肌を美しく健やかに保つためには、保湿が欠かせません。
化粧品や美容品をチェックしてみると、保湿力を高めるために、さまざまなものが配合されているのが分かります。
特によく見かけるのが、「ヒアルロン酸」です。
成分表によっては「ヒアルロン酸ナトリウム」など、少し違う名前が書かれていることもあります。
具体的にどんな違いがあるのか、効果や注意点などを知っていますか?
知れば一層心強い、美肌の味方になるでしょう。
目次
2. 体内のどこに存在しているか
2-1. 皮膚
2-2. 関節
2-3. 硝子体
4. その他のヒアルロン酸
4-1. アセチル化ヒアルロン酸
4-2. 加水分解ヒアルロン酸
4-3. ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウム
5. 保湿成分いろいろ
5-1. 水分を挟み込むタイプ
5-2. 水分を抱え込むタイプ
5-3. 水分をつかむタイプ
6. 医薬品としてのヒアルロン酸
6-1. 関節機能を改善する
6-2. 眼科手術の補助剤として
6-3. 人気の美容医療に
1. ヒアルロン酸は水分を抱える物質
ヒアルロン酸は、生物の細胞のまわりで水分(体液)を蓄えている、ムコ多糖類と呼ばれる物質のひとつです。
100万以上の分子が連なってできている高分子物質で、200~600倍という大量の水分を抱えておける性質があります。
例えばヒアルロン酸1gに対して、抱えておける水は6リットルにもなります。
1934年、アメリカ・コロンビア大学教授のカール・マイヤー博士らによって、ウシの目の硝子体から初めて精製されました。
白~淡黄色の粉末で、においはほとんどなく、水に溶かすとネバネバした無色の液体になります。
ヒアルロン酸の粘度は、濃度と分子量によって異なります。濃度が高く、分子量が大きいヒアルロン酸の方がネバネバします。
2. 体内のどこに存在しているか
ヒアルロン酸は、生物の身体のあらゆるところに存在します。
人の体では、脳や血管、臍帯(へその緒)、皮膚、関節液、目の硝子体に多く存在します。
ここでは特に含有量の多い皮膚と関節液、硝子体について説明します。
2-1. 皮膚
人の皮膚は大きく分けると、表皮・真皮・皮下組織の三層になっています。
ヒアルロン酸が特に多いのは真皮層です。真皮層は、70%以上をコラーゲンやエラスチンといったタンパク質の線維が占めていて、網目状に絡み合っています。
この網目の間を埋めているのがアルロン酸です。水分をたっぷり含んだヒアルロン酸は、固いゼラチン状になっていて、肌の乾燥を防ぎ、潤いと弾力をもたらしてくれます。
2-2. 関節
関節の骨と骨の間には関節軟骨があり、その隙間を関節液が満たしています。関節液によって栄養が軟骨へ運ばれます。また、骨がスムーズに動くように、潤滑剤や緩衝剤の役割も果たしています。
この関節液にヒアルロン酸が多く含まれているのです。
2-3. 硝子体
硝子体とは、眼球の内側を満たしている透明なゼラチン状組織のことです。
99%が水で、残りの1%が主にコラーゲンとヒアルロン酸でできています。
ヒアルロン酸が水分をゼラチン状に保っていますが、加齢とともにヒアルロン酸が減ると、硝子体も柔らかく水っぽくなります。
すると、眼球の奥にある網膜が浮き上がって視力が落ちるなど、トラブルが起きやすくなります。
体内でのヒアルロン酸生成量は、年齢とともに減っていくものです。
特に40歳前後から急速に減少していくことが報告されています。
赤ちゃんのときのヒアルロン酸量を100%とすると、40歳すぎには50%まで減ると言われます。
ヒアルロン酸が減ると、肌の乾燥や関節痛などの原因となります。
3. 化粧品によく使われる、ヒアルロン酸ナトリウム
実は、ヒアルロン酸にも種類があります。
ヒアルロン酸には優れた保水力があるため、保湿剤として美容品に効果的に取り入れたいと、多くの研究がなされてきました。
分子を細かくしたり、pH調整(成分の酸性・アルカリ性を調整すること)したり、さまざまな工夫がされています。
その中で、現在いちばん利用されているのが、ヒアルロン酸ナトリウムです。ヒアルロン酸に水酸化ナトリウムを加えて中和したものです。
ヒアルロン酸はもともと酸性で、もちろんそのまま使っても問題ないのですが、アルカリ性の水酸化ナトリウムを加えて中性寄りにpH調整することで、より刺激の少ない原料として使いやすくなります。
成分表には、ヒアルロン酸Naと書かれることもあります。
ヒアルロン酸ナトリウムは分子が100万以上集まっている高分子物質なので、少量入れるだけでも粘度が高くなります。
肌に浸透するのではなく、表面に留まって水分を含んだ膜をつくり、水分が蒸発するのを防いでくれます。
4. その他のヒアルロン酸
最近は、さらに美容効果を高めたヒアルロン酸が、いくつも開発されています。
代表的なものをご紹介します。
4-1. アセチル化ヒアルロン酸
保湿力をさらに高めるため、化粧品メーカーによって開発されたヒアルロン酸です。
ヒアルロン酸の持つ「水酸基」という部分を、一部「アセチル基」というものに置き換えることで、肌への吸着力が高くなっています。
また、油となじみやすい性質もあるため、皮脂ともなじんで肌表面に長く留まり、角質を柔らかくして水分をたっぷり与えてくれます。
分子量も1万~10万程度と通常のヒアルロン酸より小さくしており、その分、粘度も低くなっています。
成分表では「アセチルヒアルロン酸Na」や「スーパーヒアルロン酸」と表記されます。
4-2. 加水分解ヒアルロン酸
酵素などを使ってヒアルロン酸を加水分解し、分子量を1万以下にしたものです。
「浸透型ヒアルロン酸」や「低分子ヒアルロン酸」と呼ばれることもあります。分子の塊が普通のヒアルロン酸より小さいので、水に加えてもネバつきが少なく、さらっとしています。
肌の奥まで浸透すると宣伝されていますが、角質を透過するにはまだ分子が大きすぎるので、浸透はしないはずという指摘もあります。
とはいえ、肌表面に留まって水分のバリアをつくってくれるのは変わりありません。有能な保湿役として期待しましょう。
4-3. ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウム
シャンプーやコンディショナーなど、主に髪や頭皮のケア商品に使われます。分子にプラスの電気を持たせているため、洗い流してもマイナスの電気を帯びている肌や髪に残りやすくなっています。
5. 保湿成分いろいろ
ヒアルロン酸ナトリウムの他にも、保湿に良い成分はたくさんあります。
どれも同じように保湿力をアピールするので、ヒアルロン酸とどう違うのか、迷ってしまいますね。
そんな方のために、以下のようなグループの分け方を紹介しましょう。
5-1. 水分を挟み込むタイプ
水をサンドイッチ状に挟んでキープする性質の、保湿成分グループです。
代表的なのは、細胞間脂質のセラミド。もともと肌の角質層にあって、細胞の間を埋めている成分です。
外的刺激から肌を守ると同時に、体内の水分が蒸発しないよう蓋の役目も果たしています。
化粧品として肌につけると、とても強力な保湿力を発揮します。
他にスフィンゴ脂質、水素添加大豆レシチン、ステアリン酸コレステロールなども、このグループです。
5-2. 水分を抱え込むタイプ
もともとある水分を抱え込んでキープするタイプの保湿成分です。
ヒアルロン酸はこのグループになります。
真皮を構成するコラーゲンやエラスチンもここに属し、保湿成分として化粧品に配合されることがあります。
ただし、肌に使っても真皮まで浸透することはありません。働き方は、ヒアルロン酸と同じです。
5-3. 水分をつかむタイプ
空気中などから水分をつかんで保つタイプの保湿成分です。
そのため、冬場など湿度の低いときには、保湿力が下がります。
角質内細胞に存在する天然保湿因子(NMF)や、プロピレングリコール(PG)、グリセリンなどがこのグループになります。
いずれも保湿力は強くないものの、さらっとした使用感が好まれて、化粧水などによく使われています。
6. 医薬品としてのヒアルロン酸
人の体内で水分を抱える役割を担っているヒアルロン酸は、医薬品としても活躍しています。
水を含むと粘りや弾力を発揮するので、細胞を保護したり、隙間を埋めたりするのに適しているのです。
6-1. 関節機能を改善する
加齢などが原因で関節液が減り、骨がスムーズに動かず痛みが発生しているとき、関節にヒアルロン酸を注射することがあります。
関節液の代わりにクッションの役割を果たし、軟骨どうしが擦れたりぶつかったりするのを減らして、痛みや炎症を鎮めます。
6-2. 眼科手術の補助剤として
白内障や角膜移植などの眼科手術の際、ヒアルロン酸が補助剤として使われています。
ジェル状のヒアルロン酸を注入して細胞を保護したり、手術しやすい隙間をつくったりします。
また、目薬にもヒアルロン酸ナトリウム入りのものが多くあります。
6-3. 人気の美容医療に
ほうれい線やシワ、目の下のたるみなど、凹んでしまった部分に補填剤を入れて、もとのふっくらした形を取り戻すという美容医療があります。
この補填剤としてよく使われるのが、ヒアルロン酸やコラーゲンです。
コラーゲンはタンパク質なので、ごく稀にアレルギーを起こすこともありますが、糖であるヒアルロン酸にその心配はありません。
注入は短時間で行える上、メイクもすぐ可能なので、手軽な整形として人気です。
値段はヒアルロン酸の種類などによって差が出ますが、左右のほうれい線両方に注入すると、大体7万~15万くらいです。
半年から1年ほどで吸収され、もとに戻ってしまうため、持続させるなら定期的な再注射が必要です。
7.危険性や注意点は?
化粧品などに使うヒアルロン酸は、以前はニワトリのトサカから抽出されたものが主流でした。
最近では、乳酸菌などの微生物発酵によってつくられるものが多く使われています。
どちらも有害性はまったくなく、安全に使えますが、トサカ由来のヒアルロン酸は念のため、アレルギー物質として「鶏肉」と記載することがあります。微量の鶏タンパク質が混入する可能性もあるからです。鶏肉アレルギーを持つ方は注意しましょう。
まとめ
ヒアルロン酸ナトリウムは、ヒアルロン酸を水酸化ナトリウムで中和したもので、化粧品によく使われます。
肌の深部にしみ込むのではなく、表面に水分の膜をつくって、角質に潤いを与えるタイプの成分です。
また、水を含むと粘りが出て弾力を発揮するので、医療の場でも使われています。
化粧品の保湿だけではない、幅広い活躍をしている成分なのです。
【参考資料】
『正しいスキンケア事典』 高橋書店 吉木伸子/他 2010年
『美肌のために、知っておきたい 化粧品成分表示のかんたん読み方手帳』
永岡書店 久光一誠 2017年