怒らない人をみると、「ああいう人間になりたい」と思いますよね?
怒らない人には、明るくて健康的なイメージがありますよね。
「怒らない彼氏」や「怒らない彼女」がいる人はわかると思いますが、実際に怒らない人は健康であることが多いのです。
怒りの感情が身体に悪影響を及ぼすことは、脳科学や医学の現場で実証されています。
怒らないことが、どれほど身体に良い影響を及ぼすか、その事実を知れば、誰もが怒らない人になりたいと思うはずです。
実際に近年は、「怒らない技術」や「怒らない人になる方法」といった本が人気を得ており、企業や教育機関では「怒りの感情をコントロールする方法」が重視されています。
また、子育ての分野でも、「怒らない親」や「怒らない育児」といったキーワードが注目されています。
ここでは、怒りの感情で身体が傷つくしくみを解説し、怒らない身体を作るために取り入れたい習慣を7項目に分けて紹介します。
目次
1. 怒りで身体が傷つくしくみ
1-1. 怒りは脳で起こる
1-2. 怒りは脳のストレス反応
1-3. 自律神経の乱れが体を傷つける
1-3-1. 血液が汚れる
1-3-2. 腸内環境が悪化する
1-3-3. 酸素が不足する
1-3-4. セロトニンが不足する
1-3-5. 免疫力が低下する
1-3-6. 身体が錆びる
2. 怒らない身体を作る7つの習慣
① 口角を上げて笑顔でリラックス
② 背筋を伸ばして正しく歩く
③ 2種類の深呼吸でリフレッシュ
④ 暴飲暴食をやめる
⑤ 抗酸化食品を摂る
⑥ ストレッチと有酸素運動を習慣化
⑦ 没頭できる趣味をもつ
1. 怒りで身体が傷つくしくみ
怒るとは、どういうことなのでしょうか。
「人間はなぜ怒るのか?」
「怒ったときに身体はどのような状態になっているのか?」
まずは、そうした疑問を解明しながら、怒りの感情が身体を傷つけるしくみを解説します。
1-1. 怒りは脳で起こる
人間の脳は、大脳、小脳、脳幹という3つの部位で構成され、脳全体の約80%を大脳が占めています。
大脳は、前頭葉、後頭葉、側頭葉、頭頂葉から成り立つ「大脳新皮質」、海馬や扁桃体などで構成される「大脳辺縁系」、脳の深部に位置する神経核群の「大脳基底核」という3つの部位からできています。
たとえば誰かに足を踏まれたときに、もっとも速くカッと反応するのは大脳辺縁系。
ここは人間以外の動物にも存在する、原始的な脳と呼ばれる部位です。
ここでは恐怖の感情も同時に生み出され、逃げるか闘うかという単純な反応を起こします。
怒りの元となる刺激から、約6秒後にゆっくりと反応するのが大脳新皮質です。
ここは人間的な脳とされ、「この相手と闘って勝てるか」「ここで怒らない方が自分のためになるのではないか」というようなところまで考えて、衝動的な行動を抑制します。
アクセルである辺縁系とブレーキである新皮質がバランスをとって、怒りの感情をコントロールしているのが、人間の脳なのです。
1-2. 怒りは脳のストレス反応
ストレスは、五感から受けた刺激に対する脳の反応です。
刺激が脳に伝わると、「痛い」「つらい」「嫌だ」「不味い」といったマイナスの感情や、「心地よい」「楽しい」「嬉しい」「美味しい」といったプラスの感情が湧き起こります。
「痛い」「つらい」「嫌だ」「不味い」といったマイナスの感情はストレス反応となりますが、そうした一次感情に対して、脳で起こる怒りの感情は、二次感情と呼ばれます。
ストレス反応の元となるマイナスの刺激は、自分の意思とは関係なく降り注ぐものですから、なくすことはできません。
それは怒りの感情にもいえることで、消そうとしたり、打ち勝とうとすれば、またその刺激を思い出すことになるので、さらにストレスを重ねてしまうのです。
ストレスを軽減する方法はただひとつ。
自分にプラスの刺激を与えたり、作業に没頭することで、マイナスの感情を意識から外すことなのです。
1-3. 自律神経の乱れが体を傷つける
人間は怒ると、興奮状態になります。
これは、自律神経の交感神経が活発になっている状態です。
自律神経は、心拍、呼吸、血流、体温、消化吸収といった生命維持に欠かせない機能をコントロールしているとても大事な神経回路で、活動モード、もしくは戦闘モードをつくり出す交感神経と、リラックスモードをつくり出す副交感神経がバランスをとりながら機能しています。
交感神経と副交感神経の働きは、常に40~60%の割合でどちらかが優位になるようになっており、通常、昼間は交感神経が優位なときが多く、夜は副交感神経が優位になります。
怒ると交感神経が活発になるので、心拍が増えて、呼吸は浅く回数が多くなり、血圧や体温は上がります。
逆に消化吸収機能は低下します。
こうした状態になっても、また副交感神経が活発になれば心拍や呼吸、血圧が元にもどり、消化吸収機能が高まります。
ところが、怒りっぽい人や、イライラばかりしている人は、交感神経の優位が多くなってしまい、その状態が続けば身体に様々な不調をきたします。
1-3-1. 血液が汚れる
急激な血圧の上昇は、脳梗塞や脳内出血、心臓発作のリスクを高めます。
怒りっぽい人は、心臓発作を起こす確率が高いという調査結果もあります。
激しい怒りになると、全身の血行が悪化して手足が震えたり、顔色が青ざめてきます。
こうなると、細胞が放出する老廃物を排出できなくなるので、ひどい場合には卒倒するかもしれません。
交感神経の末端からは、アドレナリンというホルモンが分泌されて、血液中の糖度を高めます。
さらに、アドレナリンには血小板の働きを活性化させ、血液を凝固させる働きがあるので、交感神経優位の状態が続くと血液はドロドロになってしまいます。
こんなことが続けば、糖尿病や動脈硬化のリスクが高まって、とても危険な状態になってしまうのです。
1-3-2. 腸内環境が悪化する
消化吸収機能は、副交感神経が高めます。
戦闘モードでは、消化器官以外の部位にエネルギーを割り振ってしまうからです。
ですから、怒っているときは、消化器官の働きが低下しています。
この状態が続けば、やがて消化されない栄養が腸の中で腐敗して毒素を生み出し、それが血液に入って全身に回ります。
毒素は内臓の機能を低下させて、さらに自律神経の働きが乱れてしまい、とても危険な悪循環がはじまってしまうのです。
腸内環境は悪化しますから、慢性的な便秘で悩むことにもなります。
1-3-3. 酸素が不足する
怒って興奮状態になると、呼吸は浅く速くなります。
これは、十分な酸素を体内に取り込めていない状態。
大脳新皮質に十分な酸素が供給されなくなると、怒りの感情にブレーキがかからなくなるので、これもまた悪循環に陥ることになってしまいます。
怒りがエスカレートして、強い不安感からパニック発作を起こす場合もあります。
また、大脳新皮質は、学習、意思、感情といった精神作用や、知覚、言語、運動といった精神活動を支配しているので、酸素が不足すると、そうした感情や活動を制御できなくなってしまいます。
1-3-4. セロトニンが不足する
最新の脳科学では、怒っているときに、脳内でセロトニンが不足していることがわかってきました。
神経伝達物質のセロトニンは、脳内で精神の安定や感情のコントロールに深くかかわっており、「幸せホルモン」とも呼ばれます。
セロトニンが不足すると、睡眠を誘発するメラトニンというホルモンも不足して睡眠障害を起こしやすくなり、さらにその状態が続けば、うつ病になりやすくなります。
うつ病の人が怒りやすい、攻撃衝動が強いというのは、セロトニンの不足が原因と考えられています。
1-3-5. 免疫力が低下する
怒ってばかりいると、白血球の機能が悪化して免疫力が低下します。
白血球は、血管の中に溜まった古い細胞などを食べてしまい、外部から細菌やウイルスなどの異物が侵入すると攻撃します。
この白血球の質をコントロールしているのも自律神経なのです。
交感神経が活発になると、白血球の種類のうち顆粒球という細胞が増えて、人体を守っている常在菌まで攻撃してしまいます。
常在菌が減少してしまうと、免疫システムは正常に働かなくなり、さらに、顆粒球が増えることでリンパ球が減ってしまい、がん細胞を攻撃することができなくなっていきます。
そして、2~3日の寿命である顆粒球が死ぬときには、大量の活性酸素を発生させるのです。
1-3-6. 身体が錆びる
活性酸素は、体内で酸素が使われると必ず発生する物質で、強力な酸化作用で細菌やウイルスを酸化させて殺します。
ですから、免疫システムには欠かせないものなのですが、過剰になると正常な細胞まで酸化させてしまいます。
困ったことに、活性酸素は運動をしたり、紫外線に当たったりすることで大量に発生するので、過剰になりやすいのです。
怒って、交感神経が活発になることでも大量に発生します。
体内には、過剰になった活性酸素を除去する抗酸化作用が備わっているのですが、簡単に増えてしまうために、間に合わないのです。
細胞が酸化することを「身体が錆びる」ともいい、それは老化現象の最大要因です。
怒ることは、身体の老化を進めることにもなるのです。
2. 怒らない身体を作る7つの習慣
ここまでの解説で、怒ると身体の中でどのようなことが起こっているか、わかっていただけたことでしょう。
イライラしやすいとか、怒りっぽいということを簡単に考えるべきではありません。
怒りは、免疫力を低下させ、老化を進め、さらには寿命を縮めるのです。
怒らない身体をつくる習慣を身につけて、心身の健康を維持しましょう。
① 口角を上げて笑顔でリラックス
怒っている人はこわばって緊張した顔つきになりますし、イライラしている人は不機嫌な顔つきになります。
実はこの現象は、「逆もまたしかり」なのです。
こわばった顔や不機嫌な顔をしていると、イライラしやすくなるということです。
これは、表情筋(顔にある数十の筋肉の総称)が、緊張して硬くなり、血行が悪くなるから。
顔の血行が悪くなれば、怒りにブレーキをかける大脳新皮質に酸素が届かなくなるのです。
筋肉を動かさないと硬くなりますから、表情筋のストレッチが有効です。
そして、表情筋を動かすストレッチにもなり、副交感神経の働きを高め、セロトニンの分泌を増やすのが「笑顔」なのです。
これは、心がこもっていなくても問題ありません。
つくり笑顔でも同じ効果がありますから、日頃から口角を上げて笑顔の習慣をつくりましょう。
② 背筋を伸ばして正しく歩く
猫背などの悪い姿勢は、全身の血流悪化を招き、とくに首や肩の筋肉を収縮させてしまいます。
首の血流が悪化すれば、頭部に十分な酸素が届けられません。
猫背は呼吸も浅くなるので交感神経が優位になり、イライラしやすくなります。
歩くときに前かがみになるので、全身の関節にも大きな負担がかかります。
背筋を伸ばすと気道が開いて呼吸が深くなり、全身に栄養と酸素をいきわたらせることができます。
正しい姿勢でゆっくり歩くようにすると、関節や筋肉の負担も抑えます。
姿勢を正すことは、日頃から意識して習慣化していくことが大事ですが、怒りの感情が湧いてきたときに即効性があるので、イライラするときは背筋を伸ばして歩いてみましょう。
③ 2種類の深呼吸でリフレッシュ
深呼吸は、身体に十分な酸素を取り入れると同時に、副交感神経を活発にしてリラックスする効果があります。
深呼吸の基本は、吐くことからはじめます。
口をとがらせてフーッと、6秒かけて息を吐き切ります。
次に鼻から3秒かけて息を吸いこみ、そのまま3秒キープ。
これを10~20回繰り返すと、リフレッシュできます。
身体のすみずみまで酸素がいきわたるイメージで行ってください。
もうひとつ、簡単で即効性のある深呼吸があります。
これは、いわゆる「タメ息」。
ただ、フーッと大きく息を吐くだけです。
ただこれだけのことですが、一瞬でちょっとした気分転換ができる小技です。
④ 暴飲暴食をやめる
暴飲暴食は、生活習慣病の予防からよくないことといわれていますが、怒りっぽくなる原因でもあります。
その大きな要因となるのが、血糖値の急激な変化である「血糖値スパイク」。
暴飲暴食で血糖値が急上昇すると、インスリンが大量に分泌されて、次に血糖値が急降下します。
インスリンの大量分泌は、肥満や細胞の劣化を招きます。
さらには細胞を増殖させるので、がん細胞まで増やしてしまうことに。
血糖値スパイクを繰り返しているとインスリンの効きが悪くなり、ついには膵臓が機能しなくなって、糖尿病を発症します。
血糖値スパイクは、自律神経のバランスを崩すのでイライラしやすくなり、キレやすい子どもは、砂糖の過剰摂取が一因になっているともいわれています。
血糖値スパイクの予防には暴飲暴食をやめることと、糖質の吸収をゆるやかにする食事が効果的です。
⑤ 抗酸化食品を摂る
もうひとつ食生活にかんする項目ですが、活性酸素によって身体が酸化することを防ぐ抗酸化食品を積極的に摂りましょう。
抗酸化成分は、ビタミンA、C、E、ポリフェノール、カロテノイドなどが代表的なものです。
緑黄色野菜、大豆、そば粉、リンゴ、ブルーベリー、ゴマ、レバー類、鮭などがよく知られる抗酸化食品。
毎日の食事で細胞材料となるタンパク質と一緒に、こうした食品を欠かさないようにして、怒りをコントロールするとともに、老化の予防をしていきましょう。
⑥ ストレッチと有酸素運動を習慣化
適度な運動は、健康にいいといわれますが、怒らない身体をつくるためにも必要なものです。
筋肉や関節まわりを伸ばしてほぐすストレッチと、激しくない運動を20~30分程度続ける有酸素運動の習慣化が効果的です。
ストレッチは筋肉を動かすことによって血流を改善し、体内の老廃物を排出するとともに、脳にも十分な酸素を届ける効果があります。
有酸素運動には、筋肉を動かし、十分な酸素を体内に取り入れるとともに、同じリズムを繰り返すことで自律神経を整える効果もあります。
気軽にはじめられるウォーキングが人気ですが、重要なのはムリをしないことです。
ストレッチも有酸素運動も、身体に過剰な負担をかけると逆にストレスを溜めてしまい、イライラの原因を作ってしまいます。
⑦ 没頭できる趣味をもつ
怒りの感情は、五感から受けたマイナスの刺激に対して起こるものですから、誰にでも湧き起こる自然な感情で、消すことはできません。
消そうとか忘れようとすれば、そのマイナス刺激を思い出すことになるので、余計にストレスを増やすことになるのです。
マイナスの感情を忘れるためには、何かほかのことに没頭すればいいのです。
ちょっと頭を使う簡単な作業をするか、プラスの刺激を自分に与えるのです。
マイナスの刺激は勝手に降り注ぐものですが、プラスの刺激は、自分で意識して与えられるという特性があります。
よく知られる作業が、100から3ずつ引いた数を思い浮かべるというもの。
慣れてしまったら、マイナス4ずつとか、マイナス6ずつというように、少し頭を使うように変えていくのです。
怒りの感情は、6秒やり過ごせばピークを過ぎるといわれますから、数を10秒間数えるだけでも、衝動的な行動は回避できるようになります。
習慣化したいのは、日頃から没頭できる趣味をもつことです。
好きなこと、心地よいこと、楽しいこと、美味しいことといった、プラスの刺激を意識的に自分に与える手段です。
旅行は、交感神経の優位と副交感神経の優位が小まめに繰り返されて訓練になり、自律神経のバランスを取りやすい身体をつくるためには、最適な趣味といわれます。
まとめ
食生活と運動はポイントをピックアップしましたが、睡眠の質を上げることも、怒らない身体作りには重要です。
いかに副交感神経を働かせるかということが、怒らないための重要なポイントになるのです。
また、これは簡単に続けられるものではないかもしれませんが、怒りの感情が湧いてきたときに、日時、場所、出来事、自分はどう感じたのかなどを書きとめて「怒り日記」をつけるのも、怒りのコントロールには大変有効です。
何度も自分の怒りを書きとめていくうちに、怒りがパターン化されていき、「あ、このパターンね」というように自己分析できるようになるのです。
怒りの感情は伝染するといわれますが、イライラしている人と接したときには、笑顔で「怒らないでくださいね」、英語であれば“Please don’t get angry. ”とほほ笑んで、怒りの連鎖を断ち切ってしまいましょう。
【参考資料】
・『「怒らない体」のつくり方』 小林弘幸 祥伝社 2014年
・『「もう怒らない」ための本』 和田秀樹 アスコム 2016年