最近、ミツバチがつくり出すさまざまな食品に対する注目が高まっています。
そのひとつにローヤルゼリーがあります。
ミツバチといえば蜂蜜ですが、ローヤルゼリーも蜂蜜に含まれる成分のひとつと思っていませんか?
実はローヤルゼリーは蜂蜜とは別のものです。
ここではミツバチの生態から、ミツバチがつくるさまざまなもの、ローヤルゼリーの成分と働きまで、紹介します。
目次
1. ミツバチの生態とミツバチがつくり出す5つのもの
1-1. ミツバチの生態
1-1-1. 女王バチと働きバチ
1-1-2. オスのハチの役割
1-1-3. ハチの雌雄はどう決まる?
1-1-4. 分蜂〜女王バチが巣を出るとき〜
1-1-5. ミツバチの成長〜たまごから羽化するまで〜
1-2. ミツバチがつくり出す5つのもの
1-2-1. 蜂蜜
1-2-2. プロポリス
1-2-3. ローヤルゼリー
1-2-4. ミツロウ
1-2-5. 花粉
2. ローヤルゼリーの持つ成分とその働き
2-1. ローヤルゼリーのおもな栄養素
2-1-1. ミネラル
2-1-2. ビタミン
2-1-3. アミノ酸
2-2. ローヤルゼリーに特有の4つの成分
2-2-1. 10-ヒドロキシデセン酸
2-2-2. アセチルコリン
2-2-3. 類パロチン
2-2-4. ビオプテリン
1. ミツバチの生態とミツバチがつくり出す5つのもの
ミツバチは、私たちの健康や暮らしに役立つさまざまなものをつくり出していいます。
ミツバチはこれらの物質をどのようにつくっているのでしょうか?
ミツバチの特徴から暮らしぶりまで、ミツバチの生態について説明します。
1-1. ミツバチの生態
ミツバチは花粉を運んで、植物の受粉を助ける生き物のひとつです。
25,000種類もいるハナバチの一種で、社会性が発達しているという特徴を持ちます。
蜂蜜を作るミツバチは9種類います。
体が一番の大きいのが「オオミツバチ」、反対に小さな体を持つのが「クロコミツバチ」と「コミツバチ」です。
9種類のうち、養蜂などで人間と深い関わりを持つのは、「セイヨウミツバチ」と「トウヨウミツバチ」の2種類だけです。
1-1-1. 女王バチと働きバチ
社会性の高いミツバチには、役割分担があります。
実は女王バチも働きバチもすべてがメスです。
女王バチ
子どもを産む役割を担うのが女王バチです。
ひとつの巣に1匹しか女王バチはいません。
女王バチはたまごが生まれてから16日で羽化します。
オスと交尾して腹部に精子を貯めておき、1日におよそ2,000個のたまごを産みます。
働きバチ
蜜や花粉を集めたり、巣を外敵などから守ったりするのが働きバチです。
働きバチは、たまごが生まれてから21日で羽化します。
働きバチは子どもを生むこと以外、生活面の全ての役割を担っています。
巣をつくったり、子どもを育てたり、巣の掃除をしたりするだけではなく、女王バチの世話も行います。
働きバチの仕事は、羽化してからの日付(日齢)によっておおむね決まっています。
1-1-2. オスのハチの役割
オスのミツバチは、たまごが生まれてから24日で羽化します。
働きバチよりも羽化までにかかる日数が多く、体も大きくなります。
オスのミツバチの役割は交尾することです。
でも、オスのミツバチは自分の生まれた巣(コロニー)の女王バチとは交尾しません。
ほかの巣の女王バチと交尾して子孫を残します。
オスのミツバチ達は交尾の場所に集まって、空中で女王バチを捕まえます。
交尾に成功するとすぐに命を落としてしまいます。
1-1-3. ミツバチの雌雄はどう決まる?
ミツバチのオスとメスではこんなに役割が違うのですが、性別はどう決まるのでしょうか?
女王バチがオスと交尾して得た精子を使ってたまごを産むと、そのたまご(有精卵)は全てメスになります。
生まれたメスは、女王バチの遺伝子の半分とオスの遺伝子のすべてを受け継ぎます。
一方、オスは女王バチがオスの精子を使わずに産んだたまご(未受精卵)から生まれます。
オスの遺伝子は100%、女王バチから受け継いだものになります。
1-1-4. 分蜂〜女王バチが巣を出るとき〜
ミツバチのコロニーは、女王バチがたまごを産むことで大きくなっていきます。
たまごを産んだり、花粉や蜂蜜を貯めておいたりする場所が手狭になってくると、女王バチはたまごを産むペースを落とします。
女王バチのたまごを産むペースが落ちたことに気づくと、働きバチは新しい女王バチを育てる場所(巣房)を用意します。
そして、新しい女王バチ候補を育て始めます。
新しい女王バチが生まれる直前になると、元々いた女王バチは働きバチのおよそ2/3を連れて巣を出て行きます。
巣の候補地を探す偵察バチが情報収集を行い、8割以上の偵察バチが賛成した場所に新しい巣をつくります。
これを「分蜂」と呼びます。
女王バチが旅だった巣では、羽化した新しい女王バチ候補達の中から、勝ち抜いた1匹が新女王バチとして交尾飛行に出かけます。
交尾を終えて戻ってきた女王バチは、巣を受け継いでたまごを産み始めるのです。
1-1-5. ミツバチの成長〜たまごから羽化するまで〜
女王バチが産んだたまごは、およそ3日で孵化します。
孵化した幼虫は、働きバチからエサをもらって育ちます。
最初にもらうエサは、どの幼虫も変わりなく、栄養豊富なローヤルゼリーです。
成長するにつれて、将来働きバチとなる幼虫のエサは変わっていきます。
幼虫は24時間に1回、脱皮をします。
脱皮を繰り返した幼虫は、蓋をされた巣房でサナギになります。
サナギの中で、幼虫の体から成虫の体へと変化していきます。
変化が終わると、サナギから羽化するのです。
サナギの期間は雌雄などによって異なりますが、働きバチの場合、およそ11日になります。
1-2. ミツバチがつくり出す5つのもの
働きバチは植物を訪れて、花の蜜や花粉などを集めて巣に持って帰ります。
そして、さまざまなものをつくり出しています。
ミツバチが作り出すものは、私たちの生活の中でも多く利用されています。
人間が利用しているミツバチの作り出すものとしては、次の5つが挙げられます。
1-2-1. 蜂蜜
蜂蜜のおもな材料は、ミツバチが植物から集めてきた花の蜜です。
蜜の収集にあたるのは、日齢を重ねた最年長の働きバチです。
偵察に出かけた働きバチは、見つけた花が蜜を集めるのに適しているかどうかを、蜜の量や巣からの距離などから判断します。
適した花の情報は、巣に戻ってからお尻を振って8の字を描きながら歩く「ダンス」によって、ほかの働きバチに伝えられます。
適した花に採餌に向かった働きバチは、蜜を胃に収めて、花粉を後ろ足に付けてかえって来ます。
集めた蜜は巣に戻ったら、蜂蜜などを貯める場所「巣房」に吐き戻します。
巣の中にいる働きバチは、受け取った蜜を体内に入れたり吐き戻したりしながら、ミツバチが持つ酵素を使って果糖やブドウ糖などに分解して、水分を蒸発させます。
水分の蒸発を促すもののひとつが、巣にいる働きバチが羽を動かして風を送る旋風行動です。
こうして適度に水分を蒸発させてできたものが蜂蜜です。
蜂蜜はミツバチの食料として巣に蓄えられています。
<蜜を採取する花>
ミツバチが蜜を採取する花としては、レンゲ、みかん、クローバー、菜の花、ニセアカシア、リンゴ、ソバ、栗などがあります。
1-2-2. プロポリス
プロポリスの材料となるのは、ミツバチが松やユーカリなどの新芽から集めた樹脂です。
集めた樹脂にミツバチの唾液を混ぜて、そこに花粉やミツロウを足したものがプロポリスです。
プロポリスの「プロ(pro)」は守るという意味、「ポリス(polis)」は都市という意味を持ちます。
日本語では、「蜂脂(はちやに)」とも呼ばれています。
プロポリスはすき間を埋めるためのもので、巣を作ったり、巣を改修したりするときに使われます。すき間を埋めることで、巣の断熱性を高めることができます。
また、巣の入り口や内側に塗って、表面をなめらかにしたり、細菌の侵入を防いだりするために使われていると考えられています。
体の大きな侵入者が現れて、無事撃退したものの、死骸を動かせなくなった場合も、プロポリスが使われます。
ミツバチは死骸をプロポリスで防腐処理をして、カビや細菌の繁殖を防いでいるのです。
1-2-3. ローヤルゼリー
ローヤルゼリーもミツバチが食料として巣に蓄えているものです。
しかし、蜂蜜と異なり、ローヤルゼリーは全てのハチが食べるものではありません。
幼虫の数日間だけは、全てのハチが食べますが、将来女王バチ以外になる幼虫は、徐々にエサは蜂蜜や花粉に変わっていきます。
一方、将来女王バチとなる幼虫は、ローヤルゼリーだけを食べて育ちます。
こうしたことから、ローヤルゼリーは「王乳」とも呼ばれています。
ローヤルゼリーは、育児を担当している働きバチの咽頭腺と呼ばれる場所から分泌されます。
働きバチは、花粉を材料にローヤルゼリーを作ります。
ローヤルゼリーの色は蜂蜜とは違い、白色です。
1-2-4. ミツロウ
ミツロウは、ミツバチの下腹部から分泌される脂肪が固まったものです。
この脂肪は、働きバチの腹部にある8個の蝋腺で作られています。
ミツバチが幼虫を育てたり、蜂蜜や花粉を貯蔵したりする六角形の巣房は、ミツロウで作られています。
働きバチは、蝋腺から分泌されたうろこ状のミツロウを口に運んでこねて、適当な硬さになったら巣房を作る場所に置きます。
これを何匹もの働きバチが行って、巣房の形をつくっています。
触角を使って厚みを調節して、適度な熱が加わることで、円筒形だった巣房が六角形に仕上がります。
ミツロウは防水性に優れていて、融点が低く、常温で簡単に伸ばせるという特徴を持ちます。
巣に水が入るのを防いだり、蜜などを貯める巣房を密閉したりするのに使われます。
また、ミツロウには巣に病気が広がるのを防ぐ役割もあります。
採取されたミツロウは、口紅やクリーム、ろうそくの材料、建物の内装用のワックスとして使われています。
1-2-5. 花粉
食料調達に出た働きバチは花の蜜を胃に収めて、花粉を足につけて巣に帰ってきます。
集めてきた花粉は、巣房に詰め込まれて、衛生的に管理されます。
貯蔵された花粉は、ローヤルゼリーの材料になったり、働きバチや将来働きバチになる幼虫の食料になったりします。
なお、花粉の色は植物の種類によって異なります。
2. ローヤルゼリーの持つ成分とその働き
ローヤルゼリーは古くから、「不老長寿の霊薬」「若返りの薬」「万病に効く」などといわれてきました。
現在では、疲労回復やアンチエイジング、更年期障害の症状の軽減などの効用が見込める健康食品として利用されています。
また、医薬品として認可されているものもあり、さまざまな作用が研究されています。
ローヤルゼリーが健康食品として有名になったのは、1950年に当時のローマ法王、ピオ12世が危篤状態に陥ったときです。
ローヤルゼリーを口にしたピオ12世が全快したことから、注目を集めるようになったとされています。
そんなローヤルゼリーを成分から見てみましょう。
2-1. ローヤルゼリーのおもな栄養素
ローヤルゼリーは蜂蜜と異なり、糖質は10%程度しか含んでいません。
そのほかの成分をバランスよく含んでいるのが特徴です。
現在わかっているだけで、ローヤルゼリーの成分は60種類を超えています。
ここではローヤルゼリーに含まれるおもな栄養素を紹介します。
2-1-1. ミネラル
ミネラルは5大栄養素のひとつです。
体の機能を調節したり、維持したりするのに欠かせないミネラルを必須ミネラルと呼びます。
必須ミネラルは16種類あって、主要ミネラル(7種類)と微量ミネラル(9種類)に分けられます。
ローヤルゼリーには、7種類の主要ミネラルのうち、カルシウム、マグネシウム、リン、カリウム、ナトリウムの5種類が含まれています。
また、9種類の微量ミネラルのうち、銅、亜鉛、鉄、マンガンの4種類が含まれています。
ミネラルはほとんど体内では合成できないため、食べ物で取り込む必要があります。
ローヤルゼリーは、多くの必須ミネラルをとることができる食べ物なのです。
2-1-2. ビタミン
ビタミンは、不足すると欠乏症をおこし、健康に悪影響を与える重要な栄養素です。
現在、13種類が知られています。
13種類のビタミンは、脂に溶ける脂溶性ビタミン(4種類)、水に溶ける水溶性ビタミン(9種類)に分けられます。
ローヤルゼリーには4種類の脂溶性のビタミンのうち、ビタミンAとビタミンBが含まれています。
また、9種類の水溶性ビタミンのうち、ビタミンB1、B2、B6、ナイアシン(ニコチン酸)、パントテン酸、葉酸、ビオチンの7種類が含まれています。
ローヤルゼリーは多くの種類のビタミンを含む、ビタミンに富んだ食品のひとつです。
ビタミン様物質
さらにローヤルゼリーは、ビタミン様物質のひとつ、コリンも含んでいます。
ビタミン様物質とは、ビタミンと同じような作用を持ちながら、体内で合成できて、欠乏症が見つかっていない物質のことです。
コリンは細胞膜のおもな成分であるリン脂質や、神経伝達物質のひとつアセチルコリンの材料となる物質です。
2-1-3. アミノ酸
私たちの体を構成するおもな成分はタンパク質です。
タンパク質が不足すると、肌のうるおいがなくなったり、筋肉や内臓、血管が衰えたり、骨や歯が弱くなったり、細菌やウイルスなどに感染しやすくなったりします。
体を構成するタンパク質は20種類のアミノ酸からできています。
このうち9種類が体内で合成できなかったり、少ない量しか作れなかったりするため、食べ物からとる必要がある必須アミノ酸になります。
実はローヤルゼリーは、9種類の必須アミノ酸(バリン、リジン、ヒスチジン、ロイシン、メチオニン、トリプトファン、スレオニン、フェニルアラニン、イソロイシン)をすべて含む食べ物なのです。
さらに、20種類のアミノ酸のうち、アスパラギン酸、アラニン、アルギニン、グルタミン酸、プロリン、チロシン、グリシン、セリンの8種類も含んでいます。
体を構成する20種類以外のアミノ酸
ローヤルゼリーに含まれるアミノ酸は、体の材料となる20種類以外にもあります。
シスチン、γ-アミノ酪酸、β-アラニン、タウリンの4種類です。
このうち、シスチンは免疫力を高める働きがあることから特に注目されています。
2-2. ローヤルゼリーに特有の4つの成分
ローヤルゼリーには、特有の成分もあります。
ここでは4種類の特有成分を紹介します。
2-2-1. 10-ヒドロキシデセン酸
10-ヒドロキシデセン酸は脂肪酸のひとつで、ローヤルゼリーに特有の成分です。
脂肪酸は、体の中でエネルギー源として使われる物質です。
10-ヒドロキシデセン酸には、体内の糖代謝を正常にする働きや、殺菌作用、抗がん作用があるとして注目されています。
ローヤルゼリーの制がん効果については、実験結果も発表されています。
2-2-2. アセチルコリン
アセチルコリンは、神経伝達物質のひとつです。
神経伝達物質は、神経細胞の興奮や抑制をほかの神経細胞に伝える物質のことで、ニューロン(神経細胞)で作られています。
アセチルコリンは、副交感神経などで刺激を伝達する物質です。
副交感神経が優位になると、血圧の低下、消化の促進、便秘の改善などに繋がります。
また、自律神経失調症や更年期障害の改善にも繋がるのではと期待されています。
2-2-3. 類パロチン
類パロチンは、唾液腺ホルモンに似た物質です。
唾液腺ホルモン(パロチン)には、骨を成長させる働きがあるとされています。
また、パロチンは「若返りホルモン」とも呼ばれています。
筋肉や内臓、骨や歯などの組織の成長や再生を促し、老化防止に役立つとされています。
美肌効果も期待されていて、ヨーロッパでは古くからローヤルゼリーを化粧品として利用しています。
2-2-4. ビオプテリン
ビオプテリンは補酵素のひとつです。
補酵素は、酵素の働きを助ける役割をする物質です。
ビオプテリンは、ノーベル賞を受賞したドイツの有機化学者・ブテナント博士が発見した物質で、女王バチへの分化に関与するのではないかと考えられています。
まとめ
ローヤルゼリーはミツバチが作り出す物質のひとつです。
生まれたばかりの幼虫に与えられる栄養豊富な物質で、働きバチになる幼虫のエサは徐々に花粉や蜜に変わっていきますが、女王バチになる幼虫はローヤルゼリーだけを食べ続けます。
ローヤルゼリーは3大栄養素の糖質、タンパク質、脂質を全て含んでいます。
さらに多くのミネラルやビタミンもバランスよく含まれていて、人間にとっても栄養豊富な食べ物と言えます。
ローヤルゼリーには特有成分も見つかっていて、現在でもローヤルゼリーの成分や特性についての研究が進められています。
健康食品として利用されていますが、少量で効果が期待できる食品なので、とりすぎには気をつけてください。
ローヤルゼリーの安全性と副作用については「ローヤルゼリーを知る3つの扉-女王バチだけのスーパーフード」でも別途、詳しくご紹介していますので、こちらの記事も参考にしてみてください。
【参考資料】
フォーガス・チャドウィック、スティーブ・オールトン、エマ・サラ・テナント、ビル・フィツモーリス、ジュディー・アール『ミツバチの教科書』(エクスナレッジ、2017年)
山口芳香『ローヤルゼリーで健康になる』(ヘルス研究所)
末松俊彦『プロポリスの力』(ヘルス研究所)
西崎統(監修)『決定版 健康食品バイブル』(主婦と生活社)