「パラベンフリー」と書かれた化粧品を見かけることがよくあります。
防腐剤パラベンが入っていない、という表示です。
わざわざ表示されているので、
「パラベンは避けた方がいい?」
「入っていない方が安全?」
と疑問に思う人も多いのではないでしょうか。
でも、「パラベンフリー」の方が安全と考えるのは、ちょっと勘違い。代わりに他の防腐剤が入っていたり、保管に注意が必要だったりと、一長一短なのです。
目次
1. パラベンとはどんなもの?
1-1. パラベンには種類がある
1-2. 少量で、高い効果がある
1-3. 酸性でもアルカリ性でもOK
2. パラベンはなぜ避けられがちなのか?
2-1. 旧「表示指定成分」
2-2. 人体へ影響する?
2-3. イメージが招く勘違い
4. パラベン以外の防腐剤
4-1. フェノキシエタノール
4-2. 1,3ブチレングリコール
4-3. アルコール
4-4. その他
1. パラベンとはどんなもの?
パラベンは、正式名称をパラオキシ安息香酸エステルといいます。パラベンの中にもいろいろな種類があり、「パラベン類」と称することもあります。
人体への毒性が低く、微生物やカビなどの菌類を排除するのに効果的です。そのため、化粧品や医薬品の防腐剤としてよく使用されています。
1-1. パラベンには種類がある
複数あるパラベン類のうち、化粧品などによく使われるのは5種類ほどです。殺菌力の高い方から順に、イソブチルパラベン、ブチルパラベン、プロピルパラベン、エチルパラベン、メチルパラベンです。
それぞれどの微生物や菌に強いか、水に溶けやすいか油に溶けやすいかなど、多少の違いがあります。そのため、防腐剤として添付する場合は、数種類のパラベンを組み合わせて、殺菌効果を高めることが多いようです。
日本で化粧品によく使われるのは、エチルパラベンやメチルパラベンです。パラベンの中では効果が穏やかな分、肌への刺激も少なく安全性が高いとされています。医薬品や、一部食品の保存料としても使われています。
1-2. 少量で、高い効果がある
パラベンは比較的安価で、少量でも高い抗菌力を発揮します。そのため、防腐剤として重宝されています。
厚生労働省が、薬事法に基づいて定めた「化粧品基準」というものがあります。化粧品に使われる成分の、配合上限などが記されています。
この基準によると、パラベンの配合率上限は1%(100gに対して1.0g)です。
実際に市販されている化粧品では、ほとんどが0.1~0.5%という低めの配合率になっているようです。防腐剤としての効果を確保しつつ、より少ない配合ですむよう考慮されているのです。
1-3 酸性でもアルカリ性でもOK
パラベンは、アルカリ性のものに配合されても、酸性のものに配合されても、長期間変わらず効果を発揮します。この便利さも、よく使われる理由のひとつです。
2. パラベンはなぜ避けられがちなのか?
少量で効果がある上に、食品にも使用される毒性の低いパラベンですが、「パラベンフリー」の表示を頼りに、できるだけ避けようとする消費者も少なくありません。
これは、昔あったルールのなごりで、良くないイメージが付いているせいです。
2-1 旧「表示指定成分」
1980年に、厚生省(現厚生労働省)が「表示指定成分」というものを定めました。
人によってはアレルギーなどの皮膚トラブルを起こす恐れがある102種類の成分(後に香料1種を加えて103種に)を定め、これらを化粧品に配合するときは、商品パッケージの見える場所に記載するよう義務づけたのです。
この表示指定成分の中に、パラベンも含まれていました。
そして、いつの間にかこの指定成分は、避けたいものというイメージを抱かれるようになりました。パラベンはよく使われるため、記載される機会も多く、特に悪い印象になってしまったのです。
肌荒れを起こす可能性がある物質は人それぞれ。必ずしも指定成分だけが原因ではありません。そこでこの指定成分だけを表示するやり方は変更され、2001年から、化粧品に配合されているすべての成分を表示する「全成分表示」が義務となりました。
旧表示指定成分も、他の成分も、等しく記されるようになったのです。
2-2. 人体へ影響する?
実際、パラベンにはどの程度の危険、刺激があるのでしょうか。
昔から使われてきた防腐剤なので、実験や検証も古くから行われています。
一例ですが、ラットにパラベンを飲ませた場合の半数致死量は10,000mg/kgという報告があります。
また、マウスに皮下注射した場合は2,600mg/kgとのことです。
しかし、ラットに0.01〜1.0g/kgの割合でパラベンを混ぜた餌を、6ヵ月以上与え続けても、臓器への影響、発がん性などは認められなかったという報告もあります。類似の実験報告は数多く、条件によってはラットに若干の肥満が見られたというものもあります。
ここから単純に人間の場合を換算することはできませんが、常識外れな量を故意に摂取しない限り、パラベンで中毒を起こすようなことはまずないでしょう。
また、化粧品への添加を想定して、10%または100%のパラベンをウサギの皮膚に塗ったところ、軽度の刺激があったという報告があります。
しかし、0.1%~0.8%のパラベンを、1種、または2種、人の肌に塗った場合には、刺激ありという証拠は示されませんでした。
人体に100%の高濃度溶液を塗った場合、軽度の皮膚刺激を感じたという報告もありますが、防腐剤として配合するとき、この濃度になることはありえません。
いずれにしろ、数多くの実験や検証によって、パラベンの刺激はごく微弱、化粧品規定濃度においては、皮膚刺激はほとんどないと結論付けられているのです。
ただし、すでにダメージを起こしている肌では、若干の刺激を感じる可能性はあります。どんな物質でも、100%安全ということはありません。
2-3. イメージが招く勘違い
ほぼ問題なしといえるパラベンですが、「避けた方がいい」というイメージが一度付いてしまうと、それを拭うのは簡単ではありません。
1990年代後半には、生物の内分泌を攪乱する化学物質(環境ホルモン)が問題視された時期があり、パラベンにも疑いの目が向けられました。しかし、実際に内分泌を攪乱しているという明白な有害性は認められませんでした。
また2004年には、パラベンが乳がんを誘発するのではないかという報告がイギリスの学会誌に掲載されました。その影響で、フランスでは2011年にパラベン禁止法が可決されました。
ところが後日、フランス、アメリカ、その他ヨーロッパの専門家たちの検証によって乳ガンとの関連性が否定され、最初の報告こそが非科学的であったと批判されています。
日本でも2005年に、メチルパラベンが皮膚の老化を進行させるという新聞記事が出て、話題になったことがあります。
これは、化粧品への配合としてはありえない濃度のパラベンを使用するなど、不自然な点が多い実験だったため、後日、学会で大問題になりました。
このように、勘違いや思いこみ、恣意的な実験などによって、パラベンは要注意というイメージが一部で強くなってしまいました。
ですが、それを強く裏付ける実験結果は、今のところないのです。
3. 「パラベンフリー」=「防腐剤不使用」ではない
事実はどうあれ、悪者のイメージが付いてしまったパラベンを避けようとする人は多いものです。また、肌の状態は人それぞれですから、実際にパラベン配合の化粧品でアレルギーを起こす人も、ゼロではないでしょう。
そこで化粧品を作るメーカーは、パラベンを使わずに品質を保持する配合を考え、パラベンフリー(パラベン不使用)と表示した商品を出すようになりました。
でも少し注意して欲しいのは、パラベンフリーの化粧品は「パラベンが入っていない」というだけで、防腐剤不使用ではない、ということです。
日本には「化粧品は未開封の状態で3年以上、品質を安定させなくてはいけない」という法律があります。市販の化粧品の場合、これを守らなくてはなりません。メーカーはこの点に注意を払って、開発や製造をしています。
また、私たちが開封して使い始めてからは、手指を介して入る雑菌や空気に触れて起こる酸化などで、化粧品の品質は簡単に変わってしまいます。劣化しないうちに使い切るのが理想ですが、なかなか難しいでしょう。
水道の水も、汲み取って放置しておくと腐ります。化粧品の品質を最後まで安定させるためには、最低限の防腐剤が必要なのです。
4. パラベン以外の防腐剤
パラベンを入れずに化粧品を作った場合、代わりにどんな防腐剤が入っているのでしょうか。比較的よく使われる防腐剤には、以下のものなどがあります
4-1. フェノキシエタノール
緑茶由来の成分です。天然由来の成分なので安全、というイメージがあるかもしれませんが、パラベンより殺菌力が劣るため、単独で配合する場合はパラベンの約3倍の配合量が必要となります。また、配合率が4%以上になると、皮膚への刺激となることが分かっています。パラベンフリーの化粧品によく使われています。
4-2. 1,3ブチレングリコール
乳液やクリームなどによく用いられる防腐剤です。単体で防腐効果を高めようとすると、10%以上の配合が必要になります。この成分でかぶれる人もいるようです。成分表示上、1.3BGと略して記されることもあります。
4-3. アルコール
化粧品に使われるのは、飲料に入っているのと同じ、エチルアルコールです。成分表示上は「エタノール」と記されます。肌を引きしめる収斂効果など複数の効果があり、化粧品によく配合されています。
防腐剤として効果を出すには10%以上の配合が必要なので、アルコールに弱い人は、これでかぶれることがあります。
4-4. その他
他にも、パラベンの代わりに安息香酸Na、デヒドロ酢酸Na、ヒノキチオールなどが、防腐剤としてよく使われます。ヒノキチオールはヒノキ由来の殺菌成分で、名前に自然なイメージがあるため、防腐剤不使用をうたう製品にも使われたりします。
どの防腐剤も、単独で大量に混ぜられることは、ほぼありません。パラベン自体も数種組み合わせることで、以前より平均濃度を下げられるようになっています。
日本の化粧品基準はもともと厳しめに設定されているうえ、消費者からの要望もあって、化粧品メーカーが低刺激性を追求しているのです。
ただし、海外の化粧品は日本と基準が違うため、同じ成分が配合されていても、刺激の強い場合があります。
また、パラベンだけでなく防腐剤も不使用と書いている場合、肌に良くても腐りやすい素材の使用を断念したり、そもそも腐らない合成素材を使っていたりします。
もちろん、そうして作られたものがすべて悪いわけではありません。ですが、パラベンにだけ気をとられて、他の素材の効果や安全性を見落とさないよう、注意しましょう。
まとめ
パラベンフリーと表記されている化粧品は、大抵パラベン以外の防腐剤を使っています。防腐剤を入れずに化粧品を作って、安定した品質のまま流通させるのは不可能だからです。
少量で防腐効果が高く、人体にもほぼ影響がないパラベン。肌に合わない場合は使用を避けるべきですが、イメージだけで「パラベンフリーの方が安全」と判断するのは賢いことではないでしょう。
むやみに嫌わず、パラベンと上手に付き合って下さい。
「パラベンは本当に危険?それとも安全?」の記事もぜひ参考にしてみてください。
【参考資料】
『ウソをつく化粧品』 小澤貴子 フォレスト出版 2015年
『医師・医療スタッフのための化粧品ハンドブック』 平尾哲二 中外医学社 2016年
『美肌のために、知っておきたい 化粧品成分表示のかんたん読み方手帳』
久光一誠 永岡書店 2017年