサービスを」ということを、経営者も本気で取り組んでいるのだとすれば、これはもう誰も悪くないとしか言いようがありません。
同じようなことは、アパレル系、美容室系の会社でも起こっています。誰もがハッピーならそれでいい、と考えようとしても何か胸にひっかかるものがあるように感じないでしょうか。
5-2. 共同出版ビジネス
人によっては、アジアなど不便な地域へ自分探しの旅に出ると何もかもが大冒険に感じられ、出版できるような気になるようです。そんな人をターゲットにしているのが「共同出版ビジネス」です。
百田尚樹さんの小説「夢を売る男」ではかなりリアルにこの「共同出版ビジネス」が描かれています。
自費出版ではすべて自腹で本を制作し、売るとしても自分で売らなくてはなりません。そうなると本を出したい人のほとんどは諦めてしまいます。
しかし、「共同出版」という言葉を使い「本屋の店頭に並ぶ」とし、出来上がった本には流通のためのバーコードもちゃんとついているとなれば、ある程度の自費を投じても自分の経験を本にしたいという人は出てくるのです。
実際に、文芸社から2003年に刊行された岩本悠さんの「流学日記」はこうした共同出版という形で3万部も販売されました。文芸社では数百店舗しかない契約書店に長くても1ヶ月置かれるのが通常だそうです。そんな売り方でこの売り上げが立つのは出版界で言うと驚異的な数字だそうです。
「流学日記」は、内容的には大学生だった岩本さんが、自分探しのために1年間休学してアジア、アフリカ、オセアニアを旅するというもの。ボランティア活動に邁進し、成長していく自分を書き綴っています。旅行記と言うよりは自己啓発系の本です。
こうした前例ができてしまうと、ますます「共同出版」の営業担当者は「自分探しビジネス」がやりやすくなり、顧客(著者)を説得しやすくなりますね。
5-3. ネットワークビジネス
ネットワークビジネスは「自分探し」と関係ないようにも見えますが、自己啓発というキーワードで深く結びついています。
齊藤正明さんの著書「『自己啓発』は私を啓発しない」では、上司に怒鳴られてばかりいる自分を、どうにか上司とうまくいくようにしようと努力する著者が様々な自己啓発セミナーを受ける様子が描かれています。
その一部に、「自己啓発セミナーで知り合ったある女性に誘われて喫茶店で会ったところ、ネットワークビジネスの誘いだった。ネットワークビジネスについては断ることはできたが、商品を購入せざるを得なかった」というエピソードがあります。
自分探しをしている人は、現状の自分に自信がないのだと思います。自分探しをしている人が、気が弱いかどうかには関係なく、異様なくらいにポジティブで押しの強いネットワークビジネスの販売員にとっては「鴨が葱を背負っている」ように見えるのかもしれませんね。
5-4. 高橋歩と軌保博光
「高橋歩と軌保博光」とひとくくりにしたのは、ふたりとも「自分探し」をすることでそれをビジネスにすることに成功した『自分探しのカリスマ』だからです。
高橋歩さんは、1995年に刊行されベストセラーとなった「毎日が冒険」の著者です。23歳のとき彼は自叙伝としてこの本を出版しました。
出版しました、と言っても自費出版や共同出版ではなく、高橋さんは自分でサンクチュアリ出版という会社を興したのです。そして販売した「毎日が冒険」は大ヒットし、サンクチュアリ出版は出版社として広く出版物を扱うようになります。
しかし高橋歩さんはこの出版社を人に譲渡して、世界一周の放浪の旅へでかけます。
「毎日が冒険」の内容もそうなのですが、やりたいことに突き進み、夢を叶えてしまうということが高橋さんの人生のようです。
今は沖縄で「ビーチロックビレッジ」という宿泊施設を運営したり、「プレイアースカレッジ」という「秘密講義」や「冒険合宿」のあるスクールを開校したり、自由人という肩書きで自分探しビジネスを成功させています。
「ビーチロックビレッジ」は前身の「ビーチロックハウス」の頃からヘルプスタッフはボランティアで運営されてきました。人件費がもっともかかる日本で、無償で働く人を得ることができるのはビジネスとして理想的です。
自分探しをしている人が無償で働くスタッフとなり、自分探しをしている人がお金を落としていくという理想的なビジネスを作ったのが高橋歩さんなのですね。
軌保博光さんはお笑い芸人としてテレビに出て注目された頃、突然、映画制作に興味を持ち、お笑い芸人を辞めてしまいます。そして、映画の制作費を集めるために路上詩人となりました。
環境保護活動に熱心で2007年には「豪快な号外」という意見広告を配布し、募金活動をしたのですが不透明な部分が多く軌保さんの行う活動を不審に思う人も多くいたようです。
また、軌保さんはアムウェイやナチュラリープラスの愛用者であると公表してネットワークビジネスを正当化する意見を述べています。
こうしてみると、「ネットワークビジネス」「自己啓発」「自分探し」はどうしてもつながってしまうキーワードのようですね。
「自分がやりたいことをやって、それが仕事になっている」という理想的な生活を送っているこの二人に、なぜかダークサイドがチラチラと見えてしまうように感じてしまうのはなぜでしょう。自由に生きることができないと思い込んでいる私たちの、ただの僻みでしょうか。
5-5. 各種自己啓発セミナー
自己啓発セミナーはその料金や内容にかかわらず、自分探しビジネスと言って差し支えないと思います。
それは、自己啓発セミナーがインチキだとかぼったくりだとかいう意味ではありません。
自己啓発セミナーはその内容が幅広く、受講金額も数千円から数百万円までと差があります。自分探しをしている人はおそらく、自己啓発セミナーに興味を持つことでしょう。
自己啓発セミナーにはもちろん、良心的なものもたくさんあります。効果は受け取る人によっても違うでしょうから一概に比較はできませんが、受講した後はやる気が出て迷いがなく、清々しい気持ちになれることが多いようです。
しかし、麻薬同様に「気持ち良い」状態はいつか終わり、また日常生活を始めると刺激が欲しくなるため繰り返し自己啓発セミナーを受講してしまうという傾向があるのだそうです。
そうしたことから、それぞれの講師には全く悪気がなくて料金的にも適正で確かに受講後やる気が出たとしても、つまり良い自己啓発セミナーだとしても、自分探しをする人をターゲットにしたビジネスだと言えるでしょう。
6. まとめ:自分探しは青い鳥探しのようなもの
メーテルリンクの「青い鳥」という童話をご存じでしょうか。
あるクリスマス前夜、貧しい木こりの息子チルチルとその妹ミチルが「思い出の国」「幸福の国」「未来の国」へ青い鳥を探しに行くという物語です。
ふたりが見つけた青い鳥は、持ち帰ろうとすると死んでしまったり色を変えてしまったりします。そしてクリスマスの朝、母親に起こされた二人は、自分の部屋に青い鳥がいることに気付いたのです。
「青い鳥」は幸せの象徴と言われ、「幸せは探しに行っても見つからないけれど、気付けば自分の近くにある」ということをこの童話は教えてくれます。
自分探しを否定している著者について4章で述べましたが、彼らはこうしたことが言いたかったのではないかと思います。
現状に不満だからといって「ここではないどこかへ」「本当の自分になりたい」というふうに日本から逃げたり、社会から逃げて引きこもったりする「自分探し」では自分は見つからないのかもしれません。
青い鳥が見知らぬ世界ではなく身近な家の中にいたように、本当の自分は今の自分から目をそらさずに、現在身の回りにある環境から逃げずに自分探しをするならきっと、自分が見えてくる、自分が見つかるのだと思います。
そしてその「自分探し」の方法は、「体験」として視野を広げるために海外へ行ってみるのもいいですし「探求」として本を読んだり考えたりすることでもいいでしょう。
「体験」をすることで自然と「探求」していることもあるはずですし、「探求」することでどうしてもしたいという「体験」が出てくるはずです。
「自分探し」の方法は「自分が知らないことを知る」ということ。
これから先の人生で「自分はこれだけは譲らないというもの」が見つかったり「自分はこう生きる」ということが決められたりするようになれば、他人が自分をどう判断してもかまわなくなり、自由に生きることができるようになるでしょう。
【参考書籍】
「自分探しが止まらない」速水健朗 (ソフトバンク新書)
「『自己啓発』は私を啓発しない」齊藤正明 (マイナビ新書)
「人生の目的」本田健 (大和書房)
「メンターと出会う法」本田健 (大和書房)
「自分の才能の見つけ方」本田健 (フォレスト出版)
「大好きなことをやって生きよう!」本田健 (フォレスト出版)
「自分さがしの旅」齊藤一人 (KKロングセラーズ)
「自分探しで失敗する人、自分探しで成功する人」青木忠史 (カナリアコミュニケーションズ)
「自分の壁」養老孟司 (新潮社)
「『自分のために生きていける』ということ」斎藤学 (大和書房)
「アドラー心理学入門」岸見 一郎 (KKベストセラーズ)
「嫌われる勇気」古賀史健 岸見 一郎 (ダイヤモンド社)
「夢を叶えるゾウ(2・3)」水野敬也 (飛鳥新社)