スーパーの棚を見るといろいろな油が並んでいます。その中に「紅花油」が並んでいるのを見たことはありませんか。
紅花油はかつて健康にいい油として注目され、贈答用としても人気でした。ところがある時期、アレルギーや重大な病気を引き起こすと危険視されてしまいます。
その理由は、紅花油の成分「リノール酸」にあります。
そして今、紅花油の成分は大きく変わって、「オレイン酸」が主成分になっています。
高リノール酸タイプと、高オレイン酸タイプ。同じ紅花油でも、成分割合が正反対のものがあるのです。
どこがどんなふうに違うのか、紅花油の魅力を改めて見てみましょう。
目次
1.紅花油の読み方は?成分は?
2.油の主成分は脂肪酸
3.脂肪酸には種類がある
3-1. オメガ3系脂肪酸
3-2. オメガ6系脂肪酸
3-3. オメガ9系脂肪酸
4.紅花油はオメガ6系からオメガ9系へ
5.ハイオレイック紅花油の効能
6.紅花油を選ぶポイント
7.紅花油の価格は?
8.紅花油を料理に使う
8-1. 炒め物や揚げ物に使う
8-2. 和え物やドレッシングに加える
8-3. 汁物にひとさじ加える
8-4. ヨーグルトやアイスクリームと一緒に
8-5. お菓子作りにもおすすめ
9.紅花油でアロママッサージ
10.工作のオイルフィニッシュにも最適な紅花油
まとめ
1.紅花油の読み方は?成分は?
紅花はキク科の一年草です。原産地は地中海沿岸。日本での産地は山形県が有名です。古くから花弁の色素が染料として利用されてきました。
紅花油(ベニバナユ・ベニバナアブラ)は、この花の種を絞って取り出します。色が淡く風味にも癖がないので、生のままドレッシングなどに使われることも多いようです。ビタミンEが含まれており、強い抗酸化作用で病気予防や老化防止の効果が期待できます。
また、以前は「リノール酸」という必須脂肪酸を80%以上含んでいました。リノール酸は、1960~1980年代頃に摂取が推奨されていた成分です。健康に良いということで、当時は贈答用としてとても人気でした。
今は品種改良の結果、「オレイン酸」を多く含むものがメインになっています。
ちなみに、紅花油は英語で「サフラワーオイル(Safflower oil)」と言います。「サンフラワーオイル」と言い間違いやすいのですが、こちらの意味はひまわり油ですからご注意を。
2.油の主成分は脂肪酸
紅花油の特徴として挙げられる、リノール酸やオレイン酸とはどんな成分なのでしょう。それを知るためには、油に含まれる「脂肪酸」について、少し専門的な話をする必要があります。
私たちが普段食事として口にする油は、主に「グリセリン」と「脂肪酸」という成分で構成されています。
脂肪酸にはいくつも種類があり、細胞膜やホルモンを作ったり、エネルギー源になったりと、体内でそれぞれ違った働きをします。脂質が不足するとこれらの働きに支障が出てしまうので、ダイエットなどで油を制限しすぎるのはよくありません。
3.脂肪酸には種類がある
脂肪酸はまず、大きくふたつのグループに分けることができます。飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸です。
飽和脂肪酸は常温では固体になります。肉の脂身やバター、ココナッツオイルなどが飽和脂肪酸です。不飽和脂肪酸は常温では液体です。魚油や植物油などが不飽和脂肪酸です。
さらに不飽和脂肪酸は、一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸という、ふたつのグループに分けられています。これは原子の繋がり方(炭素原子の二重結合の有無、二重結合の個数)の違いによるものです。
最近油脂の説明でよく見かけるようになった、「オメガ6」や「オメガ9」といった表記も、脂肪酸の分類方法です(炭素原子の二重結合の位置に注目した、より詳細な分類方法)。紅花油などの商品説明でよく見かける、オメガ3系とオメガ6系は多価不飽和脂肪酸グループ、オメガ9系は一価不飽和脂肪酸グループになります。
3-1. オメガ3系脂肪酸
血液の流れを良くする作用があります。血栓や動脈硬化、ガンや高血圧を防ぐ効果があると期待されます。また、抗うつ効果もあるとされます。ただし酸化しやすく熱に弱いので、強い加熱処理を避け、鮮度の良い油を摂るよう気をつけます。
主なオメガ3系の脂肪酸……α-リノレン酸、EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)
3-2. オメガ6系脂肪酸
体内で代謝され、子供の成長に欠かせない脂肪酸になります。アレルギーや月経前症候群を緩和し、血糖値を下げて糖尿病を予防する効果もあります。しかし、摂りすぎると逆にバランスを崩してアレルギーを悪化させ、脳卒中や発がんのリスクを上げるとされます。
現代日本の食生活ではあまり不足しません。むしろ過剰摂取に注意したい脂肪酸です。
主なオメガ6系の脂肪酸……リノール酸、γ-リノレン酸
3-3. オメガ9系脂肪酸
体内でも生成され、エネルギーなどに使われます。皮膚の老化を防ぎ、血管を丈夫にします。また、便秘の改善にも効果があるとされます。酸化しづらく熱にも強いので、加熱料理に向いています。
主なオメガ9系の脂肪酸……オレイン酸、エイコセン酸・ミード酸
一価不飽和脂肪酸(オメガ9系など)は必要に応じて体内でも生産されますが、多価不飽和脂肪酸(オメガ3系・オメガ6系)は生産できません。生命の維持に不可欠なのに体内では作れず、食事から取り入れるしかないこの脂肪酸を、「必須脂肪酸」と呼びます。
4.紅花油はオメガ6系からオメガ9系へ
紅花油の特徴として挙げられる、リノール酸やオレイン酸とは何か、おわかりいただけたでしょうか。これらは人体に必要な脂肪酸の種類なのです。
そして、以前の紅花油と現在流通している紅花油とでは、含まれている脂肪酸の割合が違います。
かつての紅花油は、リノール酸の含有率が高い油でした。
リノール酸は、動脈硬化などを引き起こす悪玉コレステロールを減少させるとして、以前は摂取が推奨されていました。しかし研究が進んだ結果、リノール酸を摂りすぎると、血管を保護する善玉コレステロールまで減らしてしまうことが判明します。アトピーなどのアレルギーを悪化させたり、ガンや心筋梗塞、脳卒中になる危険性がかえって高くなるというのです。
リノール酸はスナック菓子やマーガリン、マヨネーズなどによく使われている他、肉や卵など他の食品にも含まれているため、現代日本の食生活ではあまり不足しません。過剰摂取は控えるべきという認識が、1990年代から徐々に広がります。
しかし、現在流通している紅花油の多くはリノール酸の量が大幅に減り、オレイン酸の含有量の方が多くなっています。
これは原材料にしている紅花の品種改良が進んだからです。
5.ハイオレイック紅花油の効能
現在の紅花油の原料は、主にオレイン酸の多い品種を使っています。1957年に発見された変種をさらに品種改良したものです。リノール酸の過剰摂取を戒める声に後押しされ、今までの高リノール酸タイプから高オレイン酸タイプ(ハイオレイック)へと、市場の流れも変わりました。
今流通しているハイオレックの紅花油は、オレイン酸の含有量が約80%、リノール酸が12~14%、あとは他の脂肪酸という割合です。
オレイン酸には、善玉コレステロールはそのままに、悪玉コレステロールだけを減らす作用があります。血栓や脳卒中、心筋梗塞やがんなど、重大な病を予防してくれます。
また、胃腸の蠕動を促すので、便秘の解消にもつながります。胃に留まる時間が短く、胃酸分泌をコントロールして消化吸収を助けてくれるため、胃もたれや胸焼けを改善し、胃潰瘍の予防にも効果が見られます。
熱に強く酸化しづらいので扱いやすく、日常的な炒めものや揚げ油に向いています。
さらに、紅花油にはビタミンEも含まれています。抗酸化作用によるシミやシワの防止、冷え性の緩和など、美容やアンチエイジング効果も期待されています。
ハイオレックの紅花油は良い油ですが、とはいえ、むやみに摂りすぎるのはカロリーオーバーにつながります。私たちは肉の脂身やナッツのように、意識せずに摂っている油分も多いのです。サラダにかけたり、和えたりして意識的に使う油の量は、成人男女ともに、1日大さじ2~3杯にとどめましょう。
6.紅花油を選ぶポイント
紅花油を選ぶときの注意点は、まず第一に「ハイオレイックタイプ」を選ぶことです。今はこちらの方が主流ですが、念のため、購入する際は表示を確認しましょう。
もうひとつ、注目してほしいのが製造方法です。
紅花に限りませんが、植物の実や種から油を絞るときには、主に二種類の方法があります。溶剤抽出法と圧搾法です。
溶剤抽出法とは、食品添加物として認められている溶剤に原料となる実や種子を晒し、油分を溶かし出す方法です。高温精製する途中で溶剤は取り除かれます。
油分の99%を絞り出すことができるので効率的で、安価な油を提供することができます。その反面、体に有害なトランス脂肪酸(心臓病などのリスクが高まる)を発生させる危険性があります。高熱処理を経るので、熱に弱い成分も壊れてしまいます。
圧搾法は、文字通り圧力をかけて油を搾る製法です。原料に一気に圧力をかけると、70~80℃の摩擦熱が生じます。この熱の助けを借りて、油を搾るのです。含まれている油分の70%ほどが搾り取れるといいます。
しかしこの高い摩擦熱が栄養素を壊してしまうため、せっかくの素材の良さが半減するのが難点です。
そこで選んでほしいのが、第三の方法。低温圧搾製法(コールドプレス)の油です。
摩擦熱が30℃以上にならないよう、原料にかける圧力を調整して、ゆっくりと搾ります。
手間や時間はかかりますが、原料に含まれる栄養素もそのまま油に含まれて出てきます。
商品の表示を確認して、ぜひコールドプレスの紅花油を選びたいものです。
7.紅花油の価格は?
紅花油の平均的な価格は、大体600gで800円~900円くらいです。よく目にするメーカーは、日清オイリオ、創健社、味の素、紅花食品などで、スーパーやネットショップの通販で多少割引されている場合もあります。
紅花の産地などで、小さなメーカーが丁寧に作っている紅花油もありますから、出会ったら試してみたいですね。
8.紅花油を料理に使う
コールドプレスで丁寧に搾られた油は、生鮮食品のようなもの。冷暗所で保存して、開封後は賞味期限に関係なく、早めに使い切りましょう。2ヶ月ほどで使い切るのが理想です。
風味にくせがなく、熱にも強い紅花油は、さまざまな料理に活用できます。
8-1. 炒め物や揚げ物に使う
胃もたれしにくい油なので、ぜひ炒め物や、天ぷら、唐揚げなどの揚げ油として、日常的に活用して下さい。
8-2. 和え物やドレッシングに加える
良い紅花油は、生食をおすすめします。ドレッシングや和え物のタレなどに加えていただきましょう。
8-3. 汁物にひとさじ加える
いくら良い油でも、炒め物や揚げ物が続くのはつらいという人は、味噌汁やスープなどの汁物にひとさじ加えると良いでしょう。適度にこくが出ます。
8-4. ヨーグルトやアイスクリームと一緒に
意外かもしれませんが、ヨーグルトやアイスクリームにひとまわしかけて食べるのも美味しいものです。紅花油は風味やくせがないので、邪魔をしません。
8-5. お菓子作りにもおすすめ
お菓子のレシピには、植物油を使うものもあります。たとえばシフォンケーキ。サラダ油の代わりに、より淡泊な紅花油を使えば、繊細な味わいが引き立つでしょう。
9.紅花油でアロママッサージ
紅花油の使い道は、食べるだけではありません。
もともと紅花には、血行を良くして身体を温める作用があるため、女性の冷え性や生理痛を緩和する漢方薬として用いられてきました。同じように、紅花油でマッサージすると血行が良くなるとして、女性を中心に好まれています。
アロマセラピーでは、紅花油がベースオイル(キャリアオイル)として使われます。精油を希釈し、マッサージしながら肌にしみこませる役割を果たします。紅花油には肌の老化を防ぐビタミンEが含まれていますし、使い心地もさらっと軽いのが特徴です。
ベースオイル用の紅花油も、オーガニックショップなどで販売しています。
紅花油を原料にした石鹸もあります。家で手作りする場合は、高リノール酸(ハイリノール)タイプの油を使った方が鹸化が早いようですが、ハイオレイックの紅花油で作ると、オリーブ石鹸とほぼ同じ性質の真っ白な石鹸になります。適度な保湿効果があります。ただし、紅花油だけの石鹸は崩れやすい、泡立ちにくいといった声もあります。
10.工作のオイルフィニッシュにも最適な紅花油
木工工作の最後に、艶を与えて表面を保護するため、オイルを塗布することがあります。
このオイルフィニッシュという工程にも、紅花油は適しています。
木工用の専門オイルもありますが、たとえば木製の食器やカトラリーは食物が直接触れますから、より安全にと望むなら、食用油を利用するのも良い方法です。とはいえ、油なら何でも良いわけではありません。菜種油やオリーブ油などは不乾性油といって、空気中で乾かないのでいつまでもベタベタします。逆に乾きやすいのは乾性油というもので、アマニ油、クルミ油、そして紅花油もこちらのグループに入ります。
まとめ
紅花油は以前と今とで、成分比率がまったく違います。
以前の紅花油はリノール酸が主成分。食べて取り入れるしかない必須脂肪酸ですが、過剰摂取するとかえって健康を害することがわかったため、一時期は危険視する意見がありました。
しかし、今の紅花油の主成分はオレイン酸です。悪玉コレステロール値だけを下げ、さまざまな病を予防してくれます。決して危険な油ではありません。
紅花油はハイオレイック(高オレイン酸)の、コールドプレス(低温圧搾)されたものを選びましょう。酸化しづらく熱にも強い、使いやすい油です。
【参考資料】
『知識ゼロからの健康オイル』 井上浩義 幻冬舎 2016年
『ホントによく効く 油の正しい選び方・使い方』 守口徹(監修) 日本文芸社 2015年