パラベンというのは、化粧品に入っている防腐剤の一種です。80年以上前から、化粧品の品質を保つために使われてきました。
しかし、人によっては肌トラブルを起こす可能性があるとされ、何となく悪いイメージを抱いて避ける人も少なくありません。「パラベンフリー」と表示して、パラベンが入っていないことを売りにする化粧品もあります。
実際のところ、どうなのでしょう。パラベンは避けた方が良い物質なのでしょうか?
それとも心配せず使って良いのでしょうか?
パラベンの効果と注意点を、一度正しく把握してみませんか?
目次
2. パラベンとは何か
2-1. パラベンには複数の種類がある
2-2. 少ない配合量で、高い効果が期待できる
2-3. 酸性でもアルカリ性でも可
3. パラベンはなぜ避けられがちなのか?
3-1. 「表示指定成分」が生んだ誤解
3-2. 人体への危険はどれくらい?
4. パラベンフリーは、防腐剤不使用ではない
4-1. フェノキシエタール
4-2. 1,3−ブチレングリコール
4-3. アルコール
4-4. その他
1. 化粧品に防腐剤が必要なわけ
まず最初に知っていただきたいのは、化粧品も劣化するということです。工場で生産され、流通する間に何日もかかりますし、運ばれている間、店に並んだ後などは、温度が一定とは限りません。
何より注意したいのは、私たちが使い始めてからの管理の問題です。日光や温度による劣化、手指を介して入る雑菌、空気に触れて起こる酸化など、身近な原因で化粧品の品質は変わってしまいます。特に水性成分の中は雑菌が繁殖しやすく、腐ったり、カビが生えたりと変質しやすいのです。
これをできるだけ防ぐために、市販品には大抵、防腐剤が添加されています。防腐剤を使わないと品質が不安定になりやすく、かえって危険という面もあるのです。
この、化粧品防腐剤としてよく使われているのが、パラベンです。
2. パラベンとは何か
パラベンは、正式名称をパラオキシ安息香酸エステルといいます。無色、または白色の結晶性粉末です。人体に対する毒性が低く、微生物やカビなどの菌類を排除するのに効果的なので、化粧品や医薬品によく使用されています。殺菌力が強いものから弱いものまで、パラベンの中にもいろいろ種類があり、総称して「パラベン類」といいます。
2-1. パラベンには複数の種類がある
化粧品によく使われるパラベンは、5種類ほどです。殺菌力の高い方から順に並べると、イソブチルパラベン→ブチルパラベン→プロピルパラベン→エチルパラベン→メチルパラベンとなります。それぞれどの微生物や菌に強いか、水に溶けやすいか油に溶けやすいかなど、得意不得意が多少違います。そのため、一種類だけを使うのではなく、大抵は数種類のパラベンを組み合わせて殺菌効果を高めます。
ヨーロッパでは、複数のパラベンをある効果的な比率で混ぜた、「パラベンカクテル」が化粧品の原料として使われています。昔は日本でも売られていましたが、あまり好まれなかったようです。
日本で化粧品によく使われるのは、エチルパラベンやメチルパラベンです。パラベンの中では効果が穏やかな分、肌への刺激も少なく安全性が高いので、医薬品や食品の保存料としても使われています。
2-2. 少ない配合量で、高い効果が期待できる
厚生労働省が定める「化粧品基準」というものがあります。薬事法に基づくもので、化粧品に使われる成分の、配合上限などが記されています。
この基準によるパラベンの配合率上限は、1%(100gに対して1.0g)です。実際に市販されている化粧品では、ほとんどの製品において0.1~0.5%という低めの配合率になっているようです。
他の防腐剤だと、もっと高い配合率でないと効果を発揮しないものも多くあります。
パラベンは少ない量で確かな効果が期待できます。
2-3. 酸性でもアルカリ性でも可
パラベンは、アルカリ性のものに配合されても、酸性のものに配合されても、変わらず効果を発揮します。
3. パラベンはなぜ避けられがちなのか?
少量で効果がある上に、食品にも使用される毒性の低いパラベン。多くのものに使われるのも当然のことでしょう。
ところが、やけに目につくのが「パラベンフリー」の表示です。パラベン不使用をうたって、安全を強調している商品が多くあります。
なぜ数ある防腐剤の中で、パラベンだけが悪者のように避けられているのでしょうか。
これは過剰な「イメージ」の問題です。
3-1. 「表示指定成分」が生んだ誤解
1980年に、厚生省(現厚生労働省)が「表示指定成分」というものを定めました。
体質によってはアレルギーなどの皮膚トラブルを起こすおそれがある103種類の成分のことで、これらを化粧品に配合するときは、パッケージに記載することが義務づけられていました。
パラベンも、この表示指定成分に含まれています。
ところがこの指定成分が、いつの間にか「避けたい危険なもの」扱いされるようになりました。
よく使われる防腐剤パラベンは、表示される機会も多く、何となく悪い印象になってしまったのです。また逆に、表示指定成分さえ入っていなければ安全、という勘違いも生まれました。
人によっては、指定成分以外のものでアレルギーを起こすこともあります。
そこで、特定の成分だけを表示するこのやり方は2001年に廃止され、代わりに、化粧品に配合されている全成分の名称を表示する「全成分表示」が義務になりました。
3-2. 人体への危険はどれくらい?
人によっては肌が荒れるというアレルギー反応の他に、パラベンには危険性はないのでしょうか。
高濃度のパラベン溶液を人の肌に直接塗ったり、ウサギに点眼した場合などに、わずかな刺激があったという報告は、散見することができます。
しかし、薄めた溶液を繰り返し塗ってみる、というような実験では、刺激はほとんどみられません。
複数の実験結果を見ると、パラベンは毒性が低く安全、といえます。
1990年代後半、生物の内分泌を攪乱する化学物質が問題視された時期があります。
その時パラベンにも疑いの目が向けられましたが、人体への有害性を示す報告はあがりませんでした。
また2004年には、パラベンが乳がんを誘発するのではないかという医師の報告が注目されましたが、これには反論も多く寄せられ、確証には至っていません。
パラベンは危険だ、という声は定期的にあがりますが、それを強く裏付ける実験結果はないのです。
4. パラベンフリーは、防腐剤不使用ではない
事実はどうあれ、悪者のイメージがついてしまったパラベンを避けようとする人は多いものです。そこで化粧品を作るメーカーは、パラベンを使わずに品質を保持する配合を考え、パラベンフリー(パラベン不使用)と表示した商品を出すようになりました。
もちろん、本当にパラベンでアレルギーが出てしまう人にとっては、良い傾向です。でも、「何となくパラベンフリーの方が安全な気がする」と感じるなら、要注意。
パラベンフリーの化粧品は、あくまでもパラベンが配合されていないということで、防腐剤が入っていないわけではありません。
最初に説明した通り、化粧品は雑菌が繁殖しやすいものです。特に家庭では大抵常温保存するので、細菌の温床になります。
これを防ぐためには防腐剤が必要で、パラベンフリーの化粧品にも、何か別の防腐剤が配合されていることが多いのです。
パラベンの他によく使われる防腐剤を見てみましょう。
4-1. フェノキシエタール
パラベンの代わりになる防腐剤として、パラベンフリーの化粧品によく使われています。緑茶由来の成分なので、天然由来=安全というイメージがあるかもしれません。
ですが、パラベンより殺菌力が劣るため、単独で配合する場合はパラベンの約3倍の配合量が必要となります。また、配合率が4%以上になると、皮膚への刺激となることが分かっています。
4-2. 1,3−ブチレングリコール
乳液やクリームなどによく用いられる成分です。
単体で防腐効果を高めるには10%以上の配合が必要になるため、この成分でかぶれる人もいるようです。
成分表示上、1.3BGと略して記されることもあります。
4-3. アルコール
化粧品に使われるのは、飲料にも含まれる「エチルアルコール」です。
成分表示上は「エタノール」と記載されます。
肌を引きしめる収斂効果など複数の効果があり、化粧品によく配合されていますが、防腐剤としての効果を出すには10%以上の配合が必要です。
アルコールに弱い人は、これでかぶれることがあります。
4-4. その他
他にも、安息香酸Na、デヒドロ酢酸Na、ヒノキチオールなどが、防腐剤としてよく使われます。ヒノキチオールはヒノキ由来の、殺菌力の高い植物成分です。自然なイメージのある名前なので、防腐剤不使用をうたう製品に使われたりします。
どの防腐剤も、単独で大量に混ぜられることはほぼありません。
化粧品基準にそって、安全な規定量内に抑えられています。
また、パラベン自体も数種組み合わせることで、以前より平均濃度を下げられるようになっているとのことです。
5. 化粧品以外への使用
パラベンが使われているのは、化粧品だけではありません。
たとえば医薬品。1924年に初めて医薬品の防腐剤として使用され、今も多くの医薬品に配合されてきています。
また、食品にも保存料として使われています。
日本ではエチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベンなどが、醤油や酢、清涼飲料水などの特定の品物についてのみ、配合が認められています。
使用できる量も厳密に決まっています。
まとめ
化粧品を長期にわたって、安定した品質で使用するために、防腐剤はある程度避けられないものです。
パラベンは防腐剤の中でも、低刺激で安全に使える成分です。何となく避けた方が良いように思ってしまうのは、かつて表示指定成分として記載され続けた影響でしょう。
ごく稀にアレルギー反応の出る人はいますが、その心配がない人は、安心して自分好みの化粧品を使ってください。
【参考資料】
『ウソをつく化粧品』 小澤貴子 フォレスト出版 2015年
『医師・医療スタッフのための化粧品ハンドブック』 平尾哲二 中外医学社 2016年
『化粧品成分表示のかんたん読み方手帳』 久光一誠(監修) 永岡書店 2017年