夜ぐっすり眠れない日が続くとつらいですよね?
眼を酷使する現代社会において、睡眠に問題を抱える人は年々増加する傾向にあります。
自分では睡眠に悩んでいないと思っていても、昼間にイライラする、ボーっとしてしまう、どうも体調がさえないというような症状を抱えている人は、睡眠の質に問題があるかもしれません。
ぐっすり眠ることができてスッキリと起きられる手段があったら、試してみたいと思う人は多いことでしょう。生命維持に欠かせない睡眠という生理現象は、睡眠医学や脳科学などいろいろな分野で研究が続けられています。
現代でも睡眠のすべてが解き明かされたわけではありませんが、ここでは科学的に実証された、質の良い睡眠をとれる方法を紹介します。「朝・昼・夕」にそれぞれ5分間行うだけの、とても簡単な習慣です。
目次
1 質の良い睡眠とは
1-1 健康に良いのは7時間前後の睡眠
1-2 時間だけではなく質が大切な睡眠
1-3 レム睡眠とノンレム睡眠
1-4 睡眠の質にかかわる2つのホルモン
1-4-1 スッキリ目覚めに必要なセロトニン
1-4-2 ぐっすり睡眠に必要なメラトニン
2 質の良い睡眠になる3つの習慣
2-1 質の良い睡眠になる朝の習慣―5分間光を浴びる
2-1-1 メラトニンを分泌させる体内時計
2-1-2 光で誤差を修正する親時計
2-1-3 修正できるのは起床から4時間
2-2 質の良い睡眠になる昼間の習慣―5分間目を閉じる
2-2-1 1日に2回大脳を休ませる睡眠覚醒リズム
2-2-2 起床から6時間後に目を閉じる
2-3 質の良い睡眠になる夕方の習慣―5分間姿勢をよくする
2-3-1 深部体温が下がると眠くなる
2-3-2 体温を上げて深部体温リズムを修正する
2-3-3 起床から11時間後に筋肉を使う
まとめ
1 質の良い睡眠とは
1日の睡眠時間を約8時間とすると、人間は人生の3分の1を眠って過ごすことになります。80歳まで生きた人は、約27年間を睡眠に当てているわけです。
それほど睡眠は、人生において大きな割合を占めています。生きる糧を得る食事や、身体の動きを維持する運動とともに、休養をとるための睡眠に問題が起きれば健康を維持することはできません。
質のいい睡眠とは、健康を維持することができる睡眠です。それが具体的にどのような睡眠なのか、解説していきましょう。
1-1 健康に良いのは7時間前後の睡眠
一般的には、朝起きたときに疲れが残っておらず、昼間の活動に問題が起こらない7時間前後の睡眠が、健康に良い睡眠時間とされています。
日本人の平均睡眠時間は約7時間半といわれています。健康維持に必要とされる睡眠時間は個人差があり、6時間でいいという人もいれば9時間寝ないと調子が悪いという人もいます。
年齢によっても差があり、10代では8~10時間、20~50歳は6.5~7.5時間、60歳以上は6時間前後という調査結果があります。
睡眠時間と死亡率との関係を調査した結果では、男女ともに7時間前後の人の死亡率がもっとも低く、4時間以下では男女ともにそれより約1.6倍、10時間以上では男性が1.73倍、女性が1.92倍と、長くなるほど、また短くなるほど高くなっています。
また、7時間程度の睡眠では、高血圧を発症するリスクが低いという調査結果も出ています。
1-2 時間だけではなく質が大切な睡眠
睡眠は時間だけではなく、途中の覚醒回数が少なく、深い睡眠がとれているかどうかという「質」が問題になります。
9時間以上寝ていたとしても、夜中に何度も目が覚めていたのでは、朝起きたときに十分休養したとは感じられないでしょう。
年齢が高くなるにつれて、トイレに起きる回数などが増えて睡眠が浅くなります。深い睡眠がとれずに睡眠の質が悪くなると、さらに老化が進んでしまうのです。
とくに高血圧の人に多い睡眠時無多呼吸症候群などの睡眠障害は、睡眠の質に大きな影響を与えるので適切な治療が必要です。
健康を維持するためには、睡眠と食事と運動を三位一体として考えなければいけません。バランスの良い食習慣と適度な運動習慣に、質の良い睡眠習慣を取り入れることで健康は維持されるのです。
1-3 レム睡眠とノンレム睡眠
睡眠の状態には、身体だけが休んでいる状態の「レム睡眠」と、脳も休んでいる状態の「ノンレム睡眠」があります。「レム」とは眼球が急速に動いている状態、「ノンレム」とは眼球が動いていない状態を意味します。
レム睡眠では、身体が休息状態にあっても脳は覚醒状態にあります。眼球だけは急速運動をしていますが、筋肉は弛緩状態。睡眠は浅く、記憶を定着したりストレスを処理したりする役割があって、夢を見ている状態の多くはこのときです。
対するノンレム睡眠では、脳も身体も休んでいるので、副交感神経が優位になって心拍数も低くなります。レム睡眠とノンレム睡眠はふたつセットでほぼ90分周期で繰り返され、通常は寝てから起きるまでに4~5回のサイクルがあります。
正常な睡眠では、最初のノンレム睡眠がもっとも深い眠りで、レム睡眠は数十秒から2~3分間と、もっとも短いのが特徴です。繰り返すにしたがってノンレム睡眠は浅くなり、レム睡眠が長くなります。朝方には30分近くレム睡眠が続くこともあります。
ぐっすり眠るためには、眠り出して1回目や2回目の深いノンレム睡眠でしっかり休養し、眠りの浅いレム睡眠のときにスッキリ目覚めるようにすれば、質の良い睡眠がとれるようになるのです。
1-4 睡眠の質にかかわる2つのホルモン
夜になると眠くなり、だいたいいつもと同じ時間に眠りにつくのは、メラトニンというホルモンが作用しているからです。脳の松果体という部位から分泌されるメラトニンは、体内時計に働きかけて覚醒状態から睡眠状態へと脳や身体を切り替えるのです。
朝日を浴びることでメラトニンの分泌が止まり、セロトニンというホルモンの分泌が増えていきます。
1-4-1 スッキリ目覚めに必要なセロトニン
昼間に分泌されるセロトニンは脳内神経伝達物質のひとつで、生体リズムや体温調節などにかかわり、精神に安定をもたらす作用があります。不足すると睡眠障害を引き起こし、うつ病の原因にもなるといわれています。
セロトニンは、太陽を浴びて体を動かすことで分泌が促されます。朝起きてセロトニンの分泌が増えていき、メラトニンを消すことがスッキリ目覚めには必要なのです。
セロトニンは必須アミノ酸のトリプトファンから作られ、夜になると、脳の松果体で合成されてメラトニンになるのです。
ですから、昼間にセロトニンを十分に作る活動をしていないと、メラトニンの原料が十分に蓄積されていない状態で夜を迎えることになってしまいます。
1-4-2 ぐっすり睡眠に必要なメラトニン
心身をリラックスさせて眠りを誘うメラトニンは、免疫を高めて病気を予防する効果や、細胞の新陳代謝を促す効果もあると考えられています。
メラトニンは、体内時計によって朝の光を浴びてから14~16時間後に分泌が始めるようセットされています。また、セロトニンからメラトニンが合成されるきっかけは、眼の網膜から入る光がなくなることです。
ですから、昼夜逆転の生活をしていたり、太陽の光のように強い光を浴びない生活をしていると、セロトニンもメラトニンも正常に分泌されなくなってしまいます。朝日をしっかり浴びて、夜は12時までに寝るという生活が、質の良い睡眠をもたらすのです。
メラトニンは光の影響を受けますから、夜遅くまで強い照明の中にいたり、液晶モニターを使い続けると分泌量が減って睡眠のリズムを崩す原因になります。分泌量は年齢とともに減っていくので、高齢になるとなかなか寝付けなくなるのです。
2 質の良い睡眠になる3つの習慣
ここからは具体的に、質の良い睡眠をとるために効果的な3つの方法を解説しましょう。
人間の身体には、生命を維持するために必要な「生体リズム」とよばれるサイクルを司る体内時計が備わっています。
睡眠には、睡眠覚醒リズム、体温リズム、セロトニンやメラトニンなどホルモン分泌のリズムが大きくかかわっており、これらのサイクルを監視しているのが体内時計なのです。
体内時計には、血管や内臓、筋肉など身体の中にあるほとんどの細胞がもっている「末梢時計」と、それらすべての時計を管理している「中枢時計(親時計)」があります。
2-1 質の良い睡眠になる朝の習慣―5分間光を浴びる
毎朝5分間、太陽の光を眼の網膜に感受させることで、睡眠の質はよくなります。
晴れた日の野外では、光の強さが1万ルクス以上あります。オフィスの照明は机の高さで500ルクス程度が一般的で、これは黒い雲が空を覆って大雨が降っているときの窓際と同じくらいの光の強さです。
この500ルクスという明るさが、質の良い睡眠のカギになります。
2-1-1 メラトニンを分泌させる体内時計
体内時計は、朝日を浴びてから14~16時間後にメラトニンを分泌させるタイマーの役目を持っています。
朝6時に目覚めて朝日を浴びた人は、午後8時~12時に分泌が始まることになります。通常は夜暗くなると徐々に分泌される量が増えて、眠ってから3時間後にピークを迎えるようにセットされています。
寝る前に強い光を見てはいけない理由が、ここにあります。寝る前の2時間はLEDなどの強い照明を避けて、液晶モニターもできるだけ見ないようにし、1時間前からは間接照明に切り替えるといった工夫をして、メラトニンの分泌を妨げないようにしましょう。
光の強さが500ルクス以下でないとメラトニンは分泌されません。
照明をつけたままで眠ると、たとえ長時間寝ても疲れがとれないことがわかっています。また、光を当て続けた環境下では、がん細胞が活性化することなどからも、メラトニンにはがん細胞を中和する働きや免疫作用を高める働きがあるものと考えられています。
体内時計の働きを阻止しないように、照明にも気を遣う必要があるということです。日の出とともに起きて日の入りととともに眠りにつく原始的な生活が、睡眠には理想的だと言われることが納得できますね。
2-1-2 光で誤差を修正する親時計
体内の末梢時計をすべて管理している親時計は、実は24時間よりも長いサイクルをもっています。なぜそうなっているかについては、諸説あって明確にはなっていません。
このズレていく親時計をリセットするのが朝の光なのです。毎朝リセットすることにより、親時計は様々な生体リズムを24時間のサイクルに合わせています。
ですから朝、光をしっかり浴びることができないと、セロトニンやメラトニンなどホルモンの分泌に問題が起こるだけでなく、身体のいろいろな機能がバランスを崩すことになってしまいます。
朝日を浴びるといっても、日光浴をしなければいけないというわけではありません。室内が500ルクス程度の明るさであっても、窓際に行くだけで5000ルクス程度の光を浴びることができますから、窓際に座っていつも通りの朝を過ごすだけで、メラトニンの分泌を減らしてセロトニンの分泌を活性化させることができるのです。
まずは、朝、部屋のカーテンを開けて明るくすることが大切です。
2-1-3 修正できるのは起床から4時間
朝の光を浴びる時間は長ければ長いほどメラトニンを減らしてセロトニンを増やすことができますが、毎朝5分間という習慣化が効果的です。
体内の親時計が誤差をリセットできるのは、起床後4時間までといわれています。朝6時に起きた人は、どんなに遅くても10時までには光を使ってリセットしなければいけません。
朝起きたらすぐにカーテンを開けて部屋に朝日を入れるという生活が理想的ですが、そうできない日は、通勤途中でコンビニなどの明るい店舗に寄ってコーヒーでも飲むという方法も効果があります。
2-2 質の良い睡眠になる昼間の習慣―5分間目を閉じる
2つ目の習慣は、昼間に5分間、目を閉じている時間をつくることです。昼寝や仮眠が健康にいいということはよく言われますが、現実には会社などの勤務先で仮眠をとるというのはなかなか難しいものです。
眠らなくても効果的に脳を休ませる方法を解説しましょう。
2-2-1 1日に2回大脳を休ませる睡眠覚醒リズム
体内時計が管理する睡眠覚醒リズムには、1日に2回、朝起きてから8時間後と22時間後くらいに大脳を積極的に眠らせようとするタイマーがあります。
6時に起きた場合では、1回目が午後2時あたり、2回目は明け方の4時あたりになります。
午後の仕事が始まって少しすると眠くなったり、徹夜仕事のときに、明け方になると強い眠気が起こったりするという経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
2-2-2 起床から6時間後に目を閉じる
朝起きてから8時間後にやってくる眠気のピークに脳を休ませることは、質の良い睡眠をとるために大事なことです。
脳内には、メラトニンとは別の睡眠を誘う物質(睡眠物質)が覚醒している間に溜まっていきます。脳はこのタイミングで、起きてから8時間で溜まった睡眠物質を一度減らそうとするのです。昼寝が健康にいいとされるのは、脳がこの作用をしっかり行えるようにするからです。
しかし、眠らなくても、アルファ波が増えれば脳に溜まった睡眠物質は減ります。「アルファ波」は、リラックスしたときに出る脳波です。目を閉じることによってアルファ波が増えて、脳がリラックス状態になります。
10~15分間目を閉じるのがもっとも効果的で、15分を超えると目を開けたときにボーっとすることが多くなり、30分を超えると逆効果になってしまいます。
できれば、朝起きてから6時間後に行うのが理想です。なぜ、ピークの8時間後ではなくて6時間後がいいのかというと、眠気がピークのタイミングでアルファ波を増やしてしまうと、睡眠から覚醒へとむかう睡眠覚醒リズムを邪魔してしまうからです。そうなる2時間くらい前、お昼の12時くらいがいいタイミングなのです。
2-3 質の良い睡眠になる夕方の習慣―5分間姿勢をよくする
3つ目の習慣は、寝る前に姿勢を正して筋肉を使い、体温を上げることです。
ストレッチや筋トレといった運動習慣が健康にいいことはわかっていても、習慣化するには覚悟や忍耐が必要となります。ここで解説する方法はイスに座って姿勢を正すだけという、誰にでもできる簡単な方法です。
2-3-1 深部体温が下がると眠くなる
体温には、体表の体温と、直腸などで図る深部体温があります。人間は、ホメオスタシス(恒常性)と呼ばれる機能によって、外気温度が変わっても深部体温は一定に保とうとします。
この深部体温にもリズムがあって、朝6時に起きた場合、11時間後となる夕方の5時頃にもっとも高くなり、そこから下がり始めて明け方の4時頃にもっとも低くなります。
人間は深部体温が上がれば上がるほど身体が良く動くようになり、下がるほど眠くなるのです。
2-3-2 体温を上げて深部体温リズムを修正する
睡眠障害には、深部体温のリズムが後ろにズレてしまって、体温が高い状態で眠ろうとしているケースがあります。
深部体温のリズムを正常に保って、就寝時間に体温が下がるようにするためには、体温が高まるピークの夕方に意識的に体温を上げると効果的なのです。
しかし、一般的な社会人にとって、この時間に運動をすることは難しいですよね。
2-3-3 起床から11時間後に筋肉を使う
そこで5分間、イスに座ったまま背筋をピンと伸ばすことによって筋肉を緊張させ、体温を上げるのです。効果的に行うポイントは、
●肩甲骨を下げるように意識すること
●肛門をしっかり締めること
です。イスに座った状態で両肩を耳につけるようにして高く上げ、そのままストンと腕を落とすと肩甲骨は正しい位置にあります。
次に肛門をしっかり閉じて下腹部に自然な力が入るようにします。
それから肩甲骨を肛門に向けて下げるイメージで5秒数えたら力を抜きます。姿勢を正したまま呼吸を止めないようにして、これを5分間の間に何度か取り入れてください。
まとめ
質の良い睡眠に必要なのは、夜の過ごし方よりも昼間の過ごし方であるということがおわかりいただけたことと思います。
睡眠の質が良くなると、生体リズムが整って健康な身体が維持できるばかりでなく、スッキリ起きられて、意欲的な昼間の時間が過ごせるようになります。
もちろん、寝具や寝室の環境も大切ですが、生体リズムに基づいたこの3つの習慣は、誰にでもすぐ始められるものですから、睡眠の質を上げたいと思っている人はぜひトライしてみてください。
【参考資料】
『快眠力』(ワック株式会社・2014年)
『あなたの人生を変える睡眠の法則』(自由国民社・2013年)