長い妊婦生活を経て大変な出産を終えてほっと一息ついたのも束の間、腰痛や股関節痛、もしくは尿漏れなどに悩まされる女性は少なくありません。
どこか特定の場所が痛くなくても、なんとなく不調を感じる人も多いことでしょう。
そんな痛みや不調は、妊娠出産で変化した骨盤が原因かもしれません。
骨盤と骨盤底筋群の仕組みを知り、産後骨盤矯正の大切さを確認してみましょう。
さらに今回は大阪市住吉区にある長崎はりきゅう接骨院・院長の長崎龍先生に骨盤矯正の気になるポイントを教えていただいたのでご紹介します!
新生児育児をしながら、自分でエクササイズなどを取り入れてケアするのはとても難しいことです。
ぜひ、気分転換を兼ねて骨盤矯正に挑戦してみませんか?
目次
1. 骨盤と骨盤底筋群について知ろう
1-1.骨盤の仕組みと働き
1-2.骨盤底筋群の仕組みと働き
1-3.産後骨盤ケアをしないとどうなるの?
2. プロに聞く!産後骨盤矯正のポイント
2-1.産後骨盤矯正で期待できる効果
2-2.骨盤ベルトの効果
2-3.治療院はどうやって選べばいい?
2-4.通院期間の目安
2-5.帝王切開でも骨盤矯正は必要?
2-6.保険適用になる症状は?
2-7.長崎龍先生からのアドバイス
1. 骨盤と骨盤底筋群について知ろう
女性の骨盤は子どもを産むための器官と言っても過言ではないほど、出産において大きな働きを担います。
その大きな働きのため、骨盤は妊娠出産で大きく動くことをご存知でしたか?
まずは、女性の骨盤や骨盤底筋群の仕組みを知り、産前産後のケアの必要性を知っておきましょう。
1-1.骨盤の仕組みと働き
骨盤は、腸、子宮、膀胱、卵巣などの内臓をぐるっと囲んでいます。
大切な臓器を収納する上に体を支える大事な役割も持っています。
男性の骨盤は幅が狭くて縦長で頑丈なことに比べ、女性の骨盤は幅が広く横長です。
さらに女性の骨盤周辺の関節は柔らかく自由度が高いのですが、構造がもろくできています。
実は「骨盤」はひとつの骨を指すのではなく、以下の4つの骨の総称を指します。
〇腸骨…腰の左右に出っ張っていて手で触れる骨。いわゆる「腰骨」。
左右に分かれており、日常生活の中でも開いたり閉じたりする。
〇坐骨…椅子に座った時に座面とあたるお尻の奥の左右の骨
〇恥骨…両ももを閉じて「Y字」にしたところにある。尿道や膣口の前方の骨
〇仙骨…背骨の下の方の尾てい骨のすぐ上にある骨。
骨盤の上の方は背骨につながり、下の方は股関節につながっていますが、骨盤には底がありません。
底が抜けていて、出産時にはこの4つのパーツの関節が緩められ大きく広がって赤ちゃんの通り道となります。
ちなみに、そもそも女性の骨盤は妊娠・出産に関わらず日々開閉を繰り返していて、朝になるにつれて閉じて目覚めを促し、夜には開いてリラックスを促します。
それに加えて、生理周期にも合わせて動き、排卵を境に約2週間かけて開き、生理が始まったらまた約2週間かけてゆっくり閉じていくのです。
私も出産経験がありますが、産む直前の陣痛は腰の骨がすべて砕かれるような痛みでした。
4つのパーツが大きく広がっていたと考えると納得の痛みです。
1-2.骨盤底筋群の仕組みと働き
骨盤は底抜け状態ではありますが、骨盤の下には、「筋肉のガードル」とも呼ばれる「骨盤底筋群」という5~10センチの厚みがあるハンモックのような筋肉が配置されています。
そして、そのハンモックの上の骨盤内には子宮や卵巣、腸などの重要な臓器がおさまっているのです。
横から見ると、骨盤底筋群は恥骨から仙骨の部分までをつないでおり、臓器を支えるだけでなく、排便・排尿のコントロールや膣を締め付ける働きを持っています。
この骨盤底筋群が固くなっていると、骨盤の開閉が上手にできなくなり骨盤内の血流が滞るため、いらない老廃物の排出がうまくできません。
そうなると月経不順や月経痛、子宮内膜症などの原因となります。
さらに妊娠中の骨盤底筋群は最終的に赤ちゃんや肥大した子宮など、5キロ近いものを支えることになります。
そして、さんざん赤ちゃんを支えてきたこの骨盤底筋群は、出産時に骨盤が広がる関係で引きのばされて、赤ちゃんが産道を通る際には一部裂けてしまうことも。
出産のときも骨盤底筋群の柔軟さが非常に重要で、柔軟さがあれば陣痛に合わせて子宮口がスムーズに開き、ダメージも少なく済み、産後の回復も早くなります。
そのため、産前から骨盤周りを柔軟にして、滑らかにしておくことはスムーズなお産を助けることになるでしょう。
1-3.産後骨盤ケアをしないとどうなるの?
基本的には、授乳を始めると子宮が収縮し、静かに寝ている時間を長くすれば骨盤はだんだんと閉じ、骨盤底筋群も自然と復旧します。
昔から産後ひと月たって床上げするまではゆっくり休むようにと言いますが、これは理にかなったこと。
歩き回っていては垂直方向に負担がかかるため、開いた骨盤や損傷した骨盤底筋群へのダメージが回復されません。
開いたゆるゆるの骨盤のままでは正しい姿勢を支えることも難しくなります。
その上、骨盤底筋群は排便や排尿のコントロールをしているので、この骨盤底筋群が損傷することによって、尿漏れや痔、おなら漏れや便漏れという深刻な悩みにつながることもあるのです。
これらの症状は妊娠中や出産直後から出る人もいますが、中には10年以上たって顕在化する人も少なくありません。
出産を経験していない40代の女性のうち34%が尿漏れを経験している一方、出産経験がある40代女性では実に57%が尿漏れの悩みを持っているという報告もあります。
深刻なケースでは買い物袋を持っただけで尿漏れしてしまうようなケースもあるのです。
実はこの尿漏れも、いったん尿漏れが起こってからケアするのでは根本的な改善は難しいといわれています。
もちろん、帝王切開でも同様。
たとえ、産道を通らなかったとしても妊娠期間中ずっと5キロもの重いものを支えた骨盤底筋群は大きなダメージを負っています。
産後に適切にケアをすることが重要なのです。
2.プロに聞く!産後骨盤矯正のポイント
妊娠出産で骨盤に大きな負担がかかることをお伝えしました。
そこで、産後には骨盤を元に戻してあげることがとても大切になります。
自分で骨盤を戻そうと思っても、育児で忙しいお母さんは中々自分でエクササイズなどをするのも難しいものですよね。
そんな時はプロに骨盤矯正をお願いしてみませんか?
さまざまな情報が出ている中で、正しい知識を見つけるのはとても難しいことです。
今回は大阪市住吉区の「長崎はりきゅう接骨院」の院長で、柔道整復師、はり・きゅう師の長崎龍先生にお話を伺いました。
2-1.産後骨盤矯正で期待できる効果
出産後に骨盤が開いたままだと、体にゆがみが起こり色々な不調の原因となります。
骨盤の関節である仙腸関節は一番じん帯が多く、出産時にホルモンの影響で開くことで産道ができますが、その仙腸関節を治療し、閉めていくことが産後骨盤矯正の大きな目的です。
そのため、腰痛や股関節痛といった骨盤に近い所の痛みの解決が一番期待できる効果になります。
次に、ひざ痛や足周辺の痛みが和らぐことが期待できるでしょう。
さらに、骨盤矯正をある程度続けていくと、体のバランスが戻ることにより、首や肩のこりにも徐々に効果が出ることがあります。
また、骨盤の位置を治すことにより、内臓の位置も戻るので、内臓の働きを助け、体重減少につながることも期待できます。
基本的には2~3キロの体重減少は期待できますが、産前からの体質を変えられるわけではないため、個人差が大きいのが現実です。
もちろん、骨盤の傾きが変わるため、見た目にも効果を感じられるでしょう。
2-2.骨盤ベルトの効果
産院でも産前産後に骨盤ベルトを勧められることが多いですが、本当に効果があるのか気になりますよね?
実は、骨盤ベルトの効果については統計やデータがあるわけではないので、実際の骨盤ベルトへの評価は分かれているので、効果の有無について断言することは非常に難しいです。
強いて言えば、さらしのように骨盤全体を覆ってまくようなものであれば、骨盤をしめることに効果的だと言えます。
しかし、幅の細いものに関しては「骨盤をしめる」という効果においては薄いように思われます。
ただ、毎日巻くことにより、自分自身で骨盤を意識することができるため、その面だけでも効果はあるといえるかもしれません。
2-3.治療院はどうやって選べばいい?
最近はあらゆる治療院で「骨盤矯正」を行っているので、治療院選びに迷うことが多いと思います。
長崎先生のおすすめは「あまりパキパキしないところ」。
パキパキと音が鳴るような施術は、その場の変化は実際劇的によくなるのですが、関節に負担がかかるというデメリットがあります。
そのため、逆に術後に痛めてしまうというリスクもあるため、避けた方がいいかもしれません。
また、産後骨盤矯正ということで、赤ちゃん連れで通わなければいけない場合も多いと思います。
最近はキッズスペースを完備していたり、子連れに対応している治療院も増えているので、気になる治療院があれば、問い合わせてみましょう。
子どもと一緒に通えば、安心して時間を気にせずにゆったり施術を受けられるかもしません。
2-4.通院期間の目安
通院期間の目安は、院によってまちまちですが、今回お答えいただいた長崎先生のいらっしゃる「長崎はりきゅう接骨院」は産後1か月頃から施術可能です。
悪露が終わった後速やかに施術を開始した方が体は楽になっていきやすいです。
そして、早めに施術を始めることで赤ちゃんが活発に動く前に施術できるため、さらにしんどくなる時期が来る前に回復します。
楽になったからだで育児に取り組めることも早めの施術の良い点です。
症状によって、施術が必要な期間の長さは変わりますが、だいたい2~3か月で目処が立つ人が多いです。
2-5.帝王切開でも骨盤矯正は必要?
帝王切開であっても、妊娠期間中に赤ちゃんを支えていた骨盤は開いていますし、ホルモンは普通分娩と同じように出ているため、骨盤は開きます。
そのため、骨盤矯正は帝王切開であっても体調の改善に有効です。
正しい帝王切開の場合は、傷の痛みがなくなってから施術を受けてください。
2-6.保険適用になる症状は?
整骨院では急な痛み(捻挫や打撲、骨折、脱臼など)や同じ動作の繰り返しで負傷した場合保険適用になります。
産後の育児中の方の症状を具体的に言えば、
◎お風呂に入れていて腰を痛めた
◎抱っこしすぎて腰を痛めた
など原因がはっきりしている場合には保険適用の施術を受けることができます。
ただ、自己判断が難しいと思うので、一度整骨院に問い合わせしてみることをお勧めします。
骨盤矯正に関しては、基本的にはそれぞれの施術院独自の施術になるため、自費施術になることが多いです。
また、それぞれの院によって金額や回数も違うため、気になる院があればまずは直接問い合わせてみましょう。
2-7.長崎龍先生からのアドバイス
出産後の母体はかなりダメージを受けている状態です。
その状態で育児するので痛みが出ることは当然と言えます。
ですので、もしも周りにサポートできる方がいれば、育児自体を手伝ってもらうほかに、お母さんの体をケアする時間を作ってもらうことも大切です。
お母さんの体が楽になれば、より楽しくこれからの育児をすることができるでしょう。
産後のケアや骨盤矯正は、すべてのお母さんにお勧めしたい大切なケアです!
まとめ
いかがでしたか?
妊娠出産で酷使した上に、慣れない姿勢での新生児のお世話は想像以上の辛さがあることでしょう。
さらに、産後に骨盤や骨盤底筋群のケアを怠ると、すぐに影響はなくても10年20年経って深刻な状態になります。
出産後は育児に追われ、なかなか自分のケアをする余裕がないことがほとんどです。
そんな時こそ、治療院へ行って骨盤矯正を受けてみましょう。
私自身も今回お話を聞かせて頂いた長崎はりきゅう接骨院にて産後の骨盤矯正の施術を受けました。
肩こり、腰痛はもちろん、出産を機にばね指になり、さらには立ち上がるのがつらいほどのかかとの痛みに悩まされていました。
しかし3か月ほど治療していただいた結果、それらの痛みとサヨナラすることができました。
自分のためにお金と時間をかけることに罪悪感がうまれやすい時期ではありますが、万全な体調で育児に取り組むことが自分自身はもちろん、大切な赤ちゃんのためであることをすべてのお母さんに知って頂きたいです。
体の不調をなくして心に余裕をもって育児を楽しんでみませんか?
【参考資料】
『やさしくわかる 月数別 はじめての妊娠・出産』 井上裕子(監修) 西東社 2016年
『産後の骨盤レッスン―引き締めプログラムで美しいママになる!』 立花みどり 大泉書店 2009年
『女医が教える これでいいのだ!妊娠・出産』 宋美玄 ポプラ社 2013年
<取材協力>
長崎はりきゅう接骨院 柔道整復師、はり・きゅう師 長崎龍先生