子どものいる夫婦が離婚するとき、もっとも気になるのが子どもへの影響です。
東京大学付属病院で子供の精神医学・精神保健の臨床医を45年続けられた佐々木正美医師によれば、1966年には東大付属病院の精神科外来で15歳以下の受信者はわずか0.4%だったそうです。ところがそのわずか8年後の1974年には15歳以下の精神科外来受診は10%にまで増えていたといいます。わずか10年たらずで25倍に増えたのです。
その後は東大付属病院の精神科以外にも子どもの精神科外来ができたために、日本の子どもがどのくらい精神科を受診しているかは把握できていないといいますが、相当数にのぼるはずです。社会問題になっている不登校やひきこもり、ニートなどの状況下にいる子ども、拒食症や過食、その他の依存症に罹る子ども。
自分が離婚したことにより、そのような子どもになってしまうのではないか。離婚が子どもの心に与える影響は小さくないのではないか。誰もがそう考えるに違いありません。少し前に話題になった「アダルト・チルドレン」という、子供の頃甘えることができずに成長し、大人になっても子どもの自分をひきずっている状態の人たちも、親の離婚が原因だと口にする人が多いようでした。
しかしそれは本当に、親の離婚が原因なのでしょうか。
いわゆるDV(ドメスティック・バイオレンス)、児童虐待が原因の離婚、あまりにも片方の親が常軌を逸していることが原因の離婚に関しては、離婚が子どもにとっても良いことだと納得できるでしょう。でも、「自分はもう夫(妻)を愛していない」「夫(妻)の浮気が許せない」「夫(妻)の実家とどうしてもうまくやっていけない」などの理由で別れるとき、子供への影響を考えて離婚をためらう人は多いはずです。
離婚を考えている。子どもへの影響が知りたい。そんな人に対してネット上には根拠のない情報が散乱しています。A子さんには離婚経験があり、当時6歳の息子を18歳になる現在までひとりで育てました。祖父母の協力もなく、今のように情報も多くはなく、必死でした。でも、離婚や子どもへの影響について、軽く頭で考えて、サラサラと書かれた、何の根拠もない情報がネット上にあまたある現代よりも、彼女は自分を信じるしかなかった分、幸せだったのかもしれません。
要らない情報がなかったことは良かったけれど、知っていたらと思う情報もあったと言います。根拠のある情報の中には、知っていたら不安がなかったと思えるものがたくさんあったのです。ですので、その頃のA子さんが知りたかったという本物の情報を、一生懸命集めました。すべて書籍や研究など、専門家が記した、根拠のある内容です。
離婚を考えている人、離婚した人は、自分や子どもの未来を良くしたくてそうしたはずです。そうした、より良く生きようと真剣な人には、軽く書かれた情報に影響されて右往左往してほしくありません。離婚に迷っている人、すでに離婚していて、どうしたら子どもを健全に育てられるか悩んでいる人に向けて、本気で書きます。本気で子どもを愛している人に、本気で悩んで離婚するかどうか決めてほしい。すでに離婚しているならどうか安心して子育てをしてほしいと思います。
目次
1. 心理臨床家からの警告|親の離婚が子供に与える影響とは
1-1. 日本の心理学者・精神衛生の専門家では取り上げられない問題
1-2. ガードナーが「PAS」と名付けた「片親疎外」とは
1-3. アメリカでの「母性優先原則」から「子の最善の利益」への流れ
1-4. 韓国でも義務化された「離婚する親への教育プログラム」
1-5. 夫婦の離婚にまつわる日本の現状
2. 離婚するかしないかの決断ポイント
2-1. 自分の夫への本当の気持ちの確かめ方
2-2. 経済的自立についてどう考えるか
2-3. 離婚した時の子供との関係
2-4. 離婚しないと決めるのに必要な夫婦の関係
3. 離婚を決めたらこどものために何ができるのか
3-1. 両親が離婚するときに子供が知りたいこと
3-2. 離婚時にあえて子供に話す必要はないこと
3-3. 子供が安心するために親ができること
3-4. 生活費や学費をどうするか
4. 離婚後どのように子供と接するか
4-1. 離婚後の子育てで気をつけること
4-2. 子供は親の背中を見て育つ
4-3. 離婚が原因かどうかわからないこと
5. まとめ・どんな環境でも子育ては難しくて楽しいもの
5-1. 自分が離婚のせいにしなければ子供も親のせいにしない
5-2. 一緒に成長させてもらっていることに感謝する
5-3. 振り返るとあっという間だからこそしておきたいこと
1. 心理臨床家からの警告|親の離婚が子供に与える影響とは
ここでは、心理臨床家の棚瀬一代さんの著書などから、親の離婚が子どもに与える影響についてまとめました。心理臨床家というのは、精神科医ではありません。
心理学は文系の学問で、日本では文学部に分類されることが多い学問です。臨床心理学を学問的な基盤とする資格に臨床心理士があります。臨床心理学を学び、それを活かして実践、還元する人を心理臨床家と呼びます。心理学の研究者ともいえるでしょう。
1-1. 日本の心理学者・精神衛生の専門家では取り上げられない問題
「離婚が子どもに与える影響について心理学者をはじめとする精神衛生の専門家の間でも、真正面から取り上げられることはほとんどなかった」と著者の棚瀬一代さんは書かれています。また、高校教師から心理カウンセラーになった丸井妙子さんの著書でも、両親が離婚したときの子どもの気持ちについて「日本で本格的な調査が行われたという話はあまり聞きませんが、」とした上でアメリカの調査について書かれています。
また、丸井妙子さんは
「子どもが離婚から受ける影響については、私のわずかな経験だけでは、説得力のあるお話はできないと思います。そもそも、ある集団の特徴について何らかの主張をするとすれば、その裏付けとなるデータが不可欠です。つまり、対象となる子ども達を一定数以上集めて、彼らから直接、話を聞かなければなりません。それには聞き取り作業にかかわる多くのスタッフと、かなりの時間が必要になってきます。そのような大々的な調査は日本では行われてきませんでしたので、国内に目を向けているだけでは、どこかの専門家の思いつきのような提言や、いわゆる離婚産業従事者たちに都合の良い理屈だけを聞かされることになってしまうでしょう」
と述べられています。
つまり、世の中に、とくにネット上に出回っている「離婚が子どもに与える影響」についての情報は、書き手がもっともらしく適当にでっちあげているか、もしくはアメリカなど諸外国の情報を載せているかだと思ってください。
離婚が子供に与える影響の研究について
離婚が子供に与える影響について、信頼できる長期の研究は、日本にはありません。現在離婚が子どもに与える影響についての著書はほとんどが、アメリカの研究について書かれていることになります。
そのことを踏まえずに、安易に内容だけ抜粋した情報を読んでしまうと、棚瀬一代さんの著書のひとつ「離婚で壊れる子どもたち~心理臨床家からの警告」というタイトルからイメージできるように「離婚は子どもに多大な悪影響を与える」と思い込んでしまうことになってしまう恐れがあります。
離婚に対する子供への影響~日本とアメリカの違い~
アメリカの離婚について語るとき、裁判は避けられません。離婚についてのみではなく、あらゆる場面で人を訴え、自分を正当化し、少しでも利益を得ようとする国民性があります。このことは、自分のルーツである両親が激しく憎み合い対立する葛藤から、のちに取り上げる「片親疎外」となる悪影響があるといいます。
これに対し、日本人はうらみつらみを抱えながら、現状維持をするという国民性があるように思えます。もちろん、離婚が子どもに与える影響の長期研究のない日本に、「いがみあう親が子どもに与える影響」などの研究は今のところありません。
しかし、裁判ではっきりさせようと自分の両親が対決する葛藤と、いがみ合い憎しみ合い、あるいは無視し合って生きている自分の両親と日々暮らす葛藤と、どちらも同じように子供を傷つけ、「片親疎外」になるとは考えられないでしょうか。
1-2. ガードナーが「PAS」と名付けた「片親疎外」とは
アメリカのリチャード・ガードナーは小児精神科医です。そのガードナーが名付けた「片親疎外」というのは、「片親引き離し症候群」とも訳されます。
子どもにとっては、父親も母親も、自分の血を分けた人なのに、離婚によって片親がもう片方の親を悪く言ったり、二度と会わせたりしないなどすることにより、子どもがひどく傷つくという状況を言います。
現代のアメリカでは、あまりに離婚訴訟が多いために、このガードナーの研究を利用し、DVの夫(妻)やアルコール、ドラッグ中毒の夫(妻)から子どもを引き離すのはよくないという正当な理由に使われることがあるといいます。
もちろんガードナーはそういった特殊なケースについてではなく、ごく普通の夫婦がうまくいなかくなったとき、例えば子供が父親に愛されていると感じているのに、養育権のある母親が父親を悪く言う、父親(パパ)と呼ばせないなどすることによって、子どもが傷つくケースを「片親疎外」と言ったのです。
日本では、同居していてもいがみ合っている夫婦、例えば父親不在のときに母親が父親を悪く言う、父親の食事を作らない、洗濯物を選り分けるなどしている場合、離婚同様、「片親疎外」の影響が懸念されます。
1-3. アメリカでの「母性優先原則」から「子の最善の利益」への流れ
アメリカで離婚が急激に増加した1960年過ぎ頃、同時にフェミニズムが唱えられ、離婚後の子どもの養育について「母性優先原則」として母親が養育権を持つことがあたりまえだったと言います。
しかし離婚には同意しても、子どもを愛する父親たちはこれを法による性差別だと反発し、「離婚した男たちの連合」「父親の権利の会」などを次々結成し、全米36ものそういったグループが「全米男性会議」を開いたのだそうです。
ようやくその訴えが実り、「母性優先」から「子の最善の利益」へと移り変わったといいます。
この流れを見ると、当時のアメリカでの離婚の原因が、夫側の暴力やアルコール、ドラッグ中毒、浮気などが中心だったように思われます。そうした原因ならば、確かに法で「母性優先原則」として母親が子どもを引き取ったほうが良いと決めたほうが、子どもの健全な成長にとっても良いといえるでしょう。
ところが、法に守られることによって、ひどい母親に子どもが引き取られ、父親が自分の子どものことが心配でも手の打ちようがないということが出てきたに違いありません。
現代日本でも、教師から心理カウンセラーになり、離婚と子どもについて研究している丸井妙子さんが著書の中で、
「家族のために一生懸命仕事をしてきたが、妻に浮気されていた。浮気相手はバツイチで、もしも離婚したら経済力のない妻はその男と暮らすだろう。そんなところに自分の息子を預けられない。けれど自分の仕事は忙しく、子どもの養育権を獲得するのは困難だから、離婚をしないという選択をした」
男性について書かれています。離婚をしないという方法で子どもを守ることもあるという一例です。
1-4. 韓国でも義務化された「離婚する親への教育プログラム」
臨床倫理家、棚瀬一代さんがアメリカに留学していたとき、子どもの学校行事に仲良く参観に来ているように見えた親が、実は離婚した両親だったと知り、ショックを受けた話が書かれています。
この両親は、決してお互いに理解しあって離婚したわけではなく、今でもわだかまりはあるのですが、双方とも子どものことは愛していたため、子どもにとって一番良い状態を、頑張って作り出していたということです。
離婚を考えるほどの夫婦喧嘩が子供に与える影響
このような「演技」が子供にとって有効なのでしょうか?
年齢にもよりますが、これは有効だと言えるようです。10歳以下の子どもにとって、親の離婚は理解しにくいものです。しかしただ、理解できないというだけでは激しく傷ついたりはしません。
例えば、家庭内でよく口げんかをしたり、罵り合ったりしている両親だとしても、根底に愛があれば子どもはそれと気付くため、「またパパとママは喧嘩している」と軽く受け止めるに過ぎませんが、離婚を考える程度の喧嘩であれば、子どもはそれを察して不安になるようなのです。
このようなことを、離婚する親がどちらも知っていれば、子どもへの悪影響は最小限に抑えることができることから、全米では離婚する両親に向けた「親教育プログラム」が実施され、1994年には541郡、1998年には1516郡と増えており、州によっては未成年の子どもがいて離婚を考えている親にはすべてこの「親教育プログラム」を実施していると言います。
日本では、大阪家庭裁判所で1999年から試行され、2003年に結果が報告されていますが、まだ実施には至っていません。
韓国では、離婚の急増に関する危機感、子どもへの影響の懸念から、2007年の法改正から未成年の子どもがいて離婚する親のすべてにこの「親教育プログラム」が義務づけられています。
1-5. 夫婦の離婚にまつわる日本の現状
日本でも最近は、離婚に関してアメリカのように「どれだけ得するか」を考える女性が増えていると言います。インターネットで離婚を検索すると、弁護士や司法書士、行政書士などの法律家が自分のホームページで「どうしたら自分の思い通りの離婚ができるのか」のポイント、ノウハウをまとめて販売していたり、指導していたりするホームページの多さに驚きます。
前出の心理カウンセラー、丸井妙子さんは、離婚に関する研究をしているために知人からそのような相談を受けることがあると言います。その一例を簡単に紹介します。
「急にパートで働くと言いだした妻。ある夜、なにか様子が変だと思っていたら、携帯でコソコソと男性と話をしている様子。夫がカッとなって携帯をたたき落とそうとしたところ、妻は倒れて肩をベッドにぶつけた。すると、翌日病院で「むち打ちで全治1ヶ月」の診断書をもらっていた(のちに判明)。これまでもしていた程度の口げんかを『言葉のDV』として記録し、ある程度そうしたものが溜まったところで、子どもを連れて家を出てしまう。自分にはDVを原因として接近禁止命令を出されてしまい、子どもに会えない状況に。弁護士に相談しても現状で騒ぐとより印象が悪くなると言われ、途方に暮れていた。妻が慰謝料と養育費を払って離婚してくれるなら、子どもに会わせると言うので離婚したのに、接近禁止命令を延長され、子どもとは2年も会っていない」
こんなことがまかり通っているのが、日本の離婚にまつわる現状です。この例に登場する父親は、オムツ替え、お風呂など積極的に子育てをしてきたと言いますし、子ども達もパパが大好きだったそうです。
母親が、自分の浮気相手と一緒になりたいために、夫のDVという理由を使って自分に有利になるよう離婚に持ち込み、その後も子どもには会わせないということができてしまうのです。この例に出てくる子どもは、パパが大好きだったのですから「片親疎外」「片親引き離し症候群」の状態になる可能性は高いといえます。
2. 離婚するかしないかの決断ポイント
2-1. 自分の夫への本当の気持ちの確かめ方
子どもへの虐待やDVなど、夫と子どもを引き離した方が良いと判断できる場合以外、子どもへの影響を考えると、安易に離婚を決められないという人は多いはずです。そうは言っても、これから先の人生、ずっとこの人と夫婦として暮らしていくのかと考えると暗澹たる気持ちになってしまうのではないでしょうか。
夫とやり直せないかどうかを見極めるひとつの方法として、つきあい始めた頃や新婚当初、本当に愛し合っていた頃の写真を出してきて、毎日眺めるというものがあります。
「あの頃、あんなに楽しかったのに、いったいどうして今のような気持ちになってしまったのだろう」
写真を見ながら、夫への愛情がわずかでもまだ残っていると気付いたら、離婚よりも夫との関係を修復する方向に進めるはずです。
「自分だけが反省して、優しい気持ちで接しても、夫は自分勝手でまったく協力してくれない。やっぱり離婚しかない」
こう考えることを、1年、あるいは半年、我慢して、ただただ、夫に優しく接してみてください。妻の態度によって、夫が変わることは当然期待できます。子どもにとって何よりいいのは、両親が離婚しないことではなく、両親の仲が良いことですから、子どものためと思って一定期間努力してみてください。
もしも夫が何も変わらなかったとしても、自分が決めた期限まで、精一杯自分は夫婦仲の修復に努力したとなれば、そこから先、離婚したとしても納得がいくはずです。
2-2. 経済的自立についてどう考えるか
離婚を考えるとき、女性は経済面の心配もあるでしょう。
正社員や公務員として働いている、またはそうでなくても、充分な収入があるという女性は多くはないはずです。
離婚の原因が、夫の浮気なら、慰謝料や養育費は期待できますが、夫の収入に対して支払える程度の金額になりますから、夫が大金持ちでない限り、安心して子育てだけに専念できると言うことはありません。
ひとり親家庭には「児童扶養手当」が各自治体から給付されますが、離婚が増えていることもあり、子どもひとりあたりの給付金は年々減額されています。何があっても子どもとの生活を守るくらい、がむしゃらに働けるかどうかの覚悟は、離婚するかどうかの判断に大きくかかわってきます。
実家に頼るという女性も多いようです。まだ親が若いうちは、親としてもウェルカムな状態の家庭が多いでしょう。しかし親はいつ働けなくなるか、介護が必要になるかはわかりません。実家に頼る場合も、その覚悟はしておかなくてはなりません。
2-3. 離婚した時の子供との関係
離婚して自分が子どもを引き取り育てる場合、自分と子どもとの関係、別れる相手と子どもとの関係はどうなっているか、すこし引いた目で見る必要があります。
子どもの立場で、父親と母親、どちらも同じように好きで同じように一緒に暮らしたいという気持ちだとしたら、夫は自分にとっては離婚に至ってしまった男性だけれど、子どもにとっては良い父親だったのだと認めざるを得ません。
そのような親子関係ならば、いくら自分が夫を嫌っていても憎んでいても、子どもへの影響を考えて、それを口にせずいつでも夫と子どもが会える環境を作るべきです。
「あなたは私と一緒に暮らすけれども、いつでも父親に会えるんだよ」ということをオープンに話せる環境は、子どもの苦悩を減らします。
2-4. 離婚しないと決めるのに必要な夫婦の関係
離婚しないと決めたのなら、夫婦間の関係を少しでも良くしていくという覚悟が必要です。
両親の仲が悪い家庭で過ごす子どもの葛藤は、ある意味で言えば離婚した子どもの葛藤よりも長く続き、それは離婚した場合同様もしくはそれ以上に子どもの心を傷つけるからです。離婚を考えたということは、夫婦間に不和があったはずです。子どもにまったく気付かれていないはずがありません。
経済面や、子どもへの影響を考えて離婚を思いとどまったとしたら、それを今のままの結婚生活の続行にしてしまってはいけないのです。そして、離婚しなかったことを子どものせいにするのもやめましょう。
想像してみてください。両親の不仲のせいで、楽しいことのない不穏な空気の家庭に育ったとします。
「あなたのためを思って離婚しなかった」と後に恩着せがましく話す親ほど、子どもにとって嫌なものはないでしょう。「幸せな結婚生活ではなかったけれども、私は経済面であなたをひとり親で育てる自信がなかった」と正直に言われた方が良いと思いませんか。
3. 離婚を決めたら子供のために何ができるのか
3-1. 両親が離婚するときに子供が知りたいこと
両親が離婚するときに子どもが知りたいことは、父と母のどちらが悪いという、離婚の原因などではなく、「自分はこれからどうなるのか」ということです。
ですから、親は「大丈夫だよ」「責任を持ってあなたの世話をするよ」と真っ先に伝えることが必要です。それから、どちらの親と一緒に暮らすことになるのか、転校や転園はあるのか、困ったときには誰が助けてくれるか(近くにいるおじいちゃん、おばあちゃん)など、具体的に決まっていることを説明します。
お風呂のときや寝る前など、ゆっくり話ができるときには、子どもが何を不安に思っているのかわかるような会話ができると、それに対して「こうするから大丈夫だよ」と言ってあげられます。親も傷ついていて大変ですし、新しい生活で忙しいとは思いますが、できる限り子どもとゆっくり話ができる時間をとるようにしてください。
3-2. 離婚時にあえて子供に話す必要はないこと
その年齢の子どもに理解できないことは、話す必要はありません。尋ねられたら、その年齢でわかるような説明をしておけば良く、成長するに従って子どもは自分なりに理解していくといいます。
【0歳から4歳、5歳の子供に離婚を説明する場合】
離婚という言葉がわからない年齢の子どもに離婚を説明する必要はありませんし、もちろん離婚の理由も話す必要はありません。
「パパとママは別々のおうちで暮らすことになったのよ」
「どうして?」
「パパとママが話し合って決めたから。パパも、ママも、○○ちゃんも、これからもっともっと幸せになるためにどうしたらいいかなって話し合ったの」
【6歳、7歳から小学生くらいの子供に離婚を説明する場合】
本人が、どの程度大人について知っているかを確かめながら話をします。
「パパとママは、離れて暮らすことになったの。離婚って知ってる?」
「知ってる。○○ちゃんのおうちも離婚したって」
「そう。結婚生活を、終わりにしたの。でもあなたはパパの子どもなんだから、会いたいときには会えるし、困ったときには助けてくれるのよ」
【中学生から高校生の子供に離婚を説明する場合】
自分の生活がどう変わるかがいちばん気になる年頃なので、安心させてあげましょう。
「私たち、離婚することにしたの」
「えっ、そうなの?」
「いろいろ迷惑かけて、ごめんなさいね。あなたの名前は変えたくなければそのままでいいし、転校しなくて済むところに引っ越すからね。不安なことがあったらいつでも訊いてね」
3-3. 子供が安心するために親ができること
アメリカの臨床心理学者ジョアン・ペドロ・キャロル博士の研究では、「離婚」という言葉を聞いた子ども達は「悲しい、ショック、寂しい、腹がたつ、辛い、心配、不安、板挟み」などの言葉が浮かぶと言います。
また、親の離婚で子どもがいちばん悩んでいることは、「パパといるときはママと会いたくなり、ママといるときは、パパと会いたくなること」で、98%のこどもが感じているそうです。小さい子どもほど、親の離婚は自分の責任だと思い込みやすく、親が口論をしている、離婚に向かっているときに「自分の世話をしてくれる人はいなくなる」不安を感じるということでした。
このような子どもの悩みに対して親がしてやれることは、とにかく、あなたを愛していると伝えること以外にないといいます。「大好きだよ」「愛しているよ」と口で言うだけでなく、感心を持って育児をする、抱きしめる、なども有効です。
日本の子どもの精神科医の先駆けと言える佐々木正美医師は、子どもに愛情を伝えるのには、食事がとても大切だと言います。豪華な、あるいは手の込んだ食事をつくりなさいということではなく、質素でもいいから「あなたこれが好きでしょう」と言って作ってあげる、「卵はどうする?目玉焼き?オムレツ?」と尋ねてから作ってあげる。
または、そうした時間がないなら外食でもいいから「何が食べたい?」と子どもに聞いて自分も同じものを注文し、一緒にゆっくり食事をする、などが子どもの心を安定させるといいます。
3-4. 離婚後の生活費や学費をどうするか
離婚経験者の例で見ると、離婚の際に、自分の権利ばかりを主張するよりも、別れる夫との良い関係を築いた方が、後々経済的に困ったときに頼りになっているようです。子どもとの暮らしで生活費や学費をどうするかというのは、もちろんそれぞれの事情によって違います。
例えば、N子さんは、夫より稼いでいたバリバリのキャリアウーマンでしたので、夫の浮気が原因の離婚でしたが、「困ったときにはお世話になるから」という口約束で、とくに慰謝料も養育費も請求しませんでした。
このとき小学生だった子どもが高校生のとき、N子さんは二人目の子どもを生みますが、結婚はせず、シングルマザーを続けました。産休育休をとることになり、社内での異動などもあって収入は激減。
子どもは父親と自由に会っていましたから、母親が大変なことを伝え、自分は留学したかったけれどやめると父親に言ったそうです。父親は「これまで養育費も払ってこなかったんだから今度は俺が」と、子どもの留学にかかる費用を出してくれていると言います。
また、Rさんは、喧嘩が絶えない両親がいるより、別れた方が子どもにとってもいいのではと夫婦で話し合い、離婚しました。ひとり親家庭として、市営住宅に住み、子どもふたりを育てながら、県の支援で看護師専門学校へ行き、准看護師となり、働きながら正看護師になりました。
Rさんの両親や兄弟の協力もありましたが、夫とは養育費でもめたりしなかった分、子ども達に必要なものを買ってくれたり、ボーナス時期には現金をくれたりと、なにかと支援してくれたといいます。
一方、Uさんは、離婚に至るまでに揉めに揉め、家庭裁判所を通じてようやく離婚となりました。もちろん、養育費の取り決めや、それに際して夫に子どもを会わせるなどの取り決めもあります。ところが、最初の数ヶ月しか養育費は支払われず、「だったら子どもには会わせない」とUさんも意地になっています。見ていて辛いのは、Uさんが子どもに「パパはあなたのために必要なお金もくれないのよ」と言ってしまっていることです。
これでは子どもを傷つける「片親疎外」になってしまう心配があります。
離婚の際、養育費などの取り決めをはっきりさせることが、自分を守ると考える女性は多いようです。しかし実際には、2011年度厚生労働省がまとめた「全国母子家庭等調査結果報告」によると、母子家庭のうち父親から養育費を受け取っているのは全体の19.7%に過ぎません。強制執行と言って、給料からの差し押さえなどもできなくはないようですが、手間と労力を考えると自分が働いてしまった方がいいように思えます。
離婚前に夫婦がどれだけきちんと相手を尊重したかによって、その後の経済面がずいぶん違うように思います。
4. 離婚後どのように子供と接するか
4-1. 離婚後の子育てで気をつけること
「子どもがいくつになっても、お母さんは子どもの教育者ではなく、保護者でいてください」
頑張り屋さんである母親ほど、この言葉を忘れないようにした方が良いと思います。
「ひとり親でも子どもは健全に育ちます」の著者、佐々木正美医師(男性)は、子どもの精神科医です。その佐々木医師によると、子どもには「母性」と「父性」の両方が必要で、与えられる順番が「母性」のあと「父性」ならば、両親が揃っていなくても子どもは健全に育つということです。
「母性」は、子どもを受け入れる状態です。小さな子どもが母親や父親、祖父母などに甘え、無条件で許される経験で「母性」を与えられます。その後、保育園や幼稚園など集団での起立やルールとして「父性」が与えられます。このとき、きちんと「母性」を与えられてきた子どもは、「父性」を受け止めることができると言います。
「母性」が不足している子どもは、いくら父性的な社会的規範を示しても、反社会的行動をとってしまうそうです。自分が他者に受け入れてもらえないため、他者を受け入れることができないのです。
日本では、母性より父性的な要素が強い母親が増えていることを佐々木医師は心配しています。「できの悪い子ほど可愛い」というのは昔、母性の強かった時代の母親の言葉で、現代では「できの悪い子は可愛くない」とばかりに母親は子どもを教育しているのです。
母親は、教育者ではなく、保護者であることで子どもは母性を感じ、安心できるのです。
4-2. 子供は親の背中を見て育つ
子どものために何ができるかは、例えば収入ひとつとっても、親の能力によって違います。子どものために「何をしてきたか」という結果ではなくて、「自分の能力のできる限りでしてきたか」を子どもはちゃんと見ていてくれます。
だから、自分が精一杯頑張るって決めていれば、結果は他のお母さんより劣っていても大丈夫です。子どもは健全に育ちます。
離婚後の母親は、仕事をする必要があるため、子どもと過ごす時間が少ないと気に病むこともあるでしょう。また、仕事で疲れていて、子どもと一緒にいる時間にいつも優しく接することはできないはずです。
佐々木医師は、母親が「子どもの望む親でありたい」と思い、それをできる限り実践していれば、子育ては大丈夫と言います。ときにイライラして叱っても、子どもの要求にすべて応えられなくても、あとで謝ればいいのです。
子どもが6歳のときから18歳になった現在まで、A子さんはシングルマザーとして子育てしてきましたが、こうした本に書いてあるように「ときにはイライラして」などという程度ではなく、「3日連続イライラして」だったり、「大爆発を起こして」だったり、ひどい親だったと振り返ります。
それに、「仕事で疲れていて子どもに優しくできない」レベルではなくて「仕事も人生もなにもかも嫌になって大泣きする」なんてこともあったそうです。もちろん、子どもの前で、です。
それでも、心の中では「子どもの望む親でありたい」と思っていたのだと思います。また、たまたまですが、ごはんを作ることが好きだったので、贅沢ではありませんが食事は楽しく一緒にしていました。A子さんが当時佐々木医師の著書を読むことができていたら、「これで大丈夫」と安心できたのにと思います。
離婚して、子育てをどうしたらいいんだろうと悩んだら、佐々木正美医師の著書「ひとり親でも子どもは健全に育ちます」を読むことをお勧めします。
4-3. 離婚が原因かどうかわからないこと
「離婚が子どもに与える影響」について書いてきましたが、子どもの育ちかたの原因を、離婚と決めつけてしまうのは危険だと感じました。
例えば佐々木医師の言うように、母性的なものと父性的なものを順番に、バランス良く与えられていれば子どもは健全に育つとすれば、何か問題のある子どもが育ったとしても、それは離婚が原因ではないことも多いからです。
例えば、離婚する前にはおとなしくてお利口に見えた子どもが、離婚後、母親とふたりの暮らしになってダダをこねたり、腹痛を理由に学校を休んだりするようになったとします。
これを「離婚が原因、離婚によって心に傷を負っている」と見ることもあるでしょう。ところが佐々木医師によると、「これまで母親と父親の間で親を悲しませないようにするためにいい子になっていて、精一杯はりつめていた心の糸がぷつんと切れた」状態であるといいます。
だとしたら、やっと安心した子どもに、思い切り甘えさせてあげれば良いのだとわかります。
5. まとめ・どんな環境でも子育ては難しくて楽しいもの
5-1. 自分が離婚のせいにしなければ子供も親のせいにしない
子どもが自分の生い立ちをどう捉えるかは、離婚後の親の幸福度によってずいぶん違うはずです。
親が離婚を否定的に捉え、人生の汚点のように考えていたとしたら、子どもは自分の人生に困難があったとき、それを乗り越えられない理由に「親の離婚」を使うでしょう。
けれど、親が離婚について「人生の挫折」と捉え、そこから前向きに生きていくとしたら、子どもにとっての「親の離婚」は自分を成長させてくれたひとつのきっかけになるのではないでしょうか。
確かに、一度は一生添い遂げようと思った人と別れてしまうのには、人間的な未熟さなど、親として足りていない部分があるはずです。
少なくとも子どもへの影響を考えて悩んだ末に離婚を選んだということは、自分の人生も子どもの人生も、より良くしたいと願ってのことですから、そのまま夫婦でいては、成長できないと感じていたのだと思います。
離婚経験者のA子さんは
「夫といたら、不平不満だらけで、それなのに現状を変えようとしない自分だったと思います。息子から見れば、父親を尊敬もしていない、いつも愚痴ばかり言っている母親になっていたはずです。離婚後は、長い時間がかかりましたが、結婚してくれて、子どもを産ませてくれた、別れた夫に感謝できるまでになりました」
と言っています。
5-2. 一緒に成長させてもらっていることに感謝する
「本当に子どもがいて良かった。ありがとう」A子さんはいつもそう思っているのですが、口に出さなくてもきっと子どもには伝わっていると思います。離婚してシングルマザーになると、子どもと一緒に成長している自分に気付く人も多いでしょう。
もちろん、離婚しなくてもそう感じる人はいると思うのですが、「シングルマザーにならなかったら、私、こんなこと気付かなかった」「シングルマザーになったから、こう感じた」など、妻として子育てするよりも、成長する機会が多いように思うとA子さんは言います。
成長する機会が多いというのは、言ってみればトラブルが多いとか、問題山積とか、やることいっぱいとか、そういうことでもあるので、大変と言えば大変です。でも、子どもがいるから、もっとちゃんとした自分になろう、もっといいお母さんになろう、という気持ちに支えられて乗り越えられるそうです。
5-3. 振り返るとあっという間だからこそしておきたいこと
疲れていて、寝てしまいたいという休日、子どもと遊びはじめればいつのまにか疲れはどこかに行ってしまいますから、シングルマザーの皆さんにも、子どもといっぱい遊んで欲しいと思います。
子育てを振り返ると、本当にあっという間だったと感じられるそうです。
子どもが小さい頃は、「早くひとりで留守番して欲しい」と思い、それができれば「ひとりでごはんの準備くらいして欲しい」、それができれば……と、次々に成長を望んでしまうものですが、子どもが小さいときしかできないこともたくさんあるので、そこに目を向けて欲しいです。
A子さんは言います。
「仕事に空き時間があれば、とにかく子どもと遊んだことは良かったと思っています。
夏はよくプールに行きました。息子は小3からスイミングを習って泳げるようになったので、息子に泳ぎを教えてもらうこともありました。
経済的な事情や仕事の都合で旅行はあまりいけませんでしたが、夏休みに「ホテルごっこ」と言ってリビングでバイキング風に自由に食事をして、リビングでテレビを見ながら一緒に寝るなど、いつもと違うことをするだけで、すごく喜んでくれました」
Rさんもシングルマザーですが、安く海外旅行をするのが得意で、ふだんは上手に驚くほど節約し、その分で子どもふたりと自分の兄弟など、協力者も連れてよく旅行にでかけていました。
A子さんもRさんも、決して豊かな暮らしとはいえませんでしたが、子ども達が子どもだったとき、一緒に遊んだ思い出はたくさんあり、振り返ると宝物だと思います。
市営住宅に住んでいるのに海外旅行をするRさんのことを悪く言っている人がいると聞いたことがあります。けれどRさんは無駄な洋服も買わないし、化粧品は日焼け止めと色つきリップクリームを年に1本買うくらいです。
その上、旅行のために貯金して、生活のためのお金が足りなくなれば、普段の仕事のほかに短期の深夜アルバイトをみつけては、工場で働いてきました。
子どもと遊ぶための、子どもとの旅行にお金をつかうと決めた彼女を悪く言う権利が誰にあるでしょうか。自分と子どもが心から楽しんで、いい思い出になるのなら、人の目は気にしないという姿勢も必要だと思います。