美容に興味のある方でなくても「ピーリング」という言葉を耳にしたことがあるかと思います。
「peeling(ピーリング)」は直訳すると「皮を剥くこと」です。
皮膚の表面のごく薄い皮を取り去ることで新しい皮膚が生まれるための新陳代謝を促したり、シミなどの色素沈着を除去したりする効果があるという「ピーリング」。
美容皮膚科でおこなうケミカルピーリングや、市販のピーリングジェルなどを使って家庭でできるピーリングなど、ピーリングには様々なものがあります。
ここでは目的に合わせて選べるように、ピーリングについてご紹介します。
目次
1. 「ピーリング」の種類とおすすめポイント
1-1. ピーリングの種類
1-2. 美容皮膚科でのピーリング
1-3. 自宅でできるピーリング
2. 美容皮膚科でのケミカルピーリングとは
2-1. ケミカルピーリングの効果
2-2. 欧米と日本のケミカルピーリングの方法
2-3. ケミカルピーリングの歴史
3. 自宅でできるセルフピーリングとは
3-1. ピーリングジェルの効果
3-2. ピーリングジェルの成分
3-3. セルフピーリングの注意点
4. 美容皮膚科でのケミカルピーリングをおすすめする理由
4-1. 医師の判断で剥皮深度を決めるため
4-2. レーザー治療との併用ができるため
4-3. その他の治療法と併用できるため
4-4. ホームケアを指導してもらえるため
1. 「ピーリング」の種類とおすすめポイント
ピーリングを分別してみると、大きなくくりでは「科学的に(薬剤を使って)おこなうもの」と「物理的におこなうもの」のふたつに分けることができます。
ここではピーリングの種類とそのおすすめポイントをご紹介していきますね。
1-1. ピーリングの種類
【科学的に(薬剤を使って)おこなうもの】
AHA(アルファヒドロキシ酸)やBHA(ベータヒドロキシ酸)といった酸性の薬剤を使って皮膚の表面を溶かすという方法です。
AHA(アルファヒドロキシ酸)として化粧品に最も多く使用されているのはグリコール酸で、他に「フルーツ酸」と呼ばれるりんご酸やクエン酸、他に乳酸、酒石酸なども使われています。
BHA(ベータヒドロキシ酸)は主にサリチル酸が用いられます。サリチル酸は角質を溶かす力がとても強いため、他の薬剤の局所浸透を高める効果もあります。その分危険性も高いために化粧品には0.2%までしか配合できないことになっています。
【物理的におこなうもの】
ダイヤモンドやクリスタルのような鉱石をごく細かい粒子にしたものや、クルミなどのナッツ類、ハーブの種などを同様に細かい粒子にしたものを使って肌の表面を擦ることで古い角質を落とす方法です。ゴマージュと呼ばれることもあります。
同様に、洗顔料にこうした粒子を配合したもので洗顔することをスクラブ洗顔といいます。
また、医師の監督のもと、レーザー光を使っておこなうピーリングも物理的な方法となります。
1-2. 美容皮膚科でのピーリング
日本の美容皮膚科では、薬剤を使った「ケミカルピーリング」と、レーザー光を使った「レーザーピーリング」があります。
【ケミカルピーリング】
・TCAピーリング
TCAピーリングは、トリクロロ酢酸を使うピーリングです。
トリクロロ酢酸は強い腐食性がありますが、水溶性のため水で洗い流すことで腐食を止めることができる安全なピーリングです。
医師が皮膚の状態を確認して薬剤の量や塗布してからの時間などを調整します。
(おすすめポイント)
最も強い薬剤なのでニキビ跡などの改善に効果が高く、皮膚の凹凸を目立たなくすることができます。
・グリコール酸ピーリング
水溶性のAHA(アルファヒドロキシ酸)であるグリコール酸を使った施術では、他のケミカルピーリングと比較して水洗することで反応を中止することができます。
そのため医師が皮膚の状態をよく観察していれば、皮膚がひどく赤くなったりただれて化膿したりする危険性は少なくなります。
(おすすめポイント)
強い薬剤を使ったときに必要なダウンタイムがほとんど必要ないため、まとまった休日が取れなくても施術できます。
・サリチル酸ピーリング
サリチル酸を使うピーリングは薬剤の強さのために酸が皮膚の深い部分へ浸透してしまうことや血液中に吸収されてしまうことがわかっていました。
そのため、美容皮膚科でもサリチル酸単独薬剤でのピーリングは長い間不可能なものでした。
近年、マクロゴールを主基剤にすることで安全に施術できるようになり効果の高いピーリングとして注目されています。
(おすすめポイント)
強い効果でニキビ跡の凹凸や色素沈着を改善することができます。
【レーザーピーリング】
皮膚をきれいに洗浄した後、毛穴にも入り込むほど粒子の細かい炭の粉末を塗ります。黒いものに反応するレーザー光を使ってダメージを与えることで、毛穴を委縮させます。
(おすすめポイント)
レーザー光を当てることで、顔の毛の毛根にもダメージが与えられるため、皮膚の改善と同時にムダ毛が生えにくくなる効果もあります。
1-3. 自宅でできるピーリング
自宅でできるピーリングには、ピーリングジェルを使うもの、ピーリング効果のある洗顔料やせっけんを使うもの、ピーリング効果のあるパックを使うものがあります。
・ピーリングジェル
市販のピーリングジェルには安全性の高いAHA(アルファヒドロキシ酸)が含まれている商品が多くなっています。
また、スクラブ粒子が入っていて物理的なピーリングを兼ねているものもあります。
顔に塗ってマッサージするもの、パックのように塗って洗い流すものなどがあります。
・ピーリング効果のある洗顔料やせっけん
ピーリングジェル同様にAHA(アルファヒドロキシ酸)やスクラブが含まれているものが多く、毎日の洗顔でマイルドにピーリングをおこないます。
また、酵素が含まれている洗顔料やせっけんも、ピーリング効果があります。
・ピーリングパック
チューブやボトル入りのものや粉末を水で溶くものなどがあり、顔に塗って乾いたら剥すものと洗い流すものがあります。
2. 美容皮膚科でのケミカルピーリングとは
ニキビ跡などの凹凸も改善できるという、美容皮膚科でのケミカルピーリングについて調べてみました。
2-1. ケミカルピーリングの効果
美容皮膚科でおこなわれるケミカルピーリングは、「科学的皮膚損傷」と言われるように、皮膚の表面を薬品によって剥すことで新しく生まれる皮膚を作り出す方法です。
・TCA(トリクロロ酢酸)ピーリング
美容皮膚科での「ケミカルピーリング」といえば、TCAピーリングといわれるほど広く普及し、効果の高いピーリングです。
トリクロロ酢酸を使用します。施術した部分が白くかさぶたになり、自然に剥がれるのを待ちます。
・グリコール酸ピーリング
市販のピーリング商品に含まれるのと同じ水溶性のAHA(アルファヒドロキシ酸)のグリコール酸を使います。水溶性なので、施術中に水洗することで反応を中止することができます。
施術中、医師が皮膚の状態をよく観察していれば、副作用の危険性は少ないといえるでしょう。
・サリチル酸ピーリング
サリチル酸はとても強い薬剤なので、血液中に吸収されたことが原因となる副作用や炎症などの危険性が高いものです。そのため、皮膚科でも長い間サリチル酸単独でのピーリングは行われてきませんでした。
近年、マクロゴールを主基剤としたサリチル酸ピーリングなら血液中に吸収されてしまうことや強い酸が皮膚の深い部分へ浸透することを防ぐということがわかり、極めて安全に施術できるピーリングとして注目されています。
2-2. 欧米と日本のケミカルピーリングの方法
美容皮膚科でのケミカルピーリングの方法は、欧米と日本で大きな違いがあります。
米国を中心に、顔面の「若返り」のために皮膚の網状層に達する深いピーリングがおこなわれています。
白人種では擦過傷や熱傷がほとんど痕を残さないという皮膚特性があるため、こうした治療が可能なのだそうです。
アジア人種では、浅いびらんやわずかな炎症でさえ様々な程度の色素沈着を伴うことがあるうえ、少し深い(網状層に届く)傷では、肥厚性瘢痕を生じる懸念があるために、欧米でのケミカルピーリングをそのまま日本人に当てはめることができないのですね。
日本で行われているのは「浅層ピーリング」といって、網状層などの真皮にまで届かない角層のみを取り去るものです。
そのため、海外で行われているピーリングのように、深いしわを改善することはできません。
2-3. ケミカルピーリングの歴史
ケミカルピーリングの歴史は古代エジプトにまで遡ります。
古代エジプトでは、女性たちは皮膚をなめらかにするためにサワーミルクの入った湯に入浴していたのですが、これはAHA(アルファヒドロキシ酸)の乳酸による効果があったためと考えられています。
1882年にドイツの皮膚科医P.G.アンナはサリチル酸、レゾルシノール、フェノールおよびトリクロロ酢酸について記載し、20世紀初頭にオリジナルのペーストを考案しました。
その後アメリカにおいてフェノールピーリングがニキビ跡などに試みられ、1960年代に入り形成外科医ベーカーとゴードンによって皮膚の若返り療法として確立されました。
70年代、80年代にかけてはフェノールと並んでTCA(トリクロロ酢酸)を用いたケミカルピーリングが盛んになり、1990年代にはグリコール酸ピーリングとレーザーピーリングが広くおこなわれるようになりました。
日本では、科学的皮膚損傷を治療に応用するという考え方は近年まで定着しませんでした。
1985年に日本で開催された第二回国際美容外科学会でケミカルピーリングがパネルディスカッションに取り上げられたことがきっかけとなり、日本でも広まりを見せました。
3. 自宅でできるセルフピーリングとは
自宅でできるピーリングはどのようなものなのか、その効果や成分、注意点についてご紹介していきます。
3-1. ピーリングジェルの効果
ピーリングジェルの効果に関しては、実際に使ったことのある人は実感するはずです。
ジェルを塗ってマッサージすることで、ポロポロとしたカスが出てきて、それを洗い流した後は肌がつるつるに感じられる…。
多くの人が感じるこの「効果」は、「不要な角質が剥がれ落ちて、肌がつるつるになった」という印象なのですが、実際のところは違うようなのです。
「オトナ女子のための美肌図鑑」の著者であり、大学院では化粧品リスクについて研究したというかずのすけさんによると、「ピーリング化粧品は有効成分の濃度が薄く、効果はほぼないが、頻繫に使うと肌が不安定にも」ということです。
また、「ピーリングジェルのポロポロは『ゲル化剤』。」ポロポロと出てきたカスが黒ずんでいる場合は、汚れた角質層が取れていることもあるそうですが、それはなんと「ご飯粒を転がしても取れる程度のもの」なのだとか。
そして、すべすべ効果の多くは『陽イオン界面活性剤』のせい」と著書の中で解説しています。陽イオン界面活性剤は、洗濯物に使う柔軟剤に使われているもので、通常化粧品には入れない(肌には良くない)成分ということです。
ポロポロとすべすべを実感して「効いてる!」と思ってしまうのは間違いなのかもしれませんね。
3-2. ピーリングジェルの成分
ピーリングジェルの成分は、AHA(アルファヒドロキシ酸)やBHA(ベータヒドロキシ酸)といった酸性の薬剤です。
代表的な薬剤の強さの順は
BHAのサリチル酸マクロゴール
↓
AHAのグリコール酸
↓
乳酸
↓
リンゴ酸
となっています。
家庭でピーリングができる市販のピーリングジェルには、BHA(ベータヒドロキシ酸)は0.2%までしか配合できないことになっています。
3-3. セルフピーリングの注意点
セルフピーリングを家庭でおこなう際の注意点にはこのようなものがあります。
・ピーリングのしすぎ(皮膚を擦りすぎること)
→皮膚が薄く過敏になる、その後反動で角質層が厚くなる恐れがあります
・成分が肌に残ること(洗い流し不十分)
→界面活性剤などの成分は肌荒れのもとになります
・天然成分の過信
→ピーリングのための成分が「天然由来」のものでも、刺激としては同じです
4. 美容皮膚科でのケミカルピーリングをおすすめする理由
単に皮膚の新陳代謝を良くするだけでなく、シミの除去や小じわの改善といったアンチエイジング効果を目的にするなら、美容皮膚科でのケミカルピーリングをおすすめします。
その理由をお話していきましょう。
4-1. 医師の判断で剥皮深度を決めるため
美容皮膚科では、医師が患者とのカウンセリングで剥皮深度を決め、ピーリングの施術をおこないます。
薬剤の配合や塗布する時間などによって、皮膚のどこまでをピーリングするかを判断し、さらに目視によって顔の赤みなどを確認しながら施術するため、安全性が高いのです。
ピーリングは浅層ピーリングという、皮膚の表面のみを剥すものでも、角層が破壊されることによって一時的に肌のバリア機能が損なわれます。
こうしたバリア機能破壊は、ハプテン(不完全抗原)、抗原、一時刺激物質を侵入しやすくしてしまうため、皮膚科医以外が実施するケミカルピーリングのトラブルはこれに由来する問題がほとんどなのだそうです。
4-2. レーザー治療との併用ができるため
美容皮膚科では薬剤によるピーリングだけでなく、「レーザーピーリング」といって、レーザー光を使ったピーリングをおこなうことができます。
レーザー光は、皮膚の深い部分(真皮層)に熱を与え、繊維芽細胞を刺激します。繊維芽細胞が刺激されることでコラーゲンの産生が促進され皮膚の潤いをキープする働きが大きくなります。
さらに、しみやそばかすなどのメラニン色素に反応して破壊するアレキサンドライトレーザーの使用によって、しみ、そばかす、くすみを改善し明るい肌になるのです。
4-3. その他の治療法と併用できるため
美容皮膚科では、ピーリングをおこなうと同時に、高濃度ビタミンCやヒアルロン酸などを塗布する処置をおこないます。
ピーリングによって一時的に角層が破壊されている状態は、日常的には非透過性の物質・薬剤が浸透する状態でもあります。そのため、皮膚に良い成分を浸透させることができるのです。
また、ピーリングによる効果を確認しながら、カウンセリングによってコラーゲン注入やボトックス注射など、患者の要望に合わせてその他の治療法を併用することで、肌の悩みの改善につながるのも美容皮膚科ならではです。
4-4. ホームケアを指導してもらえるため
美容皮膚科でピーリングの施術を受けた場合、その後自宅でどのようなケアをすればよいかを指導してもらえるので安心です。
ピーリングの強いものほど、肌をそっと休ませるための「ダウンタイム」が必要になります。
日本の場合、真皮の深い部分までピーリングすることはありませんし、レーザーを使用するときは冷却してもらえますので、自宅で何日もノーメイクで過ごさなくてはならないというダウンタイムの必要はないことがほとんどです。
とはいえ、皮膚の表面が傷ついた状態ですから適切なホームケアで肌の回復を促すことは必要です。
心配な症状が出てきた場合でも、すぐに皮膚科医に相談できるというのは心強いですね。
まとめ
ピーリングをおすすめできるのは、肌が丈夫で健康な人といえます。
ピーリングはその言葉通り皮膚の表面を「剥く」「剥す」ので、皮膚がデリケートな人には向いていません。
今回、皮膚科医向けの書籍なども参考にいろいろと調べてみましたが、日本人のようなアジア人の皮膚は白人の皮膚に比べて色素沈着を起こしやすいことがわかりました。
白く透き通るような肌の白人のほうが一見皮膚が弱そうに見えるのですが、擦過傷(擦り傷)や熱傷(やけど)の痕は白人の場合きれいに治るのだとか。
日本人の場合は、傷に紫外線を当てないように気を付けないと色素沈着が傷痕として残ってしまいやすいのだそうです。
ピーリングは、薬剤を使う方法でも物理的にこすり落とす方法でも、肌表面を剥すので擦過傷の治癒と同じように紫外線などには気を付ける必要があります。
ニキビ跡やしみ、そばかすなどに対する効果を期待するなら自宅でできるピーリングでは不足ということもわかりました。
結果的に、効果を期待するなら美容皮膚科でのピーリングということになりそうですね。
【参考資料】
「ケミカルピーリングとコラーゲン注入のすべて」松永佳世子・他(文光堂)
「正しいスキンケア辞典」吉本伸子・他(高橋書店)
「大人のスキンケア新法則」平田雅子(三笠書房王様文庫)
「本当に知りたかった美肌の教科書」山本未奈子(講談社+α文庫)
「オトナ女子のための美肌図鑑」かずのすけ(ワニブックス)