松村潔 (まつむら・きよし)
1953年生まれ。広島県呉市出身。神秘学、精神世界研究家。占星術、 カバラ、生命の樹、数秘術、タロット、エニアグラム、禅の十牛図、絵画分析(ライフシンボル)などを研究。
10代から占星術の研究を始め、精神世界の研究会を1978年より主宰。『占星術は、精神世界の探求には、なくてはならない入口である』という考えで、カウンセリング、講習会などを開催し、「原宿占星術虎の穴」を主宰すると共に後進の育成にもあたっていた。現在は東京・渋谷のアルカノンにおける参加数限定の講座とvimeoオンデマンドによるリアル講座をメインに活躍中。
著書に『未来辞典3年後の私がわかるサビアン占星術』(角川書店)、『完全マスター西洋占星術』(説話社)、『倍音の占星術 ハ-モニックアストロロジ-』(星雲社)、『日本人はなぜ狐を信仰するのか』(講談社現代新書)、『スピリチュアル・オーラ練習帳』(九天社)、他多数。主な占術方法 : 占星術/タロット
目次
3. 哺乳動物的な生存、すなわち小さな自己にこだわっていると行き違い、喧嘩、殺人、戦争が増える
1. 占星術はあまり普及しないほうがいい
來夢 私がまだ20代のときの話になりますが、松村先生が朝日カルチャーセンターで勉強会を開くときには、先生の話がとても面白かったので必ず参加していました。誰よりも早くいって、一番前の席で……。
松村 かなり前の話ですね。
來夢 そうですね。あの当時から松村先生って本当に研究者・学者みたいなイメージで、ずーっと変わりません。
松村先生といえば、パソコン通、オーディオマニアで、なんでもやり出すと止まることがなくて……。昔、先生からパソコンを譲っていただいて、使い方まで教えてもらったけど、いまだに私はほとんどアナログのまま、ホロスコープを手描きしている状態です。
松村 手描きは逆に新しいかもね。何もかもパソコンでやればいいとは限らないし、手描きでいいんじゃないですか。なかにはパソコンもアイフォンも持っていないという人がいるようだけど、逆に “いまどき” という感じがするね。いま、アイフォンやめてガラケーにする人が増えてたりもしますし。
來夢 ところで先生、占い全般についてでもいいんですが、たとえばいまの占星術の在り方というか、普及の仕方、皆さんの受け止め方などについて、どのように感じていますか?
松村 私は、占星術はあまり普及しないほうがいいと、前から言っているんだけど、普及させるんだったら、人に分かるように説明しなければいけないし、普及させないんだったら、よく分からない謎みたいにしておいたほうがいいんじゃないかと感じているね。普及させると、結局、変形しておかしな使い方になってしまうので、無理に普及させる必要はないし、興味がある人だけやればいいと思いますよ。
來夢 普及といっても、占って欲しい人が増えていくことと、占う側の人が増えていくことの両方があると思うのですが。
松村 両方ともあると思いますけど、たとえば、私が講座をやった場合、来られる人の7割がプロですから、占う側の人が異様に増えている気がします。
來夢 元々、私が先生の講座に通っていた頃からプロの参加者が多かったですよね。ただ、いまは占いたい、プロになりたいという人のほうが増えているということじゃないかしら。
しかも、何をもってプロなのか、プロとアマチュアの境界がはっきりしないところがあるし、いまはネットを叩けば、星の数ほど占いのサイトが出てくるっていう感じでしょ。
松村 普及させようと思うと結局ムリして、誰にでも分かるようにしようとするじゃないですか、そうすると内容は段々曲がっていくので、無理に一般化する必要ないんじゃないかと思うし、私は心理占星術もどちらかというと、普及することについては反対ですね。
來夢 心理占星術とはどのようなものですか?
松村 心理占星術は、文字通り心理学と占星術を結びつけたものと言っていいでしょうね。心理学者のユングの友人に占星術をやっている人がいて、ユングはクライアントのなかにあつかいにくい人がいると、その友人に丸投げしてカウンセリングをやらせていたそうです。
だから、素人考えで占星術についてもユングは書いているんだけれど、割と適当で、友人に丸投げしていたことをヘルマン・ヘッセと一緒にインタビューに応じた本で吐露しています。確か、ミゲール・セラノという人が書いた『ヘルメティック・サークル―晩年のユングとヘッセ』という本で、みすず書房から翻訳本が出ています。
來夢 占いをやる人にはユング好きの人多いですよね。そういえば、ユングの先生にあたるフロイトは「今度生まれ変わるなら、願わくば占い師になりたい」というような言葉を残していました。それにヘッセと一緒にインタビューに応じているというのも興味深いです。
松村 ユングの父親は貧しいプロテスタント教会の牧師で、母方の家系は、母・祖父母・従姉妹全員が霊能者という神秘的な家系だったそうだから、ユングが心理学やオカルトに興味を持つようになったのはうなずける話ですね。
ヘッセについては、彼が書いているものを読むと神秘的な要素があるじゃないですか。隠遁者でもあるし、ユングと通じるところがあったんだろうと思います。
來夢 なるほど、ユングのおいたちを振り返ると、最初から神秘的な色合いを帯びていたと言えますね。ヘッセは幼いときから詩のような言葉をつぶやいていたといいますから、子供の頃から持ち合わせていた二人の感性が、二人を結びつけたんでしょうね。
松村 いずれにせよ、占星術を簡単に伝えようとすると、どうしても無理をして一部だけを切り取ったり、適当にアレンジしたり、曲解するようなことになるので、正しく伝えるようにしなければいけないということでしょう。
2. 占星術に関心を持ったのはヘルメス文書に触れたこと
來夢 そもそも先生が占星術に興味を持ったきっかけは何だったんですか?
松村 18か19歳の頃に新宿のデパートの上のほうに三省堂書店があって、よく本を探しに行っていたんだけど、ある日、『エピステーメー』(朝日出版社)という思想雑誌を手にしたんですね。そうしたら荒井献(あらい・ささぐ)という人が翻訳したヘルメス文書の連載記事があって、ヘルメス思想(哲学的・宗教的思想の総称。占星術・錬金術・神智学・自然哲学を含む)にものすごい衝撃を受けたんですよ。それから占星術のほうに関心が向かったわけです。
來夢 それに、先生がバッハなどのクラシック音楽が好きなのは知っていましたが、音楽の影響はあったんでしょうか?
松村 音楽は昔から好きでしたね。いまは現代音楽にはまっています。
で、占星術を勉強するときに、私はクラシックの作曲家の音楽事典を持っていて、時代ごとに全部作曲家のチャートを作ったんです。たとえば、バルトークは月の水瓶座という具合にね。だから私の場合、占星術の初めの知識は、作曲家のデータで考えたっていうことが多いんです。
來夢 純粋に音楽が好きだというのは分かるんですけど、先生が占星術に最も魅力を感じているところは何ですか?
松村 占星術が多分、人間的じゃないところでしょうね。
人間的じゃないというのは、たとえば惑星それぞれに性質があるけれど、人間自体のことじゃないでしょ。普通だったら人間を直接見るところを、人間を見ないでAさんは水瓶座だから、Bさんは牡羊座だからという感じで見ていくじゃないですか。つまり、その辺がロゴス(言葉・論理)先行というか、ロゴス至上主義みたいになっていて、結果として占星術と合っていたんじゃないかな。
來夢 18か19のときに『エピステーメー』という雑誌に出会って、連載記事に惹かれたというのも不思議な感じがしますね。
松村 そう、自分でも不思議ですよ。
ヘルメス思想の占星術だと太陽がヘリオス(ギリシャ神話に登場する太陽神)で、周りに12のデーモス(一緒に居住している集団)がいるみたいな感じになっていて、結局、惑星に借りを返すというような言い方をしてるんですよ。1個1個、土星に借りを返す、火星に借りを返すといった形で、人間は惑星の影響から段々自由になっていくというか、自分を取り戻していくということなんですね。
何故なら、ヘルメス思想には“反世界的”なグノーシス思想という考え方があるんですが、グノーシス思想の場合、基本的に人間は神のそばにいて、人間は元々世界の中にいないんです。ふとした気まぐれで世界の中に入った。そして、そこから抜け出すために、惑星に借りを返して元々の場所、要するに恒星に戻る方法が取られるということなんです。
來夢 恒星に戻るということは、シリウス(おおいぬ座のα星。全天21の1等星のひとつ。太陽を除いて地球上から見える最も明るい恒星)ならシリウスに戻っていくっていうことですか?
松村 そう、戻っていく。グノーシス思想家的な性格のグルジェフに言わせれば普通に暮らしているというのは人間じゃなくて、人間という形をした哺乳動物なんですよ。いわゆるアンドロポス(ギリシャ語で空を見て生きる動物という意味)ということなんだけど、最近、私もきっぱり人間と哺乳動物を分けています。
創造的なことをするときだけ人間は人間であって、ほとんどの場合は哺乳動物だと見ているんですが、マハリスという人は町の97%が哺乳動物で、人間が3%いる場合は平和になると言ってます。
哺乳動物のことを「神の子羊」という言い方をします。タロットカードでは「力のカード」の段階で、自分の体からライオンを離していき、脱哺乳動物のほうに進んでいくんですよ。
來夢 なるほど。大アルカナの「力のカード」の絵柄を見ると、女性がほほえみを浮かべながらライオンを見下ろしていて、ライオンの頭と顎を優しく撫でていますものね。実に象徴的です。
3. 哺乳動物的な生存、すなわち小さな自己にこだわっていると行き違い、喧嘩、殺人、戦争が増える
來夢 先ほど、人間と哺乳動物に分かれるという話が出ました。でも、ごくごく普通の考え方からすると、動物化するというのは理性がなくなって、本能のままに行動することだと受け止められてしまうと思うんですが。
松村 そう受け止められがちでしょうね。ご存知のとおり占星術は天動説なので、地球中心、自分中心にみたいなところがあるけれど、太陽が自我の中心で、太陽から惑星に分岐しているんですよ。つまり、大きな自己が太陽で、太陽からいろんな惑星に分岐して小さな自己になっていくということです。
そして、小さな自己のひとつが地球的自我であって、大きな自己に対して小さな自己は7つあり、7つのひとつひとつがさらに7つに分岐していくので、いま使われている占星術の多くは小さな自己を中心にしたものになっているんです。すると、小さな自己にこだわってそれぞれの都合でしか見れなくなり、どうしても行き違い、喧嘩、殺人、戦争が増えるんですよ。
來夢 残念なことに人間はそうした間違いを繰り返してきていますから、トータルな視点で見ることのできる占星術の役割は大きいと言えますね。
松村 もうひとつ言うと、たとえば東日本大震災のような状況のときは、皆んなで一緒に考えなくちゃいけないじゃないですか。ひとり離反するのは許されないようになってね。でも皆んなで同じ気持ちになって同一化しなければいけないというのは、先ほど私が言った哺乳動物の特徴なんですよ。
來夢 なるほど、さらに大きな課題が浮かび上がってきますね。
松村 そう、起きていることに対する印象と自分とは違うということもあるしね。たとえば、サイコシンセシス(統合心理学)を創始したアサジョーリは「疲れているのは体であって私じゃない。だから私は疲れていません。感情は私じゃないです。思考は私じゃないです」と言っていて、自己同一化しているものから自分を離すことについて説いています。
すると、人間って元の人間に戻るんだけれど、いまの時代は同一化しなければいけないような風潮があって、お互いが監視し合っている感じになるし、結構危険な世界になっている。だから本当は、占星術をやり続けるにはきちんと正しく理解しないと間違った方向に走ると思いますね。
來夢 占星術の体系を整えるには、どうすればいいんでしょうか?
松村 全部の惑星を合わせたのが人間ということですから、惑星ひとつずつについて良い悪いを考える必要はないでしょう。しかし、雑誌などの場合、太陽星座を使って、あなたは何々座ですから何々ですと表現していたりするでしょ。そうするとおかしな方向にいってしまいます。
太陽の位置を示す太陽星座占いは10のうちひとつしかないのに、獅子座の太陽だとしたら何々ですというように表現しているんだけど、他の惑星は違うところにあるので、人間の性格としては10分の9はまったく違います。
來夢 だから、獅子座はプライドが高いなどと言ったとしても、10分の9は違うということですね。
松村 そうです。10分の1しか見ていないわけだから、それで当たるというのはおかしいですよ。まぁ、逆に言えば、占星術は意外に細かくて正確だということになるんですが。
來夢 そういうことを皆さん知らないというか、知ろうとしないし、やはり雑誌とかネットで占星術をあつかう場合、分かり易さが先行してエンターテイメント化してしまっているということですかね。それに、これは占星術に限らない話でしょうね。
松村 そうだと思いますね。
※占星術とタロットカードの奥深さを知る─その②へつづく…
前回の【來夢の「占いの達人」】はこちら ⇒Vol.2 住まいは人なり|家相学、方位学の大家による占いと家相の基本