みなさんは、「習慣」という言葉からどんなことを連想しますか?
「慣わし」や「癖」といったこともあるでしょうし、健康面で取りざたされることが多い「生活習慣」というものもあるでしょう。
「習慣化することで身に着ける」
「悪い習慣を改善する」
一般的にこうした意味で使われる「習慣」という日本語をもっとも端的にいい表すとしたら、「日常の決まりきった行い」ということになりますよね。
ここでは、この「習慣」という言葉の意味から、そのメカニズムまで掘り下げて解説します。
そして、難しいとされている、習慣を変える方法を具体例をあげながら紹介します。
習慣と上手く付き合うことは、幸せな人生を送る秘訣。
ぜひ、この記事で習慣を味方につけるノウハウを役立ててください。
目次
1. 習慣の意味
① 習慣という言葉がもつ3つの意味
② 「癖」との違い
2. 習慣のメカニズム
③ 3段階のループから生まれる習慣
④ 脳は良い習慣と悪い習慣を区別できない
⑤ 習慣がもつ危険性
⑥ 人間には習慣をコントロールする能力がある
3. 習慣を変えて自分を改善する具体例
⑦ ポイントはルーティンを変えること
⑧ 禁煙したいケース
⑨ アルコール依存症の例
⑩ 爪を噛む癖の例
⑪ ギャンブル依存症の例
まとめ
1. 習慣の意味
習慣は英語で表すと、だいたい「habit」という単語になります。
「habit」には、「習慣」以外に「個人のクセ」「動植物の習性」「ありがちな状態や傾向」「社会的な慣習」「体質や気質」といった意味も。
ですから、「habit」は日本語の「習慣」よりも、多くの意味をもっているのです。
英語の「habit」との違いを踏まえながら、日本語の「習慣」という言葉がもつ意味を解説していきましょう。
① 習慣という言葉がもつ3つの意味
広辞苑、大辞林、大辞泉といった辞典の多くは、「習慣」の意味を3点あげています。
・長い間繰り返し行われているうちに、そうすることが決まりのようになったこと。
・その国や地域で普通に行われる社会的な慣わしやしきたり、慣習。
・心理学における個人の行動様式で、学習によって後天的に獲得され、繰り返されることによって固定化されたもの。
このように、習慣には個人的なものと社会的なものが存在します。
社会的な習慣は、とくに「慣習」と呼ばれ、同じことに対する行動でも国や地域で異なるものを指すことが多くなります。
② 「癖」との違い
「長い間繰り返し行われているうちに、そうすることが決まりのようになったこと」という意味では、「癖(くせ)」という言葉も同じであり、「habit」にも共通する部分です。
しかし、厳密にいうと「習慣」と「癖」は違う意味で使われます。
癖は、繰り返されることによって固定化された行動などに見られる「個性」で、単なる行動パターンを意味するものではありません。
「習慣」が、ある環境において必然的に起こる行動パターンであるのに対して、「癖」は、個人の感情に基づいてその行動パターンに表れる個性です。
ネガティブな習慣に対して使われることが多いのも「癖」という言葉の特徴。
例えば、照れ隠しなどで頭をかく癖というのは、何か頭をかく理由である個人の感情が存在するわけです。
英語でも、社会的な意味合いが強い習慣を「custom」、個性としての癖を「habit」と分けて使うことがあります。
2. 習慣のメカニズム
1990年代初頭に、MIT(マサチューセッツ工科大学)で行われた研究では、ラットを使った実験によって、習慣のメカニズムが解明されました。
T字型の底部にラットを置き、突き当りのどちらかに曲がると報酬のチョコレートがある迷路をつくり、ラットがどのような行動をとるか観察したのです。
当初、スタート地点のゲートを開けると、ラットは少し前進してチョコレートの匂いをかいで壁を引っかいたりしていましたが、それがだんだんと前方に進むようになり、突き当りまで行くとチョコレートとは反対の方へ行ったりチョコレートがある方へ行ったり来たりしながら、やがてチョコレートを見つけます。
この実験を繰り返し行っているうちに、ラットがチョコレートにたどり着く時間が短くなっていき、1週間後には、まったくストレートにチョコレートまで行くようになり、これが「習慣化」だという結論に達したのです。
③ 3段階のループから生まれる習慣
ラットがチョコレートにたどり着く一連の行動は、いくつかのものを1つとして記憶する「チャンキング」と呼ばれるもので、これが習慣を形成する要因となります。
このときに脳内で起こっているプロセスは3段階に分けて考えられました。
第1段階は「きっかけ」で、ラットの実験ではゲートオープンにあたります。
第2段階は「ルーティン」と呼ばれ、きっかけに反応して起こる慣例的な行動や思考を指します。
第3段階は「報酬」で、脳が、このループを将来のために記憶に残すかどうか判断する材料となります。
第1段階のきっかけと第3段階の報酬がつながることこそ、習慣形成のベース。
この3段階のループが繰り返されて、きっかけと報酬がつながると、強い期待や欲求が生まれ、やがてそこにひとつの習慣が生まれるのです。
④ 脳は良い習慣と悪い習慣を区別できない
習慣が形成されるのは、脳が楽をしようとする本能からだといわれます。
だから、ひとつの習慣ができると、そのプロセスでは何も考えなくなり、脳はほかのことに力を使うようになります。
自分で習慣に逆らったり、新しいルーティンを見つけたりしなければ、同じ行動パターンが繰り返されることになります。
脳は、こうしてできた習慣に対して、自分にとって良い習慣と悪い習慣を区別することはありません。
ですから、悪い習慣が一度身に着いてしまうと、努力して習慣を変えても何かのきっかけによって、また現れてしまうのです。
運動習慣を身に着けたり、ダイエットを習慣化したりすることが難しい理由はここにあります。
運動するよりもテレビを観ていたい、つい甘いものを食べてしまうという悪い習慣が脳から消えることはありません。
でも、こうした悪い習慣を抑え込む新たなループを意識的につくることによって、優先順位を下げ、無意識で行われる習慣をコントロールすることが可能です。
⑤ 習慣がもつ危険性
習慣は、毎日の暮らしにおいて、脳の負担を軽くしています。
もしも習慣がなかったら、些細なことで悩み続けることになり、ストレスに押しつぶされてしまうでしょう。
朝起きて顔の洗い方、歯の磨き方などをいちいち考えずに行えるのは習慣化しているから。
きっかけが変わらなければ、毎日、無意識に同じ行動をとることができるようになっているわけです。
全行動の4割が習慣化されることによって、脳を楽にしているといいます。
しかし、脳が習慣の楽な部分に頼りすぎると危険な場合が出てきます。
ファストフードの有名な世界的チェーン店では、習慣のループを利用して顧客獲得を行っているといいます。
どの店舗も同じつくりにし、店員の言葉づかいも統一することによって、客はオーダーするルーティンにハマることとなり、提供されるフーズも食べてすぐに脳への報酬をもたらすように、塩分、油分、糖分を多くしてあるのです。
脳が報酬によって快楽を感じるので、そのパターンが固定化されて習慣化することが狙い。
ファストフードは身体によくないから週に1回にしようと思っていても、報酬の魅力によって無意識のうちに回数が増えてしまうわけです。
⑥ 人間には習慣をコントロールする能力がある
習慣は、脳の負担を減らしてストレスを軽減する恵となりますが、災いにもなるという両面があることを忘れてはいけません。
しかし、ファストフード店が仕掛けるような危険な習慣も、ここで解説してきたメカニズムを理解していればコントロールすることが可能です。
自分が気づかずにできてしまった習慣も、新しい習慣のループをつくれば行動パターンを変えることができるのです。
3. 習慣を変えて自分を改善する具体例
ここからは、全行動の4割を占めるといわれている習慣を変えて、生活面や健康面に役立てるノウハウを紹介しましょう。
すでに解説したように、一度身に着いてしまった悪い習慣を完全になくすことはできませんが、習慣のループを変えて状態を改善することはできるのです。
習慣を変えるカギとなるのは、3段階のループ。
具体例をあげながら解説します。
⑦ ポイントはルーティンを変えること
習慣を改善する鉄則は、第2段階のルーティンを変えること。
入り口である「きっかけ」と「報酬」は変えずに、新しいルーティンを組み込むのです。
報酬が変わらなければ、ほとんどの行動は変えることが可能だといわれます。
ダイエットが続かないのは、この点を理解していないことが最大の原因。
例えば、「甘いものが欲しくなる」という「きっかけ」、「コンビニですぐに洋菓子を買ってしまう」という「ルーティン」、「甘いものを口にした満足感」が「報酬」という習慣ループを改善することを考えてみましょう。
「コンビニですぐに洋菓子を買ってしまう」というルーティンを「自分の太った姿を想像して我慢する」であるとか、「コンニャクゼリーを買う」というルーティンに変えたとしても、「甘いものを口にした満足感」という元の報酬が変わってしまうと、失敗する可能性が高くなります。
コンニャクゼリーで満足する報酬が得られればいいのですが、そうでなければ「和菓子にしてカロリーを下げる」とか、「白米やパンをやめてトータルの糖質を減らす」といったルーティンを考えなければいけません。
満足する報酬が得られなければ、元の悪い習慣が戻ってしまうのです。
きっかけと報酬を変えずにルーティンだけ変えるという習慣の改善は、いろいろな依存症や精神障害の治療法として利用されています。
代表的なものをいくつか紹介しましょう。
⑧ 禁煙したいケース
習慣の改善を行う際には、まず、きっかけに対して、自分が求めている報酬をはっきりさせる必要があります。
タバコをやめたいのであったら、「休憩」や「手持無沙汰」というきっかけに対して、報酬は「ちょっとした気分転換」なのか、「ニコチンを求めている」のか、「刺激が欲しい」のかといったことを考えてみるのです。
「ちょっとした気分転換」という報酬であったら、喫煙に代わるルーティンを組み込むことは難しくありません。
身体を動かす、外に出る、スマートフォンで何かを観る、音楽を聴くといった行為で代替できるかもしれませんよね。
「刺激が欲しい」という報酬であったら、コーヒーを飲んでカフェインを摂る、フリスクのようなミントを口にするといったルーティンが考えられます。
「ニコチンを求めている」のであったら、禁煙ガムを試してみるという手もあります。
しかし、このケースは報酬に問題があるわけですから、医療機関で依存症の治療が必要となることも多いでしょう。
⑨ アルコール依存症の例
アルコール依存症の患者が求める報酬には、「交流」「逃避」「リラックス」「不安の軽減」「感情の開放」などがあります。
治療として行わることが多いのは、仲間や同じ不安を抱える人たちとの会合と専門医によるセラピーです。
居酒屋やバーで飲み仲間と会話をすることによって「交流」「逃避」「リラックス」「感情の開放」といった報酬を得ることが可能です。
薬物依存の治療でもよく行われる、同じ不安を抱える人たちとの会合では、「不安の軽減」「交流」「リラックス」などを得ることができるでしょう。
アメリカで、脳の習慣のループに深くかかわる部位に電子装置を埋め込む手術をし、アルコール依存症の治療実験が行われたことがありました。
この実験では微量の電荷をかけるとアルコールに手を出さなくなることが確認できたのですが、装置のスイッチを切ると元に戻ってしまったのです。
飲酒をやめさせるだけでは依存症を改善することはできず、安堵を与えてくれるルーティンとなる会合やセラピーが、高い効果を発揮するといわれています。
⑩ 爪を噛む癖の例
習慣の中でも個人の感情に基づいて繰り返される「癖」は、きっかけとなっている感情を見つけ、報酬を明確にすれば、代替のルーティンをつくって直すことが可能です。
「爪を噛む癖を直したい」というケースを考えてみましょう。
まず、爪を噛む直前にどのような気持ちになっているか考えてみます。
「心配」「退屈」「指先がうずく感じ」といったことが見つかるかもしれません。
次に爪を噛んだ後にどう感じているという「報酬」を考えてみます。
「スッキリする」「満ち足りた感じがする」といった報酬があったとしましょう。
この場合は、退屈したときにスッキリするルーティンや、指先がうずくときに満ち足りた気持ちになるルーティンを考えればいいのです。
「腕と肩のストレッチ」「手のツボ刺激」といった新しいルーティンを組み込んで、意識的に実行します。
⑪ ギャンブル依存症の例
ギャンブル依存症は、脳のどの部位でどのような問題が起こっているのか明確になっていません。
依存症の中でも治療が難しいとされる習慣です。
問題を抱えるギャンブル好きの人と、問題を抱えないギャンブル好きの人が違うところは、競馬や競輪であったら「ニアミス」、麻雀やカードであったら「熱い手」パチンコやスロットであったら「激熱ハズシ」というような、少し違えば勝ちだったというケースの受け取り方にあるといいます。
問題を抱える依存症の人は、「もう少しで勝ちだった」「おしかった」と考えるルーティンであるのに対し、問題をかかえないギャンブル好きは「負けは負けだ」と考えるルーティンで、前者が興奮して「負けを取り返そう」とするのに対し、後者は不安を感じて「もっと負ける前にやめよう」とするのです。
この、「ニアミス」「激熱ハズシ」に対する脳の反応に、ギャンブル依存症治療のヒントがあるのではないかと考える学者が増えています。
まとめ
「習慣」の正体が理解できましたでしょうか。
治療の難しい依存症は別として、生活面や健康面における悪い習慣を改善することは可能なのです。
そのポイントは、習慣を「きっかけ」「ルーティン」「報酬」という3段階で分析し、ルーティンだけを別のものに組み替えること。
そして、マインド面で重要なのが、「まず決意すること」と「自分を信じること」。
悪い習慣を変えようと思ったら、「自分を変えよう」という決意と、自分の感情や意思に対して素直になり、「自分を変えられる」と信じることが成功の秘訣です。
参考資料
・『習慣の力』 チャールズ・デュヒッグ 著、渡会圭子 訳 講談社 2013年
・『幸せな習慣 心地いい毎日のつくりかた』 内田彩乃 著 PHP研究所 2019年