2000年以降、「就活」「婚活」「朝活」「終活」「腸活」というように、「〇活」という言葉が流行をはじめました。
この流行の裏には、いろいろな産業を活性化させるという目的があったのです。
「就活」を有利にすすめる書籍の販売促進。
「婚活」で潤った結婚相談所やブライダル業。
「朝活」で流行したジムやスポーツウェア。
しかし、「妊活」という言葉が流行したのは、不妊治療を行う医療機関の宣伝ではありませんでした。
たしかに、以前から使われていた「不妊治療」という言葉と比較して、明るいイメージや軽いノリは感じますが、流行には明確な社会的背景があったのです。
「妊活」という言葉が流行りだしたのは、2010年あたりから。
総務省統計局のデータによると、日本の総人口は2008年をピークとして、翌年から減少をはじめました。
少子高齢化が現実のものとして感じられるようになったのが、2010年あたりだといえるのです。
少子高齢化がますます進行する2010年後半、スマートフォンの普及とともに妊活問題を扱うブログが人気を得るようになりました。
中でも、自らの体験を漫画にして公開する「妊活漫画ブログ」は大人気となり、インターネット上には多数の漫画が公開されています。
ここでは、妊活漫画ブログが注目されている理由と、少子化や妊活の現状を解説し、妊活漫画ブログの代表とされ、2018年には『コウノトリのかくれんぼ』というタイトルで書籍化もされた、『ダメ嫁ポチ子の不妊漫画 ~まさかの不妊治療~』の概要を紹介します。
目次
1. 妊活漫画ブログが注目される4つの理由
1-1. 晩婚化と女性の社会進出による高齢出産の増加
1-2. 男性の精子の減少
1-3. 若年層の妊活開始時期が早期化傾向
1-4. ストーリー性がある漫画で読みやすい
2. 『ダメ嫁ポチ子の不妊漫画 ~まさかの不妊治療~』の概要
2-1. 2015年11月~2016年1月
2-2. 2016年2月~2016年3月
2-3. 2016年4月~2016年5月
2-4. 2016年6月~2016年7月
2-5. 2016年8月~2016年11月
2-6. 2016年12月~2017年4月
2-7. 2017年5月~2018年5月
2-8. 2018年6月~2019年6月
まとめ
1. 妊活漫画ブログが注目される4つの理由
自らの妊活を漫画にして公開するブログが人気を得たのは、妊活に対する不安を軽減してくれるから。
後半で紹介する『ダメ嫁ポチ子の不妊漫画 ~まさかの不妊治療~』の発信者であるポチ子さんも、次のように語っています。
「周りにどんどん先を越され、なかなか子どもができない不安は誰にも打ち明けられず、ひとり悶々とすることが多くなりました」
「その気持ちを自分ひとりで抱えていることがつらくなり、インターネットでたくさんの方のブログを読んだら、同じ悩みをもつ方が自分の体験を発信してくれていることに、とても勇気づけられました」
そうして、ポチ子さん自身が、誰かの励みになるかもしれないと思い、自らの体験を漫画にして公開したのです。
ここではまず、「妊活」という言葉が流行し、漫画ブログの人気に至った理由を考えてみます。
その根底にあるのは、「少子化」という社会現象です。
1-1. 晩婚化と女性の社会進出による高齢出産の増加
少子化の原因として最初にあげられるのが、未婚化と晩婚化です。
日本の婚姻件数は1972年の年間約101万組をピークとして減少し、1978年から2010年までは年間約70万組台で増減を繰り返していましたが、2011年以降、年間60万組台で低下を続け、2018年に58万6481組となり、2019年はわずかに増加しました。
1970年代前半と比べれば、約半分になっています。
晩婚化の進行は、妊活が流行する要因となっています。
結婚する男女の平均年齢は、1985年と2017年の比較で夫が2.9歳、妻が3.9歳上昇しており、2018年は横ばい。
第1子を出産する母親の平均年齢は、2018年に30.7歳となって4歳上昇しています。
未婚化や晩婚化の進行には、女性の社会進出も大きく影響しています。
1-2. 男性の精子の減少
2017年に「欧米男子の精子の濃度が40年で半減した」という調査結果が発表されました。
WHO(世界保健機関)によると、不妊の原因は半数が男性側にあるといいます。
過去に、欧州4か国との比較で、精子の数が最も少なかったことが判明している日本も例外ではありません。
東京都内のあるクリニックの調査では、2017年までの3年間に行った精液検査において、6人に1人がWHOの基準を下回っていました。
こうした事実が周知されるにつれ、妊活は夫婦2人で行うものという概念が定着し、男女ともに情報取集を行う人が増えたのです。
1-3. 若年層の妊活開始時期が早期化傾向
ロート製薬の調査によると、未婚化や晩婚化が進行する一方で、積極的な妊活に取り組む夫婦が増えているといいます。
2018年と2019年の比較では、結婚希望年齢が29.7歳から29.4歳へ、出産希望年齢が31歳から30.9歳へとわずかに早期化しています。
若年男女の3人に1人が何らかの妊活に取り組んでいるといい、妊活を開始した年齢は32.3歳から32.1歳へと、これもわずかに早期化しており、今後はこの傾向が進行するものと考えられています。
1-4. ストーリー性がある漫画で読みやすい
積極的な妊活を行う若年層が増える中で、インターネットによる情報収集は欠かせないものとなっています。
そうした妊活関連情報の中でも、ストーリー性があってとっつきやすく、感情移入もできる漫画ブログは、楽しみながら情報収集できるために人気を得たのです。
その代表としてあげられるのが、月間400万PVを記録した『ダメ嫁ポチ子の不妊漫画 ~まさかの不妊治療~』でした。
2. 『ダメ嫁ポチ子の不妊漫画 ~まさかの不妊治療~』の概要
1978年に生まれ、30代で結婚したポチ子さんは、結婚4年後となる2015年11月に36歳で不妊治療を開始します。
結婚3年目に子どもがほしいと思い、「子づくり=妊活」をはじめたのですが、妊娠する気配がないままであっという間に1年が経ってしまい、思いもしなかかった不妊治療を検討します。
夫妻には、めでたく2019年5月に女の子が誕生するのですが、2018年9月までの様々な体験をコミックエッセイにして綴ったのが、ブログ『ダメ嫁ポチ子の不妊漫画 ~まさかの不妊治療~』で、その内容は、『コウノトリのかくれんぼ』というタイトルで書籍化されました。
このブログの特徴は、不眠治療の知識や情報を提供することが目的ではなく、体験を公開することによって同じ悩みを抱える人の気持ちを楽にすることにあり、「じんわり泣いて、くすりと笑える」漫画として人気を得たのです。
ここでは、期間を追って漫画ブログの概要を紹介します。
2-1. 2015年11月~2016年1月
不安の中で本格的な不妊治療を開始したポチ子さん夫妻。
不妊治療専門のクリニックで、ドクターから「妊娠を意識して1年間生活しているのに妊娠していないので、90%不妊だといえます」「不妊治療はつらいものです」と厳しい現実を知らされ、ポチ子さんは半泣きになります。
クリニックでは初期検査にはじまり、排卵の時期に性交渉をもって精子の存在を調べるフーナーテストで旦那さんの精子には問題がないことがわかり、子宮卵管造影検査で卵管が詰まっていないこともわかります。
タイミングを計って性交渉を行う「タイミング法」を4回試みた後、ポチ子さんは、ホルモンを薬で補い排卵しやすくする「カウフマン療法」、排卵誘発剤の点鼻薬を使用して採卵をベストな状態にする「ショート法」や自己注射を経験し、採卵数5個で体外受精に挑みますが受精せずに全滅、培養は中止に終わります。
また、不妊治療の助成金申請を行い、助成が受けられるのは妻が40代未満で通算6回、40歳以上になると3回までであることなど、公的サポートの現実も知ることになります。
この期間の費用は、初診料や薬剤費などすべてを含み約42万円で、1回目15万円の助成金対象になりました。
2-2. 2016年2月~2016年3月
お義母さんの孫期待に大きなプレッシャーを感じながらも2度目の採卵周期となり、カウフマン療法やショート法によって採卵数は8個。
すべて、顕微鏡下で精子を卵子に注入して授精させる「顕微授精」を行い、1個が受精に至り、冷凍胚として保存されます。
受精卵は、細胞分裂を開始すると「胚」と呼ばれるのです。
この冷凍胚をポチ子さんの子宮内に戻す「胚移植」を行い、受精卵を着床させて妊娠を狙うのですが、妊娠判定の結果は陰性。
ポチ子さんは、とにかくむなしくて、何を悲しめばいいのかわからなかったほどだといいます。
この期間の総治療費は約60万円。
2回目25万円の助成金対象となりました。
2-3. 2016年4月~2016年5月
3度目の採卵周期では、カウフマン療法やショート法によって採卵数は6個。
培養結果は2度目と同じように1個が受精に至り、冷凍胚として保存され、移植の施術を受けるも、妊娠判定は陰性。
思うように治療が進まず、家族や友人との関係がギクシャクしてしまいます。
ポチ子さんは、不妊治療していることを両親にカミングアウトしますが、娘の身体を心配する気持ちから反対され、お母さんを泣かせてしまい、微妙な気持ちに。
クリニックの先生から、もしほかでトライしてみたい治療があったら協力しますといわれ、転院先を探してみるのですが、人気のクリニックは数カ月待ち。
高い費用をかけているので失敗したくない、いいかげんな気持ちでクリニックを選んでいるとは思われたくないという気持ちが強くなって旦那さんとの関係がナーバスになることも。
それでも、今までと違ったアプローチを試みようと、ショート法以外という条件で自分に合いそうなクリニックを探し出し、新たな治療をはじめることになります。
この期間の総治療は約63万円。
助成金は3回目25万円の対象となりました。
2-4. 2016年6月~2016年7月
久しぶりにホルモン剤や自己注射から解放されたリラックス期間を経て、新たなクリニックでの不妊治療がはじまりました。
風疹抗体の検査などの初期検査や、旦那さんの精液検査では問題がないという結果が出て、早速、採卵の準備がはじまります。
このクリニックは、排卵誘発を行わない「自己周期採卵」なので身体の負担が少なく、目新しいことが多かったので気持ちもリセットされ、夫婦そろって新鮮な気分で治療に入りました。
自己周期採卵だったので、初診から数日後に最初の採卵となりました。
これもはじめての「無麻酔採卵」を経験し、痛みの軽さに感激しますが、採卵数は1個。
自己周期採卵なので採卵数が少ないのは覚悟はしていましたが、少々不安になります。
しかしその1個が受精に至り、冷凍しない「新鮮胚移植」が行われます。
ところが残念ながら、今回も妊娠判定は陰性。
旦那さんの慰めの言葉で、大泣きしてしまうポチ子さんでした。
この期間の総治療費は約43万円。
助成金の申請はありません。
2-5. 2016年8月~2016年11月
2度目の自己周期採卵では、医師の勧めで、着床する寸前まで細胞の分割を待った「胚盤胞」を冷凍する「冷凍胚盤胞」の移植にトライすることになりました。
夫婦共働きといえども、このあたりまで来ると経済的に厳しくなっています。
2度目の自己周期採卵では、成熟卵と未成熟卵の2個の卵子が採れます。
緊張して連絡をまっていたポチ子さんに、クリニックから、無事に受精したのは未成熟卵のほうで、分割がはじまったという連絡が入り、さらに無事、胚盤胞にまで成長したので冷凍したことが告げられました。
こうして臨んだ初の胚盤胞移植でしたが、ホルモン不足で移植日が延期。
移植周期が再スタートとなり、ホルモン補充剤を使用して移植の施術が行われます。
今回も妊娠判定は陰性。
別のクリニックで着床不全の検査を予約し、少し不妊治療から離れたいと思うポチ子さんでしたが、すぐに検査できることになり、結果は問題なし。
暗い洞窟の中で光を探してもがいているような、気持ちの糸がプッツリ切れた頃だったといいます。
この期間の総治療費は約65万円。
助成金の申請はありません。
2-6. 2016年12月~2017年4月
しばらく治療を休みたくなったポチ子さんは、医師から「卵巣年齢を表すホルモンの値が低下しているので、できれば急いだほうがいい」というアドバイスを受けて、通院を再開します。
気持ちの糸がきれたまま通院している状態だったといいます。
通算6回目の採卵となる3度目の自己周期採卵では2つの卵子が採れましたが、ひとつは大きくなり過ぎていて培養中止となり、ひとつが受精します。
しかし、胚盤胞になる前に成長が止まってしまい、これも培養中止。
続けて行われた4度目となる自己周期採卵の採卵数は3個で、すべて未成熟卵でしたが受精に至ります。
ところが、結局3個とも成長が止まってしまい、培養中止。
不安にさいなまれるポチ子さんを旦那さんが懸命に勇気づけます。
5回目の自己周期採卵では1個の卵子が採れ、胚盤胞まで成長します。
移植が行われ、はじめて着床にも至ったのですが、成長はそこまで。
医師からは妊娠継続率が15%と告げられ覚悟していたので、ポチ子さんの気持ちは大きな浮き沈みがないまま、次の採卵に向けて気持ちを奮い立たせます。
この期間の総治療費は約115万円。
助成金は4回目25万円の対象となりました。
2-7. 2017年5月~2018年5月
1周期の休みをとった後に採卵を再開したポチ子さん、6回目の自己周期採卵で2個の成熟卵が採れて両方とも胚盤胞に至ります。
複数個の受精卵が冷凍に至ったのははじめてでした。
通算6回目となった移植は、着床が維持できなかったという診断。
冷凍胚盤胞を用いた7回目の移植も陰性の判定に終わります。
治療をやめる勇気も進める気力もでないポチ子さんは、旦那さんといろいろなことを話し合い、もう少しだけ頑張ろうという気持ちになります。
気力が戻るのを待ちつつ、2017年12月からは治療をつづけるために、「貯卵」をはじめます。
しかし、7回目の自己周期採卵は2個の未成熟卵で培養中止となり、しばし放心状態になったポチ子さんは、医師と相談して注射によるマイルドな誘発を選択。
そうして行われた転院後8回目の採卵では3個の成熟卵が採れ、うち1個が胚盤胞に至り、冷凍貯卵しました。
9回目の採卵では6個の卵胞が育ち成熟卵となったのは3個、うち1個が冷凍貯卵に至ります。
10回目の採卵は培養中止、11回目の採卵は2個の成熟卵が採れますが状態が悪くなってともに培養中止。
2018年5月11日、ここでポチ子さんは旦那さんと納得いくまで話し合い、身体を休めて準備が整ったら冷凍している2個の受精卵で治療を続けることを宣言して、お休み期間に入りました。
書籍『コウノトリのかくれんぼ』は、ここまでの内容になっています。
この期間の総治療は約200万円で、ここまでの合計額は約588万円。
不妊医療助成金は、5回目25万円の対象となり、合計額は115万円となりました。
2-8. 2018年6月~2019年6月
お休み宣言後も、細々とブログをアップしていたポチ子さんは、6月に入ってから新たなクリニックで検査をはじめます。
8月からは、不育症のサポートを受けながら通院を再開し、冷凍受精卵を用いて通算8回目の移植を行いました。
9月5日の判定では無事に着床、はじめて陽性の判定をもらえたのです。
2018年9月9日、ブログは『ダメ嫁ポチ子の不妊治療漫画 ~つづき~』へ移転。
10月14日、胎児が無事に成長していることが確認でき、不妊治療卒業の報告とともにお礼の言葉を述べて、ブログは一旦閉めることになります。
その後は、2019年正月に新年の挨拶と無事経過のお知らせ、5月22日に元気な女の子を出産した報告が行われ、6月1日をもってブログは終了となりました。
まとめ
『ダメ嫁ポチ子の不妊漫画 ~まさかの不妊治療~』は、概要だけを紹介しました。
今も公開されているブログでは、この流れのなかに、日々の様々なエピソードやポチ子さんの揺れる精神状態が、親しみやすいカワイイ画とともに描かれています。
記事中の治療内容は事実に基づくものですが、ポチ子さんも言っているようにこれはあくまでもコミックエッセイであり、実際の治療や投薬などは各クリニック、各個人で異なりますから、必ず医師の指示に従ってください。
また、不妊治療助成金については諸条件が発生しますから、これもリアルタイムな情報確認が必要です。
妊活漫画ブログの存在価値は、不妊治療という人生を左右する大きな問題が、「漫画ブログ」というスタイルをとることによって、多くの読者の気持ちをひきつけ、読みものコンテンツとしても成功したことにあるといえますね。
【参考資料】
・『コウノトリのかくれんぼ』 ポチ子 著 セブン&アイ出版 2018年
・『やさしく正しい 妊活大辞典』 吉川雄司 著 プレジデント社 2019年
・内閣府 「令和2年版 少子化社会対策白書」
・ロート製薬「妊活白書2019」