肩こりに悩まされている人は多いですよね。
厚生労働省の国民生活基礎調査によると、自覚症状のある症状として「肩こり」は女性で第1位、男性で第2位になっています。肩こりが「国民病」と言われる理由がわかりますね。
しかし、肩こりはこれだけ身近な症状であるにもかかわらず、確実な対処法を見つけるのが難しいのです。簡単に解決できないのは、肩こりには多くの要因がかかわっていて、様々なタイプがあるからです。
なかなか病気としてとらえられないために、病院へも行かず、長期に渡って抱え込んでしまうケースも多いですね。
ここでは肩こりの原因を5つに分類して解説し、肩こりの要因となる生活習慣の対処法を紹介します。
目次
1 肩こりが起きるメカニズム
1-1 正体は僧帽筋などの血行不良
1-2 肩こりに至る4つのステップ
2 肩こりを引き起す5つの原因
肩こりを引き起こす原因1 筋肉の問題
原因1-1 糖尿病や心疾患などの持病がある
原因1-2 酸性体質になっている
原因1-3 リン酸が蓄積している
原因1-4 電解質の異常が起きている
肩こりを引き起こす原因2 骨や関節の問題
原因2-1 頸椎の前傾
原因2-2 肩甲骨のズレ
原因2-3 鎖骨が下がる
肩こりを引き起こす原因3 神経組織の問題
原因3-1 脊髄や神経根の異常
原因3-2 胸部出口症候群
肩こりを引き起こす原因4 ストレス
肩こりを引き起こす原因5 重大疾患
3 肩こりの原因になる改善すべき生活習慣
肩こりの原因になる習慣1 姿勢が悪い
肩こりの原因になる習慣2 同じ姿勢を続けている
肩こりの原因になる習慣3 過労
肩こりの原因になる習慣4 目の疲労
肩こりの原因になる習慣5 ストレス過多の生活
肩こりの原因になる習慣6 運動不足
肩こりの原因になる習慣7 冷え性
肩こりの原因になる習慣8 太りすぎ、やせすぎ
肩こりの原因になる習慣9 噛み合わせが悪い
まとめ
1 肩こりが起きるメカニズム
「肩こり」とは、「首の後ろから肩、背中にかけての筋肉の張りやこわばりを主体とした不快感の症候群」です。
首のうしろのこり感を「首こり」という場合もありますが、肩から背中にかけてのこり感が同時に発生することが多いので、首のこりも「肩こり」と呼ぶのが一般的です。
1-1 正体は僧帽筋などの血行不良
主な肩こりは、首の後ろから肩、背中まで広く張り巡らされている「僧帽筋」という筋肉が血行不良を起こすことによって起こります。
肩や首の周辺には多くの筋肉がはりめぐらされていますが、僧帽筋の上部に「こり」を訴えるケースが圧倒的に多いのです。
頭板状筋、肩甲挙筋、頭半棘筋、頚半棘筋などが「こり」を合併させることもあります。
1-2 肩こりに至る4つのステップ
筋肉は伸び縮みすることによって筋肉内の血管に圧力をかけ、血液がスムーズに流れるようになるしくみを持っています。このポンプのような働きを「筋ポンプ」といいます。
筋肉は筋ポンプの働きによって、新鮮な血液を取り込み、ブドウ糖を燃焼させてエネルギーに変換します。ブドウ糖を燃やすのに必要な酸素も血液が運んできます。そして、ブドウ糖をエネルギーに変換するときの分解で生まれる乳酸やリン酸などの疲労物質を、血液中に排出するのです。
肩周辺の筋肉が肩こりを起こすメカニズムは、次の4ステップから成り立ちます。
ステップ1 同じ姿勢を続けるなど、様々な理由で筋肉が緊張して硬くこわばる
同じ姿勢やムリな姿勢を続けたことで筋肉が伸びっぱなし、あるいは縮みっぱなしになってしまうと、筋ポンプの働きが悪くなります。 そうすると筋肉は緊張状態になり、硬くこわばってしまいます。
ステップ2 筋肉内の血管が圧迫されて血行障害が起こる
筋肉が硬くこわばると、血管を圧迫して血液の流れが悪くなります。
ステップ3 酸素や栄養分が不足して疲労物質が筋肉に溜まる
筋肉のエネルギー源であるブドウ糖と酸素を十分に取り込むことができなくなり、筋肉は栄養不足、酸素不足に陥ってしまいます。 乳酸やリン酸などの疲労物質は血液中に排出されにくくなって、筋肉の中に蓄積していきます。
ステップ4 疲労物質や発痛物質が末梢神経を刺激して、痛みや張りなどの不快な症状を引き起こす
筋肉を包み込んでいる筋膜はパンパンに膨らんで内圧を高め、血管をさらに圧迫します。 血管の炎症によって分泌された発痛物質や、蓄積した疲労物質は、筋肉内の末梢神経をチクチクと刺激するようになります。
この刺激情報が脳に伝わり、こりや痛みなどの不快な症状を知覚するのです。
2 肩こりを引き起す5つの原因
肩こりの発生にかかわる原因は、次の5つに分類されます。
・筋肉の問題
・骨や関節の問題
・神経組織の問題
・ストレス
・重大疾患
これらの原因は互いに影響し合って肩こりを発症させ、複雑に絡み合うことによって慢性化を引き越します。
肩こりの原因1 筋肉の問題
筋肉そのものに原因がある場合は、疲労物質が過剰につくられたり、局所的に溜まりやすくなっていたりするケースが考えられます。 そのような体内環境をもたらしている要因には、次の4点があります。
原因1-1 糖尿病や心疾患などの持病がある
血行不良を起こすような持病を抱えている人は、ブドウ糖や酸素の運搬能力が低く、疲労物質や発痛物質を溜めやすい状況にあります。
・糖尿病などで手足の血液循環が悪くなって起きる「末梢循環障害」
・心疾患や肺疾患などにより静脈やリンパが停滞してしまう
こうした持病による肩こり解消には、的確な治療が必要です。
原因1-2 酸性体質になっている
睡眠不足や過労、インスタント食品や酸性食品の取りすぎで体が酸性化していると、血行不良を起こしやすくなります。 酸性体質の人は血液がドロドロ状態になって乳酸などの蓄積が進み、筋肉が疲労を起こしやすいのです。
よく足がつるという人は、このタイプが多いといわれます。 対策法は、食生活や生活習慣の改善です。
原因1-3 リン酸が蓄積している
筋肉の収縮に欠かせないカルシウムと統合しやすい「リン酸」が筋肉に溜まってしまうと、乳酸とともに末梢神経を刺激するだけでなく、カルシウム不足が生じて筋ポンプの働きが低下します。
リン酸は加工食品、ファストフード、インスタント食品、清涼飲料水などに多く含まれています。 これも対処法は食生活の改善です。
原因1-4 電解質の異常が起きている
筋肉や神経の調整に欠かせない電解質のバランスが崩れていると、筋肉の収縮がうまくコントロールできなくなります。 電解質とは、血液中にあるマグネシウム、ナトリウム、カリウムなどのミネラルのこと。
ミネラルが不足しないような、バランスのよい食生活が求められます。 筋肉の収縮に関係が深いのは、乳製品や小魚類に豊富なカルシウムと、大豆製品に多く含まれるマグネシウムです。
肩こりの原因2 骨や関節の問題
体を支えている骨格に問題があって生じる肩こりは、多くの場合、姿勢に原因があります。これは肩こりの原因でもっとも多いものです。カギを握る部位は3つです。
・頸椎(首の骨)
・肩甲骨
・鎖骨
原因2-1 頸椎の前傾
肩こりで辛いと訴える人がもっとも多い、僧帽筋の上部にある上部線維は、首の後ろから肩甲骨周辺までをカバーしています。 頭部と体を連結する役割を担っている首の骨が頸椎です。
体重の10%前後もある重さの頭を支える頸椎の負担はとても大きいので、少しでも問題が発生すれば、すぐ肩こりにつながります。 大きな問題となるのは、本来であれば前方に緩やかなカーブを描いている頸椎が、加齢や外傷によって前方に傾いてしまうことです。
この状態になると、首や背中の筋肉の負担が増え、とくに上部線維の負担が多くなるのです。 頸椎の前傾はひどくなると手術が必要になります。
原因2-2 肩甲骨のズレ
肩甲骨の位置異常は上部線維の負担を大きくします。 背中の上部で羽のように左右にある肩甲骨は、筋肉に吊り下げられた状態で腕の動きをサポートする支点となっています。関節で固定されていないため、支える力が弱くて安定性に欠けます。
僧帽筋を使ったままでほぐさない状態が続くと肩甲骨が下がってしまい、肩こりを引き起こします。肩甲骨が下がらないようにするには、日頃から次の3つの動作を心がけると効果があります。
・両手を頭の上の乗せる
・胸の前で腕を組む
・椅子のヒジ掛けにヒジをかける
原因2-3 鎖骨が下がる
肩甲骨のズレは、鎖骨の位置にも大きな影響を及ぼします。 体の中央から左右に2本ある鎖骨は、中央が胸骨、外側が肩甲骨とつながっています。
前から見て浅いV字を描いているのが正常な状態で、一直線になっていると「下がり鎖骨」と呼ばれる位置異常の状態です。 鎖骨が下がれば下がるほど、肩こりは重症になります。
肩こりの原因3 神経組織の問題
首から肩、背中にかけての神経組織が圧迫されて傷むことで、肩こりが引き起こされます。神経組織の圧迫をもたらす代表的な要因は2つです。
・頸椎や神経根の異常
・胸郭出口症候群
なかなか肩こりが治らずに、整形外科の診察を受けて発見されるケースが多い原因です。
原因3-1 脊髄や神経根の異常
頸椎は、年齢を重ねるとクッションの役目を果たしている椎間板が弾力を失っていき、骨と骨がこすれて変形するなどの症状を起こします。 その劣化が激しい場合は、頸椎の中を通っている脊髄や神経根が圧迫されて、手足のしびれや動かしにくいといった障害が現れることもあります。
このような、頚椎症性脊髄症や頚椎症性神経根症にともなう症状のひとつとして、肩のこりや痛みが現れるのです。 肩こりが治らなくて整形外科をたずね、脊髄や神経根を圧迫している物質を除去してもらったら、肩こりが嘘のように消えてしまったという症例は少なくありません。
原因3-2 胸郭出口症候群
下がり鎖骨によって鎖骨と肋骨の間を通過する血管や神経が圧迫されて起こるしびれや痛みは、「胸郭出口症候群」と呼ばれます。 胸郭出口とは、鎖骨と第一肋骨の間のすき間のこと。
下がり鎖骨が引き起した症状なので、下がり鎖骨を直す体操が効果的とされ、さらに元をたどれば、肩甲骨の位置異常を治すことが解消につながります。 なで肩の人で肩こりがひどいという人は、胸郭出口症候群を疑って整形外科の診察を受けることをおすすめします。
肩こりの原因4 ストレス
精神的なストレスも肩こりの原因となります。 仕事や対人関係などでストレスが蓄積すると、自律神経が正常な働きをしなくなり、心身に不調をきたすことがあります。
過度のストレスが交感神経を過剰に刺激すると、筋肉が緊張して血行障害を起こしやすくなります。血行障害が首の後ろや肩の周辺で起こると肩のこりや痛みとなって現れるのです。ストレスが原因の肩こりは眼精疲労やめまいを引き起こし、逆にそれがさらなる肩こりの原因にもなります。
また、ストレスで気持ちが重くなり、伏し目がちになったり猫背になったりすると、僧帽筋に大きな負担をかけてしまいます。 ストレス由来の肩こりは慢性化しがちなので、過度なストレスを抱え込まない生活習慣が必要です。
肩こりの原因5 重大疾患由来
ガンなどの重い病気が原因で起こる肩こりもあります。 原因となる重大疾患には「頸椎腫瘍」「肺ガン」「首のヘルニア」「感染症」などがあります。肩こりが続いて手足の動きが悪くなったら要注意ですから、必ず整形外科の診察を受けてください。
ここで解説した5つ以外にも、肩こりの原因として「五十肩による肩こり」「女性の更年期に起こる肩こり」など、特殊なものがあります。
3 肩こりの原因になる改善すべき生活習慣
ここまで解説してきた肩こりの原因は、そのほとんどが生活習慣の改善によって予防や解消が可能です。 ここからは、肩こりを誘発する生活習慣と基礎的な対処法を解説します。
肩こりの原因になる習慣1 姿勢が悪い
姿勢が悪いことは、僧帽筋や頸椎に悪影響を及ぼす最大の要因です。一番の対処法は、とにかく毎日、意識して姿勢を正すようにすることです。
正しい立ち姿勢とは、壁に背中をつけたときに、かかと、お尻、肩甲骨、頭が壁につく姿勢。正しい座り姿勢は、背もたれが座面に対して直角の椅子に深く座り、背中とお尻が背もたれにつく姿勢です。
肩こりの原因になる習慣2 同じ姿勢を続けている
飛行機や列車に長時間乗っていたり、自動車を運転したりして同じ姿勢を長く続けていると、同じ筋肉に負担がかかり過ぎて肩こりの原因になります。
日頃から正しい姿勢を意識することと、1時間に1回は軽い体操をして血行を促すことが効果的です。
肩こりの原因になる習慣3 過労
過労は肩こりだけでなく、あらゆる病気の原因となります。疲れが抜けないという人は、疲労が回復する前に次の疲労を重ねてしまっているのです。
肩こりが抜けないと感じたら、食習慣、睡眠習慣、入浴習慣、運動習慣といった生活習慣全体を見直しましょう。
肩こりの原因になる習慣4 目の疲労
現代は、テレビやパソコン、スマートフォンといった強い光の液晶モニターが生活に浸透しているため、眼精疲労を訴える人が急増しています。まず、液晶モニターを長時間見ないことが重要なのですが、仕事でパソコンを使う人などは、そうも言っていられません。
そうした場合は、ブルーライトをカットしてくれるメガネを使用すると効果的です。 メガネやコンタクトレンズを使用している人は、今の自分に度が合っているか、改めてチェックしてみましょう
肩こりの原因になる習慣5 ストレス過多の生活
仕事で抱えるストレスに悩む人にとって、肩こりの不快感や痛みはさらなるストレスとなってしまいます。 過労が肉体的な過度の疲労であるならば、ストレスを溜めることは精神的な過度の疲労といえます。
過度なストレスを溜めないためには、自分に合った解消法を見つける以外に方法はありません。過労の対処と同じように生活習慣全体を見直すことから始めましょう。
仕事を頑張ることも規則正しい生活も大切ですが、一番大事にしなければいけないのは、健全な心身を維持すること。また、必要以上に自分を追い込まないようにする「緩さ」も大切です。
肩こりの原因になる習慣6 運動不足
全身の筋力低下は肩こりの大きな原因になります。 運動不足の状態で筋肉を急に使うと、伸び縮みしにくくなっている硬い状態の筋肉に大きな負担をかけてしまい、より血管を圧迫してしまいます。
1週間に1度程度の運動では、運動効果よりもこうした悪影響が大きくなってしまいますから、週に3日以上の運動を続けることが必要です。
肩こりの原因になる習慣7 冷え性
体が冷えやすい人は、体温維持のために血管が収縮して血行が悪化します。 体温の維持に使われるエネルギーは、その75%が筋肉の運動によってつくり出されます。
寒いときに体が震えるのは、寒さを感知した脳がもっとも熱を生産しやすい筋肉をけいれんさせて、熱をつくらせているのです。このときに、血管は熱の発散を防ごうとして、ギュッと収縮します。 この筋肉の緊張と血管の収縮が血流を悪化させ、肩こりの原因になるのです。
冬は冷気を防ぐ服装や、室内の温度調節を見直しましょう。夏の仕事場や就寝時は冷房に注意して、体を冷やし過ぎないようにしましょう。
肩こりの原因になる習慣8 太りすぎ、やせすぎ
太りすぎは運動不足になりやすく、やせすぎは猫背になりやすいので、適正体重を維持する努力を続けましょう。
適正体重(kg)とは、「身長(m)×身長(m)×22」
逆の計算で、「体重÷{身長(m)×身長(m)}」で求められるのがBMI(肥満指数/Body Mass Index)です。この値が25を超えると肥満、18.5を下回るとやせすぎとされます。 赤信号の人は、食習慣や運動習慣を中心とした生活習慣を見直してください。
肩こりの原因になる習慣9 噛み合わせが悪い
虫歯があって食べるときに片方の歯だけで噛んでいたり、噛み合わせが悪かったりすると肩こりの原因になります。
アゴの筋肉は僧帽筋に連動しているので、顎関節症になると肩こりを引き起こすのです。 本格的な歯並びの改善には矯正治療が必要とされますが、噛み合わせのズレは、ある程度自分で意識しながら治すことも可能です。
噛み合わせが悪くて肩こりの続く人は、顎関節症を引き起している可能性があるので、一度、歯科医の診察を受けてください。
まとめ
肩こりには様々なタイプがあっても、直接的な原因は僧帽筋の血行不良なのです。肩こりを治すには、僧帽筋の血行不良を起こさないような生活習慣を続けることが望ましいです。
意外に思われるかも知れませんが、肩こりを改善する生活習慣には、「おしゃれ、身だしなみ」というものもあります。 これは、おしゃれに気を使うようになると、鏡を見る回数が増えるからです。
鏡を見る機会が多いと、外観的な体の異常に早く気づくことができます。 とくに下がり鎖骨や前傾姿勢は、発見しやすい変化です。肩こりに悩みがちな人は、毎日、鏡を見て自分の容姿をチェックしましょう。
【参考資料】
『本当は怖い肩こり』(祥伝社・2015年)
『がんこな肩こりを治す知恵とコツ』(主婦の友社・2009年)