ポジティブな人間とは、どのような人間でしょうか?
英語の「positive」は、「明確な」「完全な」「実用的な」「積極的な」という形容詞で、日本語でもっともよく使われるのは、「positive thinking(前向きな発想、プラス思考)」という言葉でしょう。
ですから一般的には、ポジティブな人間といったら、積極的な人間というよりも「プラス思考の人間」を意味します。
近年、心理学や脳科学などで「レジリエンス」という言葉が注目されていますよね。
この言葉が意味するのは、「苦境から立ち直る力」。
ポジティブであることが、レジリエンスを高める大きな要素となります。
苦境に負けない強さを身につけるためには、プラス思考のポジティブな人間を目指すべきです。
ここでは、脳科学の見地から、ポジティブ人間に必要な4つの力を解説します。
目次
1. 前向きに物事をとらえる力
1-1. 思考のクセを直す
1-2. プラスのことに目を向ける
1-3. 不安を減らす思考回路
2. 自分を信じる力
2-1. 脳内にプラスの言葉を増やす
2-2. 他人事にするテクニック
2-3. 別の方法を考える思考回路
3. すべてを受け入れる力
3-1. 自分で変えられるものと変えられないものを分ける
3-2. マイナスの経験にも意味を見出す
3-3. 受け取り方を変えられる思考回路
4. 人生の目的をもつ力
4-1. 目的があるとプラス思考になる
4-2. 人生の目的を見つける3つのヒント
4-3. 目的意識は生きる力まで強くする
まとめ
1. 前向きに物事をとらえる力
人は誰でも、辛い思いや悲しい思いをするときがあります。
レジリエンスの強い人と弱い人の差は、こういうときにもっとも表れやすいもの。
生まれつきレジリエンスの強い人もいます。
そういう人は、物事を前向きにとらえるので、苦境から抜け出すのが早いのです。
生まれつきもっている力なので、性格だと思われがちですが、最近の脳科学では、「前向き」であることや「プラス思考」が性格ではないことがわかったといいます。
「前向きに物事をとらえる力」は、人間の脳がもっている思考回路を知ることによって高められることがわかったのです。
1-1. 思考のクセを直す
「ポジティブシンキング=プラス思考」に対して「ネガティブシンキング=マイナス思考」があることは、知っていますよね。
心配性や不安症でなくても、人間はネガティブシンキングをする生き物です。
マイナス思考は、リスクを感知して自分を守るための防御策のひとつ。
「この仕事ができなかったらどうしよう」「試験に落ちるかもしれない」というマイナス思考をすることによって、ダメだったときのショックをやわらげようとするのです。
問題は、人間の脳の回路は、よく使う回路がより強固に形成されていくことにあります。
マイナス思考をしがちな人は、毎日のようにマイナス思考をするのがクセになっており、それがマイナス思考の回路をますます強いものへとしていくのです。
ですからマイナス思考は、いわば、思考のクセ。
自分を客観的に見て脳のクセを知るようにし、回路を切り替える習慣を身につけることができれば、レジリエンスを高めることができるのです。
1-2. プラスのことに目を向ける
人間は、自分を守るためにマイナス思考をしやすい生き物なのですから、意識してプラスのことに目を向けるようにした方がいいのです。
脳がマイナス思考をしている状態では、脳の機能が低下しているといいます。
マイナス思考をしている状態、不安を感じている状態では、何かを判断しようとしても誤った判断をしがちなのです。
だから、何かを判断しようとするときには、物事のプラス部分に目を向けてポジティブ思考をすることが大事。
「今、自分はマイナス思考をしている」と認識することが、前向きに物事をとらえるための第1歩です。
そして、物事の悪い面ではなくて、よい面を意識して考えるようにすると、脳機能を高めることにもつながります。
1-3. 不安を減らす思考回路
前向きに物事をとらえる力の大きな障害となる「不安」。
不安を減らすことができれば、プラス思考がしやすくなって脳機能もアップするのです。
不安は、マイナス思考を誘い、そのマイナス思考がさらなる不安を生むという悪循環をもたらしますから、断ち切らなければポジティブ人間にはなれません。
不安を減らす思考回路をつくる秘訣は、不安から逃げるのではなく向き合って、不安の裏に隠れている願望を知ることにあります。
不安の背景には、何らかの願望が満たされないことに対する恐れや失望があるもの。
まず、その願望が何かということを考えましょう。
願望がわかったら、実現する方法があるかどうか冷静に判断します。
もし、今のままでは無理でも、目標値を下げることで実現できるのであれば、願望を修正しましょう。
大事なことは、目標を達成すること。
小さい目標でも、小分けにした目標でもとにかく達成することによって、脳は活性化し、プラス思考ができるようになるのです。
2. 自分を信じる力
ポジティブ人間として生きるためには、自分を信じる力も大事です。
弱気になるのも不安になるのも、自分を信じる力が弱まっている証拠。
どんな事が起こってもポジティブでいられる強さは、「自己信頼」と脳の関係を知ることによって確固なものとなります。
とはいえ、常に自分に自信をもっていて、いかなる障害も乗り越えられるという人は、そうそういるものではありません。
多くの人は、「難しいかもしれないけど挑戦してみよう」「ダメかもしれないけどやれるだけやってみよう」というように、自分を信じようと意識しながら生きているもの。
この、自分を信じる力を高めるためには、脳をコントロールしている「心の声」を理解する必要があります。
2-1. 脳内にプラスの言葉を増やす
「心の声」は、無意識に発している自分の本音です。
プラス思考の声が多い人と、マイナス思考の声が多い人がいるので、自分の「心の声」がどのような傾向にあるのか知ることが大事。
思い浮かんだ言葉を次から次へと書き出すと、「心の声」の傾向が見えてきます。
プラスの言葉が多い人は、ポジティブな思考をする回路があるということで、自分を信じる力をもっている人だといえるでしょう。
マイナスの言葉が多い人が、プラスの回路を強化する方法は2つあります。
ひとつは、家族や友人などに頼んで、頻繁にプラスの言葉をいってもらうこと。
「君なら絶対にできるから大丈夫」「あなたの才能は素晴らしい」というように、誉め言葉や元気になる言葉を聞き続けていると、「心の声」に反映されていきます。
もうひとつは、英会話のトレーニングのように、プラスの言葉を日頃から見たり聴いたりするようにしむけるのです。
スマートフォンに入れた音声データを聞く、壁に貼った言葉を見るといった方法ですね。
2-2. 他人事にするテクニック
仕事で失敗をしたり、辛い事があったときなどは、瞬発力のあるレジリエンスが必要とされます。
こういう「ここぞ」というときに、自分を信じる力を高める裏技があります。
それは、「心の声の主語を一人称ではなく三人称にする」こと。
自分に対してダイレクトな言葉で鼓舞するのではなく、誰かに対して冷静に話しかけるような言葉を自分に投げかけるテクニックが効果的です。
2-3. 別の方法を考える思考回路
窮地に陥ったときに、人間はなんとかしてその状況を脱しようとするものです。
このときに重要なのは、「このままだとダメかもしれない」「逃げられなかったらどうしよう」と、自分を守りながらも、違う方法や行動を考えて試みる回路。
自分の「心の声」が、「この方法はどうだろう」「こうしてみたら」と、アドバイスしてくれることです。
本来は誰もが、脳内に自分をサポートするメンタルコーチをもっているのですが、マイナスの傾向が強い人は意識の上になかなか登場させることができません。
自分の中にいるメンタルコーチを信じて、意識的に登場させるようにしましょう。
ひとつの方法や手段にとらわれないことは、ポジティブ人間になる大切な要素です。
3. すべてを受け入れる力
明日、楽しいイベントがあるので晴れて欲しいと願っていても、天気は変えることができませんよね。
自分の力で変えられないことは、天気以外にもたくさんあります。
生まれた環境や境遇を変えることはできませんから、自分の生まれや育ちを悩んでみてもどうにもなりません。
生まれや育ちに限らず過去のことはすべて、タイムマシンでももっている人以外は、変えることができませんよね。
変えられないものは、受け入れるしかありません。
変えられないものを受け入れる力は、考え方ひとつで身につきます。
そう簡単にいってしまっては身もふたもないので、具体的な方法を紹介していきましょう。
3-1. 自分で変えられるものと変えられないものを分ける
自分の全てを受け入れる力は、脳のパワーを必要とするのですが、脳は辛いことや悲しいことを思い出させないようにして自分を守るときに膨大なエネルギーを消費します。
ですから、この世にたくさんある変えられないことに目を向けていると、脳機能が低下して、受け入れる力を発揮することができません。
大事なのは、「自分で変えられないこと」に目を向けるのではなくて、「コントロールできるものと向き合う」こと。
そして、どのような状況にあっても、「自分で変えられないこと」と「コントロールできること」を分ける判断力をもつことです。
3-2. マイナスの経験にも意味を見出す
「自分に変えられないことを受け入れる」という行為は、あきらめや無力を意味するものではありません。
むしろ、受け入れることによって、プラス思考ができるようになり、ポジティブな人間に必要な器の大きさをもつことができるようになります。
ネガティブな状況にいるときは、脳がマイナス要素にエネルギーを消費しているので、なかなかこうしたプラス思考はできないものですが、後になって、「ああ、あのときのことはいい経験になった」とか、「あの状況があったから、今の自分があるのだ」と思えることはありますよね。
日頃から、「生きている間に遭遇するどんな経験も、自分の人生とっては意味のあることなのだ」と考えて、自分のすべてを肯定して受け入れることができれば、脳は活性化を続けて、心も大きくもち続けることができるはずです。
3-3. 受け取り方を変えられる思考回路
物事の受け取り方や考え方を少し変えるだけで、とても楽になったという経験をもつ人は多いでしょう。
ポジティブになるためには、余計な悩みやストレスを抱えないことも大事。
「コップ半分の水」の話は有名ですが、人間の脳は自分を守るために「もう半分しかない」と考えてストレスに対処しようとする傾向があります。
ところが、実はここで、意識的に「まだ半分あるのだ」と受け取り方を変えるほうが、ストレスを軽減できるのです。
心の負担を軽くすることができるからです。
物事の受け取り方を変えて、自分に変えられない現実を受け入れられるようになると、ストレスが減って、脳内でプラス思考に避けるエネルギーが増えるのです。
4. 人生の目的をもつ力
ポジティブに生きるために欠かせないのが、人生の目的。
仕事で忙しい時期が続いたり、やらなければいけないことに追われていると、「自分は何のために生きているのだろう」とか、「将来はどうなるのだろう」と滅入って、人生の目的を見失うことがありますよね。
しかし、窮地に強い人は、目的へと一歩一歩近づく自分を常に頭に描いていますから、障害があってもそれは目的に近づく過程だと考えます。
だから、ポジティブな人は、自分を見失わないのです。
ポジティブな生き方をする上で重要なことは、目的が実現可能であること。
ただの夢ではなくて、自分が達成できることでなければいけません。
どんな状況にあっても実現可能な目的に向かって進んでいるという充実感が、プラス思考を生む余裕をつくります。
4-1. 目的があるとプラス思考になる
人生の目的をもって生きていて、幸福を感じている人は、物事のプラス面に意識を向けやすいといわれます。
大脳の内側、右脳の後頭部にある楔前部(けつぜんぶ)という部位は、物事のとらえ方や自分の意見を考えるときに疲れるところで、この部位が大きいと幸福を感じやすく、物事をポジティブにとらえようとする力が強くなるといいます。
人生の目的をもって幸福を感じている人は、この楔前部が大きいことがわかったのです。
脳の回路は年齢に関係なくいつからでも構築することができるといわれていますから、実現可能な目的をもって楔前部が大きくなるような生活を送れば、ポジティブな人間になることができるということです。
4-2. 人生の目的を見つける3つのヒント
充実感のある人生を送っている人にとって、「物質的に満たされている」ことと「心理的に満たされている」ことは両方とも必要な要素です。
しかし、人生の目的を見つけるようとするときには、物質的なことか心理的なことかという二面性ではなくて、「自分がとても好きなこと」「自分が得意としていること」「世のため、人のために役立つこと」という3つの要素がヒントとなります。
この3つの要素をそれぞれ三原色のような円にして、中央の3つが重なる部分が自分の人生の目的になりうるところ。
しかも実現可能な事柄です。
自分の人生の目的が見えないという人は、自分にとって「とても好きなこと」「得意なこと」「人の役に立つこと」の接点を考えてみましょう。
今まで意識していなかった自分の才能や傾向に気づくことができるかもしれませんよ。
4-3. 目的意識は生きる力まで強くする
人生の目的を明確にもっていて、窮地にあってもプラス思考ができる人は、「自分は何のために生きているのか」という思考回路を脳内にもっているのです。
秋田大学で40~74歳の1618人に対して行われた長期の追跡調査では、249人の人が亡くなったのですが、脳卒中で死亡する確率は人生の目的をもっている人の方が72%低く、心臓疾患で死亡した確率も、人生の目的をもっている人の方が38%低いという結果が出ました。
人生の目的や生きがいをもってポジティブに生きている人は、窮地から脱する力だけでなく、生きる力まで強いことが証明されたのです。
ポジティブな人間は、生命力もあるということですね。
まとめ
近年、「ポジティブ」に対する考え方がずいぶんと変わりました。
「ポジティブ」や「プラス思考」という生き方が普及してから、ポジティブであろうとしてストレス過多になってしまう人が増えたのです。
プラス思考をするはめに自分を追い込んでいき、窮地に陥ってしまうのでは本末転倒。
自分を許してハードルを下げよう、頑張るのはやめようという、あえてネガティブになるポジティブさ?が注目されるようになったのです。
ここで解説した4つの力は、ストレスで疲れてしまったようなときこそ効果を発揮します。
ぜひ、小さくてもいいから実現可能な目標を立てて、達成感や充実感を味わってください。
【参考書籍】
・『いつも「ダメなほうへいってしまう」クセを治す方法』 大嶋信頼 著 廣済堂出版 2018年
・『ピンチに強い脳の鍛え方 マイナス思考を断ち切る方法』 岩崎一郎 著 廣済堂出版 2016年