「健康診断の結果、コレステロール値が高かった……」
コレステロールは、身体に悪いものだというイメージをもっていませんか?
医師や看護師からコレステロールが高い、中性脂肪が高いといわれて心配になるのは、動脈硬化の原因となる脂質異常症と診断される要素が、コレステロールや中性脂肪にあるからですよね。
脂質異常症とは、かつて「高脂血症」と呼ばれていた病気で、血液中に脂質が多すぎる症状を指しています。
実は、コレステロールは身体にとって重要な働きをする、生命維持に必要な物質です。
コレステロールに、「悪玉」「善玉」と呼ばれるものが存在するのは、誰もが知っていることと思いますが、コレステロールがどういう働きをして、なぜ「悪玉」や「善玉」と呼ばれるのか理解している人は少ないのです。
なんとなく「コレステロールは悪いもの」というイメージをもってしまっているのですね。
ここではコレステロールとは何かということを知るために、生命の現象を化学する生化学(または生物化学)や、栄養学、医学などの最新情報を4つの項目からわかりやすく解説します。
正しい知識をもって健康に役立てましょう。
目次
1. 細胞膜やホルモンの材料になるコレステロール
1-1. 血液中に存在する4つの脂質
1-2. 多くても少なくてもいけないコレステロール
1-3. コレステロールが引き起こす病気
2. 「善玉」と「悪玉」はタンパク質の種類が違う
2-1. 「HDL」や「LDL」はタンパク質の名前
2-2. 最新医学が注目する「超悪玉」とは?
3. コレステロールや中性脂肪の検査値の見方
3-1. 脂質異常症の診断基準
3-2. 目標の目安になるコレステロール値
3-3. 大事なのはHDLとLDLの比率
4. コレステロールを正常化する4つのポイント
4-1. 食べ過ぎない
4-2. 食品の質と量を考える
4-3. 身体を動かして睡眠の質を上げる
1. 細胞膜やホルモンの材料になるコレステロール
三大栄養素とは「糖質」「脂質」「タンパク質」であり、さらにビタミンとミネラルを加えて五大栄養素とも呼ばれます。
コレステロールは脂質ですから、まず五大栄養素の働きを簡単に説明しておきましょう。
糖質は、血液中の糖の量をコントロールする働きがあり、酸素を必要としないエネルギー源。
脂質は、細胞膜やホルモンの材料となり、酸素を必要とするメインのネルギー源。
タンパク質は全身の細胞や酵素の材料となり、ほかのエネルギーがない非常時にだけエネルギーとなります。
体内で生むエネルギー量は、糖質とタンパク質が1gあたり4kcal、脂質は9kcal。
糖質も脂質も、余ったものは中性脂肪となって血液中に放出され、体脂肪として蓄積されますが、糖質が体内に貯蔵される量は、脂質の50分の1以下のエネルギー量しかありません。
ですから、食事で大量に摂取する糖質は、体脂肪を増やしやすいのです。
三大栄養素がエネルギーになったり、体内で必要な物質に合成、分解されたりする化学変化を「代謝」と呼び、代謝を促すのが酵素、その酵素の働きを助けるのが、微量栄養素と呼ばれるビタミンとミネラルです。
ビタミンには水溶性のB群とC、脂溶性のA、D、E、Kがあり、脂溶性ビタミンは脂質がなければうまく働くことができません。
1-1. 血液中に存在する4つの脂質
人間の血液の中には、「中性脂肪」「コレステロール」「リン脂質」「遊離脂肪酸」という4つの形で脂質が存在します。
中性脂肪は、体内で余った糖質や脂質が肝臓で合成されてでき、皮下脂肪や内臓脂肪という形でエネルギー源として蓄えられ、中性脂肪が分解されて実際に燃える形になったものが遊離脂肪酸です。
コレステロールは細胞膜や血管壁、各種ホルモン、脂肪の消化吸収に必要な胆汁酸などの材料になる物質です。
リン酸は、カルシウムと結合して骨や歯の材料となる「リン酸」と脂質が結合した物質で、水と油の両方に溶けやすいという特性があり、細胞膜の主成分となります。
1-2. 多くても少なくてもいけないコレステロール
人間の身体は60兆個もの細胞から成り立っており、そのすべての細胞が維持できているのはコレステロールの働きがあるからです。
また、身体の機能調節に欠かせない副腎皮質ホルモン、男性ホルモンや女性ホルモンの材料になり、さらに、食事から摂った脂質を消化・吸収するために必要な胆汁酸の材料にもなります。
こうした細胞の新陳代謝、身体機能の調整、消化・吸収などは、生命維持に欠かせない要素。
ですから、コレステロールは悪者ではありません。
それどころか、体内の量が少なくなれば生命にかかわるわけです。
大人の体内には100~150g程度のコレステロールが存在し、その25%程度は脳にあり、残りは脊髄や筋肉にあって、血液に溶けているのは10~13g程度とされ、多くなりすぎても少なくなりすぎても身体に悪影響が現れるのです。
1-3. コレステロールが引き起こす病気
コレステロールが少なくなりすぎると、免疫力が低くなって様々な病気にかかりやすくなってしまいます。
高齢になると、食が細くなることもあり、コレステロール値を下げる人が多くなるので、意識して良質の脂質を摂取する必要が出てきます。
コレステロールを含む血液中の脂質が多くなりすぎると、まず心配されるのは動脈硬化。
動脈は全身に張り巡らされて各組織や臓器に血液を送り、酸素や栄養を届けていますから、この血管の内側が狭くなってしまったり、弾力を失ってしまったりすると、重大な症状を引き起こします。
脳の血管内で詰まれば「脳梗塞」、血管が破裂すれば「脳出血」、心臓の血管が詰まれば「心筋梗塞」、胸部や腹部の大動脈でコブができると「大動脈瘤」で、破裂すれば命を落とす確率がとても高くなります。
2. 「善玉」と「悪玉」はタンパク質の種類が違う
コレステロールの70%程度は肝臓でつくられ、残りは食事から摂取されたものです。
本来、脂質は水に溶けませんから、中性脂肪やコレステロールはタンパク質に囲まれたボール状の粒子となって血液に溶け込み、全身へと運ばれます。
このボール状の粒子は「リポタンパク質」と呼ばれ、いくつかの種類があります。
2-1. 「HDL」や「LDL」はタンパク質の名前
もっとも粒子が大きなリポタンパク質は、食べたものの脂質が小腸で合成された「カイロミクロン」で、中性脂肪がほとんどを占めます。
カイロミクロンが肝臓で合成されてできるのが「VLDL(超低比重リポタンパク質)」で、中性脂肪を全身へと運んだ後に、血液内で分解されて中型の「LDL(低比重リポタンパク質)」が生成されます。
LDLは、コレステロールを多く含んでおり、全身にコレステロールを運ぶという重要な役割を果たすのですが、余分なコレステロールや酸化したコレステロールを血管壁や組織に残してしまうので、「悪玉」と呼ばれるのです。
カイロミクロンやVLDLが分解される過程で生成される小型の「HDL(高比重リポタンパク質)」は、LDLが残してきたコレステロールを回収して肝臓に戻す働きがあるので、「善玉」と呼ばれます。
このように、中性脂肪とコレステロールは、体内で合成と分解を繰り返しながらバランスを保っているのです。
2-2. 最新医学が注目する「超悪玉」とは?
最近の医学では分析方法が進歩して、LDLには、粒子が大きなものと小さなものがあることがわかりました。
この粒子が小さいLDLを「小型LDL」、もしくは「超悪玉コレステロール」と呼びます。
なぜ粒子の小さなLDLの方が「超悪玉」かというと、粒子が小さいと血管壁に入り込みやすくて、壁に溜まりやすいから。
さらに、小粒であるために、ビタミンEやβカロテンといった抗酸化物質を含む量が少なくて、活性酸素に酸化されやすいという難点があるのです。
こうした理由から「小型LDL」が多いと動脈硬化をより起こしやすくなるわけです。
総コレステロールの値が低くても、中性脂肪の値が高かったり、HDLの値が低かったりすると、小型LDLが増えていくと考えられ、肝臓の働きが衰えると、脂質代謝の働きに異常が起こってLDLが小型LDLになるといわれています。
3. コレステロールや中性脂肪の検査値の見方
健康診断や人間ドックなどで血液検査を受けると、総コレステロール、LDL、HDL、中脂肪などの値を知ることができますが、検査値をどう見るかが問題です。
ここでは基本的な数値の見方を解説しますが、重要なのは自分が動脈硬化の危険因子をもっているかどうかということ。
血液中の脂質は、「偏った食事」「エネルギーの摂り過ぎ」「運動不足」「中年太りや腹部脂肪の増加」「更年期」「糖尿病や肝臓病」「遺伝」「喫煙」といった要因で起こります。
こういった要素をもっていない人は、総コレステロール値がやや高めでも健康であることが多いのです。
3-1. 脂質異常症の診断基準
2012年に日本動脈硬化学会が示している脂質異常症の診断基準値は、以下のようになっています。
・LDLコレステロールが140mg/dL以上だと、高LDLコレステロール血症
・HDLコレステロールが40mg/dL未満だと、低LDLコレステロール血症
・中性脂肪が150mg/dL以上だと、高中性脂肪血症
これらは、空腹時に採取した血清1dLあたりに含まれる脂質の量であり、この診断基準は薬を使用する治療の開始基準ではありません。
3-2. 目標の目安になるコレステロール値
危険因子をもっているかどうかで、コレステロール値が同じでも動脈硬化を起こす危険度は異なります。
日本動脈硬化学会では、過去に狭心症や心筋梗塞を起こしたことがない人を対象としてリスクの状態を3段階、起こしたことがある人の二次予防を加えて4段階の目標値を設定しています。
4つの段階において、HDLコレステロールが40mg/dL以上、中性脂肪が150mg/dL未満という数値は変わりません。
① 過去に狭心症や心筋梗塞を起こしたことがない人
・低リスク LDLコレステロールを160mg/dL未満(危険因子のない人)
・中リスク LDLコレステロールを140mg/dL未満
・高リスク LDLコレステロールを120mg/dL未満(危険因子の多い人)
危険因子の状態によってリスクの評価がかわるので、医師に相談して判断します。
② 心臓病の発作を起こしたことがある人
・LDLコレステロールを100mg/dL未満にして再発を防ぐ
3-3. 大事なのはHDLとLDLの比率
LDL値が低く、HDL値が高いのが健康な状態ですが、理想的とされているバランスは、「LDL/HDLが1.5以下」です。
・1.5以下で「血液がきれいで健康な状態」
・2.0以上が「コレステロールの蓄積が増えていて動脈硬化が疑われる状態」
・2.5以上で「血栓ができている可能性があり、心筋梗塞のリスクもある状態」
多くの病院では、「ほかに病気がない場合は2.0以下、高血圧や糖尿病がある場合、心筋梗塞などの病歴がある場合は1.5以下が望ましい」と指導することが多くなっています。
現在では、LDLとHDLを計測するのが一般的ですが、「超悪玉」の値を知りたい場合は、数千円程度の費用はかかりますが、「小型LDLの検査をお願いします」といえば計測してもらえます。
4. コレステロールを正常化する4つのポイント
血液中の脂質が増える要因はすでに紹介しましたが、コレステロールや中性脂肪の値が異常になるのは、多くの場合、生活習慣に問題があるので、薬を飲まなくても気をつけることによってリカバリーできるケースが多いのです。
遺伝的な理由や甲状腺機能低下、腎臓病などが原因で高コレステロールになっている場合は薬を使用する治療が必要となりますけども、そうでなければ生活習慣の改善で数値を改善することが可能です。
最後に、生活習慣で心がけるべき4つのポイントを紹介しましょう。
4-1. 食べ過ぎない
「食べたいものを食べたいだけ食べる」「飲みたいものを飲みたいだけ飲む」という食生活は、諸悪の根源です。
人類の歴史において、常にお腹いっぱいになる量の食料を入手できるようになったのは、つい最近のこと。
人間には長い間、飢えと隣り合わせで生きてきた歴史があり、中性脂肪をエネルギーとして蓄えるのは、生き延びるために必要なシステムだったのです。
しかし、カロリーオーバーの食生活では体脂肪とコレステロールを大量に生み出すことになり、しかも運動不足となれば蓄積した脂肪を消費しないのですから、とても危険な状態になるのです。
自分の生活と身体に合った食事量を考えなければいけません。
一般的に、1日に必要なエネルギー量を算出する方法は、「標準体重(kg) × 標準体重1kgあたりに必要なエネルギー(kcal)」とされています。
標準体重は「身長(m) × 身長(m) ×22」で求められますが、標準体重1kgあたりに必要なエネルギーは、安静にしている人(20~25kcal)からハードワークをする人(35~40kcal)まで幅があるので、自分の活動状況に合わせて算出してみましょう。
4-2. 食品の質と量を考える
厚生労働省は2015年に、日本人の食事摂取基準からコレステロールの上限値を撤廃しました。
これは、コレステロールの約70%が体内で生成されるからです。
コレステロールを正常化する食事のポイントは、HDLコレステロールを増やしてLDLコレステロールを減らすことと、LDLコレステロールの酸化を防ぐこと。
そのために、食材の質と量を考えなければいけないのですが、とくに影響するのが、脂質(油)の質と、抗酸化食品の摂取です。
常温で液体である不飽和脂肪酸の食用油は、次のような特性があります。
オメガ3系を積極的に摂り、オメガ6系を控えるのがポイント。
①オメガ3系(α-リノレン酸、DHA、EPAなど)
エゴマ油、アマニ油、青魚、クルミなどに多く含まれ、LDLを減らしてHDLを増やす働きがあります。
②オメガ9系(代表的なものはオレイン酸)
オリーブオイル、キャノーラ油などに多く含まれ、HDLを減らさずにLDLを減らす働きがあります。
③オメガ6系(代表的なものはリノール酸)
コーン油、大豆油などに多く含まれ、LDLを減らしますが、HDLも減らしてしまうことがあります。
活性酸素によるLDLの酸化を抑える抗酸化食品は、ビタミンA、C、E、カロテノイド、ポリフェノールなどが代表的な成分。
こうした成分の含有量が多い食品を積極的に摂ることがポイントです。
4-3. 身体を動かして睡眠の質を上げる
運動が脂質異常症に有効であることは誰もが知っていることですよね。
運動にはHDLを増やす効果があり、中性脂肪も減らすのですが、大事なポイントは有酸素運動をやりすぎないこと。
ウォーキング、ジョギング、サイクリング、エクササイズといった有酸素運動をやり過ぎると活性酸素を増やしてしまうので、息が切れない程度の軽い運動が効果的だといわれるようになりました。
とはいうものの、多くの人は意識的に「運動」をすることがなかなかできないという現実がありますよね。
「今日からウォーキング」などと形式ばらなくても、要は身体を動かせばよいので、「ちょっと余計に歩く」「テレビを観ながら身体を動かす」「意識的に筋肉を伸ばす」といったことでも効果があがります。
買い物の移動範囲をちょっと離れたスーパーまで広げてみる、といった生活の中での工夫をしてみましょう。
さらに生活習慣で大事なのが、質の良い睡眠をとること。
生活のリズムの乱れは、LDLコレステロールを増やしてしまう原因になります。
寝室の環境、寝具の選び方、寝る前3時間の食事をやめる、毎朝同じ時間に起きて朝陽をあびる、といったことを意識して、スッキリ目覚められる生活を心がけましょう。
まとめ
近年、医学で注目されているのが、コレステロールとストレスの関係です。
ストレスは、不快な感情に対して脳が身体を防御しようとする反応で、いろいろなホルモンを分泌したり抑制したりします。
こうしたストレス反応によって肝臓が刺激されると、コレステロールや中性脂肪の合成が盛んになってしまうのです。
ストレスは血圧も上昇させますから、脳梗塞や心筋梗塞のリスクも高めます。
ストレスケアのポイントは、リラックスモードを自分でつくり出せるようにすること。
楽しいことや心地よいことを積極的に行ってください。
身体に必要な成分であり、多くても少なくても悪影響が出るコレステロールとは、自分なりの上手いつき合い方を見つけることが必要ですね。
【参考資料】
・『大丈夫!何とかなります コレステロール・中性脂肪は下げられる』 板倉弘重 著 主婦の友社 2017年
・『コレステロールにぐぐっと効く食事習慣』 主婦の友社 編 主婦の友社 2017年
・『最新版 今すぐできる! コレステロールを下げる40のルール』 学研プラス 2019年
・日本動脈硬化学会 site