厚生労働省が発表した2017年の「人口動態統計の年間推計」によると、2017年の1年間に離婚した夫婦は21万2000組もいるそうです。
数字だけ見ると非常に多く感じますが、実は日本の離婚率は1.7で、離婚超大国ロシアの4.5と比べれば少ない部類に入ります。
さらに、家庭裁判所で離婚に関する調停を行ったり、裁判で強制的に離婚の判決を下したりするケースは、ほんのごく一部ということをご存知でしょうか。
テレビドラマなどの影響で離婚=裁判というイメージが強いのですが、ほとんどの離婚は夫婦が話し合って成立させる「協議離婚」なのです。
つまり、離婚のために調停や裁判を行うのは、調停員、裁判官、弁護士といった第三者が介入しなければならないほど、夫婦関係がこじれているからです。
公務員である調停員や裁判官は基本的に中立の立場ですから、全面的に頼ることができません。
そのため、離婚が泥沼化すると、ほとんどの人は弁護士に助けを求めていましたが、最近は弁護士よりも先に、離婚カウンセラーに相談する人が増えているそうです。
では、離婚カウンセラーとはどんな職業なのでしょうか。
第一人者である岡野あつこさんにお話をうかがってみました。
岡野あつこさん プロフィール離婚カウンセラー 自らの離婚経験を生かし、夫婦の問題に悩み苦しむ人を一人でも多く救いたいという思いから、 離婚カウンセリングという前人未踏の分野を確立。1991年に岡野あつこ離婚相談室を設立し、これまでに3万件以上の相談に対応した実績を持つ。NPO法人日本家族問題相談連盟理事長も務めており、現在は離婚カウンセラーの養成にも力を入れている。『貴女(あなた)が離婚を決める前にしなければならない8つのこと』『再婚で幸せになった人たちから学ぶ37のこと』ほか、著書は40冊を超える。 ・岡野あつこの離婚相談救急隊 |
【目次】
Q2.離婚カウンセラーはどんな「情報」に注目されていますか。
Q4.離婚カウンセラーになるためにどんな修行を積まれましたか。
Q6.離婚カウンセラーになるためにはどんな資格が必要でしょうか。
Q7.離婚カウンセラーの養成講座ではどんなことを学べますか。
Q8.離婚カウンセラーのプロフェッショナルの心得とはどんなことでしょうか。
Q10.東京以外の地域で離婚カウンセラーの需要はありますか。
Q1.離婚カウンセラーとはどのようなお仕事ですか。
岡野さん 名前通り、離婚問題に悩んでいる方の相談に乗り、問題を解決するためのアドバイスを行うのが仕事の内容になります。ただし、離婚の意志を固めている方は慰謝料、養育費、財産分与などのために法的なサポートを望みますから、離婚カウンセラーよりも弁護士に相談に行くのがほとんどです。
そのため、私に相談に来られる方の多くは、配偶者から離婚を切り出されて困っている方や、離婚したほうがよいのか迷っている方になります。そのため、まずは相談者が自分の気持ちを整理するお手伝いをします。
結婚と同じように、離婚もまた人生を大きく変える出来事です。夫婦の間に子どもがいれば、子どもの人生も変えてしまうのですから、離婚問題に直面している人の多くは冷静ではいられません。そこで、胸のなかに抱え込んでいるものをすべて吐き出してもらい、吐き出してもらった「情報」から、相談者がどんな立場や状況に置かれているのかを探っていきます。
Q2.離婚カウンセラーはどんな「情報」に注目されていますか。
岡野さん 夫婦の間に子どもはいるのか、義理の親との関係は良好なのか、サポートしてくれる実家や友人はいるのか、離婚したとしても経済的に不安はないのか、といったことです。そうした情報をもとに離婚問題のプロとしてアドバイスを行い、相談者の方に離婚をしたいのか、関係を修復したいのかを選んでもらいます。
配偶者の借金や暴力があるパターンは、生活への悪影響や生命の危険もあるため、よほどの理由がない限り離婚をお勧めしています。ですが、離婚をすることで相談者が幸せになれないことが予測できるケースでは、修復をお勧めしています。
夫婦生活が長くなるほど、愛情の性質は男女のものから家族のものへと変化するのが一般的です。そうした変化を「愛情の喪失」や「心変わり」と勘違いして離婚を希望していた方が、相談を通して変化に気づき、変化を受けいれることで修復を希望するようになるのは珍しいことではありません。
この仕事を始めたばかりの頃も、「離婚を推奨している」と勘違いされることが多かったですが、離婚カウンセラーとは「離婚問題に悩んでいる方を幸せにするためのカウンセラー」の略だと思っていただけると助かります。
Q3.離婚カウンセラーを始めたきっかけはなんですか。
岡野さん 私は元夫の浮気が原因で、36歳の時に裁判離婚をしていますが、その時の苦い経験がきっかけですね。当時の私には離婚に関する知識がゼロで、元夫と浮気相手のツーショット写真のような判決を左右する大切な証拠も準備できていませんでした。頼りになるはずの弁護士さんも、離婚訴訟は専門外の方だったために役に立つ情報はなにもいただけなくて……。
準備不足で臨んだ裁判の結果は、元夫が有責なのに慰謝料も財産分与もゼロで、子どもの養育費も十分な額ではありませんでした。
悲しくて悔しくて、とても落ち込みました。離婚について適切なアドバイスをしてくれる人がいたのなら、もっと違った結果になったのではないかという思いが、「だったら自分がそんな存在になろう!」という決意に変わったんです。
Q4.離婚カウンセラーになるために修行を積まれましたか。
岡野さん 実際に相談を受け、解決のために動くことが一番の修行ですね。当時はインターネットで知りたい情報が検索できる時代ではなかったので、離婚問題で疲れ果てている相談者の代わりに、必要な情報を手に入れるために奔走しました。裁判所に通ったこともありました。
そうしたひとつひとつの積み重ねが、離婚カウンセラーとしての自分の経験値を上げてくれたと思っています。必要な知識が蓄積されただけではなく、離婚問題に強い弁護士や信頼できる興信所などの人脈も広げることができましたので。
Q5.離婚カウンセラーとしてどんな案件が大変ですか。
岡野さん 相談者の方が抱えている事情や背景は十人十色で、それぞれの要望に合わせた離婚のためのプランや修復のためのプランをご用意します。相手があることなので100パーセント成功するわけではありませんから、どの案件も大変さは変わりませんね。
ただし、どんな案件でも相談者自身が「離婚(修復)したい!」という強い意志を持つことが成功の絶対条件です。そのため、子どもや親兄弟といった身内や、応援してくれる友人、さらに自信を与えてくれる仕事など「精神的な支え」を持っていない人は、持っている人よりもネガティブな感情にとらわれやすいですね。
もっとも、「精神的な支え」に恵まれていても、「迷惑はかけられない」と我慢してしまう人も少なくないですね。
ただし、ポジティブな方ならではの困った点もあります。例えば、「自分のほうが(離婚カウンセラーよりも)配偶者の性格を理解している」という自信から、こちらのアドバイスを無視して行動した結果、状況を悪化させてしまったことがありましたね。
状況を変えるためには、相談者自身も変わらなければならないことを、どう変わればよいのかをアドバイスするのも、離婚カウンセラーの大切な役割と言えます。
Q6.離婚カウンセラーになるためにはどんな資格が必要でしょうか。
岡野さん いわゆる国家資格はありませんが、離婚カウンセラーの養成講座を修了後に、私が代表を務めているNPO法人日本家族問題相談連盟の認定試験に合格すれば、連盟公認の離婚カウンセラーとして活動することができます。連盟には、現在約200人の離婚カウンセラーが所属しています。
Q7.離婚カウンセラーの養成講座ではどんなことを学べますか。
岡野さん 実際の相談事例を用いて、自分が相談を受けた離婚カウンセラーならどんなアドバイスをするかといったロール・プレイングが中心ですね。もちろん、離婚カウンセラーだけでは対応できないケースもありますので、弁護士や司法書士といった法律の専門家、心療内科医や心理カウンセラーなどのメンタルケアの専門家、さらに興信所のような調査の専門家の力が必要な場合と、連携するタイミングについても学びます。
また、私の場合は弁護士を参考にして、1時間1万円、2時間で1万5000円という料金をいただいていますが、離婚カウンセラーはボランティアではなくお金をいただくビジネスです。そのため、養成講座ではプロフェッショナルの心得も身につけてもらいます。
Q8.離婚カウンセラーのプロフェッショナルの心得とはどんなことでしょうか。
岡野さん 相談者の幸せを第一に考えて行動することですね。例えば、客観的な状況や経験則から見て修復したほうが相談者は幸せになれるけれど、説得しても相談者が離婚を希望している場合は、相談者の希望を通します。
そのうえで、「離婚したことで自分は不幸になってしまった」と後悔しない心構えを持てるように、相談者をサポートするんです。相談者の希望を叶えたんだから、後は知らない。それではとてもプロフェッショナルとは言えませんね。
そこまでが基本コースで、開業を目指している方向けのプロコースでは、広告の出し方、マナー、集客、接客のノウハウなどを教えています。
Q9.離婚カウンセラーの仕事にはどんな魅力がありますか。
岡野さん 月並みかもしれませんが、相談者に感謝してもらえる点が非常に魅力ですね。初めて相談に来られた時は暗い表情だったのに、明るい笑顔でお礼を言われると、いつも頑張ってよかったなと思えます。
Q10.東京以外の地域で離婚カウンセラーの需要はありますか。
岡野さん 私が開業した頃は、離婚を相談できる場所がほかにないうえ、「離婚=恥」という意識がまだまだ残っている時代でしたから、周囲の人間に離婚問題の悩みを打ち明けられず、遠くから相談に来られる方が多かったです。
現在は離婚に対する意識が変化していますが、やはり直接顔を合わせて話をしたほうが信頼関係を築きやすいので、近場の離婚カウンセラーを選ぶ傾向がありますので、大阪、名古屋、博多、札幌などのように、人口が多い地方の中心地となる大都市でしたら、十分に需要はあるでしょうね。
まとめ
「離婚カウンセラー」という言葉だけを見ると、岡野さん自身もおっしゃっていましたが、離婚を推奨する職業と思われがちです。
しかし、実際に岡野さんのお話をうかがえば、できる限り夫婦関係の修復に力を注ぎ、相談者が幸せになるための手助けをする職業であることがわかります。
「価値観の相違」「セックスレス」「実家依存」「モラルハラスメント」など、最近は離婚の原因が多様化し、調停や裁判で夫婦の問題がすんなり解決することが難しくなってきています。
だからこそ、裁判官や弁護士とは異なるアプローチで問題の解決をサポートしてくれる離婚カウンセラーは、今後活躍が期待できる職業と言えるでしょう。
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