パソコンを使う仕事で目が疲れて困っていませんか?
ここ数年で「パソコン近視」と呼ばれる疲れ目の症状を発症する人が激増しています。
・パソコンを長時間使うようになって視力が低下した。
・ほとんど毎日、パソコンやスマートホンなどの画面を長時間見ている。
・目の疲れが激しくて、一晩寝ても治らない。
・目が乾きやすい。
・集中力がなくてイライラしてしまう。
・睡眠障害や、頭痛、肩こりで悩んでいる。
これらの項目に当てはまるものが多い人ほど、パソコン近視が進行していると言えます。そうした症状を放置しておけば、眼精疲労という病気になってしまいます。
ここでは、1日わずか3分でも効果が出るケアで目の疲れを解消し、パソコン近視の進行を止める方法を解説します。
目次
1 パソコン近視とは
1-1 目でものを見るメカニズム
1-2 パソコン近視の原因
1-3 疲れ目を解消するカギ1 外眼筋の柔軟性
1-4 疲れ目を解消するカギ2 脳の活性化
2 目の疲れを解消する1日3分のケア
2-1 外眼筋のトレーニング
2-2 毛様体筋のトレーニング
2-3 目に酸素を送る呼吸法
2-4 脳内視力を活性化させるトレーニング
まとめ
1 パソコン近視とは
「パソコン近視」とは、パソコンやスマホなどのモニターを長時間見続けることによって起こる疲れ目の症状です。
普通の疲れ目や軽い近視の症状であれば、目のピントを合わせる機能を回復されれば解消します。
しかし、パソコン近視は脳を酷使して多くの負担を与えているので、それだけでは不十分で、脳のケアも必要になります。また、近視が進行するスピードが早く、眼精疲労を起こしやすいのも特徴です。
1-1 目でものを見るメカニズム
(http://www.civillink.net/fsozai/eye.htmlよりフリー素材を引用)
目でものを見るメカニズムを知るために、目の基本構造を解説します。
人間の目はアナログカメラの構造と似ています。カメラはレンズで屈折した光がフィルムに像を結びます。人間の目では、黒目部分である「角膜」とその奥にある「水晶体」がレンズの役割をします。
角膜を通った光は水晶体で屈折し、「硝子体」を通って眼底の「網膜」で焦点が合うようになっています。像を結ぶ網膜はカメラのフィルムに相当します。網膜に投影された光の情報は「視神経」から脳へと伝達されます。
水晶体は、ものを見たときに薄くしたり厚くしたりして光の屈折率を変え、網膜に焦点を合わせるためにあります。その水晶体の厚さを調節しているのが「毛様体(または毛様体筋)」です。
毛様体は筋肉で、近くを見るときは収縮して水晶体を厚くし、遠くを見るときにはリラックスした状態になって水晶体を薄くします。
パソコン仕事などで同じ距離のものを見続けたり、スマホなど近くのものを見続けたりすると、毛様体に負担がかかって緊張状態になり、リラックス状態に戻すのに時間がかかるようになってしまうのです。
水晶体の調節機能が正しく働いて網膜上にきちんと像を結ぶことができている状態を「正視」、網膜の前に焦点が来ている状態を「近視」、網膜の後ろに焦点がずれてしまう状態を「遠視」といいます。角膜がゆがんでいるために、焦点の像がぼやけてしまう状態を「乱視」といいます。
1-2 パソコン近視の原因
近視には、水晶体が薄くなった状態で固まってしまう「調節性近視」と、角膜から網膜までの距離(眼軸)が長くなっている「軸性近視」があります。
軸性近視になると、眼球がラグビーボールのような楕円形になって前に伸びてしまいます。これは外眼筋が緊張して、眼球を締めつけているためだと考えられています。
脳に筋肉はありませんが、目から6~7センチ奥に伸びている外眼筋は、脳に入り込むような形になっているので、緊張状態になると、脳の視床下部や脳下垂体にまで悪影響を与えてしまいます。
脳にまで悪影響を与えるパソコン近視が起こる原因は、4つに大別されます。
1-2-1 光の刺激
パソコンやスマホのモニターは発光体なので、紙に印字された文字を見る場合に比べて、目と脳への刺激が2~3倍強くなります。
発光体の光は、紙の文字を見る場合の反射光より強烈に目の周囲の筋肉を緊張させます。瞳孔の調節を管理している自律神経のバランスも崩すので、疲労感が大きくなります。
そのために、近視が進行するスピードが早いのです。
1-2-2 画面を凝視する
書類を見て仕事をしているときは、視点移動が頻繁に起こっていますが、画面の1点を凝視するようなパソコン仕事をしていると視点移動がほとんどありません。
同じ距離を凝視し続けると、水晶体の厚さをコントロールする毛様体筋が緊張して収縮し、目の焦点がぼやけて視力が低下します。
大きな問題は、視点移動がないパソコン近視の場合には毛様体筋だけでなく、外眼筋が緊張しているということです。
書類で仕事をしていた時代には、こめかみや目の周りをマッサージするだけでも視力が回復していましたが、外眼筋は深部に入り込んでいるので、簡単なマッサージでは回復しません。
外眼筋が血流障害を起こすと、周りにある脳の視床下部や脳下垂体の血流も悪くなって、脳の機能障害が起こるのです。
1-2-3 目から入る情報の過多
書類で仕事をしていた時代と比べてパソコン仕事では、目から入る情報が飛躍的に増えています。
人間がものを見るという行為は、色、形、距離感などの視覚情報が視神経を通じて脳に伝えられ、脳が情報処理をして認識することによって、はじめて成立します。目と脳の共同作業といってもいいでしょう。
とくにインターネットの閲覧などで次々と変わる画面を見ると、無意識のうちに大量の情報が脳に送られることになり、脳がオーバーフローしてしまいます。疲れて文字を読み間違えたり、数字を取り違えたりするのはそういうときです。
目から送られる情報が多すぎて脳が疲労すると、視覚に直接関係する視覚野の機能を衰えさせ、視力が低下します。
さらに目からの情報は視覚野だけでなく、2割は平衡感覚を司っている小脳へも送られるので、パソコン近視になると平衡感覚に異常が生じて、めまいを起こすことがあります。
1-2-4 近見視力の低下
視力には一般的な視力検査で測る遠くを見る視力と、近くを見る「近見視力」があります。
通常の近視は遠くが見えなくなりますが、近くを見る近見視力まで急速に低下することはあまりありません。
しかし、パソコン近視では、近見視力までもが急速に低下します。目が疲れて近見視力が低下した目で、ムリをしてパソコン作業を続けるので、どんどん目と脳への負担が大きくなっていきます。
1-3 疲れ目を解消するカギ1 外眼筋の柔軟性
従来の疲れ目解消法や視力回復法は、目の焦点調整力を鍛えることに重点が置かれていました。
水晶体の厚さを調節する毛様体が硬くなってしまうと近視になります。毛様体筋が固まってしまう最大の原因は、近くのものを見続けることです。
ですから、遠くのものと近くのものを交互に見て毛様体をトレーニングしたり、マッサージなどで毛様体筋の緊張をとったりしていたのです。
しかし、外眼筋が緊張してしまうパソコン近視は、それだけでは疲れ目を解消できません。外眼筋のこりを取り除くことが、カギとなります。
1-4 疲れ目を解消するカギ2 脳の活性化
見たものを認識する脳の機能を活性化させることも、カギとなります。
目と脳の連携をスムーズにし、視床下部の働きを活性化させて平衡感覚を正常に維持することも重要です。
脳内において、目から入った情報が処理されて認識する働きを「脳内視力」と呼びます。毛様体筋や外眼筋のこりを取り除くと同時に、脳内視力を回復させなければ、パソコン近視は改善しません。
2 目の疲れを解消する1日3分のケア
パソコン近視による目の疲れを解消するには、目と脳のケアを日々の習慣にする必要があります。
パソコン近視になる人の多くは、毎日仕事でパソコンを使わなければいけない人ですから、疲労が溜まって眼精疲労を起こす前に解消しなければいけません。
しかし、毎日のこととなると、ムリをして頑張るのでは続きません。ここで解説するケアやトレーニングは、誰にでもムリなくできるものですから、気軽に続けることができます。
毎日すべてを行う必要なく、自分の症状に合ったものや、やりやすいものを行ってください。1日にたった3分を割くだけでも、疲れ目の解消と視力の回復に効果がでるはずです。
2-1 外眼筋のトレーニング
クロージング&オープニング
外眼筋と毛様体筋を伸ばすストレッチです。イスに座って顔を上げ、肩の力を抜いてリラックスします。
【1】まぶたを10秒間ギュッと閉じて、パッと目を開けて上を見る。
【2】まぶたを10秒間ギュッと閉じて、パッと目を開けて下を見る。
【3】まぶたを10秒間ギュッと閉じて、パッと目を開けて右を見る。
【4】まぶたを10秒間ギュッと閉じて、パッと目を開けて左を見る。
朝晩2セット行うようにしましょう。目をうまく動かせない人は、眼精疲労を起こしている可能性がありますから、眼科の受診をお勧めします。
眼球運動
眼球を上下、左右、左回り、右回りと動かす体操です。この体操によって、外眼筋をストレッチすることができます。
【1】眼球を上下に動かす。ゆっくり2~3分繰り返す。
【2】両手を肩の幅で前に伸ばして親指を立て、左右の親指を両眼で交互に見る。だんだん左右に移るスピードを上げていき、両手の幅も広げていく。2~3分繰り返す。
【3】1周5秒くらいかけて、ゆっくり円を描くように両目を回す。左回りと右回りのセットを2回繰り返す。
2-2 毛様体筋のトレーニング
遠近法
【1】窓の外に視線を移して遠くの景色や近所の樹木、看板やクルマなど、いろいろな距離にあるものに2秒ずつ焦点を合わせながら視線を移動させる。
パソコンの作業を1時間続けたら、この遠近法を1回行って毛様体筋が固まるのを防ぎましょう。
上下左右遠近法
窓の外を眺めることができない場合には、近距離で視線を移動させる方法があります。
【1】両手の親指を前に出して上下に広げ、上の親指と下の親指に1秒ずつ焦点を合わす。
【2】だんだん上下の距離を広げていき、20回繰り返す。
【3】次は両手の親指を右と左に広げ、それぞれ1秒ずつ焦点を合わす。
【4】だんだん左右の距離を広げていき、20回繰り返す。
2-3 目に酸素を送る呼吸法
全身の酸素消費量のうち、目と脳が消費する割合は4分の1を占めるほど、目と脳は酸素を必要とする器官です。
目を酷使すると酸素が不足して視力が低下するので、酸素をしっかり体内に取り入れることが大切です。
出来れば1日に2分は行いたいトレーニングです。
全身呼吸法
【1】イスに座って軽く目を閉じる。
【2】鼻から息を吸ったら、7~8秒かけて吸った息を脳、胸、腹、丹田(へそ)へと伝えることをイメージする。
【3】さらに肛門を締めた状態で7~8秒息を止め、その後、鼻から息を吐き出す。
目・鼻呼吸法
【1】鼻から吸った息を6~7秒かけて目に補充することをイメージする。
【2】息を止めたままの状態を6~7秒維持する。
【3】目の疲労物質を全部出すイメージで鼻から息を吐く。
2-4 脳内視力を活性化させるトレーニング
ものを見るという行為は、目から入った情報と脳に記憶されている物体概念をすり合わせることに他なりません。その機能のもっとも大きな障害となるのが「ストレス」です。
目の疲れを解消して脳内視力を回復させるためには、まずストレスを取り除かなければいけません。そのために行いたい3つの基本事項があります。
【1】やりたいと思ったことはすぐにやるようにして、身体の声を聴き、脳のプレッシャーを取り除く。
【2】アイマスクと耳栓をして、目と耳から入る情報を遮断する時間を作る。
【3】時間や年齢を忘れる時間を作る。
その上で、脳内視力を活性化させるために、以下のようなトレーンニングを行います。
2-4-1 時間と距離の感覚を高める
ものを見るということは、時間と空間を正確に脳へインプットすることです。人間は時間と空間の中で対象物までの距離を把握しながら、ものを見ているからです。
視力にとって、距離感を把握することはとても重要なことです。距離は、スピード×時間で計れるもの。時間の感覚も視力にとっては重要なのです。
◆1分間トレーニング
【1】時計を見ずに、1分経ったと思ったら秒まで表示する時計を確認する。
主観的な時間と客観的な時間を一致させるトレーニングです。
◆所要時間トレーニング
【1】今いる場所から、次に行く場所までの所要時間を言い当てる。
距離感と時間の正確性を高めるトレーニングです。
2-4-2 記憶力を活性化させる
ものを見るということは、ものを覚えるということと同じ機能を使います。脳が見たものを記憶して蓄積する機能は「学習機能」と呼ばれます。この機能を高めることで脳内視力を回復することができます。
◆イメージ焼き付けトレーニング
【1】風景を映した写真を一瞬だけ見て、白紙にそのイメージを描きだす。
瞬時にしてどれだけイメージを正確に記憶できるかというトレーニングを繰り返すことで、記憶力が活性化されます。
◆逆さ数字記憶トレーニング
【1】請求書なりレシートなり、なんでもいいので数字が5~10ケタの数字が羅列されている書面を用意する。
【2】書面を逆さにして、数字を一瞬だけ見て覚える。
数字が逆さになることによって、数だけでなく、ひとつのイメージとしてもとらえるようになるので、左右の脳の連携が活性化します。
2-4-3 集中力を高める
潜在意識に訴えかけて集中力を高め、脳内視力を活性化させます。
◆変幻自在の黒丸トレーニング
【1】白紙に真っ黒に塗りつぶした直径1.5センチの円を描く。
【2】集中して黒丸を見る。
【3】大きくなったり小さくなったり、色が濃くなったり薄くなったり、周囲が輝いたりといろいろな見え方の変化を、暗示をかけて自在にできるようにトレーニングする。
◆色に集中トレーニング
【1】縦15センチ、横10センチ程度の白紙の中央に、緑で塗りつぶした直径2センチの円を描く。
【2】作ったカードを目の前20センチの位置に持ってきて、緑の円を30秒間じっと見続ける。
【3】カードを下ろして白い壁をじっと集中して見る。
【4】ピンクか赤のぼんやりとした円の残像が見えてきたら、その円に集中して長時間見ることができるようにトレーニングする。
色に集中すると、その補色関係にある色が脳の中にできあがります。パソコンを長時間使っていると色覚の変化が起こるのはそのためで、その作用を自らコントロールできるようにする効果もあります。
2-4-4 イメージ力を高める
なにかをイメージしたときに脳の前頭葉に残される映像はインナービジョンと呼ばれ、アウタービジョンである視力を補う働きがあります。
インナービジョンの残像をコンロールするトレーニングによって、視力を矯正することが可能です。
屈折率の高い凹レンズのメガネをかけるために、ものが小さく見えてしまう強度近視の人も、イメージ力を高めることにより、インナービジョンを矯正して視力を高め、目の疲れを軽減することができます。
◆モーフィング
【1】目を閉じた状態で、頭の中で〇を想像し、そのイメージを△に変形させる。
【2】△になったら、次は□に変形させる。
【3】イメージの切り替えをできるだけ早くできるようにする。
◆イメージ遠近法
【1】目を閉じて遠くに視力表の「C」を想像する。
【2】いったん息を吐き、息を吸いながら想像した「C」をどんどん近づけて、目の前に大きく映す。
これを繰り返すと、ものを大きくはっきり見るトレーニングになり、脳内視力を高めます。
視力回復については「目の疲れがスッキリとれる!―視力を回復するアプローチ5選」の記事もぜひ参考にしてみてください。
まとめ
目の疲れを解消するために、脳のケアを行うことに驚かれた方もいるでしょう。なぜ、記憶力や集中力を高める必要があるのか不思議に思われたかもしれません。
しかし、「ものを見る」という行為が、目と脳の共同作業であることがおわかりいただければ、すべて理にかなったケアであることもご理解いただけると思います。
しかも、パソコンを長時間使うことが原因の疲れ目は、脳への負担も非常に大きいのです。パソコン近視は、新しいタイプの疲れ目ですから、今までにはないケアが必要になります。
まずは、1日3分から始めましょう。
目の疲れから来る頭痛にお悩みの方は「目の疲れと頭痛を解消する8種のトレーニング」の記事もぜひご覧ください。
【参考資料】
『あなたの[視力]はすぐ戻る』(三笠書房・2006年)
『パソコン・スマホの「疲れ目」「視力低下」驚異の回復法』(三笠書房・2013年)
『「パソコン近視」がどんどんよくなる本』(青春出版社・2012年)