食物繊維のことを知りたいという人の多くは、便秘で悩んでいますよね?
便秘は、食欲不振やストレスの原因になるばかりでなく、大腸がんや大腸ポリープ、痔、高血圧、アレルギー性疾患、大腸憩室炎、胆石症などの病気を引き起こします。
便秘がちな女性は、乳がんになるリスクが5倍高いという報告もあります。
便秘対策以外にも、最近はダイエットやスキンケアのために、腸内を健康な状態に改善しようとする「腸活」で注目されているのが食物繊維。
食物繊維は、コンニャクやサツマイモなどに多いことは知られていますが、食品の成分としてどのような性質のものなのか、どのような種類があるのかといったことまで理解している人は少ないですよね。
便秘対策にしっかり取り組むためには、そうした食物繊維の知識が欠かせません。
食物繊維を知ることが、便秘対策の第一歩といってもいいでしょう。
ここでは、便秘の基礎知識を簡単に解説してから、「不溶性食物繊維」「水溶性食物繊維」という2種に分類される食物繊維を紹介します。
目次
1. 便秘の基礎知識
1-1. 食べ物が消化されるしくみ
1-2. 便のもとになる食物繊維
1-3. 便の状態
1-4. 便秘になる10の原因
2. 2種類の食物繊維
2-1. 不溶性食物繊維
① セルロース
② ヘミセルロース
③ ペクチン
④ リグニン
⑤ グルカン
⑥ アルギン酸
⑦ キチン・キトサン
2-2. 水溶性食物繊維
① ペクチン
② リグナン
③ ムチン
④ アルギン酸
⑤ フコイダン
⑥ マンナン
⑦ ポリデキストロース
⑧ コンドロイチン硫酸
まとめ
1. 便秘の基礎知識
前半は、食物繊維が体内でどのような働きをするのか、わかりやすく解説しましょう。
人間は、食べ物から栄養を摂取し、老廃物や消化しなかった食物を便として排出します。
食べた物が、口から肛門まで約9メートルの器官を移動する間に、なんらかのトラブルが原因となって起こる便秘。
便秘を理解するには、まず食べたものが消化されるしくみを知る必要があります。
1-1. 食べ物が消化されるしくみ
18時間以上かけて行われる、食べた物の消化、吸収、排泄には、大きく分けて5つの過程があります。
① 食道から胃へ
口に入った食べ物は、噛んで唾液と混ぜ合わされて食道を通り、胃に入ります。
胃では、胃液によって粥状に消化されます。
② 十二指腸から小腸へ
胃から十二指腸へと送られた食べ物は、胆のうから分泌される胆汁や、膵臓から分泌される膵液によって消化が進み、6~7メートルもある小腸では栄養素が分解されて、腸壁から吸収されます。
③ 大腸
小腸で吸収されずに残った内容物は、ほぼ液状の状態で大腸へと送られ、「ぜん動運動」と呼ばれる腸の筋肉の収縮によって運ばれながら、固形化されていきます。
④ 直腸
固形化された便が直腸に達すると、脊髄の神経細胞を通じて大脳へと信号が送られ、便意がおこります。
⑤ 肛門
大脳は便意を発すると同時に、トイレに入って準備ができるまで身体をコントロールし、準備OKになると排便が行われ、最終的に食べた物の残りカスが体外に排出されます。
1-2. 便のもとになる食物繊維
食べた物は、栄養素や水分が吸収された食物繊維に、はがれた腸粘膜、腸内細菌の死骸などが加わって便となります。
食物繊維の定義は、「人の消化酵素で消化されない、食べ物の中にある難消化成分の総称」。
三大栄養素のひとつである「糖質」と食物繊維を合わせて、「炭水化物」と呼びます。
食物繊維は消化されないことから、かつては見向きもされない物質でしたが、1971年にイギリス人のデニス・バーキット博士らが「食物繊維の摂取が少ないと、大腸がんのリスクが高まる」という仮説を発表してから注目されるようになりました。
バーキット博士は、アフリカ人には極端に大腸がんの患者が少ないことを知り、アフリカ人とヨーロッパ人の食生活を比較してこの仮説を立てたのです。
その後の研究では、食物繊維の効用が明らかになり、今では、ビタミンとミネラルに続く「第6の栄養素」と呼ばれています。
1-3. 便の状態
便は健康のバロメーターといわれますが、健康な便とは、「1日に1~2回の排便があって楽に排泄できる」「量はバナナくらいの太さのものが1本か2本」「水分が70~80%あって硬すぎず柔らかすぎず、水に浮く」
というのが大まかな特徴。
便秘の状態で出る硬いものから、下痢で水の状態になるものまで、それぞれの特徴を見ていきましょう。
① カチコロ状態
水分が少なくて小石のようにカチカチ、コロコロの便は、茶褐色であれば便秘だけの問題と考えられますが、出血や薬によって黒色になったり、赤い場合には直腸がんが疑われることもあります。
② バナナ状態
黄褐色から茶褐色であれば、健康で消化器官の働きがよい状態。
灰白色系は肝臓や胆のうの病気が疑われ、タール便と呼ばれる黒色系は食道、胃、十二指腸、小腸からの出血があり、赤色系は痔以外に大腸がんや直腸がんも疑われます。
③ 半練り状態
これも、黄褐色から茶褐色であれば、健康で消化器官の働きがよい状態。
灰白色系もおおむね健康ですが、膵臓の病気が疑われることもあります。
黒色系と赤色系は、バナナ状態と同様です。
④ 泥状態
水分の多い泥状の便は、黄褐色から茶褐色であれば神経性の下痢で、灰白色系は膵臓の病気や脂肪の消化不良が考えられます。
黒色系と赤色系は、バナナ状態と同様です。
⑤ 水状態
下痢の状態が何日も続いたり、急に細い便しか出なくなったときは、がんの検査が必要。
灰白色系だと腸結核や膵臓がんの疑いがあり、黒色系や赤色系であればバナナ状態と同様に消化器系のがんが疑われます。
1-4. 便秘になる10の原因
便秘をしやすい人の生活には、いくつかの特徴があります。
食物繊維を摂ることと同時に、生活習慣の改善が必要とされるケースが多いのです。
① 朝食を抜く
睡眠から目覚めて空っぽの胃に食べ物が入ると便意が起こるのは、体内時計の働き。
朝食を摂らないと体内時計が正常に働かなくなるので、消化、吸収、排便という流れが滞ってしまいます。
② トイレをがまんする
朝食後はぜん動運動が活発になり、直腸内に便が移動して便意をもよおします。
このタイミングを逃してしまうと便意を感じにくくなってしまうので、便意をがまんすることが便秘につながります。
③ ダイエットの食事制限
ダイエットのために食べる量を極端に減らすと、便の量が減って便意を感じにくくなります。
また、糖質制限で炭水化物を減らしたために、食物繊維も不足してしまうケースが多くなっています。
④ 水分摂取不足
トイレが近くなる、汗をかきたくないといった理由から水分を控えたために、便が硬くなってしまうケースもあります。
⑤ 暴飲暴食
食べすぎや飲み過ぎの反動で食欲不振になるという食生活を繰り返していると、自律神経が乱れて排便のリズムも狂い、便秘になります。
⑥ 野菜不足の食生活
欧米化した食事やファストフードなどで、肉類や糖質ばかり摂取する食生活は、食物繊維やビタミン、ミネラルが不足して便秘がちになり、生活習慣病を招きます。
⑦ ストレス
ストレスが重なると、自律神経の交感神経が活性化して便秘がちに。
活動モードをつくる交感神経とリラックスモードをつくる副交感神経のバランスは、腸のぜん動運動をはじめとする消化吸収に大きな影響を与えるので、自律神経のバランスを整えることが便秘の改善につながるのです。
⑧ 身体を冷やす
冷房などで身体の表面を冷やすと、皮膚を温めようと体内から熱を発するので腸を冷やしてしまい、腸の働きが鈍くなります。
⑨ 睡眠不足
睡眠不足は体内時計を狂わせて自律神経を乱してしまうので、消化吸収が正常に行われなくなり、便秘が起こります。
⑩ 運動不足
運動不足で腸管の動きが鈍くなると便意を感じにくくなり、便を押し出す筋力が弱くなると、便意があっても排便がスムーズに行えません。
2. 2種類の食物繊維
食物繊維にはいろいろな種類がありますが、水に溶けない「不溶性食物繊維」と、水に溶ける「水溶性食物繊維」に大別することができます。
伝統的な和食には食物繊維を多く含む食品が多いのに、食生活の欧米化によって日本人の食物繊維摂取量は減っています。
厚生労働省が示す「日本人の食事摂取基準 2015年版」では、1日の摂取目標を成人男性で20グラム以上、成人女性で18グラム以上と設定されています。
2種に大別される主な食物繊維を紹介していきましょう。
2-1. 不溶性食物繊維
野菜や穀類、豆類に多く含まれている不溶性食物繊維は、水分を吸って膨らみ、便の量を多くしてやわらかくするとともに、腸壁を刺激して排便を促します。
さらに、有害物質を吸着して排出する、ビフィズス菌などの善玉菌を増やすといった働きもあり、痔や便秘の改善や大腸がんの予防に役立ちます。
① セルロース
食事で摂取する食物繊維の大部分をしめるセルロースは、ほとんどの植物に含まれている細胞壁の主成分で、とくに米ぬかや小麦の外皮などに多く含まれる物質。
腸内でほとんど分解されずに便のもととなり、ダイオキシンなどの有害物質も体外に排出します。
② ヘミセルロース
米ぬか、小麦胚芽、そばの実、トウモロコシの皮など穀類の外皮に多く含まれるヘミセルロースは、自然な排便を促す、有害物質を排出する、腸内善玉菌を増やすといった働きがあり、大腸がんや生活習慣病を予防する効果があります。
米ぬかのヘミセルロースからつくられた「アラビノキシラン誘導体(MGN-3)」は、NK(ナチュラルキラー)細胞を活性化させて免疫力を高めることがわかっています。
③ ペクチン
ペクチンには不溶性のものと水溶性のものがあり、不溶性のペクチンは、植物の細胞壁に多く含まれていてセルロースを包んでいます。
穀類の外皮を摂取すると、セルロースやヘミセルロースとともにペクチンも摂取することができるのです。
④ リグニン
植物の細胞壁を構成する成分のひとつであるリグニンは、豆、ココア、チョコレート、イチゴやラズベリーの種部分に多く含まれ、野菜にはあまり含まれていません。
リグニンの重要な働きは胆汁酸を吸着して体外に排出することで、コレステロールを減らす効果があります。
⑤ グルカン
ブドウ糖を含む多糖類の総称がグルカン。
キノコ類に多く含まれる「β-グルカン」は強力な抗がん作用があることで知られ、マイタケに多く含まれる「MDフラクション」は、研究が進められている抗がん物質のひとつ。
グルカンには、体内の免疫システムを正常に働かせる作用があるので、がんに限らず、様々な自己免疫疾患や生活習慣病の予防に役立つのではないかと注目されています。
⑥ アルギン酸
アルギン酸にも不溶性と水溶性があり、不溶性のアルギン酸カルシウムには、胆汁酸やナトリウムを排出する働きがあります。
ヒジキや海苔などの海藻類に多く含まれる食物繊維です。
⑦ キチン・キトサン
カニやエビの甲羅、昆虫の外皮、イカや貝などの器官、キノコ類の細胞壁などに多く含まれるキチンは、化学処理してキトサンやグルコサミンの原料となります。
主にカニの甲羅からつくられるキトサンは、1980年代から注目され出した食物繊維で、整腸作用、血糖値上昇抑制作用、コレステロール低減作用以外にも、免疫力を高めてがん細胞の転移や増殖を抑制する、肝機能を高めるといった働きがあり、いろいろな分野で注目されています。
2-2. 水溶性食物繊維
水溶性食物繊維は、植物の細胞や分泌液に含まれている成分で、胆汁酸を吸着して排出する、ナトリウムを排出するという作用が強く、粘度が高いのでほかの食べ物を包んで小腸内をゆっくり進むことになり、血糖値の急上昇を防ぐ効果もあります。
不溶性食物繊維よりも発酵性が強いので、発酵食品のようにビフィズス菌などの腸内善玉菌を増やして腸内環境を整える作用も高くなります。
① ペクチン
水溶性のペクチンは、植物の細胞をつなぎ合わせる接着剤のような働きがあり、リンゴや柑橘類の皮などに多く含まれます。
リンゴや柑橘類から抽出したペクチンは、食品分野の安定剤、ゲル剤、増粘剤などに利用されています。
ペクチンも胆汁酸の排出効果が高い食物繊維。
肝臓でコレステロールからつくられる胆汁酸は、脂肪やコレステロールの消化吸収を助ける成分で、小腸で吸収されてから肝臓に戻って再利用されるのですが、食物繊維でこの胆汁酸を排出すると、肝臓でまた胆汁酸をつくらなければいけなくなるので、コレステロールが消費されるのです。
② リグナン
リグナンは、植物の茎、根、種に多く含まれており、とくにゴマに多く含まれる食物繊維。
ゴマに含まれるセサミン、セサモール、セサミノール、セサモリンといった成分は、まとめてゴマリグナンと呼ばれます。
強力な抗酸化作用をもち、活性酸素が過剰発生しやすい肝臓の機能を強化し、コレステロールの酸化も防ぐので、LDLコレステロールを減らします。
アルコールの分解を促す作用でも知られます。
③ ムチン
オクラ、モロヘイヤ、サトイモ、山芋、ナメコなどのヌルヌル成分がムチン。
多糖類がタンパク質と結合したものなので、タンパク質分解酵素が含まれており、タンパク質の消化を促します。
傷ついた粘膜を修復する働きがあり、胃壁を保護して胃炎や胃潰瘍を予防し、腎臓や肝臓などの内臓機能の強化や体力回復の働きも見逃せません。
④ アルギン酸
ワカメや昆布など海藻のヌルヌル成分が、水溶性の食物繊維であるアルギン酸カリウム。
アルギン酸カリウムは胃酸によってアルギン酸とカリウムに分解され、アルギン酸は小腸でナトリウムを結合してアルギン酸ナトリウムとなり、排出されます。
カリウムは血圧を下げて塩分を排出するのですから、アルギン酸は高血圧の改善にダブルで働くわけです。
さらに胆汁酸を排出する、ヌルヌルでコレステロールを包んで排出するといった、身体にいいことずくめの成分。
⑤ フコイダン
フコイダンも海藻類のヌルヌル成分。
フコイダンの重要な働きは、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因とされているピロリ菌をブロックして胃壁に吸着するのを防ぐことです。
⑥ マンナン
マンナンは植物の葉、根、種などの細胞膜や細胞中に含まれる粘質多糖類。
コンニャクマンナンがよく知られ、腸内の老廃物や有害物質を排出する作用が強いので、昔から「腸の砂おろし」などと呼ばれて腸活に役立てられていました。
⑦ ポリデキストロース
ポリデキストロースは、ブドウ糖、ソルビトール、クエン酸を原料として人工的につくられた水溶性食物繊維。
1981年にFDA(米国食品医薬品局)が認可し、1983年に日本でも食品として認可されました。
低カロリーで無味無臭であることからドリンクや菓子類に多く添加され、一般的な水溶性食物繊維と同様の働きをします。
⑧ コンドロイチン硫酸
納豆、オクラ、フカヒレなどのネバネバ食品に豊富なコンドロイチン硫酸は、軟骨、骨、皮膚、角膜など人体に多量に存在し、関節をはじめとするあらゆる組織細胞の働きを円滑にする潤滑油として働きます。
タンパク質の繊維であるコラーゲンとともに結合組織を構成し、保水性や弾力性を細胞に与えて、身体を若々しく保つためには欠かせない成分です。
まとめ
水に溶けない不溶性食物繊維は繊維状で保水性が高く、水に溶ける水溶性食物繊維は粘性があって吸着性が高いという特徴があります。
栄養はバランスが大事だといわれますが、食物繊維も同様で、便を膨らませて便通を促進する不溶性と、血糖値の急上昇を防いで胆汁酸やコレステロールを排出する水溶性をバランスよく摂取することが食物繊維をうまく働かせるポイントですね。
参考資料
・『食物繊維で腸スッキリ! 便秘解消データBOOK』 松生恒夫 監修 朝日新聞出版 2016年
・『これは効く! 食べて治す 最新栄養成分事典』 中嶋洋子 監修 主婦の友社 2017年
・大塚製薬サイト
https://www.otsuka.co.jp/health-and-illness/fiber/about/type/